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シリーズ:丸ごとわかるフォレンジックの勘所 第14回

最近の不正・不祥事の傾向と考察(1/2)

本シリーズでは、フォレンジックの勘所を不正の予防・発見、対処、再発防止の全プロセスにわたり、複数回に分けて紹介します。第14回の本稿、および第15回は、2015年以降に公表された第三者委員会の調査報告書等をもとに、最近の不正の傾向について分析し、効果的な対処策等について考察します。

I.調査報告書から見る企業不祥事の傾向

2015年から2019年6月までに公表された不正・不祥事の傾向を見ると、一つの大きな特徴がみられる。品質・検査データ偽装や改ざん等の増加である。図表1は、2015年以降に公表された調査委員会の調査報告書等で明らかになった不正・不祥事のうち、品質・検査データ偽装や改ざん等に関する件数を示したものである。グラフからわかるように2018年に品質・検査データ偽装や改ざん等の公表件数が急増している。

図表1:品質・検査データ偽装や改ざん等の増加傾向
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品質・検査データ偽装や改ざん等は、顧客に対する不正である。工場などにおける品質管理者が会社や上位の管理者に対して行う不正という面もあるが、最終的に影響を受けるステークホルダーという観点で見ると、偽装の対象となった商品を購入する顧客が被害者である。品質・検査データ偽装や改ざん等は、不正の類型としては新しいものではなく、食品の産地、消費・賞味期限偽装などについては、過去に幾度となくメディア等で取り上げられた。ただし、最近相次いで発覚した品質・検査データ偽装や改ざん等は、性質と規模、そして経済における重要性の面で、過去の事案とは大きく異なっている。
 

1)公表された品質不正関連事案の特性

近年発覚の続いている品質偽装やデータ改ざん等の顕著な特徴は、ほとんどがB to B企業に関する事案であることである。図表2は、2015年から2019年6月までの品質偽装やデータ改ざん等の公表事案を業種別に分けてグラフ化したものだ。最も件数が多いのは自動車・輸送機だが、その半数は部品供給会社となっている。また、他の業種においては、鋼鉄・非鉄、素材・化学など主にB to Bの取引を行う業種が続いており、中にはいわゆる一流企業も含まれている。品質不正関連事案が、このような業種で多く発生する理由には、サプライチェーンの上流と下流の間における力関係が関係していると思われる。調査報告書では、多くの事案において、顧客の要望する品質等を遵守した場合に起きる時間的、能力的な制約を回避するためにデータの改ざん等に至ったという動機が記載されている。

図表2:品質・検査データ偽装や改ざん等の業種別件数
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近年の品質・検査データ偽装や改ざん等が、極めて長い期間にわたって発覚することなく続けられている点も重要な特徴である。図表3は、発覚までの期間を5つの区分に分けて整理したものである。7割近くが10年以上前から続けられていたものとなっている。また、区分ごとの件数でみると、20年以上続いていたとされる事案の件数が最も多い。B to Bという産業構造の奥底で起きていること、そして20年という従業員、組織ともに大きな変化が起きてもおかしくない長期間にわたって発覚せずに続けられてきたことを考慮すると、個々の企業の問題として捉えることはできない産業構造的な不正であるともいえる。

図表3:品質・検査データ偽装や改ざん等の発覚までの期間別件数
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2)品質不正関連事案の発覚経緯

2018年に品質・検査データ偽装や改ざん等の公表件数が増加した背景として、企業におけるコンプライアンス意識の変化が挙げられる。国内では近年、不正や不祥事を対象とした規制や制度が数年おきに導入されており、2010年には「企業不祥事における第三者委員会ガイドライン」が制定され、第三者委員会を設置する事例が多く見受けられるようになった。2016年に定められた「上場企業における不祥事対応のプリンシプル」は、不祥事の根本原因の解明や迅速かつ的確な情報開示などを企業に求めている。

図表4は、公表された品質・検査データ偽装や改ざん等を発覚の経緯で整理したものである。2017年10月以降に顕著に増加していることが目を引くが、発覚経緯別に子細に見た場合、2018年後半に自主検査を発覚の経緯とする事案が増加していることが特筆すべき点として挙げられる。

