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業種別 税務調査の対策ポイント
【第6回】運輸・交通・通信業

『旬刊経理情報』 2016年11月1日号

第6回目は運輸・交通・通信業を取り上げ、一般調査で重点的に調査されるポイントを検討するとともに、移転価格調査の視点から対応法を紹介する。(中央経済社『旬刊 経理情報』 2016年11月1日号)

はじめに

本連載では、税務調査において指摘されやすい項目を業種別にみていく。税務調査手法そのものは業種が違えど変わるものではないが、やはり、業種固有の論点があり、調査において指摘されやすい項目がある。本連載では、業種ごとによくある否認事例を取り上げていくことにより、その対処法を考えていきたい。あわせて、年々重要度が増している移転価格調査についても同様に、対処法を考える材料を提供できればと考えている。


第6回目は運輸・交通・通信業を取り上げ、一般調査で重点的に調査されるポイントを検討するとともに、移転価格調査の視点から対応法を紹介する。

運輸・交通・通信業に対する一般法人税調査

運輸・交通・通信業は業種の大分類でいえば運送業に属する業種であるが、そのカバーする分野は非常に広い。しかし業種に共通の特徴としては、固定資産の占める割合が高いことが挙げられる。調査も必然的に固定資産関連に重点が置かれることになる。

資本的支出の調査

修繕費、保守費等のなかに固定資産に計上するべき資本的支出に該当する支出が含まれていないかという点は、調査における最重要項目である。固定資産の保守関連費用は事業の拡張等がない場合は毎期の支出はおおむね増減がないが、異常に増加したような場合には資本的支出に該当するものが含まれていないかの確認が特に入念になされる。

資本的支出とは、固定資産に対してなされた支出で、その固定資産の使用可能期間を延長させるような支出の場合と、その固定資産の価値を増加させるような支出の場合をいい、固定資産の取得として取り扱う必要があるものである。
たとえば、鉄道業を例に取ると、次のような指摘事項がみられる。

  • 線路保存費中、路盤改良のためのシートの敷設費用
  • 重軌条化に伴うまくら木の増設費用
  • 変電設備の許容量拡大のための充電器の取換費用
  • 車両修繕費中、床全面取換費用
  • 線路設備中、土工設備の改良工事
  • 建物内装工事、付属設備の新設および取換費用
  • トンネルの修繕工事費用中の資本的支出


貯蔵品の調査

固定資産の保守費用に関連して調達した部品等で未使用のものは貯蔵品として資産計上する必要があるが、この計上漏れの指摘が多い。たとえば、次のような計上漏れがみられる。

  • 期末時に未完了の修繕工事に係る外注先への無償支給材の計上漏れ
  • 期末時に計上した修繕費中、購入した部品で未使のものの計上漏れ
  • 期末現在未完了の工事に係る工事用部材の取得費用の計上漏れ


また、販促関係での制作物も期末現在未使用のものは貯蔵品として計上する必要があるが、この計上漏れも多くみられ、調査で指摘されることも多い。たとえば、次のような計上漏れがみられる。

  • 翌期に開催するイベントに使用する制作物の取得費用の計上漏れ
  • 販売用の時刻表等の取得費用で、期末時に在庫していたものの計上漏れ


営業所の調査

貨物運送業等では営業所における営業対策費等の捻出のための不正計算が行われていることがあり、営業所での調査が重要なポイントになる。具体的には、次のような項目が重点調査項目となる。

  • 運送収入関係の調査
    遠隔地からの帰り荷収入、引越収入、小口取引収入等単発取引の収入計上が適正にされているか、配車表、運転手等の出勤状況および運転日報等の原始書類と収入との対比によるチェックを行う。
  • 運送原価関係
    傭車料等の架空計上がないか、傭車契約、運転日報、請求書等によりチェックする。
  • 人件費
    架空人件費の計上がないか、アルバイト、季節労務者等の実在性をタイムカード等の原始記録から確認する。
  • 事故費
    運送途中の人的および物的事故に対して支払われる事故費の水増し、架空計上の有無を事故報告書、示談書、和解書等から確認する。


