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業種別 税務調査の対策ポイント
【第4回】建設業

『旬刊経理情報』 2016年9月20日号

第4回目は建設業を取り上げ、一般調査で重点的に調査されるポイントを検討するとともに、移転価格調査の視点から対応法を紹介する。(中央経済社『旬刊 経理情報』 2016年9月20日号)

はじめに

本連載では、税務調査において指摘されやすい項目を業種別にみていく。税務調査手法そのものは業種が違えど変わるものではないが、やはり、業種固有の論点があり、調査において指摘されやすい項目がある。本連載では、業種ごとによくある否認事例を取り上げていくことにより、その対処法を考えていきたい。あわせて、年々重要度が増している移転価格調査についても同様に、対処法を考える材料を提供できればと考えている。

第4回目は建設業を取り上げ、一般調査で重点的に調査されるポイントを検討するとともに、移転価格調査の視点から対応法を紹介する。

建設業に対する一般法人税調査

建設業は不正計算が行われやすい業界といわれている(図表1参照)。工事獲得のための情報活動が重要であること、地元対策費等が必要な場合があること、また利益確保のための業者間における受注調整に伴う謝礼金等、税務上損金と認められない費用が発生する可能性が高いことが1つの要因かと思われる。

そのため、調査官も建設業の調査においては、他業種以上に不正発見に重点を置いた調査を行うことが想定され、十分な注意が必要である。

(図表1) 不正発見割合の高い10業種(法人税)

順位

業種

不正発見
割合(%)

不正1件当たりの
不正所得金額(千円)

前年
順位

1

バー・クラブ

57.1

14,167

1

2

パチンコ

29.6

57,216

3

3

ホテル、普通旅館

28.4

16,029

-

4

廃棄物処理

27.3

14,126

4

5

一般土木建築工事

27.2

10,178

6

6

職別土木建築工事

26.4

7,860

7

7

土木工事

26.2

7,895

5

8

自動車修理

25.6

4,382

2

9

貨物自動車運送

25.1

12,654

8

10

管工事

24.1

5,299

-

※ 太字の業種は建設業に該当
(出所) 国税庁発表資料(平成27年11月「平成26年度 法人税等の調査実績の概要」)をもとに筆者加工

建設業の調査

(1) 完成工事高関係

本来当期の売上に計上されるべき売上が正しく計上されているかどうかは重要な調査ポイントであり、次のような観点で調査がなされる。

  • 引渡しの日等、本来売上計上すべき基準を満たしているにもかかわらず、未検収等の理由で引渡しが行われていないとして売上を繰り延べていないか
  • 本体工事が完成しているにもかかわらず、追加工事等が完了していない等の理由により引渡しが行われていないとして、売上を繰り延べていないか(追加工事等が別契約の工事であれば、本体工事は収益計上が必要となる場合がある)
  • 翌期完成の欠損工事を利益減少を図るために繰り上げて計上していないか
  • 期末に未成工事となっているものについて、翌期における工事原価の発生状況からみて、収益計上の時期は妥当であるか(未成工事となっているものの翌期に原価がまったく発生していないような場合は、期末までに完成していたのではないかという疑義を持たれやすい)
  • 資材の値上げ、予定工期の短縮等工事内容の変更、追加によって値増金収入がある場合があるが、その計上は正しく行われているか1
  • 異常な売上値引きはないか(異常な売上値引きは交際費に該当することもあるので調査官は関心を持つ)

1 契約で資材の値上がり等に応じて一定の値増金を収入すべきことが定められている場合には、その収入すべき値増金の額はその建設工事等の引渡しの日の属する事業年度の益金の額に算入する。一方、相手方との協議によりその収入すべきことが確定する値増金については、その収入すべき金額が確定した日の属する事業年度の益金の額に算入する(法基通2-1-8)。

(2) 材料費関係

同一の取引先から材料だけでなく機械、器具等を購入している場合があるため、納品書、請求書等の原始記録の確認や、工事現場の機械、器具等と固定資産台帳のチェックにより、資産計上の適否の調査がなされることがある。

(3) 労務費関係

簿外資金捻出のために、架空人件費等の計上が行われることがあるため、調査のポイントになりやすい。
調査官は、(a)工場現場内の人員配置図、(b)タイムカード、(c)残業等の計算明細書、(d)出面帳、(e)作業日報、(f)工事現場責任者の手控え等から工事現場等における従業員の就業の事実と仕事の内容を確認し、架空労務費の検討を行うことがよくみられる。

