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グリーン復興のビジョンが求められる国内対策

COVID-19からのグリーン復興の取組みと課題(3)(2020.11.6公開)

日本も気候変動対策として2050年カーボンニュートラルを目指すことを表明しましたが、グリーン復興に向けて明確な方針の下で、地球温暖化対策計画の見直し等を行い、産業界やNGOと連携して対応していくことが重要です。

COVID-19は、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に対する脅威である一方で、地球温暖化対策等の推進の機会でもあります。「より良い回復」を目指した「グリーン復興」のために国際機関やEU等から提言がなされていますが、日本も明確な方針の下で官民の関係者が連携して対応することが重要です。企業もNew-Normal下での、デジタル化や脱炭素化の自主的な取組みによる変革が必要となります。

本稿では、以下の4回にわたって、これらの状況を概観し、今後の課題について検討します。

第1回:COVID-19とその影響 (2020.10.13公開)
第2回:世界の開発機関が主導するCOVID-19からのグリーン復興(2020.10.30公開)
第3回:グリーン復興のビジョンが求められる国内対策(2020.11.6公開)(本ページ)
第4回:COVID-19を乗り越え、グリーン復興で持続可能な社会へ(2020.11.20公開)
まとめ:COVID-19からのグリーン復興の取組みと課題/ポイントと要旨(2020.11.20公開)
 

3. グリーン復興のビジョンが求められる国内対策

グリーン復興に関連したCOVID-19 対策として政府レベルでは、緊急的な対策とその実施のための補正予算等の措置や「経済財政運営と改革の基本方針2020」等による今後の対策の方針の明確化等が行われました。菅内閣の発足により、「新型コロナ対策」を最重要課題として、R3年度予算の検討が行われています。また、菅総理は先日の所信表明演説で、「経済と環境の好循環」を成長戦略の柱として示し、2050年にカーボンニュートラルとする脱炭素社会の実現を目指すことを宣言しました。

特に、環境面では小泉環境大臣が提唱して、9月に国際的な「新型コロナウィルスからの復興と気候変動・環境対策に関するオンライン・プラットフォーム」を立ち上げ、閣僚級の会合を開催して、経済・社会の再設計の必要性を指摘しました。中央環境審議会においても、COVID-19に対応して、分散型の国土利用・地域づくりを目指して、持続可能で強靭な地域循環共生圏の推進が審議されました。

産業界、NGO等でもグリーン復興に向けて様々な提言や取り組みが行われています。

今後、政府としてNGOの指摘への対応や産業界との連携を行い、GHGs排出量ゼロからさらに「ビヨンド・ゼロ」を目指す地球温暖化対策も踏まえたグリーン復興としてCOVID-19対策を統合的に展開していくことが期待されます。企業においても、「新しい普通(New-Normal)」の下で3R(責任、強靭性、再生)に基づく戦略に従って効率性とレジリエンスのバランスの改善等を目指して、グリーン化やデジタル化を進め、また自主的な取組みを活用して、自らの持続可能性のために変革していくことが必要となっています。
 

3.1 グリーン復興に向けた政府の取組み

COVID-19への対応のため、R元年度補正予算の策定、緊急経済対策による補正予算編成等が行われてきましたが1、菅内閣が発足し、今後の復興に向けてR3年度の予算が現在検討されています2。経済財政運営と改革の基本方針20203は、ポストコロナ時代の新しい未来として、誰もが豊かさや生きがいを感じることのできる社会と、気候変動等の課題に対応した、国際社会から信用、尊敬を集める国家との目標を示しています。

中でも、持続可能で環境と調和した循環経済の実現のために、以下が挙げられています。

(1) 国内外で持続可能な開発目標(SDGs)を推進し、2030年の目標達成に向けた「行動10年」とする

(2) パリ協定に基づく長期戦略を踏まえ地球温暖化対策計画の改定により、環境と成長の好循環を実現するための取組を推進、特に、CO2排出量をゼロにし、さらにCO2のストックを減少へと転じさせる「ビヨンド・ゼロ」を目指す

(3) 脱炭素化の国際的な責任のため、徹底した省エネルギーの推進、再生可能エネルギーの主力電源化を目指した最大限の導入

(4) 気候変動への適応を踏まえた復旧・復興(「適応復興」)の推進

さらに、7月にはSociety 5.0の具現化を通じた、COVID-19による難局への対応と持続的かつ強靭な社会・経済構造の構築のために、統合イノベーション戦略2020策定されました4。そして、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進や脱炭素社会への移行のための重点的に取り組むべきAIや環境エネルギーといった主要分野でのイノベーションの創出を目指しています。