運輸・交通・通信業によくみられる指摘事項の例

(1)完了していない修繕工事費用の繰上計上

1)事案の概要

A社は複数の工事請負業者に修繕工事を依頼していた。工事が予定よりも手間取り、期末までに完了しないことが判明したため、A社の発注担当者Bは期末までに工事が完了しないものについて、各工事請負業者に対して「日付を空欄とした竣工届」および「請求書」を提出させ、B自らが竣工届の竣工日欄に期末近くの日付を押印することによって、あたかも期末までに工事が完了し引渡しを受けたごとく仮装していた(図表1 ※PDFの2ページ目を参照)。

2)調査の概要

調査官は修繕費が多額であることから、修繕費の内容について確認していたところ、期末に未払計上した修繕費について、複数の工事請負業者が提出した竣工届が同一日付(決算間際の3月30日)で同一のスタンプにより押印されていることに気づき、不審に思った。

発注担当者であるBにスタンプの陰影と日付が同一であることを質したところ、Bは竣工日は工事請負業者が記載してくるのが原則であるが、期末処理に書類が間に合うように期末までに完工予定の工事について、日付を白紙とした竣工届を提出してもらい、B自らが竣工を確認して日付スタンプを押したものであるとの説明があった。

調査官が「竣工届は工事が完了して初めて提出されるものであり、工事が完了する前に竣工届が提出されているのは問題である」と指摘したところ、Bは「ご指摘はごもっともだが、事務処理上の都合で早めに出してもらっただけで、竣工日の日付で竣工されているのは間違いない」と答えた。

不審に思った調査官が問題の竣工届を提出している工事請負業者すべてに反面調査をしたところ、すべての業者が「Bに依頼されて白紙の竣工届と請求書を3月中に提出したが、実際の工事の竣工は4月以降であった」旨を認め、検収書の日付は4月以降のものであった。

この事実をもとにBに再度事実関係について質したところ、当期の予算消化のために竣工が翌期になりそうな工事について、当期の修繕費として処理するために日付の記載のない竣工届を提出させたことを認めた。

調査官は事実と異なる竣工日付を記載して、完了していない工事に係る費用を当期の修繕費に計上したことは、事実を仮装しているとして、重加算税を課した。

3)対応策

予算管理の厳しい会社では、当期の予算の消費額が来期予算のベースにもなるため、少々無理をしても予算の完全消化に走りがちである。調査官は当然そのことを知悉しており、予算実算対比表などからその予算消化状況を検討し、あまりにきれいに予算が消化されている場合などは、本件のような期末の繰上計上があるのではないかという想定で調査に臨むことになる。

対応策としては、無理な予算消化をしなくとも担当者の責にならないような社内体制づくりが必要であるが、本件のようなケースは、担当者以外の者によるチェック体制を設けることでかなり防げると思われる。

(2)貯蔵品の除外

1)事案の概要

C社は鉄道業を営んでいるが、当期の修繕費予算が消化しきれていないことから、担当課長間において、資材センターに保管されていた貯蔵品(まくら木、レール、車輪等)を現場に払い出すことにより、貯蔵品取替在庫を圧縮することを合意した。

合意事項に基づき、期末直前に各担当課長は資材センターから取替補修用資材を現場に払い出す旨の指示を出し、各現場には、報告用の在庫報告書からかかる補修用資材を除外するように指示を出した。

その結果、貯蔵品取替在庫が圧縮され、計画どおりの修繕費予算が消化できた(図表2 ※PDFの3ページ目を参照)。

2)調査の概要

調査官は、資材センターの「貯蔵品受払月報」によりレール、まくら木の受払状況を確認したところ、期末直前に大量の払出しがなされていることに気がついた。現場から提出されてきている在庫報告書と突合したところ、資材センターから期末に払い出されたレール、まくら木については在庫計上が確認できなかった。取替工事の実績表をみてもそのような大量の取替えが期末直前になされた実績は確認できなかったため、貯蔵品の計上漏れが想定された。

本社の担当部署に現場における工事の受払管理状況を聞いたところ、期末の在庫は実地棚卸により把握しているが、期中の受払管理はしていない旨回答があった。

現場の保線区に臨場し、担当者に管理の実態を確認したところ、本社での説明と同様に期中の受払管理はしていない旨回答があった。受払管理がないことを不審に思った調査官は会社の同意を得て現場担当者の机周りの書類を確認したところ、「補修用部材受払管理簿」という背表紙のファイルがみつかった。このファイルを検討したところ、期末において大量の補修用資材の受入れがあり、期末時点においても在庫として保管されていることが判明したが、本社への在庫報告書にはその記載がなかった。

