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シリーズ:丸ごとわかるフォレンジックの勘所 第10回

日本企業も決して無関係ではないFCPA(海外腐敗行為防止法)の現状と対策(1/2)

本シリーズでは、フォレンジックの勘所を不正の予防・発見、対処、再発防止の全プロセスにわたり、複数回に分けて紹介します。第10回の本稿では、FCPA(海外腐敗行為防止法/Foreign Corrupt Practice Act)について日本企業が注意すべきポイントを2回に分けて解説します。

I.はじめに~FCPAは日本企業にどう関係するか~

FCPA(海外腐敗行為防止法)とは、1977年、米国外の公務員に対する賄賂行為を禁止するために米国で制定された法律だ。適用範囲はとても広く、ここ20年で摘発件数が格段に増加している。同様の法律は、英国やブラジルなどにもあり、中国なども贈収賄の摘発に本腰を入れ始めるなど、政治家や公務員に対する贈収賄の防止は、グローバルレベルで大きな課題となっている。賄賂を贈る企業への政府・当局の態度は厳しさを増しており、もちろん日本企業にとっても他人事ではない。今こそコンプライアンスのあり様が問われている。

II.一筋縄ではいかない法律

FCPAが制定されたきっかけは、「ロッキード事件」をはじめとする一連の贈収賄事件だ。決して最近作られた法律ではないが、米国当局が摘発に力を入れ始めたことで、近年、その認知度は急激に上がってきた。

違反行為の対象となる構成要素は、「贈賄禁止条項」と「会計処理・内部統制条項」の2つである。贈賄禁止条項は、「取引の獲得や維持、あるいは商取引を誘導する目的で、米国以外の政府関係者や公務員に、賄賂とみなされるものを払ってはいけない、便宜も図ってはいけない」という内容だ。米国外の企業や個人による米国内での贈賄行為もこれに含まれる。次に、会計処理・内部統制条項は「証券発行体(Issuer)はしっかりと会計上の記録を付けて、内部統制を行いなさい。それを怠ると違反となる」ということが定められている。

贈賄禁止条項はDOJ(米国司法省)の管轄だが、会計処理・内部統制条項に関してはSEC(米国証券取引委員会)の管轄であり、各条項の対象者は異なる。前者は、Domestic Concerns(米国法により設立されまたは米国に主要な事業所がある企業等およびその役職員等、ならびに米国籍保有者、米国居住者等<海外子会社も含む>)を対象としているが、後者は米国上場企業(SEC登録企業、ADR<米国預託証券>も含む)が対象だ。日本企業でも、ニューヨーク証券取引所やNASDAQに上場したりADRを上場している場合や、米国現地法人や米国人を採用している場合などはFCPAの対象となる。

これらの条項により、企業は、賄賂に相当する可能性のある行為を行ってはならないし、ルールに則ってしっかりと会計処理をすることが求められる。だが、賄賂を“賄賂”として会計処理することは通常起こりえない。例えば、コンサルタント・フィーや、エンターテインメントといった項目で処理するケースが多い。このような場合、FCPAでは、適切に会計処理を行っていない(虚偽記載)ということで会計条項に抵触するとともに、実態として賄賂とみなされる場合には賄賂禁止条項にも抵触するのだ。

この法律で注意すべき点は、適用範囲が非常に広いことだ。ここがFCPAの恐ろしいところでもある。法律の内容は、基本的に「政治家や外国公務員に賄賂とみなされるものを払ってはいけない、便宜を図ってはいけない」というものであるが、実は、「公務員」の定義が広いのだ。

例えば、国立の大学病院で働くスタッフは皆、外国公務員扱いとなる。したがって、そこで働く医師、看護師、その他スタッフに製薬会社が薬の売り込みを目的に現金を提供した場合、違反と認定される可能性がある。もちろん、賄賂とみなされるのは現金だけではない。チケットなどのエンターテインメント関連、その他の贈り物、あるいは公務員の子息を自社で雇うなど、様々な便宜も賄賂に含まれる。例えば、公務員の家族が日本に入国するのにビザを必要とする際、ビザの獲得を支援するために企業がその家族を招聘するという趣旨のレターを書くことも、場合によっては賄賂とみなされる。

