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業種別 税務調査の対策ポイント
【第5回】IT・ソフトウエア業

『旬刊経理情報』 2016年10月10日号

第5回目はIT・ソフトウエア業を取り上げ、一般調査で重点的に調査されるポイントを検討するとともに、移転価格調査への対応を事例を挙げて紹介する。(中央経済社『旬刊 経理情報』 2016年10月10日号)

はじめに

本連載では、税務調査において指摘されやすい項目を業種別にみていく。税務調査手法そのものは業種が違えど変わるものではないが、やはり、業種固有の論点があり、調査において指摘されやすい項目がある。本連載では、業種ごとによくある否認事例を取り上げていくことにより、その対処法を考えていきたい。あわせて、年々重要度が増している移転価格調査についても同様に、対処法を考える材料を提供できればと考えている。

第5回目はIT・ソフトウエア業を取り上げ、一般調査で重点的に調査されるポイントを検討するとともに、移転価格調査への対応を事例を挙げて紹介する。

IT・ソフトウエア業に対する一般法人税調査

IT・ソフトウエア業の特徴としては、人材が財産の業界であり、原価構成も労務費の占める割合が高く、また人材確保のための経費が多額に上ることが挙げられる。また、収益の計上時期の確定も契約によりさまざまである。そのため、調査も必然的に労務費関係、売上関係に重点が置かれることになる。

売上関係の調査

売上の計上時期は、契約の内容により、請負契約、派遣契約、売買契約等でそれぞれ異なるので、契約内容の確認を行い、適正な基準で売上が計上されているかという確認がなされる。

(1) 請負契約

収益計上基準として検収基準を採用している会社も多いが、納品が完了し、現場での作業もすべて終了しているにもかかわらず、検収書を未収受のために収益計上がなされていないケースがある。このような場合には実際に納品が完了したといえる日はいつなのか、という確定を行うために作業スケジュール表等による実際の納品状況の確認を行うこととなる。

(2) 派遣契約

役務を提供した月の売上になっているかどうかの適否の検討を行う。

(3) 売買契約

契約金額確定前に納品が終了しており、金額が未確定という理由で売上が計上されていない場合もある。このようなケースでは金額を適正に見積もったうえで、引渡しの日の売上に計上する必要があるので要注意である(法基通2-1-4)。

労務費の調査

(1) 製番付替え等による仕掛品の過少計上

個々のプロジェクトの利益率の維持・確保目的等のために製番間において労務費の付替えをするケースがみられる。この場合、期末において仕掛中の製番に含まれるべき労務費がすでに完了しているプロジェクトの原価に入ってる場合には、仕掛品の計上額が過少となっているため、否認されることとなる。

(2) 架空人件費の計上

SE等の入退社が頻繁にある業種であり、短期間で退社してる者も多くみられる。このような特性があることから、短期間(数カ月間)に入退社したように装って、架空人件費を計上しているケースがある。

調査官は、扶養控除申告書や作業日報の照合、退職者への反面調査を行うことにより、退職者の実在性の確認をしていくことが多い。

外注費の調査

要員派遣の外注費については、前記「架空人件費の計上」と同様の検討がなされるが、一般的に外注費の調査の際にポイントとなるのは次の点である。

(1) 外注の必要性(人的および技術的面)およびその業務内容の検討(海外の現地法人に対する外注費は子会社支援ではないかという面からの検討もなされる可能性がある)

(2) 発注時期からの検討(意図的に発注時期をずらして外注費を前払いしていないかという検討)

(3) 単発取引または短期間の外注費の検討

(4) 通常取引月との比較による異常取引の有無の検討(簿外資金を捻出するため、架空外注費を計上しているケースもあるため)

 

その他経費

優秀な人材の確保のため、引抜料や交際費が多額に使われる傾向にあるが、個人課税、交際費課税を免れるために、損金となる科目(会議費、外注費等)で計上しているなかに、引抜料に該当するものや、交際費課税の対象となるものがないかの検討がなされる(交際費課税を免れるために飲食参加者の人数を水増ししていた事例については、本連載の第1回(2016年6月20日号(No.1449)を参照されたい。)。

