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シリーズ:丸ごとわかるフォレンジックの勘所 第3回

監査役による経営者不正の抑止のポイント

本シリーズでは、フォレンジックの勘所を不正の予防・発見、対処、再発防止の全プロセスにわたり、複数回に分けて紹介します。第3回の本稿では、経営者による不正を抑制するにあたって、監査役に期待される経営者に対する牽制機能のポイントについて事例とともに解説します。

I.はじめに~日本企業を取り巻く不正リスクの高まり

本シリーズでは、連日のように不正・不祥事が報道されるようになった環境変化を受けて、一般化しつつあるフォレンジックの勘所を、不正の予防・発見、対処、再発防止という3つの局面に分けて解説する。3回目は経営者不正を抑制するために監査役が果たす牽制機能を、不正リスクの要因察知、取締役とのコミュニケーション強化、社外監査役の利用、情報収集等の論点に分けて説明する。

II.監査役の期待役割

監査役は、独立の立場から取締役の職務執行を監査する株式会社の機関である。監査役による監査を通じて、取締役による不正・不祥事を未然に防止し、企業の健全で持続的な成長を確保することが期待されている。日本の上場企業においては、その大多数が監査役会設置会社であるため、本稿では監査役会設置会社を前提として解説する。

幾度かの商法改正を経て以降、現行の会社法においては、監査役の権限および地位は以下のとおり制度的に担保されている。

  • 監査役の取締役会への出席義務を明記
  • 監査役の任期を3年から4年に伸長
  • 監査役の選任議案について監査役会に同意権および提案権を付与
  • 社外監査役の人数を監査役全体の半数以上に増員
  • 監査役による取締役の会社の目的の範囲外行為、法令・定款違反行為の差し止め請求

しかし、このような権限強化により社会的信頼に応えるコーポレート・ガバナンス体制の確立が期待される一方で、企業による不正・不祥事は後を絶たず、不正な財務報告(いわゆる「粉飾決算」)等の事件において上場会社の経営者自らが不正実行者となっている場合も多数存在する。これらの経営者不正は企業に重大な影響を及ぼし、場合によっては企業の存続を脅かすことにもなりかねない。そのような経営者不正の最後の砦としての監査役の責任は重く、要求された監査のための義務を果たさず、また監査のために監査役に与えられている権限を行使せずに取締役の違反もしくは著しく不当な行為を阻止しなかった場合は、任務懈怠責任を問われる可能性がある。また、職務執行にあたり、悪意または重過失により第三者に損害を与えた場合においても責任を負うことになる。

当社が2018年10月に発行した「企業の不正リスク調査白書(Japan Fraud Survey 2018-2020)」でも、監査役監査は、経営者が対峙すべき不正を発見・発覚させるルートとして、内部通報、内部監査に次ぐ評価がされており、期待と責任の重さが窺い知れる。

図表1 監査役設置会社における各機関の役割
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図表2 経営者が対峙すべき不正を発見・発覚させるルート
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III.監査役による経営者不正の抑止のポイント

(1) 経営者不正における不正リスク要因の察知

監査役が経営者不正に対する牽制機能をより高めるためには、まず経営者にとって何が不正リスク要因となり得るかを察知することが第一歩である。1.動機、2.機会、3.正当化の不正のトライアングルに沿って整理すると以下のようになる。

1.動機

経営者は、企業の存続および企業業績に対して最終的な責任を有する立場である。当然のことながら企業の財務状況の悪化の脅威や業績達成へのプレッシャーが経営者にとって大きな重圧となり、不正行為の心理的きっかけとなる可能性がある。

<不正事例 1-1>
システム開発会社のA社は、実際は赤字決算であったが、多額の銀行融資の継続を得るために、創業者および社長の主導のもと、売上の前倒計上や売上原価の在庫への付替えにより粉飾決算を行っていた。

<不正事例 1-2>
IT企業のB社の社長が、株式交換による買収により連結利益を大幅に増益する経営計画を発表していた。しかし、買収企業の多くは数年のうちに転売、解散あるいは休眠状態になっていた。社長は買収対象企業の資産査定に関与していた公認会計士と共謀して、買収対象企業の売上を水増しして資産価値を査定していた。

2.機会

経営者は会社の内部統制を構築し適切に運用する責任を有するものの、その一方で内部統制を容易に無視できる立場にある。また、複雑な組織構造、異常な取引(極めて複雑な取引スキーム、関連当事者との取引、仕入先・得意先との関係や影響力を利用した取引等)の決定が経営者単独により行われている状況などは経営者不正の実行を可能とする絶好の機会となる。

<不正事例 2-1>
食品加工業を営むC社の取締役Y氏は原料購買部門と営業部門の両部門を統括していた。Y氏主導のもと循環取引が行われていたものの、他の取締役、監査役によるモニタリングが不十分であったため、長期間にわたり不正が実行され続けていた。

<不正事例 2-2>
IT関連事業を営むD社の取締役は、買い戻し条件を付した覚書を交わした不動産取引について収益計上していた。D社では迅速な意思決定を過度に重視していたため取引物件の開発計画の実現可能性の検証や評価を行うなどの十分な稟議手続が整備されていなかった。取締役会でも報告されていたが他の取締役や監査役は不動産に関する知識が乏しく、当該取引に対するモニタリングが適切に行われていなかった。

