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シリーズ:丸ごとわかるフォレンジックの勘所 第6回

不正調査のポイント(2/3)

本シリーズでは、フォレンジックの勘所を不正の予防・発見、対処、再発防止の全プロセスにわたり、複数回に分けて紹介します。6回目の本稿では、不正調査の開始時の注意点と実際の調査手法を事例とともに解説します。

I.はじめに~企業の不正対応の重要性(不正調査開始と調査手法)

企業では横領事案等の個人的動機に基づく不正事案が数多く発生している一方で、時として、重大な会計不正や大規模な品質偽装など、企業に大きな影響を与える事案が起こる場合がある。不正は行わない、行わせないのが一番だが、実際に起こってしまったとき、それが発覚したときに、企業はどのように対処すべきなのだろうか。

前回(本シリーズ第5回)より、不正調査のポイントについて、不正の発覚、調査開始から再発防止策を含む調査結果報告に至る過程において考慮すべき事項を3回に分けて解説している。1回目の前回は不正発生の背景と、主な発覚の経緯について解説を行っているが、2回目となる本稿では、不正調査開始時の注意点と実際の調査手法を事例とともに解説する。

II.不正調査には外部専門家のアドバイスと調査の順序が重要

専門家に話が来るパターンとして、概ね次の2種類がある。

一つは内部通報が来たが、会社としてそういった場合の処置に慣れていないために、その段階で「どう対応したらいいか」といった相談が寄せられるパターンだ。外部の専門家は、そうした相談をしっかりとした提案に結びつけたいと考えるので、どんな相談であろうと親身になって受け答えをするだろう。それを利用しない手はないので、社内の専門家育成も踏まえて、普段から「不正防止関連セミナー」などに参加しておきコンタクト先を見つけておくという方法もあるだろう。

もう一つは、会社に不正調査の経験があるため、調査を開始したものの、全体像が見えてきた段階で、その不正が想定と異なり大規模で、影響も大きいということが判明したために、外部の専門家の力が必要だと判断するといったパターンだ。内部調査の場合、事案の拡大リスクを狭くとらえようとするマインドが働きがちだ。「会計不正などで内容が専門的すぎて社内の経理部員では賄いきれない」、「不正リスクがどこまで広がるか合理的に整理がつけられない」、また「相当数のメールレビューや、膨大な数の伝票や帳票類の突き合わせ作業など、工数が掛かりすぎて社内ではマンパワーが賄えない」などという場合が考えられる。

あるいは事が大きくなってしまって社外でも噂が立っている場合や、また上場会社においてその不正が決算数値に影響するかもしれないといった場合は、監査法人が専門家を使って調査することを進言するであろう。

さて、会社が調査を行う場合に留意すべきことがある。先述したように、不正の告発を受けた対象者に調査のことが知られてしまうと、証拠隠滅や口裏合わせといったことが行われる。なかには証拠の保全もままならないうちから、早々に対象者を解雇してしまうというケースも見受けられるが、これはPCデータの消失やインタビューが不可能となるなど、調査を難しくしてしまう可能性が高い。

対象者本人に知られる前に出来るだけ秘密裡に証拠を集める必要がある。証拠が出揃ってきてから本人にインタビューをする。会社には強制捜査権がないのだから、あくまでもインタビューであって取り調べではない。証拠や証言がないと調査を進めることが出来ないので、調査の順序には留意する必要がある。

そのためには、調査の経験と能力があり、社内での情報収集のための権限や人脈のある人が必要になる。また、調査妨害を防ぐために、不正に関与している可能性がある人や部署は加えられない。理想から言えば、特に上場企業の場合であれば、災害対策と同じように、不正に対する危機対応マニュアルを完備していることが求められる。

III.不正の内容に基づき仮説を立ててから調査範囲を定める

不正の内容によって、単独犯なのか、あるいは共謀する相手がいそうか、またはより広範囲に組織ぐるみの不正ではないかを考慮して、仮説を立てる必要がある。

例えば、架空売上を計上していたとする。個人が業績評価のための不正を行ったという可能性を排除できないが、一般的には組織ぐるみの可能性が高いので、調査はかなり慎重に行う必要がある。逆に「最近、羽振りが良くなった、会社の在庫を横流ししているのではないか」といった内容は単独犯の可能性が高い。つまり、誰を調べるのか。その対象者だけでなく、話の内容によって上下左右、どこまで調査対象とすべきかを決める必要が出てくる。