(4) 外注費関係

外注費も不正計算が行われやすいため、必ず調査される項目である。具体的には次のような観点で調査が行われる。

  • 1つの製作工程において複数の外注業者に発注している場合は、その理由、必要性および外注単価等
  • 新規、単発等の業者に外注している場合は、その理由、必要性およびメリット等
  • 実行予算外の外注による追加発注で、工事内容が「一式」と表現されている場合は、設計図等により、どの部分の工事を施工したものか、その理由、必要性
  • 期末未払金の検討を行い、調査時点においても未払いのものがないかを検討したうえでの、相手先の確認等
  • 工事原価の付け替えによる利益調整がなされていないか、外注工事の工程、工期等と工事番号の確認

 

(5) 棚卸資産関係

下請け先等への支給材、預け材料等の計上の適否、未着品計上の適否、仕損じ品、スクラップ等の計上の適否等が調査のポイントとなる。

(6) 交際費関係

交際費を多額に要する業種であると考えられているため、交際費関係は最重点調査項目である。一般的には、次のポイントがよくチェックされる。

  • 架空外注費を捻出して受注謝礼金等の資金を捻出していないか
  • 架空手数料を計上して受注謝礼金等を支払っていないか。具体的には契約書、請求書等とともに、支払の起因となる役務提供の内容について、営業部の資料等から確認して検討する
  • 工事受注に関していわゆる「降り賃」として交際費とすべき支出がないか。入札で競合した同業他者に外注し、実際の工事は他の業者にさせる等して、「降り賃」を支払ってることがあるので、そのような事実がないか
  • サービス工事のなかに交際費に該当する工事がないか。受注先の役員の個人住宅サービス工事を他の本体工事原価や雑工事原価に付け込んでいることがあるので、そのような工事がないか


建設業によくみられる指摘事項の例

(1) 取引先に対する受注謝礼金の支払

1) 事案の概要

A社は総合建設業を営んでいるが、このたび受注したZ工事(10億円)に関して、競業企業B社に対して受注謝礼金(いわゆる「降り賃」)を支払う約束でB社に入札から降りてもらい、A社が受注した。

A社はC社を1次下請業者とする予定であったZ-1工事をB社経由の工事とし、C社は2次下請業者となった。A社はB社に1億1千万円で発注し、B社はC社にすべての工事を1億円で発注した。Cの請負金額1億円は、A社がC社を1次下請業者とする予定のときと変更はなかった。B社が実際に工事に参加することはなく、B社にはペーパー上の取引で1千万円の利益が計上された(PDFの図表2参照)。

2) 調査の概要

調査官はZ-1工事の作業指示書等工事関係書類を検討したところ、1次下請業者であるB社の名前がみられず、そのすべてが2次下請業者であるC社に対して行われていることから、工事担当者にヒアリングを行うとともに、B社の工事関与に疑問を持ち、B社およびC社に反面調査を行った。その結果、B社に降り賃を支払うため、C社に損をさせない形でB社を取引に介在させたもので、B社には工事施行の実態が一切ないことが判明した。

調査官はB社への利益供与である「降り賃」は交際費に該当するとし、外注費として交際費に該当する降り賃を支払ったことは科目仮装に当たるとして重加算税を課した。

3) 対応策

建設業界では、受注に関連して謝礼金の性格を有する費用の支出が必要な場合がある。あらかじめ締結された契約に基づいて支払われる場合には税務上の損金となる場合もあり得るが、多くの場合は税務上は交際費として扱われる支出である。このような支出は好ましくないため、やむを得ず支出する場合も、「受注謝礼金」、「降り賃」等の名称を記載して支出することは少なく、なるべく外部からわからないような形で支出しようとするため、科目仮装の形を取るることになる。このような場合でも、税務上は交際費の額に含めて申告をしていれば、否認されるリスクはないので(使途秘匿金の場合は別)、このような税務処理を検討することも有用である。

(2) 架空労務費を計上することによる資金捻出

1) 事案の概要

D社は、Y工事において実際には勤務実態のない2名に労務費を支払っていた。2名の給料は現場監督の手から本社の営業部に戻され、営業部において受注工作資金等に使用されていた。2名は季節労働者として、以前D社に勤務したことがある。

2) 調査の概要

調査官は人件費に着目し、賃金台帳データから「労務賃金総括表」を作表した。すると、賃金に諸控除のない支払のある2名を発見した。Y工事現場で確認したところ、現場監督は「2名はすでに退社しているが、間違いなくY工事原場で働いていた」と証言し、出面表、作業日報にも氏名の記載があった。なおも不審に思った調査官は、2名の住民税の申告状況を確認したうえで、本人とそれぞれ面談を行った。その結果、両名ともY工事に従事した事実はなく、D社から支払われたとされる給料も本人たちには支給されていないことが判明した。

