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シリーズ:丸ごとわかるフォレンジックの勘所 第8回

企業における危機につながる不正発生時のステークホルダー対応のポイントとは(1/2)

本シリーズでは、フォレンジックの勘所を不正の予防・発見、対処、再発防止の全プロセスにわたり、複数回に分けて紹介します。第8回の本稿では、危機につながる不正発生時に注意すべき点をステークホルダー別に解説します。

I.はじめに~危機につながる不正発生時に必要なステークホルダー対策~

残念なことに、近年、人災と言える事案による企業危機の発生は引きも切らず、テレビやインターネットといった各メディアで謝罪のための記者会見を目にする機会も多くなっている。
記憶に新しいところだけでも、自動車会社のリコール、製造業における相次ぐ品質不正、有価証券報告書の虚偽記載、銀行の不正融資、航空会社の飲酒問題などさまざまな事例がある。
自社にそうした問題が発覚した場合、事案の調査、解決、改善や再発防止などを考えることはもちろん、重要事項の一つとして、ステークホルダー対策がある。
ここで言うステークホルダーとは、「従業員」、「官公庁」、「消費者・世論」、「株主」、「債権者」、「顧客」を想定している。それぞれへの対応を進めるうえで、忘れてはならないポイントを整理していきたい。

II.危機につながる不正発生時に見落とされがちな社内対応

ステークホルダーというと社外にばかり目が行き、見落とされがちなのが社内の従業員である。社外や当局への対応に意識を注ぎ、社内対応が置き去りになってしまうと、それが命取りになる場合もあるため注意が必要だ。

特に不正発覚の発端が内部通報で通報者が明確ではない場合、通報者である従業員は「会社はどういった対応をするのだろうか」と黙って注目している。こうした中で、会社が内部通報に真摯に対応しているという姿勢を社内に示さなければ、不満を抱えた従業員から会社のマイナスな情報が次々と外部にリークされてしまうという傾向がある。昨今のSNS時代では、外部へリークされるリスクは高いと言える。SNSで発信しても会社が明確な行動を起こさないとなれば、今度はメディアへのリークを試みることへの懸念がある。
これではせっかく内部通報の仕組みを整備していても、期待した効果が発揮されず無駄なものになってしまう。
通報を受けた後、迅速かつ真摯に通報内容へ取り組む態度、徹底して調査をしていく姿勢を社内に示さなくてはならない。そうすることで、外部へリークされる可能性が低くなるとともに、社内調査への協力も得やすくなることが期待できる。

情報が外部に漏れて、その対応に追われてしまうと、早期に行うべき重要なアクションが後回しになったり、ステークホルダーからの照会が殺到したりといった混乱状態に陥ってしまう。事案の公表は、最重要課題でもなければ、必ずしも実行が必要なものでもない。本来、必要性を判断し、必要な時期を見極めて対応していくべきものである。まず優先すべきは、「問題の洗い出し」、「事実確認のための調査」、「厳正な対処・処罰」、そして「再発防止策の策定・実行」である。対応にあたっては、外部よりむしろ内部とのコミュニケーションを徹底する必要がある。社内に対して適切なメッセージを発信することが、「事態の炎上」を食い止めるうえで非常に重要である。

実際、不正・不祥事が発覚した会社の従業員からは、「会社が危機に陥ったときに一番辛いのは、会社から直接の説明がなく、報道やプレスリリース等、外部からの情報で事情を知ることだ」といった声が寄せられている。ニュースを知った家族から「会社は大丈夫なの?」と聞かれても会社から説明を受けていないと、家族にうまく答えることができない。もちろん家族には詳細を伝えられない場合もあるだろうが、「大丈夫だよ」と自信を持って答えるのと、「自分もよく分からないんだ」と答えるのでは家族に与える安心感が全く違う。

会社の危機につながる不正・不祥事が発生した場合は、外部による報道の前に「こういったニュースが出てしまうが、落ち着いて行動してほしい」と社内にアナウンスできるだけでも、その後の経過に与える影響は大きなものになるだろう。

III.危機につながる不正発生時の当局やメディア対応のポイント

危機につながる不正対応を進めるうえで非常に重要だが、簡単ではないのが当局や所管官庁への対応だ。当局や所管官庁とは平時から良い関係を築いておく必要があるものの、組織ごとに異なる文化と特徴があるため、円滑なコミュニケーションをとるために、その道に詳しいコンサルタントなどに助言を仰ぎながら対応を進めることが重要である。

例えば、機密保持に対する姿勢も当局や所管官庁によりさまざまである。伝えた情報が漏れることが無い当局や所管官庁もあれば、外部へ漏れやすい場合もある。後者の場合、情報統制に欠陥があるというわけではなく、情報にあまり頓着しないという文化が背景にある。また、細部に至るまで情報を把握したいという当局や所管官庁もあれば、必要最低限の範囲で情報を伝えてもらえれば十分という場合もある。当局や所管官庁ごとの傾向を押さえて関係を構築することがポイントである。

加えて、対応の困難さに拍車をかけるのは、海外で事案が発生した場合だ。当局や所管官庁への対応は、当然ながら国ごとにも大きく異なる。危機につながる不正が顕在化してから関連情報を収集していたのでは間に合わない。やはり平時、可能であれば海外進出を行う際に、進出先の詳細な情報を仕入れ、さまざまなケースを想定した当局や所管官庁との人脈を築き始める必要がある。

