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シリーズ:丸ごとわかるフォレンジックの勘所 第5回

不正調査のポイント(1/3)

本シリーズでは、フォレンジックの勘所を不正の予防・発見、対処、再発防止の全プロセスにわたり、複数回に分けて紹介します。5回目の本稿では、不正への対処の局面における不正発生の背景と主な発覚の経緯を、事例とともに解説します。

I.はじめに~企業の不正対応の重要性

昔も今も、企業の不正が世の中を騒がせている。最近では、CEOによる経費の私的流用が大きなニュースとなっているが、企業に多く発生する横領事案に加え、会計不正や品質偽装など、不正は一度発覚したら、時を移さず的確に実態を調査し、改善策を講じなければ企業に与える有形無形の損害は計り知れない。また、顧客に直接影響する、あるいは決算に影響するような事案の場合は特に、いかに速やかに、正確に世間に公表するかという手腕も問われる。不正は行わない、行わせないのが一番だが、実際に起こってしまったとき、それが発覚した時に、企業はどのように対処すべきなのだろうか。

不正調査のポイントについて、不正の発覚、調査開始から再発防止策を含む調査結果報告に至る過程において考慮すべき事項を3回に分けて解説する。1回目の本稿では、不正発生の背景と、主な発覚の経緯を解説することとする。

II.不景気になると、さまざまな不正が増えてくる

最近はマスコミもさることながら、世間の目が厳しい。SNSなどを通して、悪い噂や情報はすぐに拡散してしまう。だからこそ、企業は有事の際には、どれだけ速やかに事態に対処し、その内容や改善策をいち早く開示できるかどうかが問われている。それを怠ると、すぐに「隠ぺい」と言われ、風評被害が拡大する。そのため、それが業界の悪しき慣習となっていたようなことも、1社でも明るみに出ると、同じような事案が次々に公表されるのかもしれない。5年前になるが、社会問題化したホテルの食材偽装(メニュー誤表示)などを思い浮かべる人も多いのではないだろうか。

最近では、金融機関における不正融資やパワハラ問題なども大きな問題となったが、金融庁の検査が厳しい金融機関においてはこうした不祥事は本来、一般的ではない。とは言うものの、多くの不正は昔からあったものかもしれない。

ただし、これは私見であるが、こうしたグレーないしブラックな状況は、やはり景気と連動していると思われる節がある。日本国内の市場が縮小し、ますますグローバルな戦いが余儀なくされる経営環境にあって、コストは掛けられないが、業績は上げなければいけないという無言のプレッシャーのなかで、検査や管理に人員を割けない状況も手伝い、組織ぐるみの、あるいは上司からのプレッシャーを忖度した現場がさまざまな不正行為を犯してしまうこともあるのではないだろうか。

これに加え、本人たちは「さして悪いことをやっているわけではない」、せいぜい「ちょっと外には言えないずる賢いことをやっているにすぎない」「ルールを曲げてはいるが、誰に損をさせているわけではない」といった軽い意識で行っているケースが少なくない。場合によっては、業界の悪しき商習慣であって、伝統や文化のように昔から受け継がれてきた手口が表沙汰になっただけということもある。

景気が悪化した、人手不足になった、競争が激化したような際に、例外的に行い始めた手法がいつの間にか常態化して受け継がれてしまうということも少なくない。長く景気が低迷し、ますます先行き不安が増している昨今だからこそ、さまざまな「不正」が増えていく傾向はあるように思う。

III.不正は内部通報や外部告発によって発覚するケースが多い

不正が発覚するタイミングとして一番多いのは、やはり通報(告発)だろう。内部通報制度からのものであればまだ健全と言えるかもしれないが、より大変なのは外部から告発を受けてしまった時だ。取引先のこともあるし、元従業員というケースもある。いずれにしても、そうした通報や告発がすみやかに内部の部外者、つまり告発の対象者以外の心ある第三者や経営層にまで届けば、調査や是正に向けた何らかのアクションが行われるというのが普通の企業におけるプロセスだろう。