IT・ソフトウエア業によくみられる指摘事項の例

(1) 製番の付替えによる仕掛品の過少計上

1) 事案の概要

A社はソフトウエア業を営んでおり、開発案件ごとに製番を付し原価管理を行っている。A社の開発責任者Bは各案件における利益率の管理を行っており、赤字になりそうな案件については、利益率のよかった案件の製番で一定期間作業をするように開発担当者に指示することにより、赤字案件についても一定の利益が出るようにしている。そのため、A社においては常に実際の製番と異なる製番を用いて作業をしている開発担当者が存在している。

2) 調査の概要

調査官は仕掛品に着目し、仕掛品原価が製番ごとに管理されていることから、製番別原価発生状況表と各開発担当者の日報との突合を行った。

数カ月間の開発担当者の日報を製番ごとに整理し、どの製番にどの開発担当者がどれだけ従事したのかを検討したところ、開発当初から案件ごとにメンバーが固定されており、そのチームメンバーだけで開発が進んでいるのに、終盤になって他のチームメンバーが加わっており、その作業内容がその製番のソフトとは違うソフトの概要設計になっているものがあることが判明した。

開発担当者にヒアリングをし、作業内容を聴取したところ、日報に記載している作業内容は真実のものであり、製番については本来の製番が付されるまでは、Bの指定する製番を用いて日報を記載していた旨説明があった。開発担当者の説明をもとに日報を再度確認すると、同じ作業内容で途中から他の製番が付されている案件が多数あることが判明した。また、Bからの指示は電子メールで来るが、メールは読後破棄しているため保管がないとの説明があった。

複数の開発担当者から同じ内容の説明を得たため、Bに聴取したところ、新規案件の受注が成立したら製番を付しており、開発が先行するケースでは便宜的に既存の製番を使うこともあるが、他意はないとの説明があった。

そこで、調査官はBに製番の指示はどのようにするのか確認したところ、電子メールで行っている旨説明があったため、Bのパソコンにあるメールをチェックしたが、保存がなかった。

製番ごとの利益率を確認したところ、付替えがされている製番は利益率が高いものばかりであったため、利益調整ではないかと不審に思った調査官は、Bに再度事実関係を質したが、新しい製番が開くまでのつなぎとして既存の製番を使っていただけで、それ以外の意図はまったくないというばかりであった。

そこで調査官はBの了解を得て、Bのパソコンを国税局に持ち帰り局内専門家の支援を受けて、削除メールの復元を試みた。すると、復元されたメールに開発担当者宛てのメール(図表1)があり、それをみると、製番間の利益の平準化を図るために意図的に製番間の付替えをしていることが読み取れた。

(図表1) 付替えの証拠メール

Cチームの皆様

お疲れ様です。

新規案件Zについては、ご承知のように採算ラインぎりぎりの受注見込みにつき、別途連絡するまでの間は〇〇〇〇(整番の番号)を使ってください。

よろしくお願いします。

B(開発責任者)


この事実をもとに再度Bに聴取したところ製番間の利益平準化を図るために、採算の悪い案件の作業の一部に採算のよい案件の製番を使うことによって製番間の利益調整を行っていたことを認めた。

調査官は、製番間の付替えにより、結果として期末の仕掛品となっている製番に付されるべき労務費の一部が完成工事原価となっていることは、仮装隠ぺいに当たるとして、所得金額に加算するとともに重加算税を課した。

3) 対応策

労務費の多い業界の税務調査では、製番付替えの有無の検討が必ずなされると考えておいたほうがよい。開発部門では税務的な検討をしていることはあまりなく、各プロジェクトの利益管理だけを考えた結果かもしれないが、期末仕掛品が過少計上となり所得額が過少となっていると判明した場合には重加算税の対象となることに留意が必要である。

また、調査手法の一環として、削除された電子メールを復元ソフトを用いることにより復元させるという調査も行われていることを知っておいたほうがいい。
経理担当者としては、調査においては前記のような手法により、製番付替えについては徹底的な調査が行われるおそれがあることを関係部門の担当者に周知することが望ましい。

(2) 架空外注費を計上しての支度金の支払

1) 事案の概要

C社はソフトウエア業を営んでいるが、SEであるD氏の入社に際して支度料1,000万円を支払うこととなった。この1,000万円はD氏の手取額であり、税金のかからないお金として渡すことでD氏と合意した。