そして、メディア対応も重要だ。本稿では、ステークホルダーとして、消費者・世論を挙げていたが、消費者・世論への対応の基本はメディア対応である。日頃の付き合いを通じて各メディアの特徴を知っておくことが大切だ。メディアの報道は中立だと思いたいが、必ずしもそうとは限らない。メディアと付き合う際には、自分たちとの距離感を把握しながら、会社として重視するメディアの編集方針や立場の違いも勘案する必要がある。

当局や所管官庁、メディアについては、それぞれ平時にもモニタリングしながら付き合いを深めていくことが肝要である。広報を中心とした関係部署の腕の見せ所と言える。

IV.株主総会を視野に入れた株主対応

株主が何を求めているか。それは当然株価の安定であり、株価が下落している状況では、株価の反転上昇だ。そのためには、事案の処理や改善策の策定状況についてメディアを通じて適切に情報開示していくことが重要である。
株主にとっての最大の関心事は「事態がいつ収束するか」という見通しだ。多くの株主は、損切りのための株式売却や、会社や経営者個人に対する損害賠償請求などは避けたいと考えている。保有している株を、株価が反転して上昇するまでできるだけ保持したいと思っている。その気持ちを裏切らないことが経営者の最大の仕事とも言える。

したがって、会社が根拠なく「もう大丈夫」と繰り返し、事態がさらに悪化することは最も避けるべきである。このような事態が発生すると、株主の不安を煽ってしまう。株主の関心は、記者会見でよく目にするお詫びではなく、問題がいつ収束するのか、そのために会社が何をするのかという点にある。株主総会では、これらのポイントをしっかり伝えることが肝要だ。危機につながる不正が発生した段階から、株主に対して株主総会等を通じて、何をどう伝えるか青写真を描き始めておく必要がある。

昨今発生したさまざまな事案を振り返ってみると、危機につながった多くの不祥事は、11月から1月といった第3四半期の終わりから第4四半期に発覚することが多い。特に会計不正などではその傾向が顕著である。年度前半は前向きのエネルギーが勝っていても、年度後半になり、予算達成が困難という予測が明らかになってくると、それをどう取り繕うかという悪知恵が働き、会計の不正操作などに手を付けやすい、或いは本決算が迫るにつれて事態が白日の下にさらされるのだろう。

こうして発覚した不正への直接的な対応とはやや異なる時間軸で進めなければならないのが、6月の株主総会に向けた対策である。株主を安心させられなければ、株主総会で代表取締役や取締役が選任されないという事態も起こり得る。

融資をしてくれている銀行など債権者対策も株主対策に似ている。彼らが求めるのは経営の安定であり、少しでも良い決算結果だ。それを約束し信頼を得られるかが重要だ。

V.自社の製品が何に使われているかを把握する

昨今、企業の品質管理データの改ざん問題や製造工程での手抜きに起因した不祥事が続いている。素材や部品メーカーでこうした不祥事が発生した場合、納入先に及ぼす影響が大きい。実際、企業からは、こうした他社起因の不祥事が自社に及ぼす影響があり、その影響が見逃せない場合に、公表すべきか否か、どういった内容で公表すべきなのか迷ってしまうという声も多く聞かれる。

納入先への対応を検討していくにあたっては、納入先の株主対策にも気を配る必要がある。たとえば自分たちのポートフォリオではそれほど大きな問題ではないとしても、納入先にとっては死活問題となる場合もあり得るわけである。
食品や家電などの業種においては、一般消費者対策も非常に重要ではあるが、忘れてはならないのがインフラ系やエネルギー系、交通系などといった「重大インシデント」につながりかねない用途を持っている顧客への対応だ。
対象業種としては、航空機、電車、自動車、ロケット、医療機器、あるいは原発など枚挙にいとまがない。製品の使われ方によって、影響度が大きく変わってしまう。それにより当局の動き、当局に対する対応すべき内容も大きく変わってくる。

これに関しても、自分たちはどんな顧客を抱えていて、納入している製品が何に使われているのかといった平時からの情報収集が重要である。量産型であるカタログ製品の場合、意外と最終製品までは把握できていないことが多い。大口顧客だけではなく、小口の顧客だとしても特殊な使用用途の有無と、潜在的なリスクの有無を把握していることが重要である。

危機対応という観点から、ステークホルダーを洗い出す際に、自社製品の顧客と用途についてしっかりと把握しておく必要がある。

VI.おわりに

今回は、危機対応にあたり、「従業員」を始めとしたステークホルダーごとに注意すべき点をそれぞれ紹介した。次回は、今回紹介した内容をふまえ、危機につながる不正発生時において企業が難しい判断を迫られる局面における対応のポイントについて解説する。

次回 >
第9回 企業における危機につながる不正発生時のステークホルダー対応のポイントとは(2/2)

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
グローバルリストラクチャリングアドバイザリー(GRA)統括/フォレンジックサービス

パートナー 
小杉 徹

フォレンジックサービス
シニアヴァイスプレジデント
佐藤 保則

(2019.3.15)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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フォレンジックサービスについて

企業が事業活動を遂行するにあたり、不適切な会計処理、資産横領、贈収賄、情報漏洩、不正アクセス、知的財産の侵害等の不正リスクが存在しますが、潜在的な不正リスクは広範囲に及びます。また、近年、企業間の紛争は増加傾向かつ複雑化しており、企業は係争・訴訟に関するスキルや経験が求められ、弁護士以外の財務やデータ収集の専門家の活用のニーズが着実に増加しています。デロイト トーマツ グループのフォレンジックサービスは、不正リスクに対してガバナンス、リスク評価、予防、発見、調査、再発防止の総合的なアプローチで企業の不正対応を支援します。

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