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COVID-19とその影響

COVID-19からのグリーン復興の取組みと課題(1)(2020.10.13公開)

COVID-19は、貧困の撲滅等の持続可能な開発目標の達成に対する重大な脅威となっており、プラスチックや医療系廃棄物の問題も懸念されています。一方で、CO2排出量は前年比で7%削減、都市等で地域の大気汚染の改善をもたらしている場合があり、持続可能な社会への移行のための機会でもあります。

COVID-19は、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に対する脅威である一方で、地球温暖化対策等の推進の機会でもあります。「より良い回復」を目指した「グリーン復興」のために国際機関やEU等から提言がなされていますが、日本も明確な方針の下で関係者が連携して対応することが重要です。企業もNew-Normal下での、デジタル化や脱炭素化の自主的な取組みによる変革が必要となります。

本稿では、以下の4回にわたって、これらの状況を概観し、今後の課題について検討します。

第1回:COVID-19とその影響(2020.10.13公開)(本ページ)
第2回:世界の開発機関が主導するCOVID-19からのグリーン復興(2020.10.30公開)
第3回:グリーン復興のビジョンが求められる国内対策(2020.11.6公開
第4回:COVID-19を乗り越え、グリーン復興で持続可能な社会へ(2020.11.20公開)
まとめ:COVID-19からのグリーン復興の取組みと課題/ポイントと要旨(2020.11.20公開)

 

1. COVID-19(コロナ感染症)とその影響

COVID-19 のパンデミックにより、ここ数十年で最悪の人的・経済的危機が引き起こされ、全世界での死者は約104万人、報告された感染者数は3511万人1という事態となっています。

COVID-19は、世界経済への影響に加えて、人々の暮らしが脅威にさらされ、特に、既存の不平等や不正義を悪化させ、子供や高齢者、障碍者、難民等最も脆弱な人々に大きな影響を与え、持続可能な開発目標(SDGs)の達成が一層困難になっています。

感染症については、従来から人類に対する大きな脅威であるとされてきました2が、COVID-19は、開発等によって出現した動物からヒトに感染する人獣感染症(Zoonotic diseases)の一種です。今般の状況は特別なパンデミック事例ではなく、人類の活動に起因する地球環境の変化の一つの結果としてとらえるべきです。このため、プラネタリーヘルス3や、プラネタリーバウンダリーの考え方4によって、地球環境を保全し、持続可能な社会を達成していくことが感染症の予防にもつながります。2021年から2030年は、国連と世界食糧機関(FAO)により「生態系の再生の10年」とされ、人間と自然の関係の再構築を目指しています5

 

1.1 環境面への影響

COVID-19 の社会・経済活動への影響に伴い、環境面でも様々な影響が想定されていますが、特にCO2排出量の大幅減少、途上国の都市地域での大気汚染の浄化が報告されており、さらに医療用廃棄物の増加の影響も懸念されています。

(1)エネルギーとCO2排出量

国際エネルギー機関(IEA)によると6、2020年の世界のエネルギー需要は対2019年比で6%減少(電力需要は5%減少)、第2次世界大戦以来の最大の減少となります。この結果、4000万人のエネルギー産業関係雇用者のうち3百万人分の職が失われ、エネルギー関係の投資は20%減となります。これに対応して各国政府は復興のために、合計9兆ドルの予算を発表しています。

一方で再生可能エネルギーは、優先給電制度等により唯一、第1四半期に需要が増加したエネルギーであり、今後も運転コストが低廉であること等から増加する見通しです。この結果、低炭素電源7による発電量は全発電量の40%となり、石炭火力を6%上回りました。

エネルギー起源のCO2排出量は前年比8%(26億トン、2020年)減少し、約300億トン/年(30.6Gt-CO2/年)となって、10年前の排出レベルとなる見込みです(図-1参照)。これは、リーマンショックによる過去最大の対前年度比減少幅(2009年、4億トン減少)の6倍の大きさであり、第2次大戦終了以来のすべての減少を合計した量の約2倍となります。また、地域別にみると米国が最大で6億t-CO2/年減少、これよりやや少なく中国とEUが続くと想定されます。

しかし、国連パリ協定の「1.5℃努力目標」達成のためには、2020年から2030年に向けて毎年世界のCO2排出量を7.6%削減させ、2030年の排出量を約250億トン(25Gt-CO2/年)とすることが必要とされています8。即ち、近年影響が顕著になってきている気候変動対策のためには9、今回のような大規模の削減をこれから毎年繰り返すことが求められているのです。

なお、リーマンショック(2008~2009)後の2010年にはCO2排出量は6%増のリバウンドがありました。今回は経済の回復による反動10を起こさないことが必要です。このため、クリーンエネルギー技術11を経済回復の中心に置くことにより、CO2削減のみならず、雇用創出、競争力の強化、強靭(レジリエント、resilient)でクリーンなエネルギー社会に導くことが求められています12

 