3.正当化

企業全体のコンプライアンス意識は経営者による経営理念や企業倫理の伝達・実践を通じて醸成される。内部統制の重大な欠陥の放置や不当な税金対策、取引の公私混同等、経営者自身のコンプライアンス意識が低い場合には、企業全体のコンプライアンス意識にも重大な影響を及ぼす。その他にも、過去の法令違反等の事実、株価や利益の維持・増大への過度な関心、投資家・債権者等に積極的あるいは非現実的な業績の達成を確約しているなどの状況が当てはまるであろう。

<不正事例 3-1>
教育事業を営むE社は、中途解約時の前受金返金精算に関して消費者からの苦情が増加していたものの、社長は是正することはなく、特定商品取引法違反により経済産業省から一部業務停止命令を受けた。また社長は、従業員の福利厚生目的で積立ていた資金を不正に流用し、逮捕された。

<不正事例 3-2>
食品卸業を営むF社では、前社長の代より商慣習として取引先の過剰在庫を預かり、口銭等手数料を乗せて返品する際に売上として計上する取引が行われていた。前社長退任後に社長に就任したZ氏は、前社長より行われていたこと、商慣行として他社でも通常に行われていること、手数料収入を得ることができ会社には損害を与えないなどを理由に取引を継続し、従来取引先関係のなかった他の企業も取引参加し、循環取引に発展し不正が拡大した。
 

(2) 取締役とのコミュニケーション強化

監査役が経営者不正に対する牽制機能をより高めるためには、日頃から取締役の行動等について注意しておくことが必要である。監査役は、取締役会に出席して、必要がある場合は意見を述べなければならない(会社法383条1項)が、それ以外にも積極的に取締役とコミュニケーションの機会を持ち、取締役の行動や、倫理およびコンプライアンス等に関する意識について把握しておくことが望ましい。また、このようなコミュニケーションの場を通じて、監査役から取締役に対して、不正が起きやすい状況などについて随時意見を述べることも重要である。そうすることで、経営者不正リスクの察知に役立つだけでなく、取締役に対しても監査役が日頃から監視していることをアピールでき、経営者不正を犯しにくい環境を構築することが可能となる。
 

(3) 社外監査役の効果的利用

経営者不正に対する牽制機能をより高めるためには、社外監査役の存在が有益である。社外監査役は会社の外部の人間であるため、より積極的に経営者の行動や職務執行の状況などを評価し、忌憚のない意見を述べることができる立場にある。したがって、社外監査役の制度を効果的に利用することにより監査役の独立性を強化し、経営者不正に対する牽制機能を強化することができる。ただし、非常勤の社外監査役は、情報不足により詳細な議論を行うことができず、十分に役割を果たすことができない場合もある。監査役は、取締役等から如何に情報を得るかが重要であり、必要ある場合は、取締役に対して積極的に情報の提示を求めていく必要がある。
 

(4) 関係機関などからの情報入手および連携強化

監査役が経営者不正に対する牽制機能をより高めるためには、経営者不正リスクに関する情報や経営者不正の兆候を示す情報等を適時に入手できる体制がなくてはならない。企業の規模が大きくなればなるほど、少数の監査役で有効な監査を実施することは難しくなるため、監査役補助者の補強および効果的な利用、内部監査部門および会計監査人との連携、外部専門家の支援などによって、不正に関する情報を適時に入手できる体制を構築し、不正の兆候が存在する場合には迅速に対応できるようにすることが求められる。

図表3 関係機関等との連携強化
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(5) 監査役の資質の向上

監査役の監査対象は非常に広く、会計監査だけでなく業務監査にまで及ぶため、経営管理、法務、財務・経理、リスクマネジメント等の広範なビジネス知識が必要となる。監査役の出身部署は、営業・販売、経理・財務、総務・人事・労務、企画などさまざまであり、出身分野の業務における不正リスクに関してはある程度精通しているものの、企業全体のどこで、どのような手口で不正が行われる可能性があるかを把握できる監査役はおそらく少数であろう。平時より不正事例の研究や各部門とのディスカッションを通じて不正に対する見識および企業内部の不正感度を高めておくことが重要である。

IV.最後に

監査役は、経営者による不正行為を防止・発見するための「最後の砦」であると言われている。実際にこのような行為を未然に防止した場合は表面化することが少ないため、監査役の功績は目に見えにくいものとなっている。しかし、法改正により監査役の機能が強化された後でも、経営者による不正・不祥事が絶えないことを踏まえると、経営者不正に対する牽制機能としての役割をより一層強化する必要がある。そうすることで、監査役の努力が益々実を結ぶことになるであろう。今後の監査役の皆様のご活躍を期待したい。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジックサービス

ヴァイスプレジデント 島村慎吾
ヴァイスプレジデント 奥山結紀

(2018.10.16)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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フォレンジックサービスについて

企業が事業活動を遂行するにあたり、不適切な会計処理、資産横領、贈収賄、情報漏洩、不正アクセス、知的財産の侵害等の不正リスクが存在しますが、潜在的な不正リスクは広範囲に及びます。また、近年、企業間の紛争は増加傾向かつ複雑化しており、企業は係争・訴訟に関するスキルや経験が求められ、弁護士以外の財務やデータ収集の専門家の活用のニーズが着実に増加しています。デロイト トーマツ グループのフォレンジックサービスは、不正リスクに対してガバナンス、リスク評価、予防、発見、調査、再発防止の総合的なアプローチで企業の不正対応を支援します。

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