C社はD氏への資金捻出のため、外注費の架空計上を行うこととし、過去発注したことがあった遠距離にある小規模ソフト開発会社であるZ社の名前を用いて外注費を計上した。支払は消費税を含めて1,080万円の小切手を振り出して行い、その小切手をC社の役員Yが取り立て、D氏に支度料として現金1,000万円を手渡した。80万円については社内で簿外資金として保管した。

2) 調査の概要

調査官は、外注費に着目し、その発注状況を検討したところ、単発外注先であるZ社に対する外注費が計上されていることに気づいた。

Z社に発注しているプロジェクトの内容を精査したところ、社内でも同様の開発業務を行っており、外注の必要性が不明であった。そこで当該プロジェクトの開発責任者に説明を求め、Z社からの成果物の提示を求めたところ、Z社は社内と共同して開発に携わってもらったので、Z社の社員数名が社内に常駐して開発のサポートをしてくれたものであり、成果物という形のものはない、という回答であった。調査官はZ社の業務に不審を持ち、これ以上会社から説明も資料も提出されない状況であればZ社に反面調査に行く旨を告げた。

それを聞いた役員Yは反面調査に行かれるとすべてが明るみになると判断し、調査官に対してZ社に対する外注費は簿外資金捻出のために架空計上したものであること、小切手の取立てはY自身が行ったことを話した。簿外資金の使途については当初は明らかにしなかったが、最終的にはD氏に支度金として1,000万円支払ったこと、および消費税相当額80万円については社内で保管していることを認めた。また、開発責任者の回答はYが指示したものであることも認めた。

調査官は架空外注費として否認し、法人税および消費税に対する重加算税を課した。

3) 対応策

支度料等については手取額で約束しており、税負担がないように架空外注費等を計上して支出している事例が散見されるところである。手取額として支度料等で支払うためには、本人の税率を考慮して税金分をグロスアップした額を支払うという方法もある。

いずれにしても、架空外注費等の計上は必ず重加算税につながることを念頭に置き、そのような計上ができないような社内チェック体制の確立が必要かと思われる。

IT・ソフトウエア業に対する移転価格調査

無形資産の移転価格調査

IT・ソフトウエア業に限らず、およそ無形資産が収益の重要な源泉であるすべてのビジネスにとって、無形資産の対価の設定は重要であるが、無形資産取引は独立企業間価格の算定が困難なことが多く、移転価格調査においても問題になりやすい。

通常、移転価格調査では、無形資産の使用許諾の対価(以下、「ロイヤルティ」という)について問題になることが多い。収受する側の国においてはロイヤルティが請求漏れになっていないか、または料率が低過ぎないかが問題になり、支払う側の国においてはロイヤルティが過大でないかが問題になる。

また、無形資産の移転価格問題のなかでも最も困難な問題として、評価困難な無形資産の課税をどのように行うべきかという問題がある。米国やドイツは「所得相応性基準」を導入することで対応しようとしている。OECDの新しい移転価格に関するガイドラインでもこの方式を認めており、わが国も早晩導入するとみられる。

ロイヤルティに関する移転価格調査

ロイヤルティに関して税務調査でよく目にする例を紹介する。

(1) 業績が芳しくない海外子会社に対してロイヤルティの支払を免除。日本親会社への税務調査において、契約上請求することとされているにもかかわらずロイヤルティの支払を請求していないのは寄附金に該当するとして、寄附金課税がなされる

(2) 海外子会社への税務調査において、赤字にもかかわらずロイヤルティを支払うのは正当化されないとの理由でロイヤルティの支払を否認。または、黒字であっても利益率が低い場合には、子会社に無形資産の貢献による十分な利益が出ていないという理由でロイヤルティの支払が否認される


前記(1)のような寄附金課税の主張に対しては、前記(2)のような移転価格の考え方による反論が可能である。しかし、そうした主張を有効なものにするためには、ロイヤルティに関する契約書のなかに、「子会社が一定の水準以上の利益率を確保できない場合には、ロイヤルティの授受を行わない」といった条項を加えておくことが考えられる。さらに、税務調査においてそうした条項が独立企業原則に則ったものと認められるためには、重要な無形資産を有しない企業の利益率をベンチマーク分析によって算定し、ロイヤルティの授受に関する移転価格ポリシーを文書化するといった手続を経ておくことが不可欠である。