図1  世界のエネルギー起源CO2排出量の経年変化
出典:IEA  Global Energy Review 2020.4.30

 

図1  世界のエネルギー起源CO2排出量の経年変化
※画像をクリックすると拡大表示します

(2)都市の大気汚染

大気汚染が深刻な大都市において、たとえば、3~4月のPM2.5の濃度はデリーで60%、武漢で44%前年同期から減少した等の大気汚染物質の濃度の著しい減少がロックダウン等による影響で見られました13。日本でもPM2.5、NOxについて大気汚染が改善されていました14。しかし都市のロックダウンが解除されれば元に戻る可能性が高いため、継続的な改善策が重要です。

(3)医療廃棄物、海洋プラスチックの増加

国連貿易開発会議(UNCTAD)によると15、CIVID-19 対応のためのプラスチック製品等の利用、廃棄が増加し、海洋プラスチック問題に悪影響が危惧されます。使い捨てマスクの場合、世界の販売額8億ドル(2019年)が200倍以上に増加すると想定され、また、COVID-19対策のために使用されたプラスチックの約75%が廃棄物となると想定されています16
 

1.2 持続可能な開発目標(SDGs)への影響

国連によると17、COVID-19は、短期間のうちに未曾有の危機を生むとともに、さらにSDGsの達成に向けた前進に混乱をもたらし、世界の最貧層と脆弱な人々に最も深刻な影響を及ぼしています(表1参照)。

表1 SDGsの達成状況

GOAL
No.

内容

最近の状況・COVID-19の影響

備考

1

貧困をなくそう

・約7100万人が極度の貧困に陥る。1988年以来初めて、世界で貧困が増加。貧困割合は、8.2%(2019)から8.8%に増加予測。飢餓人口の増加の恐れ。

 

3

全ての人に健康と福祉を

・全世界で報告された感染者数は1000万人超、死者は50万人に達する。
・2020年には、COVID-19の影響により、5歳未満の幼児の死亡数が10万人単位で、妊産婦の死亡数が数万人単位で増加する恐れがある。

10月5日現在ではそれぞれ約3,500万人、約100万人となった。

4

質の高い教育を皆に

・全世界の学生の90%(15億7500万人)が通学不可能。遠隔学習が不可能な児童生徒が少なくとも5億人。
・給食の中止(3億7000万人)

 

5

ジェンダー平等の実現

・女性及び子供は、COVID-19による医療、食事・栄養サービスへのアクセスの混乱を受けやすい。
・家庭内暴力の増加が報告されている国もある。

 

8

働きがいも、経済成長も

・4億人の雇用が喪失、一人当たりGDPが4.2%減少
・児童労働、児童婚、人身取引のリスクが増加。児童労働削減は、20年ぶりに後退する恐れ。

 

11

仕事を続けられる街づくりを

・全世界で10億人を超えるスラム居住者がおり、水道がなく、トイレも共有、また、正規の医療施設へのアクセスも限られている。
・一部の都市域で、交通量の減少等により大気環境の改善が見られたが、ロックダウンが解除されれば元に戻る可能性が高い。このため、改善策が重要となっている。

・COVID-19感染者の90%は都市に居住。
・毎年、大気汚染により、420万人が死亡。

13

気候変動に具体的な対策を

2020年CO2排出量は、6%/年減少。しかし、パリ協定の1.5℃努力目標達成のためには、7.6%/年の削減が必要。

IEAの評価では8%/年減少

出典:UN SDGs2020 Report 2020.7.7
 

1.3 経済への影響

(1)経済影響の予測

国際通貨基金(IMF)では2020年の世界の経済成長の予想は、4.9%減、2021年は5.4%となると予測しており(図2参照)18、世銀(WB)の予想も一致します19。IMFはさらに以下のような指摘をしています。

― 特に低所得世帯への打撃が深刻であり、1990年代以降大幅に進展してきた、世界的な「極度の貧困の削減」20が危うくなっている。

― 2020年後半にかけても社会的距離(Social Distance)の確保の継続、ロックダウン期間中の経済活動への予想以上の打撃及び企業の職場の安全・衛生への取り組み強化による生産性の低減を反映して、当初の経済成長の予想(3%減少)よりも落ち込みは激しい21

― 対策として、まず、医療制度への資源の確保、家計所得減少の影響緩和、企業への支援の継続が重要であり、このために強力な多国間協調が必要である。

― 特に、パンデミック下でのCO2等温室効果ガス(GHGs)排出量の記録的減少を足がかりに、政策当局者は各国が約束した気候変動緩和措置(NDC)を着実に実施するとともに、炭素課税やそれに類する公平に設計された枠組みの拡充に向けて協力すべきである。

― また、再発防止に向けて個人防護具等の世界的備蓄、公衆衛生システムの支援等の行動を今すぐに起こさなければならない。

図2 IMFによる実質GDPの年間値の予測
出典:World Economy Outlook 2020  (IMF 2020.06)より作成
 

図2 IMFによる実質GDPの年間値の予測
※画像をクリックすると拡大表示します

    