環境省では小泉環境大臣の下で、石炭火力からのCO2削減対策の検討や自治体のゼロカーボンシティ宣言を推奨し、また、COVID-19からの持続可能で強靭な復興のための「2020を再設計(Redesign)するオンライン・プラットフォーム」を立ち上げました。9月の会合には65か国・地域やNGO等が参加し、国際的な情報交換や連携の強化を図っています。その閣僚会合は、特にCOVID-19からの復興の要となる脱炭素社会、循環経済、分散型社会への移行を目指して経済・社会の再設計の必要性を指摘しました5

中央環境審議会においても、COVID-19では大都市の感染率が高く一極集中のリスクが顕在化し、また、過度なグローバル化による医療機器の不足などが顕在化したこと、農業などの地産地消の重要性が再認識されたこと等から、「分散」が重要であると指摘されました。そして、分散型の国土利用・地域づくりを目指し、従来から持続可能で強靭な社会を形成するために推進されてきた、地域循環共生圏をさらにコンパクト化とネットワーク化の観点から進化させていくことが指摘されました6

今後は、EUのグリーンディールの例に見られるように、持続可能な社会の形成に向けてビジョン、目標を明確にし、COVID-19 対策とSDGsの達成、パリ協定に基づく地球温暖化対策の推進に、地域循環共生圏の推進等を通じて総合的に取組むことが重要になっています。

3.2 経済団体による経済・社会の変革の提言

経団連、経済同友会、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)はグリーン復興と関連したCOVID-19 対応策をまとめています。各企業においても、たとえば気候変動との関係では、TCFD7による情報開示、SBT8やRE1009による再生可能エネルギーの導入等の国際的な取り組みへの参加等、持続可能性を意識した対応が求められています。

経団連10は、「新型コロナウイルスを克服し、新たな成長を実現する2020年度事業方針」を6月に公表し11、DXを通じたSociety 5.0の実現に向けて経済社会の大変革を成し遂げ、SDGsの達成と強靭な経済社会の構築への道を開くことを提言しました。

具体的には、脱炭素社会に向け、レジリエントなエネルギーシステムの構築や「チャレンジ・ゼロ」12等の推進、また、地域資源を活用した生産等の活性化等の取組が挙げられています。

経済同友会は6月に13、COVID-19の世界的流行の長期化を覚悟した民間主体の経済の立直しと「ニューノーマル」の確立に向けて新技術の活用等を通じた生活の質の向上等を指摘しました。このため、デジタル化の推進、EBPM(Evidence Based Policy Making 証拠に基づく政策立案)の考え方に基づく対策の推進等の提言を行い、将来ビジョンの提示と実現を求めています。

また、JCLPは14、コロナ危機の教訓を踏まえた気候変動への対応が必要として、「V字回復フェーズ」を脱炭素社会への転換の契機とするために次の3点の政策の導入を求めました。

(1) リモート化等脱炭素に整合する新たな生活様式・行動の定着支援

(2) 再エネ大量導入・コスト低減に資する送配電網の整備と再エネ投資を喚起する施策の推進:2030年の電源構成における再エネ比率50%を目指す

(3) 時宜を得たカーボンプライシングの導入
 

3.3 NGO、研究機関等による気候変動と整合した復興の提言

気候変動イニシアティブ(JCI)は、企業や自治体等が参加した団体であり、気候変動対策と整合したCOVID-19 からの復興策を提言しています。また、地球環境戦略研究機関(IGES)は、復興プロセスは持続可能な社会に向けた変革的(トランスフォーマティブ)な変化のための重要な契機としてとらえ、短期、中期及び長期的なタイムフレームで課題に対応していくべきとしています。

具体的にはJCIは提言で15、コロナ危機からの回復は化⽯燃料への依存を固定化するものではなく、脱炭素社会への転換に貢献するものとすることを政府に求めました16

一方、IGESは17、第11回ペータースベルグ気候対話(2020.4.27-28 ドイツ)でのグリーン復興の議論を踏まえ、復興プロセスを持続可能な社会に向けた変革的な変化のための重要な契機とし、短期から長期的なタイムフレームで環境面からの課題を示しています(図4参照)。
 

図4 COVID-19への対応と復興に向けた環境・持続可能性に関する課題
出典:IGES 新型コロナウイルス感染症が環境と持続可能性に及ぼす影響について

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注:これらの課題への対応について、政府・企業等へ政策・対策の提案をIGESが行い、実施を促していくこととなる。
 

特に短期的対策として、大気汚染対策と持続可能な解決策の導入、中期的には欧州グリーンディールを踏まえ、技術、社会システム、ライフスタイルの転換によるゼロカーボンで持続可能な経済への移行を目指す「日本版のグリーンディール」の策定が重要としています18