一般的に組織的な不正は、調査が大規模となる傾向がある。組織の上位者による指示もしくは会社の忖度により実行されるため、影響を受けた組織の範囲が拡大する。大規模な会計不正の場合は、その結果が決算に関わってくるが、日本では会計不正の調査に対して、決算スケジュールとの兼ね合いで問題が発生することが多い。

すなわち、日本の上場企業では監査意見を得られずにスケジュール通りの決算が出せない場合、早期に上場廃止となる可能性がある。このため、決算スケジュールを重視して、調査にかける時間が制約されることが多い。この限られた時間のなかで、どれだけ合理的な調査が完結できるか、しかも、その結果をもって会計監査人を納得させられるか、というところに日本独特の難しさがある。
 

 

IV.デジタルフォレンジックほか、さまざまな調査手法を駆使する

調査には色々な手法があるが、主要なものとしては、データ分析、ドキュメントレビュー、デジタルフォレンジック、そしてインタビューなどがある。

デジタルフォレンジックでは、パソコンやスマートフォン、あるいはサーバーに保存されたメールやチャットの履歴、作業ファイルなどを調べる。元々は2006年のライブドア事件に際して警察が押収したパソコンなどからメールを読み解いたり、消去されたファイルを復元するなど、法定証拠として活用したことから脚光を浴びた。デジタルフォレンジックは、関係会社間のコミュニケーションより証拠を得る重要な手法であるが、個人で完結している不正では効果が低く、組織ぐるみの不正に対して大きな効果を発揮する。

データ分析やドキュメントレビューは、不正の分類や、会社が平時から維持・管理しているデータの種類によって調査の範囲や手法は異なる。例えば、経費の私的流用の事案であっても、申請内容が紙でしか分からない、申請時に証憑が不要、もしくは手書きの領収書でも承認されるという管理体制では、不正の解明にはつながらないことが多い。

インタビューでの自供は、もっとも直接的に不正の有無を認定できる証拠ともいえるが、ストレートに質問しても素直に不正を認める人間は普通いない。やはり、インタビューまでにデジタルフォレンジックやドキュメントレビューといった調査でどこまで外堀を埋められるかがポイントになる。

不正は意図的に実行するものであるため、不正実行者は手を替え品を替え、不正をするという傾向がある。調査を始めるに当たっては、会社の内部統制上、不正の可能性をいかにブロックできているか、逆に言えば不正ができそうな穴はどこにあるのかをまず特定する必要がある。不正に対する監査では、対象とする不正の手口に応じて、そのような穴を確認すること、その穴を知ることで、今後の再発防止もできる。

V.おわりに

不正調査はオーダーメイド感が強い作業と言える。すなわち、財務諸表監査はある程度は一定の型があるが、不正調査の場合は、どういう方法でどこまで調べるかを個別事案ごとに設計する必要がある。このように不正調査は難易度の高い業務であるため、平時より外部専門家の利用チャネルを含め不正が発生した際の対応プロセスについて整理しておくことが肝要である。

(次回につづく)

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジックサービス

パートナー 
公認会計士、公認不正検査士
垂水 敬 

(2019.1.17)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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フォレンジックサービスについて

企業が事業活動を遂行するにあたり、不適切な会計処理、資産横領、贈収賄、情報漏洩、不正アクセス、知的財産の侵害等の不正リスクが存在しますが、潜在的な不正リスクは広範囲に及びます。また、近年、企業間の紛争は増加傾向かつ複雑化しており、企業は係争・訴訟に関するスキルや経験が求められ、弁護士以外の財務やデータ収集の専門家の活用のニーズが着実に増加しています。デロイト トーマツ グループのフォレンジックサービスは、不正リスクに対してガバナンス、リスク評価、予防、発見、調査、再発防止の総合的なアプローチで企業の不正対応を支援します。

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