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シリーズ:丸ごとわかるフォレンジックの勘所 第1回

実効性ある内部通報ホットラインの設置・運用のポイント

本シリーズでは、フォレンジックの勘所を不正の予防・発見、対処、再発防止の全プロセスにわたり、複数回に分けて紹介します。1回目の本稿では、内部通報ホットラインの設置・運用のポイントを、実効性担保の観点から解説します。

I.はじめに~日本企業を取り巻く不正リスクの高まり

現代社会においてコーポレートガバナンス(企業統治)やコンプライアンス(法令遵守)が経営上必要不可欠な重要事項として一般的に認識されるようになっている。一方で、グローバルベースでの競争激化は企業に高い売上目標達成とさらなるコスト削減を迫り、人々が不正を働く動機、プレッシャーは高まっている。また、企業活動のグローバル展開で、内部統制の水準をすべての拠点で保つことが困難になり、不正を実行する機会も増えている。実際にメディアにおいても、財務諸表の意図的な改ざん、品質に関する偽装等が連日のように報道されている。

本シリーズでは、そのような環境変化を受けて一般化しつつあるフォレンジックの勘所を、不正の予防・発見、対処、再発防止という3つの局面に分けて解説する。1回目の本稿では、不正の予防・発見のための施策のうち効果が高いとされる内部通報ホットラインの設置・運用を、実効性担保の観点から解説することとする。

II.実効性ある内部通報ホットラインの設置と運用をするためには

(1) 内部通報制度の効果と課題

日本における内部通報ホットラインの制度化の歴史は、2002年10月に日本経済団体連合会が「企業行動憲章」を改訂し、「企業倫理ヘルプライン」(内部通報制度)の導入を奨励したことに始まる。その後、法令違反行為を通報した労働者を解雇等の不利益な取り扱いから保護するなどの目的で2006年4月に「公益通報者保護法」が施行された。また、消費者庁では、「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(2016年12月)を公表し、従業員等からの法令違反等の早期発見・防止に資する通報を事業者内において適切に取り扱うための指針を示している。このような動きもあって、大部分の企業では既に内部通報制度を導入している状況にある。実際、当社、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー(合)が2016年10月に発行した「企業の不正リスク実態調査(Japan Fraud Survey)」(以下、本サーベイ)によると、回答上場企業の92%が社内に通報窓口を設置している。

 

図表1 通報窓口の整備状況(複数回答)
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一般的に実効性ある内部通報ホットラインの設置により、以下の2つの効果があると言われている。

1つは誰もが参加可能なモニタリング機能としての不正の早期発見・防止効果である。社内に監視の目をはりめぐらすことにより、不正を早期発見・防止することが可能となる。本サーベイによれば、不正の発覚ルートとして回答者の25%が内部通報であると回答しており、この割合は内部監査や業務プロセスにおける統制活動よりも高い。
 

図表2 不正の発覚ルート(複数回答)
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もう1つの効果は、外部告発防止効果である。インターネット掲示板やブログ等には、一般の人間が簡単に世の中に向けて告発できるという利便性があり、また、マスコミ等は記事として取り上げやすいスキャンダラスなものは、即座に公表してしまう。既に周知となった不正への対応の遅れや内部統制の機能不全により、企業の社会的信頼は大幅に低下する危険性が高いため、内部通報ホットラインにより、社内において不正に関する情報等を早期に収集し、外部告発される前に適切に対応することで企業の自浄作用を発揮させることが可能となる。実際、東レの子会社で発生した製品検査データの改ざんという不正はインターネット掲示板への匿名の書き込みが引き金になって公表されており、内部通報制度が実効的に機能していれば防止することができたかもしれない。

しかしながら、消費者庁が2017年1月に発行した「平成28年度 民間事業者における内部通報制度の実態調査報告書」によれば、通報受付窓口を整備している企業の41.6%が過去1年間において通報件数が0件となっている。不正の発生を0件に抑え込むことが現実的には極めて困難であることに鑑みれば、少なくとも通報件数が0件の企業においては内部通報制度の実効性に課題が潜んでいる可能性がある。結果として、内部通報ホットラインを設置しても通報者が利用しやすく、また信頼されるものでなければ、内部通報制度は実効的に機能せず、期待される効果を発揮できなくなる点には留意が必要である。

 

図表3 過去1年間の内部通報件数
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(2) 内部通報ホットラインの設置・運用のポイント

実効性ある内部通報ホットラインを設置・運用するためには、内部通報ホットラインの構築・内部通報ホットラインの周知・内部通報事案への対応という各フェーズを適切に遂行することが必要不可欠である。

  1. 内部通報ホットライン構築のポイント
    内部通報ホットラインの利用の間口を広くするとともに、通報のアクションを促進することにより、通報が集まりやすくなるようなしくみを構築することが、実効性ある内部通報ホットラインの設置の第一歩である。

    まず、匿名の通報を可能にするとともに、外部の窓口の設置を含め複数のルートを設けることが重要である。外部の窓口は経営者による不正にも対応するべく企業から独立したルートにすることがポイントとなる。企業の内部窓口は信用できないと考えている通報者にとって、外部窓口の担当者は守秘義務を守り、経営者からの影響を受けていないということが理解されれば、通報者は外部窓口を利用しやすくなる。