受け取った金銭や便宜の見返りに何かが行われることが賄賂と考えられるが、賄賂とその見返りの関係は、傍目には分かりにくいような形で行われるケースが多い。典型的なのは、賄賂がコンサルタント・フィーとしてコンサルティング会社を経由し、賄賂提供先である第三者に支払われるケースだ。この場合、このコンサルティング会社が第三者に支払ったお金が本当に賄賂なのかを判断することは難しい。黒とは断定できないグレーな状況であったとしても、賄賂の見返りと考えられるものが確認されれば、摘発を受けることもしばしば起こる。さらに、コンサルティング会社に騙されるというケースもある。法律を遵守し、あらぬ疑いをかけられることを防ぐためには、コンサルタントを起用する前に慎重に見極める必要がある。

III.ファシリテーション・ペイメントというグレーゾーン

ファシリテーション・ペイメントとは「通常の行政サービスの円滑化のための少額の支払い」を意味する。例えば、税関の通関手続きなどにおいて「お金を支払えば、手続きが早くなる」などと公務員に要求される少額の金銭を指し、俗に「コーヒー・マネー」などと呼ばれる。

FCPAでは、こうしたファシリテーション・ペイメントは適用の範囲外とされている。ポイントは、金額の多寡ではなく、支払い目的である。目的が手続きの円滑化を逸脱した場合は、たとえ支払額が少額でも摘発の対象となる。

これについて誤解している企業も散見されるため、注意が必要だ。企業がファシリテーション・ペイメントだと主張する内容をよくよく聞いてみると、「それは賄賂だ」と思えるものが少なくない。いくらファシリテートに「円滑」や「促進」の意味があるとしても、政府と何らかの契約を勝ち取ることを目的にしたアンダーテーブルの支払いは賄賂だ。ファシリテーション・ペイメントを拡大解釈して、乱用することは避けるべきだ。ただし、ビジネスには微妙なラインも存在する。ビジネスには接待が付き物であるが、どのラインを越えたら違法かという判断は難しい。金額なのか、頻度なのか、対象者なのか、期間なのか。ファシリテーション・ペイメントもここにからんでくる。事象の一つひとつは小さな話で、それこそファシリテーション・ペイメントと思われるものでも、概観すると「これは組織的な賄賂だろう」と思われる事例も少なくない。疑わしいものが見つかった場合、注意深く調査する必要がある。

IV.日本企業が一番注意すべき共謀罪

先にも示したように、FCPAの対象は、Domestic Concernsである。つまり、国内法の色彩が強い。その意味では、米国の現地法人はもちろん対象となるわけだが、実際にはそれだけではない。対象の広さは先に示した通りで、「引っ掛け問題」のような話もよく聞く。

例えば、①米国にあるサーバーを経由してビジネスメールをやり取りする、②米国企業の一員がメールのCCに入っている、③日本から米国の銀行を経由して第三国に送金される、というケースでも摘発の対象となることがある。①、②は贈収賄に関する情報、③はお金が米国を経由して流れていたため、FCPAの範囲内と考えられるのだ。ただし、このような「引っ掛け問題」で積極的に外国の企業を摘発しているということではない。

日本企業が最も注意しなければいけないのは、自社や米国子会社の直接的な行為だけでなく、共謀罪の対象となるコンソーシアムの動きだ。コンソーシアムの一部に米国企業が参加していたり、コンソーシアムを組んでいる一部の企業が起用したコンサルタントが米国人であったり、あるいは、コンサルティング企業が米国企業である場合、自社も共謀罪に問われるリスクがある。

V.おわりに

次回に詳しく解説するが、FCPA違反が疑われると、企業に大きな負担が発生する。そのような事態に陥らないように、FCPAを理解し、疑われるリスクを避けることが肝要だ。近年は、米国だけでなく世界全体で賄賂を厳しく取り締まる傾向が強くなっている。贈賄と疑われるような行為やお金の動きはないか、会計処理や内部統制は適切であるかを改めて見直し、迅速に改善することが必要だ。

次回につづく

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジックサービス
マネージングディレクター
米国ニューヨーク州公認会計士
プリボスト真由美 

(2019.5.28)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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