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シリーズ:丸ごとわかるフォレンジックの勘所 第9回

企業における危機につながる不正発生時のステークホルダー対応のポイントとは(2/2)

第8回「企業における危機につながる不正発生時のステークホルダー対応のポイントとは(1/2)」では主に、危機につながる不正発生時の各ステークホルダーへの対応のポイントについて解説しました。今回は、企業経営の危機につながる恐れのある不正発生時など、企業が難しい判断を迫られる局面における対応のポイントについて解説します。

前回の記事「第8回 企業における危機につながる不正発生時のステークホルダー対応のポイントとは(1/2)」はこちらをご覧ください。

Ⅰ.危機につながる不正対応は広い視野で一歩先を読んで対応する

危機対応では、基本的にはステークホルダーごとに個別に対応することになるが、包括的な視野を持ち、一歩先を読んで対応できるかどうかで明暗を分けることが少なくない。
例えば、外部への影響の波及を防ぐことを目的とした内部対応、あるいは既に事案の一端であれ外部へ情報流出している場合の内部対応であっても、対応内容が外部に漏れることを想定して対応を検討する必要がある。
逆もまた同様である。外部への対応を通じて内部へのコミュニケーション機能を果たすという側面も考えることが重要である。
例えば、内部通報であっても、既に外部にも事の一端が漏れていることを想定して動くよう心掛けるべきである。そうすることによりメディアなど外部からの問い合わせがあったとしても、慌てずに済むものである。
対応検討にあたっては、当然従業員の善意に頼る部分もあるが、決してその善意を前提としたストーリーを描いてはいけない。問題を矮小化せず、広く、大きくとらえる。悪い方にとらえる。そのうえで慌てず、どう対応すべきかをシミュレーションしていくことが重要である。
問題を小さくとらえ記者会見でもそのような発表をし、後日、さらなる不祥事が判明した際に信用を失うというケースが多い。経営者が「もうありません」と発信した後、さらなる不祥事が発覚する。こうした事態は絶対に避ける必要がある。
これは社内の従業員に対しても同様であり、従業員も「何をもってもう大丈夫などと言うのか?」と怪訝に感じることがあると、社外への情報リークを引き起こしかねない。

ご存知の方も多いと思うが、ハインリッヒの法則というものがある。これは、米国の損害保険会社で技術調査副部長をしていた技術者、ハーバート・ウィリアム・ハインリッヒ氏が5000件以上の実際の事故・事件を基に統計的に導いた経験則だ。1つのインシデント(重大事故)の前には29の小さな事故があり、その前には300の気にかかる事象があるという法則だ。「ヒヤリハットの法則」ともいう。
これは事故を未然に防ぐために意識すべき法則ではあるが、常にこうした意識をもって対応に臨むことが危機対応においても必要なのである。危機対応においては、平時の活動が重要であると同時に、事態が発生した際に徹底的に他の芽を摘むことも肝要である。その芽を摘んでこそ、記者会見など外部への情報発信の際に自信をもって「もう大丈夫」と発信できることにつながる。

Ⅱ.危機につながる不正対応はプロジェクトチームをもってあたることを推奨する

平時の対応として、危機対応時を想定した体制構築も必要だ。一般的には広報や法務、経営企画といった機能を有する部門が中心になるが、各部門メンバーのスキルを強化し、連携を高めておくことが必要である。しかしながら、いざ危機が発生した際には、こうした平時の部署だけに対応のすべてを任せても決してうまくは機能しないものである。
対応に際し、こうした部署がまずは情報収集を行おうとしても、現場からの情報収集がそれほどうまくできるとは正直なところ考え難い。

広報担当は新製品の記者発表などといった“晴れ”の記者会見には長けていても、多くの場合、事故が起こった際の情報発信には不慣れである。
法務担当は法的見解を提示できる弁護士との接点という意味で重要であるが、弁護士によっても得意分野が異なり、一概に既存のリレーションだけで十分なものとは言い切れない場合があるため、柔軟にリレーションの拡大を図る必要がある。
弁護士はリスクヘッジを第一に考え慎重であることが求められるが、外部への情報発信や記者会見に際して「あれを言ってもダメ、これも言ってはいけない。すべて調査中ですと答えてください」と、守りに過ぎる助言を行う場合もある。
記者会見で必要な要素は決して謝罪のみではない。もちろん謝罪は必要だが、マスコミの怒号を浴び、ただ頭を下げるためだけに開く記者会見などに意味は薄い。「何が発生しているのか、まだ他事象があるのか否か、どれだけの影響があるのか、今後どう対応していくのか」などを説明することが求められている。そのための情報発信であり記者会見なのだ。
何も具体的なことは言わずにただひたすらに謝るという姿勢を貫くと、メディアのフラストレーションもたまり、記者会見に臨んだ人物が、疑惑の人物にも見えてしまう。ひいては事態・レピュテーションのさらなる悪化につながりかねない。
良い情報発信や記者会見の要素として、必要なメンバーが顔をそろえ、謝罪し、再発防止に努めると述べること、加えて、述べただけではなく、その後実際に発信したメンバーを先頭に真摯に対応を進めていくことが内外に認識されることが挙げられる。
自分たちが普段付き合っている弁護士がM&Aなどには強い弁護士だったとしても、危機対応に関してどういうアドバイスをできる人物かも知っておく必要がある。大手の弁護士事務所であれば、他メンバーからのヘルプも期待できるかもしれないが、小規模な事務所の場合はそうはいかないケースもあるので注意が必要である。メディア対応を得意とする弁護士というのは、それほど多くはないと感じている。

