ナレッジ

業種別 税務調査の対策ポイント
【第3回】卸・小売業、商社

『旬刊経理情報』 2016年8月1日号

第3回目は卸・小売業、商社を取り上げ、一般調査で重点的に調査されるポイントを検討するとともに、移転価格調査の視点から3つの論点と対応法を紹介する。(中央経済社『旬刊 経理情報』 2016年8月1日号)

はじめに

本連載では、税務調査において指摘されやすい項目を業種別にみていく。税務調査手法そのものは業種が違えど変わるものではないが、やはり、業種固有の論点があり、調査において指摘されやすい項目がある。本連載では、業種ごとによくある否認事例を取り上げていくことにより、その対処法を考えていきたい。あわせて、年々重要度が増している移転価格調査についても同様に、対処法を考える材料を提供できればと考えている。

第3回目は卸・小売業、商社を取り上げ、一般調査で重点的に調査されるポイントを検討するとともに、移転価格調査の視点から3つの論点と対応法を紹介する

卸・小売業、商社に対する一般法人税調査

卸・小売業、商社1の特徴としては店舗があること(小売業の場合)、実際の商品を扱っていること、海外取引が多いことが挙げられる。卸・小売業、商社の調査でよく取り上げられるポイントは以下の点である。

小売業の調査(国内調査)

小売業の調査で調査官が一般的に関心を持つのは、次のような点である。

1. 売上の計上が正しくなされているか。POSレジであればそのデータが会計帳簿と一致しているか。予備レジの使用状況はどうか

→売上は正しく計上されているのが当然であるが、必ず確認をする。個人商店的なオーナー色の強い会社の場合、内部牽制が効きにくいので、調査の際にレジ、金庫の現金監査等も行われることがある2

2. 棚卸資産の計上は適正か

→期末に評価損が計上されている場合にはその計上について念入りに調査される可能性が高い。また、棚卸原票とのチェックもサンプル的に行われることがある。

3. 広告宣伝費の計上は適正か

→広告宣伝費が多額な業種であるので、重点調査項目になりやすい。翌期の費用とすべきものがないか、貯蔵品等とすべきものがないか等の確認がされる(予算消化のため、期末に取引先に納品書および請求書の発行を依頼した事例について、本連載第1回目で紹介した)。

4. ポイントカードの処理は適正か

→ポイントカードは導入していない小売店のほうが珍しいくらい一般的になっている。ポイントカードの税務上の取扱いが、法人税基本通達の取扱いに沿っているかの確認が行われる3

5. ソフトウエアの計上は適正か

→小売業も売上、在庫管理等にITを駆使しているところが大半であるが、そのソフトウエアの計上の適否が検討の対象となる。特にシステムの入替え、大規模な変更を行った場合には必ず検討項目となるので要注意である。

6. 出店、退店、改装等の処理は適正か

→新規出店、退店、大規模改装等の大きな支出は必ず調査の対象となると考えておいたほうがよい。費用科目で処理されているもののなかに資産計上すべきものはないか、資産の除却処理は適切か、出店に関連して地元対策費のような支払はないか等が調査官の関心事である。


卸売業、商社の調査(海外関連)

卸売業、商社は、海外からの輸入、海外への輸出、海外でのプロジェクト投資等積極的に海外取引を行っている業種である(もちろん国内取引もあるが、国内取引のポイントについては前記小売業の項目を参照されたい)。

海外取引で調査官が一般的に関心を持つのは、次のような点である。

1. 支払手数料等の科目に交際費とすべき支払はないか

→海外との取引では、代理人のような会社や人が登場し、支払手数料を支払うケースがある。このような手数料は正当な活動の対価であるものがほとんどだが、相手先へのバックマージンだったり、まったくの架空支払だったりするケースも散見されるため、重要な調査項目となる。

2. 関係会社間の費用負担は適正か

→海外に子会社を持っている場合には、出張者、出向者の費用負担等が調査のターゲットになりやすい。また、外資系法人の場合には、海外親会社からの費用の付替え等が検討対象となることが多い。

3. 外貨建債権債務の換算は適正か

→外貨建債権債務が多い業種のため、その換算方法も調査の対象となりやすい。換算方法が届け出た方法どおりか、あるいは法定換算方法に沿っているか、為替予約の処理は適正か、等の確認がなされる。

4. 工事進行基準の処理は適正か

→プラント建設等、大規模な投資案件では工事進行基準の適用が強制されることになるが、金額も大きく、見込み総原価の額、発生済み原価の額等により利益額が確定するため、その計算方法が適正か、調査対象となりやすい。