    また、通報にあたっての言語的または時間的制約を除去すべく多言語対応のホットラインや24時間対応のホットラインを設置したり、仕入先や得意先などの企業外部者が利用できるようにすることも重要である。企業がグローバルに展開しているなかで海外拠点の従業員等は日本語や日本の営業時間に限定されずに通報することが可能となる。

    通報対象者は企業内部の構成員だけに限定せず、企業外部の取引先等も含めることにより、取引先等から不正の協力を要請された際に当該事案を内部通報の対象にすることが可能となる。
  2. 内部通報ホットライン周知のポイント
    内部通報ホットラインが設置されていても利用しにくい企業風土が存在したり、通報すべき内容か否かを利用者が十分に理解していない場合には内部通報ホットラインは画餅に帰することとなる。そのため、内部通報ホットラインを周知徹底して啓蒙することは、実効性ある内部通報ホットラインの設置において重要なことである。

    まず、周知の際に一番大切な要素は、経営者自身が通報しやすい企業風土を構築し、ホットラインの積極的な活用を期待しているという姿勢を利用者に伝達することである。従業員の入社時や昇格時などのオリエンテーション、経営者による全従業員に向けたメッセージなどで頻繁に伝達するとともに、通報者は必ず保護されること、企業は通報された情報に対して適切な対応を必ずとること、些細なことでも相談や連絡をしてほしいことを、利用者に理解してもらえるような内容で伝達することがポイントとなる。

    また、内部通報ホットラインが利用者にとって利用しやすい制度であっても、利用者の通報対象に関する理解が不足している場合、不正の早期発見に有用な情報が収集できないおそれがある。特に不正な財務報告(粉飾決算)は不正実行者や周囲の者において不正であるという認識に乏しいケースが多い。そのため、コンプライアンス関連規程で不正の定義を明確化し、具体的な事例を含むガイドライン等を整備し研修等により十分に周知することが重要となる。
  3. 内部通報対応のポイント 
    通報窓口の担当者は、通報者との信頼関係を構築しながらコミュニケーションを実施し、事実認定に必要な情報を引き出す必要があるため、コミュニケーション能力に優れている必要がある。企業が通報内容について適切な対応をとるだろうという信頼感を通報者に抱かせることが重要であり、企業は提供された情報に基づき常に真摯に適切な対応を行うことが、制度の信頼感を向上させる。そのためには適切なトレーニングを積んだ人材を担当者とする必要がある。また、通報内容の吟味や調査の必要性等の判断は経営者、法務・コンプライアンス責任者、監査役により重層的になされる必要がある。ただし、いずれも社内にリソースがない場合には経験豊富な外部専門家を活用することも検討する必要がある。

    通報情報は完全な情報とは限らないため、通報を受けた事項に対しては、明らかに重要性やリスクがない場合などを除き、原則として適切と思われる調査が実施されるべきである。断片的で不完全な情報等の通報があった際に、「あてにならない情報だから軽々しく動かない方がいい」、または、「動く必要はない」という態度は、それ以上に信頼性の高い情報が入手できる機会も失われることになる。また、適切な行動を実施しなければ、制度の信頼性を高めることができず、特に匿名の通報の場合においては外部告発リスクが高まることに留意が必要である。調査を実施するにあたっては、調査対象との間に利害関係を有しない調査メンバーをアサインする必要がある。また、この段階では通報内容の真偽が不明であるため、調査対象に疑念を抱かれないように内部監査の一環として調査を実施するなどの工夫が求められる。
図表4 内部通報ホットライン設置・運用のポイント
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III. おわりに

内部通報制度は不正の早期発見・防止に対して非常に有効な手段であるが、それが実効性をもって機能しなければ意味がない。この点、消費者庁も2018年5月14日に「内部通報制度に関する認証制度の導入について」と題する報告書を公表し、各事業者の内部通報制度の実効性の向上を図るための認証制度の導入に関する検討を行っており、内部通報制度の実効性には注目が集まっているといえる。

内部通報制度は設置すれば終わりではなく、利用者が通報しやすいデザインになっているか、利用者に対して制度を啓蒙できているか、必要十分な人材を通報対応にアサインできているかなどといった重要なポイントを継続的に満たすことが肝要である。そのためには、従業員等に対するコンプライアンス意識調査において内部通報制度の実効性を定期的に測定し、必要な改善施策を継続的に行うことが必要であり、そのような活動の土台となるマネジメントの姿勢や不断の努力が極めて重要である。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジックサービス

ヴァイスプレジデント 渡邉哲也
ヴァイスプレジデント 大田和範

(2018.8.28)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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フォレンジックサービスについて

企業が事業活動を遂行するにあたり、不適切な会計処理、資産横領、贈収賄、情報漏洩、不正アクセス、知的財産の侵害等の不正リスクが存在しますが、潜在的な不正リスクは広範囲に及びます。また、近年、企業間の紛争は増加傾向かつ複雑化しており、企業は係争・訴訟に関するスキルや経験が求められ、弁護士以外の財務やデータ収集の専門家の活用のニーズが着実に増加しています。デロイト トーマツ グループのフォレンジックサービスは、不正リスクに対してガバナンス、リスク評価、予防、発見、調査、再発防止の総合的なアプローチで企業の不正対応を支援します。

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