さて、危機対応時の社内体制に話を戻すと、社長直轄など、必要な権限を持たせたプロジェクトチームの結成が有効である。まだまだ日本企業の組織は縦割りの要素が強いため、組織横断的なプロジェクトチームでないと、情報収集もままならない。プロジェクトチームにおいては、管理部門で力のある人物、営業部門で力を持つ人物、先に示した広報や法務、経営企画の各担当におけるエース級の人物が必要だ。

そうして組成されたチームが核となり、弁護士やコンサルタントといった外部のアドバイザーと連携しながら、司令塔(PMO)になって情報をコントロールして、対応策を検討し、行動していくわけである。
この司令塔(PMO)にとって重要なのが、社内外の適切な役割分担の徹底だ。外部のアドバイザーはほとんどの場合、事業の中身や内部の情報収集についてそもそも詳しいわけでも、長けているわけでもない。彼らが長けているのは、情報を整理し分析する力や問題点の探索、その後の対応におけるアドバイス力である。外部の力をうまく使うことは大切だが、使い方を誤ってはいけない。
また、国内外問わず子会社の場合、自力で危機対応するための十分な布陣を整えることは一般に困難である。その場合はできるだけ速やかに、本社から陣頭指揮を執る担当者とアドバイザーを派遣すべきだろう。

Ⅲ.危機につながる不正対応時の情報公開にあたっては、その要否とタイミングを適切に判断する

外部に対する情報公開にあたり公表すべきか否かの線引きは容易ではない。何がなんでも公表するというスタンスを個人的には推奨しない。内部で問題処理を完結できて、外部に悪影響を及ぼすものではない、あるいは個別に理解・納得を得られるのであれば、外部への公表は必ずしも必要ではないと考える。
ただし、外部に対し情報がリークされた結果、公表が必要になることもあり得る。こうした事態に備える意味でも、的確な判断を行い、その記録を保存しておくことは必要である。

例えば内部通報があり、その内容が滞りなく適切な組織に共有され、間違いのない処理が行われている。こうした一連の対応が、監査役や外部の関係当事者の目から見ても異存がないとなれば、その事案は終息しても良いと考える。的確な対応が重要なのであって、公表の有無が重要なのではない。
外部に公表しなくてはならない事案というのは、実際にはそれほど数が多いわけではない。ただ、公表された事案は当然重大インシデントなので、メディアが騒ぎ、人々の記憶にも残るものだ。

当局や所管官庁にしても、公表を求める場合もあれば、求めない場合もある。繰り返しになるが、あくまでも危機対応の一環として公表すべきかどうか、公表するとしてもそれはどのタイミングなのかの観点で検討することが重要なのである。
公表すべきかどうかを決める際に、他社の事例を基準にする必要はない。どこかにベンチマークを求めるとすれば、東京証券取引所の開示基準ではなかろうか。

ここで言う公表とは、世間一般に対する公表のことだ。影響の及ぶ取引先など関係者や当局や監督官庁などへの個別対応は別の話として必要不可欠である。ただし、個別対応にしても取引先や当局等の外部に知らせる以上は、情報が外部に漏れる可能性を考慮し、メディア等から問い合わせがあった場合にも決して慌ててはいけない。

Ⅳ.おわりに

危機対応に関して、ステークホルダー別・局面別に注意すべき論点を紹介してきた。繰り返しとなるが、取引先や関係者に関する平時からの情報収集はもちろんのこと、危機対応に際しては、専門の対応チームの組成を行い、常に一歩先を読んで広い視野を持ちながら、最悪の可能性をひとつひとつ潰していくという姿勢をもって対応にあたることが重要である。

 

※本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
グローバルリストラクチャリングアドバイザリー(GRA)統括/
フォレンジックサービス

パートナー 小杉 徹

フォレンジックサービス
シニアヴァイスプレジデント 佐藤 保則

(2019.4.9)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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