WBは緊急事態への対応措置として、2021年6月までに100か国に対し、総額1600億ドルを拠出するとしています。
なお、UNCTADによると、世界の貿易は、年間では20%の減少となると予想しています22

(2)経済成長率等の最近の状況

各国から2020年第2四半期(4月~6月)のGDPの変化が発表されています 、23 24。日本の実質国内総生産(GDP)は、前期(1~3月期)から7.8%減少しました(年換算値、年率換算で485兆円、前期に比べて41兆円減少)。欧米各国も同様な状況であり、減少率は米国で32.9%、英国約60%、ドイツも30%を超えたといわれています。今後、回復に向かうと予想されていますが、状況は厳しいものです。

業種、企業によって影響は分かれており、通販、クラウド関係のサービス関係、半導体関係が収益を伸ばし、一方で石油メジャー、自動車、航空会社及びテーマパーク等の減益が大きくなりました。

これに対して、例えばドイツの場合、総額1300億ユーロの補正予算を組み、自動車産業への支援策として電気自動車へ購入への助成金、一時的な消費税(VAT)軽減策を導入しました。自動車業界への支援は、フランスでも80億ユーロを投入して、2025年までに100万台の生産目標を設定しています25。我が国の場合は、自動車産業等への支援とグリーン化を組合わせて、デジタル化等の社会変革を推進することが必要と考えられます。
 

1. 2020年10月5日現在、出典: WHO COVID Dashboard
2. たとえば、人類が絶滅する6つのシナリオ(フレッド・グテル、2017年 河出書房新社)には、スーパーウィルス、気候変動、バイオテロリズム等が挙げられている。
3. 人類の文明やそれが依存している自然システムの健康を考慮する考え方。ロックフェラー財団とLancet(出版)の協力により2017年にThe Lancet Planetary Health が設立され、このテーマの下での研究が進められている。
4. 気候のような自然資源に対し回復不可能な変化が引き起こされる境界を考慮して、人間が安全に活動できる範囲内にとどまれば人間社会は発展し繁栄できるという考え方。環境白書H29年版
5. https://www.unenvironment.org/news-and-stories/press-release/new-un-decade-ecosystem-restoration-offers-unparalleled-opportunity
6. 出典:IEA  Global Energy Review 2020.4.30 他
7.  再生可能エネルギーと原子力を示す。
8. 出典:国連環境計画(UNEP)排出ギャップ報告書 2019 
https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/policyreport/jp/10436/UN_Emissions+Gap+Report_2019_J.pdf IGES 暫定非公式訳
なお、2℃目標の達成のためには、2.7%/年が必要とされている。
9. 気候変動の影響については、2019年は基準値(1981〜2010年の30年平均値)から0.43℃高く観測史上2番目に気温が高い年であった。また、ハリケーン、山火事、洪水等によって世界で1500億ドルの被害があった。出典:気象庁、Munich Re NatCatSERVICE
10. CO2排出量の増加を示す。
11. 再生可能エネルギー、高効率化、バッテリー、水素、CCS(二酸化炭素回収・貯留)等
12. 出典:IEA  Global Energy Review 2020.4.30
13. 出典: These Cities Now Have Less Air Pollution during Virus Lockdowns
https://www.bloomberg.com/graphics/2020-pollution-during-covid-19-lockdown/
14. 出典: 環境省 新型コロナウィルス感染症緊急事態宣言等の影響による大気汚染状況の変化 2020年6月 中央環境審議会大気・騒音振動部会微小粒子状物質等専門委員会(第12回)資料
15. 出典:UNCTAD SDGsPulse 2020 2020.7.9
16. プラスチック対策については、国際貿易の観点からは各国の協調が重要であり、今後WTOでの議論が期待される。一方で、UNCTADでは、プラスチック製品の非化石燃料系の代替品の推奨をしており、たとえば、ジュート(麻)の場合、バングラデシュとインドで世界の80%以上が生産されており、代替により途上国でも雇用の創出にも役立つとしている。
17. 出典:UN SDGs2020 Report 2020.7.7
18. 出典:IMF World Economy Outlook 2020 2020.6
19. WBも世界のGDPは5.2% 減(2020年)、先進国は7%、途上国は2.5%の減少(直近60年で最大の減少率)と予想している。出典:WB June 2020 Global Economic Prospects  2020.6.8
20. 例えばSDGs GOAL1 あらゆる貧困を終わらせる(2015)参照
21. WBも、2020年後半は国内移動制限の撤廃により経済は回復し、2021年には4.2%のGDP成長が想定されるものの、コロナ感染症が残った場合には不景気が深刻化し、2020年のGDP減少は8%に拡大するとしている。
22. 出典:UNCTAD SDGs Pulse 2020 2020.7.9
23. 出典:内閣府 2020年4~6月期四半期別GDP速報 2020.8.17
24. 日本経済新聞 2020年8月17日、8月18日、8月23日
25. 日本経済新聞 2020年6月9日

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