ただ、多くの場合は、その通報や告発はあまり具体的な内容を伴って行われるものではない。疑いレベルであったり、漠然とした内容であったりする。そのため会社側としては、その告発者からさらに詳細な情報を入手する必要があるのだが、告発者は自分の正体を隠しておきたいと思うことが少なくないので、そう簡単には事は進まない。そして、そのアクションが慎重に行われないと、不正をした本人らによる証拠の隠滅などが先んじてしまうことになりかねない。

日頃から大切なことは、これまでの経験や他社事例を参考にして、そうした疑いが生じたときに誰が、あるいはどの部署が先んじて担当をするのか、マニュアルとは言わないまでも、少なくとも初期段階において踏むべき手順は整理しておいたほうがいい。

また弁護士や私たちのようなアドバイザー、監査法人などの相談相手もカウンターパートとして日ごろから連絡を密にしておくことをお勧めしたい。問題は調査段階だけではない。事の真相が明らかになった後に、対象者を懲戒処分にすることなどを決め、あるいは法的責任追及も必要になる。そうしたことをどの部署がリードしていくのかも重要になる。今回は監査部、次回は経理部あるいは法務部などのようにたらい回しにしていたのでは、専門家とは言わないまでも社内に経験者が育成されず、行き当たりばったりの調査が始まる。そうすれば様々な事故も起こりやすい。

外部告発はもちろん、内部通報も軽んじて放置しておくと、次には社会に向かって情報の公表が起こってしまう。SNS全盛の時代であるから、誰もがその方法を熟知している。そのため、内部通報を放置するということはこの時代にあってはならないことだ。対応が遅ければ、場合によっては内部通報者に不正の関係者や本人など対象者から圧力が掛かったり、その情報を握りつぶされてしまったりするかもしれない。

うまく情報が取れず、具体的な内容がわからない場合は、特別な内部監査のような形で広く網を掛けるという方法もある。ただし、費用も掛かることなので、そこは慎重に見極める必要があるだろう。日本企業の内部通報システムでは不正の情報が投げ掛けられることは非常に少なく、多くはハラスメントの情報というのが実情だ。かと言って、内部通報システムが軽んじられるべきではない。ハラスメントなどの情報を社員が告発できる風土を基礎として、粉飾決算や横領等の通報も上がってくる。重要な不正の通報を受けるためには、数多くの通報が報告されていることが前提となるだろう。

さらに難しいのは、子会社や関連会社で内部通報などがあった場合のルールづくりだ。子会社の経営層などは自分たちの点数を気にして、不祥事は本社に報告したくないので、子会社内で勝手に対処するというケースも見受けられる。そして本社には事後報告で済ませようとする。

もちろん、その調査や対処がうまく出来ていればそれでもいいだろう。しかし、事なかれ主義で本社から見ると決して十分とは言えない対応で終わっているということも十分にあり得る。だからこそ、事後報告では済ませないようなルールが必要になる。そうした仕組みづくりもしておいたほうがいい。子会社、特に海外の子会社など本社から遠い関連会社ほど、本社には余計なことを知られたくないし、首を突っ込まれたくないと思うことが多いものだ。

IV.おわりに

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社が2年に1度実施している企業の不正リスク調査によると、不正の主な発覚ルートが通報(告発)であることが判明している。一方で、多くの企業において実際の通報件数が少なく、通報制度が活用されていない事実もある。不正発見の観点からは、通報者を保護する仕組みの導入と、その制度の周知を有効にすることで、より多くの不正が発見されることが期待される。

(次回につづく)

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジックサービス

パートナー 
公認会計士、公認不正検査士
垂水 敬 

(2018.12.17)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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フォレンジックサービスについて

企業が事業活動を遂行するにあたり、不適切な会計処理、資産横領、贈収賄、情報漏洩、不正アクセス、知的財産の侵害等の不正リスクが存在しますが、潜在的な不正リスクは広範囲に及びます。また、近年、企業間の紛争は増加傾向かつ複雑化しており、企業は係争・訴訟に関するスキルや経験が求められ、弁護士以外の財務やデータ収集の専門家の活用のニーズが着実に増加しています。デロイト トーマツ グループのフォレンジックサービスは、不正リスクに対してガバナンス、リスク評価、予防、発見、調査、再発防止の総合的なアプローチで企業の不正対応を支援します。

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