以上のような点が一般的によくチェックされるポイントである。

経理サイドでは実態がわからないことも多いが、調査の重点項目となり得ることを担当者に理解してもらうことも重要かと思われる。

卸・小売業、商社によくみられる指摘事項の例

(1) 新規出店に係る地元対策費の支払

1) 事案の概要

A社は小売業(スーパー)を営んでおり資本金は5億円である。近年積極的に店舗数を増やしており、新規店舗を展開している。B地区への出店にあたり、地元の有力者C氏の強い反対にあい工事が中断した。C氏の反対理由は特に正当なものとも思えない、いわば難癖をつけるようなものであった。A社はこのままでは出店の目途が立たないと考え、C氏と金銭的な解決を図るべく、C氏に200万円を支払うことにより反対活動を中止してもらうことで合意した。C氏からは今後は工事に協力する旨の念書を入れてもらっている。A社はこの200万円を雑費として処理している。

2) 調査の概要

調査官は稟議書綴りから「B地区紛争解決金の支払について」という題の稟議に着目し、C氏に対して紛争解決のために200万円を支出し、雑費として処理されていることを確認した。

調査官は稟議の起案者に直接ヒアリングし、C氏の反対にあい工事が中断したこと、C氏が地元の有力者であること、C氏の協力を得られないと仮に出店してもさまざまな妨害が予想されること、C氏からは何度も金銭的な解決を暗に要求されていたこと、そのために、先方と金額折衝を行い200万円支払うことで折り合ったことがわかった。起案者の保管していた「B地区新規出店関連」というファイルの中身を確認したところ、そのような経緯が詳細に記録されているとともに、C氏から徴した念書のコピーもあった。

調査官は地元対策費は交際費に当たるとして、その全額を所得金額に加算した。

3) 対応策

新規出店に係る地元対策費としては、日照妨害、電波妨害等が考えられるが、そのような損失補填的な支払は損害賠償金に該当するものであり、交際費として取り扱われることはない。ただし、その金額が著しく多額の場合は損害賠償金の部分を超える部分があると認定されるおそれはある。しかし、今回の事例のようないわゆる地元対策費は、損害賠償金の性質を持っていないため、交際費として取り扱われることとなる。

今回の事例では、特に科目を偽らず雑費として支出していたため、重加算税の適用はないが、交際費課税を免れるために、外注費等に仮装して支払っているケースも多く、そのような場合には、科目仮装として重加算税が適用されることになる。

また、支出の相手先を明らかにできない場合も想定されるが、そのような場合には使途秘匿金課税(措法62)が適用され、通常の法人税に加えて、支出額の40%の税額が課されることとなっているので留意が必要である。

必要悪としてこのような地元対策費の支出は避けられない場合もあると思われるが、交際費となることを念頭に置いて処理をし、相手先から領収証を徴しておくことが必要である。

(2) 支払手数料に仮装したリベートの支払

1) 事案の概要

商社であるD社はX国のE社へ3,000万ドルの機械を納入した。D社は、機械の売込みに際して、E社の代表F氏から機械の購入の条件としてF氏に対するリベート20万ドルの支払を要求された。D社としてはリベートを支払っても採算のよい取引であったため、F氏の要求に従い、F氏の指定したY国のG社とE社向け機械販売に関する役務提供契約を締結し、コミッションとしてG社の指定口座に20万ドルを送金した。このやり取りはすべてF氏との間で行われており、D社担当者はG社のことについては何も知らない状況であった。

2) 調査の概要

調査官は、20万ドルのコミッションの支払に着目し、次のことを確認した。

  • 新規の取引先であるE社への3,000万ドルの機械納入に関するものであること
  • コミッション支払先のG社も新規の取引先であること
  • G社の指定口座はタックスヘイブンであるZ国にあること


調査官がD社担当者にG社について説明を求めたところ、E社が機械購入の可能性があるという情報を持ってきて、E社への売込みのセッティングをしてくれた、という説明であった。具体的な資料の提示を求めたが、すべて電話で行っており、名刺もないとのことであった。

調査官はG社の実態に不審を持ち、国税当局が契約している企業情報調査会社にE社およびG社の調査を依頼した。すると、E社とG社の代表者は同一人物(F氏)であり、G社は実態のないペーパーカンパニーであることが判明した。D社担当者にその旨を告げると、担当者はF氏にリベートを要求され、F氏に指示された方法でリベート20万ドルを支払った旨説明し、その旨を記載した確認書を調査官に提出した。

