ナレッジ

シリーズ:丸ごとわかるフォレンジックの勘所 第7回

不正調査のポイント(3/3)

本シリーズでは、フォレンジックの勘所を不正の予防・発見、対処、再発防止の全プロセスにわたり、複数回に分けて紹介します。第7回の本稿は、いよいよ不正調査の終了フェーズです。不正調査における調査範囲、インタビューのアプローチ、他件調査の手法や再発防止策検討の視点などを解説します。

I.はじめに~企業の不正対応の重要性(不正調査の視点)

企業では横領事案などの個人的動機に基づく不正事案が数多く発生しているが、時として重大な会計不正や大規模な品質偽装など、企業に大きな影響を与える事案が起こる場合がある。不正は行わない、行わせないのが一番だが、実際に起こってしまったとき、それが発覚した時に、企業はどのように対処すべきだろうか。

2018年12月号より、不正調査のポイントについて、不正の発覚、調査開始から再発防止策を含む調査結果報告に至る過程において考慮すべき事項を3回に分けて解説している。前回(本シリーズ第6回)は不正調査開始時の注意点と実際の調査手法について解説を行っているが、3回目となる本稿では、不正調査における調査範囲、インタビューのアプローチ、他件調査の手法や再発防止策検討の視点などを解説する。

II.不正の動機による調査範囲の絞り込み

最も発生件数の多い不正である横領は、一般的にはお金が欲しいという個人的な動機によって実行される。個人的動機に基づく不正では、不正の影響範囲が限定的となることが多い。なぜならば、個人的な動機の場合には、内部に協力者を見つけることが比較的難しく、個人の力で内部統制の穴をくぐるか、あるいは無効化しなければならないからである。経理や営業の特定の担当をローテーションなしで、長年一人の人間が任されているような場合に不正が起こりやすいのはこうした事情がある。現金横領の手口としては、会社の小切手を勝手に切って振り出すという方法、正式に振り出した小切手を着服する方法、小口現金から盗む方法、取引先から回収した代金を着服する方法など、さまざまな方法があるが、会社として内部統制の仕組みが一定程度整備されていて、運用も順守されていれば未然に防げるものは少なくない。しかしながら、不正を行う人間は運用面も含めた内部統制の抜け穴をうまくついて不正を実行する。

このような場合には、不正の影響は必然的に当該担当者の業務範囲に限定できることが多い。もちろん同様の環境が他に存在する場合には、その領域についても類似の不正が発生していないかの視点が必要となる。

一方で、売上の過大計上、費用の過少計上のような会計不正は一定レベル以上のマネジメントによる業績達成の意図で実行されることが多い。組織の成績を良く見せようという組織的な動機に基づく不正である。この場合には、組織のためという名目によって自身の行為が正当化されることから、個人的動機に比べると内部で協力者を得やすくなり、内部統制も当該マネジメントによって無効化されてしまう。また、発覚した不正が特定の事業部であったとしても、他の事業部においても同様の業績達成のプレッシャーを受けて不正が実行されていることもある。結果としては、大本のプレッシャーをかけたマネジメントの傘下にある全ての事業部で発生する可能性のある不正となり、影響範囲が大きくなることが多いので注意が必要となる。

III.不正調査におけるインタビュー

不正調査におけるインタビューは、情報収集を目的とするインタビューと自白を求めるインタビューに大別される。自白を求めるインタビューでは、証拠隠滅などの可能性を減らすために対象者を一気に攻め落とせるだけの証拠や証言を整理しておくことが必要となる。

また、複数の人間が介在している場合は、主犯よりも共犯、上下関係があれば、上司よりも部下から攻めるのが常道と言えるだろう。罪の軽い方、プレッシャーを受けた人間の方が、“やらされた”という意識からか、より真実を話す傾向がある。そして、核心に至るインタビューに対してより多くの証拠を持ち込むことができる。

司法取引ではないが、正直に話せば調査への協力姿勢を考慮するという手も時として使えるだろう。インタビューについては、対象者の許可を得たうえで録音することが多いが、場合によってはオフレコにして話しやすくするという方法も使える。

また、共犯も含めた調査対象の関係者は個別、同時にインタビューを行いたい。その理由は口裏合わせの機会をなくすためだ。もちろん、他に誰にインタビューをしているなどの情報は提供しない。話しやすい環境を提供するように、また秘密裡に行うためにも、弁護士事務所、会計事務所など、会社とは別の場所でインタビューを行うという方法もある。

また相手が嘘を言っていると思ったら、そのままにするのではなく、出来るだけ早くその嘘を指摘して是正するようにする。どんどん嘘を言わせてその矛盾を突くというテクニックもあるが、嘘を重ねることで、本人が真実に戻れなくなる危険性のほうが高い。もっとも、嘘だと感じても、それを否定するような証拠がなければ、その嘘を断じることは難しいので、やはり出来るだけの証拠・証言を手元にそろえてから本丸のインタビューは行うべきである。そして、自分がどれだけの証拠・証言を持っているか、その範囲を対象者に知られてはならない。