調査官が、この事実をもとに現場監督を追及したところ、本社営業部からの指示で過去に働いていた者の氏名を利用し、勤務実態のない者の給料を計上して、本社営業部に渡していたことを認めた。出面帳、作業日報は2名が現場にいることを装うために現場監督が作成したものであった。調査官が前記事実をもとに営業部で確認したところ、営業部では部次長が現金で管理しており、金銭出納帳に入出金記録を記載しており、受注活動のための交際費として使用されている事実が確認された。

調査官は、交際費課税を免れるために架空の労務費を計上したとして、重加算税を課した。

3) 対応策

この事例は本社での賃金台帳の分析からみつかったケースだが、建設業の不正は現物確認調査から発覚することが極めて多い。そのため、不正経理を行わないことはもちろんであるが、調査官にあらぬ誤解を招かないように、現場事務所も常に整理整頓しておくことが重要である。

建設業に対する移転価格調査

建設業の会社に移転価格課税が行われた事例の有無は定かでないが、寄附金課税が審査請求や訴訟で争われた例がある。寄附金課税が国外関連者との取引に係る対価の適否に関するものである場合には、本質的に移転価格課税の問題である可能性がある。そうしたケースでは、移転価格税制への対応を行うことで寄附金課税を防げることがある。

関係会社に対する売上値引き

国外関連会社に対する売上値引きや仕入値増しが利益調整を目的としたものであることが疑われる場合に寄附金に該当するかどうかが調査で問題になることがある。

たとえば、海外子会社の業績不振により当期の損益が大きく赤字になることが見込まれる場合、子会社からの要請に応じて日本からの部品の輸出価格を一時的に値下げすることで赤字幅を縮小しようとすることがある。この場合、「子会社支援のため」といった文言が決裁文書のなかに入っていたりすると、寄附金と認定される可能性が高くなる。

こうしたリスクを避けるためには、グループ内取引に関する移転価格設定方針をつくり、事前に設定した子会社の利益率を達成できそうにない場合には、期中に価格を見直すことを移転価格ポリシーとして文書化しておく。これにより、子会社の利益率を維持するための値下げが寄附金と認定される可能性を低くすることができる。ただし、値下げ後の利益率が適切かどうかは移転価格の問題になるので、移転価格ポリシーを設定する際の利益率は、比較可能な第三者の企業の利益率とのベンチマークを行う必要がある。

そもそも、資産の低額譲渡の場合の寄附金の額は、時価と対価の差額のうち「実質的に贈与又は無償の供与」と認められる額であり(法法37⑧)、時価と対価に差があるだけで実質的に贈与したものでない場合には寄附金にはならない。差額が実質的に贈与であることの立証責任は課税庁側が負うが、贈与であることを示唆するような文書が出てきた場合などでない限り、実質的に贈与であることを立証するのは通常は困難である。

そうしたトラブルを防ぐために移転価格ポリシー構築が有効である(PDFの図表3参照)。そもそも寄附金は時価と対価の差額がなければ問題にならないので、時価で取引していることを示せれば寄附金の問題も起きないことになる。

時価とは通常の取引価格であり、移転価格税制でいう独立企業間価格と同義といえる。値引きの場合であれば、値引き前後の価格のいずれも独立企業間価格であることを移転価格の枠組みのなかで説明することで、時価と対価の間に差額はない、すなわち、値引き額は寄附金ではないという説明ができる。それを可能にするには、移転価格ポリシーを構築し、そのポリシーに従って取引価格を設定し、結果を文書化することである。それによって寄附金課税リスクも低減することが可能になる。

無償の役務提供

海外子会社に技術者を派遣した場合、対価を取らないと寄附金かという問題がある。親が子を助けるのは当然だから寄附金課税はおかしいという意見もあるが、税法では、無償の役務提供が実質的に贈与と認定されると寄附金に該当する。

親会社で部品を製造し、海外子会社で組み立てているケースでは、子会社の製造ラインにトラブルが発生して生産が止まると、親会社での製造活動やグループ全体のビジネスに影響を及ぼすから、親会社にしてみれば、自社やグループ全体のために、子会社に出張して技術支援を行う。その場合、「実質的に贈与」といえるのかどうかが調査で論争になる。

調査で寄附金認定を受けないためには、あらかじめ海外への技術者の出張対価の請求に関するルールを定めて、グループ内で共有しておくのが有効である。たとえば、子会社に対価を請求する条件として、子会社の要請があった場合には対価を請求するが、親会社の都合で行くときには請求しないといった、ある程度画一的な基準を設定しておくと個々の事例に直面したときに請求すべきかどうか迷わなくて済む。その場合に、対価を取るべきか否かの判断基準は、独立の第三者だったら対価を請求されたら払うのかという基準(独立企業原則)である。

独立企業原則に則って定めたルール上、対価を取らないこととしている場合に該当するのであれば、調査において寄附金と認定されることは相当程度防げるだろう。

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