調査官は、交際費課税を免れるために架空のコミッションを計上したとして、重加算税を課した。

3) 対応策

海外の第三者へのコミッションの支払は事例のようなケースもみられるため、重点調査項目となっている。海外との100万円以上の送受金は「国外送金等調書」(PDF図表1参照)によって、金融機関から国税当局に提出されている。この調書には送金金額だけでなく、国名、送金原因も記載することとなっているので、調査官は準備調査の際にこの資料を活用し、本事例のような単発的な送金、第3国への送金等はあらかじめ調査の重点項目として絞り込んできている場合が多いと思われる。調査に際しては海外送金のアプリケーションも準備するように求められることが多いが、どのような海外送金がなされているかは事前に承知してきていることが多い。

本事例の場合は、あらかじめF氏に対する謝礼である旨を記載して交際費として処理していれば、D社側の処理としては問題にされることはなかったと思われる。ただし、本事例のようなケースはX国側の課税問題になり得るとして、調査官がX国にこの取引について情報提供することがあるので、やはり注意は必要である4

 

1 商社も広義の卸売業といえるが、一般的に卸売業は物流機能を持っており、商社は物流機能を持っていないことが多い。また、大手商社では大規模な投資事業(資源開発等)も行っている。
2 従前は現金商売をしているという理由で事前通知のない調査が行われることもあったが、平成23年の国税通則法改正による調査手続の整備に伴い、現金商売であることのみをもって事前通知を要しない理由にはならないことが通達で明記された(国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達4-7)ため、事前通知のない調査は減ってきているようである。ゆえに、事前通知のない調査が行われる場合には、何らかの個別の理由があると考えておく必要がある。
3 ポイントカードのポイントは原則として引き換えた日の属する事業年度の損金とされる(法基通9-7-2)が、一定の要件を満たしている場合には、ポイント残高を期末において未払金に計上することができる(法基通9-7-3)。
4 自国の納税者に対する調査等の際に入手した情報で外国税務当局にとって有益と認められる情報を自発的に提供するもので、租税条約に基づく自発的情報交換という制度である。平成26事務年度に国税庁から外国税務当局に提供した件数は317件、外国税務当局から提供された件数は1,258件であった。(平成27年11月国税庁「平成26事務年度における租税条約等に基づく情報交換事績の概要」)。

卸・小売業、商社に対する移転価格調査

卸・小売業、商社の移転価格調査における主要な論点として今回は、次の3つを紹介する。

1. 販売機能の実態の評価(バイセルかサポートか)

2. マーケティング無形資産または市場固有の条件の評価

3. 国際市況のある商品の移転価格の考え方


販売機能の実態の評価(バイセルかサポートか)

販売機能には、商品を仕入れて販売する形態(バイセル形態)と、商品の販売は他の関連法人が行い自社では販売サポートのみを行う形態(サポート形態)がある(PDF図表2参照)。

移転価格の基本原則によれば、バイセル形態は、通常、在庫管理等の機能が多く、また在庫リスクを負担する分、サポート形態よりも利益率は高くなることが期待されるが、リスクを負担する分損益の振れ幅も大きい。一方、サポート形態はリスク負担が少ない分、低めではあるものの安定した利益を上げることができると期待される。この原則を逆手にとって、販売機能をバイセルからサポートに変更することにより、高税率国に所在する販売会社の課税所得を減らすという節税策を取るケースがしばしばみられる。こうした移転価格を利用した事業再編による節税に対して各国税務当局が注目したことから、2010年にOECD移転価格ガイドライン第9章「事業再編に係る移転価格の側面」が追加されている。

こうしたクロスボーダーの事業再編事案の移転価格調査では、取引の法形式の変更と実態が合致しているかどうかがチェックポイントとなる。契約上はバイセル形態からサポート形態に変わったことになっているが、実際にやっていることはほとんど変わっていない場合には、実質的にバイセルであると認定されて課税を受けることになる。

有名なアドビ事件では、日本の販社の機能をバイセルからサポートに変更したことによって日本側への配分利益を縮小したことに対して、課税庁は、実際の機能リスクには変化はないとして移転価格の比較対象会社にバイセル会社を選定した。そのうえで、在庫リスクについては、比較対象会社が、受注販売方式を採用しているために実質的に負担していないことから、差異がないと主張した。1審では国が勝訴したが、2審ではバイセル機能とサポート機能はそもそも比較可能ではないとして課税処分が取り消され納税者が逆転勝訴した。勝因は、実態としてもサポート機能のみを行っていたと裁判所に認定されたことにある。

移転価格に限らないが、法形式と実態を合致させることが課税リスク管理の基本である。

市場固有の条件による利益の取扱い

市場固有の条件による利益は誰のものかがよく問題になる。考え方により結果に大きな違いが生じるだけでなく定量化が困難であるため、調査で揉めやすい。実際に裁判で争われた例を2つ紹介する。