包括的クロスライセンス契約の移転価格問題

包括的クロスライセンス契約については、次のような課税事例があり、注意する必要がある。

企業グループAとBが、グループ全体の所有特許を対象とする包括的クロスライセンス契約を締結している。特許はすべてX国所在の親会社AとBが保有している。AとBは互いに相手の保有する特許を無償で使用できる。

AはY国子会社aにAが保有する特許を、BはY国子会社b に対してBが保有する特許の実施許諾をしており、それぞれロイヤルティを請求している。

ところで、a がBの保有する特許を使用した場合には、包括的クロスライセンス契約に基づきaはBに対して無償で実施権を得るのだが、この場合aとAの間で移転価格問題が生じる。なぜなら、aがB保有特許を無償で実施できたようにみえるのは、aが実施したB保有特許の実施料が、Bグループが実施したA保有特許の実施料と相殺されているからであり、そのことによりaはAから利益を受けている、つまりAからaに所得が移転しているということになるからである。国外関連取引の種類としては、Aからaに対する役務提供(包括的クロスライセンス契約の相手方の保有する特許を使用可能とすることを内容とする)ということになろう。

評価困難な無形資産の課税

無形資産の使用許諾を開始した当初はたいして利益は出ないとみていたためロイヤルティ率を低く設定したが、実際には莫大な利益を上げた場合に、ロイヤルティ率を遡及して引き上げるべきかという問題がある。

1つの考え方は、後知恵による課税を否定する。つまり、無形資産の価値は権利を許諾した当初にはわからなかったのであり、第三者間においてもそれは同じであるから、独立企業原則によれば、予想されなかった事象により利益が大きくなっても、その部分は課税所得の増加とはならないと考える。

もう1つの考え方は、第三者間であっても当初の予想を大幅に上回る利益が出た場合にはロイヤルティ率を上げこともあり得るとして、ロイヤルティ率を事後的に引き上げるべきとする考え方である。

OECD移転価格ガイドラインは2015年10月の改訂前は前者の考え方であったが、改訂後は後者の考え方に傾いている。具体的には、将来生み出す利益の予測が難しいといった評価困難な無形資産(Hard to Value Intangibles:HTVI)については、将来の財務結果の実績に基づいて課税することを認める方向に舵を切っている。

(図表3) OECD移転価格ガイドラインの「評価困難な無形資産(HTVI)」

次の1つ以上の特徴を有する無形資産

  •  譲渡時点において部分的にのみ開発されている
  • 取引後の数年間、商業的に使用することが見込まれない
  • 他のHTVIの開発に不可欠である
  • 新たな方法で利用されることが予想され、過去の開発実績に基づく信頼性のある予測が得られない
  • 一括払いで関連者に譲渡される
  • 費用分担契約もしくは類似の契約に関連して使用されたり、またはこれらの契約にもとづいて開発された


米国は1986年の移転価格税制改正により所得相応性基準を導入しているが、米国以外の国でこの考え方を法令化している国はドイツだけである。しかし、OECD移転価格ガイドラインの改訂で一定条件のもとに所得相応性基準を認めることとしたため、わが国も早晩この基準を導入することが見込まれる。導入される場合、遡及適用は行わないことを明確にした形で導入されれば遡及適用の問題はないが、現行法の解釈の明確化という形で導入される可能性もなくはないため、今後評価が困難な無形資産を移転する場合には、注意する必要がある。

たとえば、今後無形資産の使用許諾や譲渡を行う場合には、独立企業間であった場合には予測が困難な将来の事象の発生に対してどのような条項が契約に盛り込まれるかを考慮したうえで契約を締結することが考えられる。たとえば、契約期間を限定したり、将来における価格の見直しを行うための条件を明示したりすることが考えられる。また、OECD移転価格ガイドラインでは、仮に予測と実績が大きくかい離した場合でも、当初の予測がどのように決定されたのかについて文書化しており、その予測が合理的であったことが説明されている場合には事後的な調整を要しないとしていることから、取引を行う前の段階で文書化しておくことが望ましい。

なお、OECDは評価困難な無形資産に関する追加的な指針を2016年中に出す方針を明らかにしている。

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