IV.本件調査と他件調査

不正調査では、調査のきっかけとなった疑義そのものの実態解明を行う本件調査に対して、類似の不正が他にもないかの観点で類似案件を調査する他件調査がある。

他件調査のためには効果的な調査手法を検討する必要がある。例えばデジタルフォレンジック調査を全拠点、あるいは部門の全従業員に対して行うというのは、工数とコストが掛かりすぎるので、あまり現実的な方法とはいえない。他件調査を実施するには、本件調査での実態解明をもとに、見つかった事案の特徴を整理して、共通する事項が発生する可能性があるかの観点で調査する。視点として、本件調査対象者と類似の環境にある人物の関与、類似手口の実行可能性、法令・ルールを軽視する傾向などの類似の組織風土などがある。

また、従業員に対するアンケート調査、ホットラインの設置という手法もある。事案が公表されていない場合には実施の名目を考える必要はあるが、「こうした事案を調査しています。ついては有用な情報を持っている人は連絡をください」と広くアナウンスをして、そうした情報を集めるルートをオープンにすることが肝要だ。日ごろそうした行為に不安や不満を抱いている従業員がいれば、その旨をアンケートに答えてくれる可能性も少なからずある。

V.再発防止策は不正トライアングルと向き合うことで生まれる

米国の犯罪学者であるD.R.クレッシーが犯罪者を調査して提唱した「不正のトライアングル」理論によれば、不正は動機、機会、正当化という3つの要因が揃ったときに生まれるという。

動機というのは、横領であれば例えば「借金がある」、「贅沢な暮らしがしたい」といった個人的な事情や欲望だろう。会計不正であれば、「業績をよくしたい」、「株価を上げたい」、「このままではこの会社が危ない」といった忠誠心や危機感から生まれる動機が多い。機会は不正を実行できる立場にいて、内部統制にそれを許すような欠陥があって、その人間が当該欠陥を知っているといった場合である。

動機や機会があったとしても、生来の悪人でもない限り、普通の人はそうそう不正を行えるものではない。ここで最後の要素である「正当化」が登場する。これは、その行為を文字どおり自分の中で正当化できるかどうかだ。横領であれば、「そもそも私を正当評価してくれない会社が悪い」や「少しくらいなら皆やっている」などだろうか。会計不正などの場合は「これは会社のため」や「従業員を守るため」という理由が多いのかもしれない。

3つの要因が揃ったときに不正が発生するとすれば、それぞれの要因を無くすこと、減らすことが不正の再発防止につながる。企業として実効性のある対策が打てる部分は、機会(内部統制)、正当化(組織風土)であろう。動機については、個人的な動機は難しいが、業績目的の組織的な動機などであれば対策が打てる。

不正の発生を機に内部統制全体を見直すのがベターだが、少なくとも当該事案で明らかになった機会は是正する。もちろん、ルールを厳格にしすぎると、通常業務の運営や従業員のやる気にもマイナスの影響を与えてしまうため、そこは慎重に考えなくてはいけない。

組織風土の改革に必要なのはなんといっても経営トップが発する繰り返しのメッセージ、そしてそのメッセージを受け入れる土壌を作るための教育だろう。どちらも花火の打ち上げではなく、地道な積み重ねが重要だ。それと同時に、トップのメッセージと会社のルールなどに歪みや矛盾があるのであれば、それを是正する努力も必要となる。

不正が内部通報で発覚していれば、“まだまし”という言い方もできよう。社員皆が見て見ぬふりをして黙殺しているうちに、外部に告発されたような場合は、会社として対応が後手に回ることになる。そのためにも、社内で何か問題があると感じた時に声を上げやすい仕組みが必要になる。そして、その仕組みを実効性あるものにするには健全な組織風土が必要である。

VI.おわりに

不正調査にはその後の再発防止策の実行に結び付くような材料を揃えるという側面もある。そのためには、徹底した調査を行い、発生原因の究明を行う。不正調査後の回復フェーズでは、究明された原因に対処するため(時にはあらためて時間をかけて原因究明が必要なこともあるだろう)、内部統制や組織風土の改善の観点から不正の再発防止策を着実に実行していくことが肝要となる。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジックサービス

パートナー 
公認会計士、公認不正検査士
垂水 敬 

(2019.2.18)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

記事全文[PDF]

こちらから記事全文[PDF]のダウンロードができます。
 

 

[PDF:365KB]

フォレンジックサービスについて

企業が事業活動を遂行するにあたり、不適切な会計処理、資産横領、贈収賄、情報漏洩、不正アクセス、知的財産の侵害等の不正リスクが存在しますが、潜在的な不正リスクは広範囲に及びます。また、近年、企業間の紛争は増加傾向かつ複雑化しており、企業は係争・訴訟に関するスキルや経験が求められ、弁護士以外の財務やデータ収集の専門家の活用のニーズが着実に増加しています。デロイト トーマツ グループのフォレンジックサービスは、不正リスクに対してガバナンス、リスク評価、予防、発見、調査、再発防止の総合的なアプローチで企業の不正対応を支援します。

関連するサービス

■ 不正対応・係争サポート

記事・サービスに関するお問合せ

>> 問い合わせはこちら(オンラインフォーム)から

※ 担当者よりメールにて順次回答致しますので、お待ち頂けますようお願い申し上げます。
 

お役に立ちましたか?