第1の事例は製造業の案件であるが二輪車メーカーのブラジル子会社との取引に関する移転価格課税案件である。同子会社は現地において税務上の恩典による売上原価低減により高い利益率を享受していた。課税当局は、残余利益分割法(RPSM)を適用して課税したが、算定の過程で基本的利益を算出するの際、税務上の恩典を受けていない会社を比較対象とし、税務上の恩典による利益は基本的利益には含まれず、合算利益に含まれて関連者間で按分すべきと主張した。おそらく課税当局は税務上の恩典を受けている会社のなかから比較対象会社をみつけることができなかったためにこのような主張をしたと思われるが、裁判所は、税務上の恩典を受けていない比較対象会社を用いて基本的利益を算定した点が誤りであるとして課税を取り消した。結果的に、この事例では、税優遇措置による市場の固有の利益は、その市場に所在する法人に配分される形になった。(PDF図表3参照)

この事例では、税優遇による営業利益への影響の差異を調整していればよかったのではないかとの見方があるところであるが、課税当局は1審において差異調整の必要はないと主張していたのに対して、2審では差異調整をすることを予備的主張とした。しかし、裁判所は納税者に新たな攻撃防御を強いることになるため、違法な理由の差替えになるとして認められないと結論づけた。

第2の事例は、バナナの輸入取引に関する事件である。再販売価格基準(RP)法が適用できるとの法人の主張に対して、課税当局は、産地国政府のバナナの最低輸出価格規制が利益率に与える影響について適切に差異調整を行うことは困難であるため、RP法を適用できないと主張し、寄与度利益分割(CPS)法を適用して課税した。裁判所は課税当局の主張を認め、課税当局が更正に用いたCPS法の適用を認めた。結果的に、この事例では、市場の固有の利益は関連者間で配分される結果となったが、第1の事例とは、固有の利益の額を計算することが困難であるという点で根本的に違いがある。このことがCPS法の適用を是認する結果につながったのではないかと思われる(PDF図表4参照)。

あえて要約すれば、市場の固有の利益は定量化が可能な限りにおいて現地に配分すべきであるが、定量化できない場合には、次善の解決策として、CPS法の合算利益に含まれることになるといえよう。

国際市況商品の移転価格

国際市況価格が存在する商品の移転価格については、過去に大きな議論となったことがある。問題になったのは、日本の親会社が海外で探鉱・開発した地下資源を現地子会社が採掘しているというケースにおける親子間の利益配分のあり方である。

1つの考え方は、子会社は採掘のみを行っておりリスクも負担しないのであるから、低率コスト・マークアップだけを得れば足り、残余利益は開発行為を主体的に遂行し探鉱リスクを負った親会社が取るべき、という考え方である。もう1つは、地下資源が存在することによる利益はその国の固有の利益であってその国に所在する会社が享受すべきであり、国際市況価格がある商品の移転価格は国際市況価格によるべきであるという考え方である。

2国間相互協議などの国際的な紛争解決の場では、後者の考え方による解決が図られているようである。すなわち、国際市況商品の移転価格は国際市況価格を用いて独立価格比率(CUP)法を適用し、親会社が子会社に対して提供している役務に相当する利益は別途コストプラス等により回収するという算定方法である(PDF図表5参照)。

関連サービス

サービスのご案内

税務調査は対応の仕方を誤ると思わぬ多額の更正を受けることにもなりかねませんので、適切に対応する必要があります。しかし、仮に更正を受けてしまっても、内容に不満がある場合には、不服申立てや訴訟(併せて争訟制度と称する)により是正を求めることができます。デロイト トーマツ税理士法人では税務調査の準備、調査対応に関する助言および不服申立てや税務訴訟に関するサポートを行います。

経済の国際化に伴い国外関連者との取引はますます複雑となり、その内容も有形資産から無形資産やサービス取引へと拡大しています。また「移転価格税制」が全世界的に適用強化の傾向にある中で、デロイト トーマツ グループは企業が海外ビジネス戦略の目的を遂行しつつ、各国の移転価格税制を遵守し、移転価格更正リスクや対応コストを低減するためのコンサルティングサービスを提供します。

移転価格調査対応に関する助言、調査への立ち会い、反論書の作成、証拠資料の収集・整理を支援します。 移転価格調査では、初期の段階からの納税者の対応方法が調査結果に大きく影響を与えます。そのため、各調査段階における税務当局に対する説明や見解の提示を含む納税者の対応について、豊富な経験と実績に基づくアドバイスを提供します。

お役に立ちましたか?