調査官が現場担当者に質したところ、本社の指示により、在庫報告書は期末に受け入れた資材を除いて報告したこと、受払管理簿がない旨虚偽の説明をしたのは、本社からの指示を受けてのものであったことを話した。

調査官は説明を受けた内容を「質問応答記録書」に記録し、現場管理者に読み聞かせて、その内容で間違いがない旨の署名押印を得た。

本社で担当者に事実関係の説明を求めたところ、修繕費予算を消化するために期末貯蔵品を圧縮した事実を認めた。また、車輪等、そのほかの貯蔵品においても同様の方法により貯蔵品を除外していた事実が把握された。

3)対応策

「質問応答記録書」は調査官が(主に重加算税賦課のための補強資料として)調査時に作成するもので、まず「あなたの氏名、住所、職業、生年月日を教えてください」という人定質問から始まり、聴取りを受ける側からすれば犯罪捜査の取調べを受けている感もあり、決して気持ちのよいものではない。最後に署名押印を求められるが、これを嫌がる人も結構いる。

この署名押印は決して強制されるものではなく拒否もできるが、その記載された質疑応答の内容が間違っていないかの確認は必ずなされ、間違っているといった場合には本人が納得するまで訂正していく。そのため、署名押印を拒否した場合でも、最終的には「内容はそのとおりだが、サインはしたくない」ということになり、調査官は署名押印欄は空白にして、その下に内容は間違っていないことを確認したが、署名は拒否した旨のコメントを書き加える。このようにすることでサインがなくとも一定の証拠力を持つとされている。

署名をしないことで調査結果に影響が出ることはほとんどないと思われるので、格別の理由がなければあまり拒否することのメリットはないと思われる。

運輸・交通・通信業に対する移転価格調査

ネットワーク・ビジネスの移転価格ポリシー

(1)ネットワークの存在

運輸・交通・通信業の付加価値は、地理的に広範囲に存在する不特定多数の潜在的顧客に対して、より低コストで、迅速かつ安定的に高品質のサービスを提供することにより生み出されると考えられる。そうした付加価値を生み出している要素のなかで最も重要なものは、グローバルに張りめぐらされた、モノ・ヒト・情報を運ぶためのネットワークであろう。各ロケーションにおけるマーケティングも重要であるが、各ロケーションにおけるその成否もグローバルに構築されたネットワークの存在を前提としており、ネットワークの特質をいかに潜在的顧客に売り込むか、また、ネットワークをいかに発展させていくかがビジネスの鍵を握る要素であると考えられる。

(2)移転価格ポリシー

こうしたネットワーク・ビジネスにおいて移転価格調査への対応を考えるうえで重要な点は、ネットワークの価値の重要性を前提として、各関連者の所得配分がそれぞれの果たす機能、負担するリスク、使用する資産を適切に反映したものになるように移転価格ポリシーを構築し、そのポリシーに沿って価格を決定することである。

移転価格ポリシーが適切かどうかを検討するうえでのポイントは、グローバル・ネットワークの経済的な所有者は誰なのか、それを用いたビジネスを遂行するうえでリスクを負っているのは誰なのかという点である。

ネットワークがグループ内の特定の企業のものであり、他の国外関連者はその企業に対してネットワーク利用料を支払うべき関係にある場合には、各国外関連者にはそれぞれの機能リスクに応じた一定の利益率を配分し、残りの超過利益はネットワークの貢献によるものとして、ネットワークを所有する特定の企業に配分するといった所得配分方法が合理的といえるだろう。

一方、ネットワーク構築に際して各ロケーションの努力や新たに開発されたノウハウが貢献しているため、結果として構築されたネットワークはすべてのグループ会社の共有財産であると位置づけることが適切な場合もあるだろう。

たとえば、小荷物宅配業では、集荷・輸送・配達がネットワーク化されている。基本的なビジネスモデルは日本の親会社が考案し開発したものであるが、ネットワークを構築するうえで各子会社所在地国における活動も重要な役割を果たしている場合、各ロケーションに一定の利益率で所得配分を行い、超過利益は親会社がすべて取るという所得配分方法では、現地税務当局の同意が得られないかもしれない。