図表4:品質・検査データ偽装や改ざん等の発覚の経緯別件数の推移
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このように自主検査による発覚が増加した背景としては、2017年12月4日に経団連が行った通達が大きく影響したと思われる。経団連は、2017年末に相次いだ品質管理に関する不適切な事例について、日本企業の国際的な信用や国民からの信頼を損ねる可能性のある重大な事態として、1500の会員企業・団体に対して品質管理のデータ改ざん等がないか自主的な調査を行うよう呼び掛けている。実際にいくつかの調査報告書において、発覚の経緯を自主検査としつつも、その検査を行った契機として同業他社における不正の発覚を挙げているものがある。図表5は、デロイト トーマツが2018年6月5日(火)~7月9日(月)に行った調査結果であるが、2018年半ばにおいて経営者が対峙すべき不正として、会計不正、情報漏洩に続いて、3番目にデータ偽装が挙がっている。それ以前のアンケート結果がないため比較はできないが、これらの事実から2018年に入り、多くの経営者の品質・検査データ偽装や改ざん等に対する意識が高まったことが示唆される。

図表5:経営者が考える対峙すべき不正
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II.効果的な対処法についての考察

予防・発見、対処、再発防止の観点から品質・検査データ偽装や改ざん等を見た場合、現状の把握を第一に考える必要がある。図表3で示した通り、公開された事案はその多くが10年以上前から継続して行われていた不正であり、品質・検査データ偽装や改ざん等は、すでに発生し、継続している可能性のある不正である。自主検査の結果、複数の不正が発見されたことからわかるように、多くの場合、品質・検査データ偽装や改ざん等は、企業が危機感をもって一定の時間と労力をかけて調査をすれば発見できるものである。財務諸表不正のように、不正の実行者が許されざる行為であることを強く認識している場合は、不正を隠ぺいするための様々な処理が秘密裏に行われるため、不正を発見するには専門的な視点が必要となる(詳しくは「第567回 不正調査のポイント」)。それに対して、品質・検査データ偽装や改ざん等は、一部のデータを直接的に書き換えるといったように手口が単純なものが多い。不正の実行者が複数いることも多く、アンケートといった従業員からの情報提供による発見も、他の不正と比べて高い効果が期待できる。関係する兆候をすでに識別しているようであれば、改善のための第一歩として徹底的な自主検査を行うことは非常に有益であろう。ただし、10年以上前から見過ごされてきた結果、不正が不正として認識されていないリスクも一定程度、存在する。「会社の常識」がいつの間にか「社会の非常識」に転化しているケースだ。そのようなリスクを含めて徹底的に払拭したい場合は、外部の専門家を入れて、客観的な調査を行うことも視野に入れる必要がある。

不正が発覚した場合、品質・検査データ偽装や改ざん等についてはクライシス対応、つまりは発覚後に企業の受けるダメージのコントロールが重要となる。不正・不祥事発生時には、様々なステークホルダーへの対応を求められる(詳しくは「第89回 企業における危機につながる不正発生時のステークホルダー対応のポイントとは」)。特に品質・検査データ偽装等が発生すると、場合によっては何千、何万という「顧客」や「消費者」に対するコミュニケーションや情報開示が必要になる。特に、消費者の安全に直結する商品に関する不正であった場合、迅速かつ徹底した対応が必要となり、対応を間違うと、企業のレピュテーションを大きく損ない、企業の存続自体が脅かされることになりかねない。図表4において2018年に入り自主検査を契機とした公表が増加していることを紹介したが、2019年においては監督官庁からの指摘を契機として社内調査委員会もしくは第三者委員会が設置された件数が増えている。政府としても危機感を抱いている証左といえる。これほどの社会的監視下において小細工で乗り切ることはできないし、発覚した場合は、積極的に監督官庁とも連携して早期の終息を目指すべきである。クライシス対応は、包括的な視野を持ち、一歩先を読んで対応できるかどうかが重要となるため、「不正は起きる」という厳しい認識を持ち、平時から可能な限りの有事を想定し、迅速に対処できる準備を検討しておくべきであろう。

最後に、予防・再発防止の観点からは、ガバナンスの改善とともに組織風土の改善を考えなければならない。品質・検査データ偽装や改ざん等が名門を含むB to B企業で長期間発覚せずに続けられていた点はすでに指摘しているが、多くの事案が発覚の20年以上前、時期にして1990年代から続いていたものである。複数の事例が共通して示唆するのは、「企業の常識」が「社会の非常識」に転化していることがその根本にあり、かつ、日本企業の品質至上主義がむしろ品質偽装を惹起するという皮肉を生じせしめている事実である。常識に照らして自らを客観視し、上司や顧客に対し率直な意見や指摘をできる風土作り、それへの経営者の強く継続的なコミットメントが求められているといえよう。

III.おわりに

今回は、増加傾向にある不正・不祥事のうち品質・検査データ偽装や改ざん等について、その性質、増加要因等を中心に考察した。次回は、近年増えているもう一つの不正類型である海外関連の不正・不祥事についての考察を紹介する。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社
フォレンジックサービス
ヴァイスプレジデント 井本 元毅 
ヴァイスプレジデント 奥山 結紀

(2019.10.1)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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