後者の場合の最適な移転価格算定方法として、ネットワークから受ける便益はすべての関連者が享受するべきと考えて、顧客からの収入をグロスで配分する方法、あるいは、各ロケーションに対して荷物の取扱高に応じた一定の手数料を支払うといった方法が考えられる。

(3)税務当局に認めてもらうための対策

現在、世界的に移転価格算定方法は取引単位営業利益法(TNMM)が支配的であるが、ビジネスの面からは最適な算定方法であっても、こうした方法は税務当局に認めてもらえないリスクがある。いくらビジネスの実態を反映した方法を考案しても、それを適用した結果、営業利益ベースで赤字になってしまう場合には、問答無用でTNMMを適用され、課税されるかもしれない。そうしたリスクを回避する策として事前確認申請(APA)が考えられるが、それなりにコストがかかる。

その他の対策としては、業績評価上の価格と財務会計上の価格を切り離す方法がある。業績評価上の価格はあくまでもビジネスにとって最適の価格を付し、財務会計上は税務上の利益計算にすぎないと割り切って、期末に価格調整金を支払うことによってTNMMで算定した利益幅のなかに収めてしまうことである。この方法によれば、移転価格の課税リスクのストレスから永久に解放される。

IGS(グループ内役務提供)

(1)IGSの対価の請求漏れ

移転価格調査のターゲットの1つに、IGS(Intra Group Services、グループ内役務提供)の対価の請求漏れの問題がある。IGSはグループ企業間の役務提供取引全般を指すが、特に、図表3に掲げるような経営・財務・業務・事務管理上の活動の対価が請求漏れになっている例が多く、最近の移転価格調査において必ずといっていいほど指摘事項に挙げられる。こうした役務提供取引の請求漏れは本格的な移転価格調査でなくても調査することができるため、課税件数も多い。

欧米系の企業は以前からIGSの対価をきちんと請求する例が多かったが、日系企業は「親会社が子会社の面倒をみるのは当然」といった考えから、IGSの対価を請求しない例が多くみられた。日本の税務当局にとっては課税ベースの海外流出であり、平成20年の移転価格事務運営要領改正の際にIGSの調査に関する指針を示した。それ以降、IGSの対価を請求しているかどうかについては税務調査において必ずチェックされるようになった。

(図表3)IGSの例示

  • 企画または調整
  • 予算の作成または管理
  • 会計、税務または法務
  • 債権の管理または回収
  • 情報通信システムの運用、保守または管理
  • キャッシュ・フローまたは支払能力の管理
  • 資金の運用または調達
  • 利子率または外国為替レートに係るリスク管理
  • 製造、購買、物流またはマーケティングに係る支援
  • 従業員の雇用、配置または教育
  • 従業員の給与、保険等に関する事務
  • 広告宣伝(マーケティングに係る支援を除く)


(2)対価の請求要否

個々の活動が請求すべき役務提供取引に該当するかどうか、およびコストカバーでよいのか、マークアップを付すべきかといった点に関する指針は、移転価格事務運営要領3-9と3-10にあるので参照されたい。

その規定によれば、請求すべきか否かの判断ポイントは、「独立の第三者に対して行った場合に対価を請求できるものであれば請求すべき」である。ただし、親会社が株主の立場で行う活動の対価(株主費用)または子会社でも同様の活動を行っており、そのチェックのために同様の活動を重複して行っている場合(重複活動)は請求すべき役務提供取引に該当しない。この移転価格事務運営要領が改正されてから8年が経過しており、最近ではきちんと請求している企業が増えているが、依然として未請求の企業もある。請求漏れの金額が数千万円の規模になる場合には、一般の税務調査においても指導事項にとどまることなく実際に更正される可能性が高いので、早期に是正することが望ましい。また、請求の対象となる役務提供には、海外出張による役務提供だけでなく国内業務による役務提供も含まれる点に注意する必要がある。出張コストは請求しているが、国内における役務提供までは請求していないという会社もいまだみられる。

なお、請求する際にマークアップを付すべきかどうかという問題があるが、サービスを提供する際に無形資産を用いている等一定の場合を除き、マークアップを付す必要はないとされている。

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