以上のように、日本として今後は明確な方針の下で地球温暖化対策計画やエネルギー基本計画の見直し等を行い、2050年カーボンニュートラル、さらにCO2排出量を減少させる「ビヨンド・ゼロ」の脱炭素社会の実現を目指して、産業界、NGO等とも連携して、地球温暖化対策とグリーン復興に取組むことが重要です。

また、COVID-19の終息後にも経済的な停滞は長く続くという予想があり、企業に対する影響も業種や規模によって多様であると考えられます。このため企業は、COVID-19による経済影響やニューノーマルを機会としてとらえ、3R(責任、強靭性、再生)に基づく復興戦略に沿ってガバナンスの向上、効率性とレジリエンスのバランスの改善、経済・自然資源等の再生を目指して、グリーン化やデジタル化を進め、また、SBT・RE100等の自主的な取り組みを活用して、持続可能な脱炭素社会の実現に向けて自ら変革していくことが必要となっています。
 

1. 環境省では、R2年度補正予算で、サプライチェーン改革・生産拠点の国内回帰も踏まえて、脱炭素社会への転換支援事業(50億円)、大規模感染リスクを低減するための高機能換気設備等の導入事業(30億円)等が実施されている。また、配送拠点等エネルギーステーション化による地域貢献型脱炭素物流等構築事業等がR2年度予算で実施されている。
2. たとえば、環境省の予算案では、持続可能で強靱な 経済社会 へ のリデザイン(再設計)を基本的な方向として、感染症・災害に対応する強靭で持続可能な廃棄物処理体制の構築支援、コロナ禍を乗り越える新たなライフスタイル・ビジネス等が計上されている。
出典:https://www.env.go.jp/guide/budget/r03/r03juten/01_juten.pdf
3. https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2020/2020_basicpolicies_ja.pdf 危機の克服、そして新しい未来へ、2020年7月17日 閣議決定)
4.出典:内閣府 https://www8.cao.go.jp/cstp/togo2020gaiyo.pdf
5. 出典:IISD Ministerial Launches "Platform for Redesign" to Overcome Climate Change, COVID-19 2020.09.08
http://sdg.iisd.org/news/ministerial-launches-platform-for-redesign-to-overcome-climate-change-covid-19/
6. 出典:相澤寛史 環境情報科学49-3 pp 68-70
7. TCFDは、G20の要請で金融安定理事会(FSB)により気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するため、マイケル・ブルームバーグ氏を委員長として設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」。 企業の気候変動リスクへの対応等の情報を開示し、投資家に伝えることによって、企業の持続可能な発展に寄与することを目指している。世界で1,369の金融機関、企業、政府などが賛同表明しており、うち日本では295機関である(出典:R2環境白書)。
8. SBT(Science Based Targets)は、国連グローバルコンパクト、WRI、CDP等のNGOによる共同のイニシアチブ。世界の平均気温の上昇を2℃を十分に下回る水準に抑えるために、企業に対して科学的な知見と整合した削減目標を設定することを推奨し、認定している。SBTの認定企業数は世界で433社、うち日本企業は74社で国別でみると日本企業の参加数が多くなっている。
出典:https://www.env.go.jp/earth/datsutansokeiei.html
9. RE100(Renewable Energy 100%)は、事業運営を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる企業が加盟するイニシアチブ。RE100は世界で253社が参加、うち日本企業は37社で、国別でみると日本企業の参加数が多くなっている。
出典:https://www.env.go.jp/earth/datsutansokeiei.html
10. 経団連は4月に経済・金融情勢の分析や政策対応を議論するため「新型コロナウイルス会議」(議長:中西宏明会長)を新設している。
11. 出典:https://www.keidanren.or.jp/policy/2020/051.html
12. 経団連によるイニシアチブで、チャレンジネット・ゼロカーボンイノベーションの略。企業・団体が自主的に脱炭素社会に向けたイノベーションに挑戦する宣言に賛同し、ネット・ゼロエミッション技術のイノベーションとその実装等に取り組む。
13. 出典:経済同友会 新型コロナウイルス問題に対する中長期的な対応方針についての意見 2020.6
https://www.doyukai.or.jp/chairmansmsg/comment/2020/200616_1620.html
14. 出典:JCLPコロナ危機からの「V字回復フェーズ」における経済対策に関する声明 https://japan-clp.jp/wp-content/uploads/2020/06/20200625_jclp_statement.pdf
15. 出典:JCIコロナ危機を克服し、気候危機に挑む『緑の回復』へ 2020.5.13  https://japanclimate.org/wp/wp-content/uploads/2020/05/jci_statement_green_recovery_05132020.pdf
16. JCIは6月10日に小泉環境大臣、佐藤副大臣と意見交換を行った。
17. 出典:IGES 新型コロナウイルス感染症が環境と持続可能性に及ぼす影響について2020.5 https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/policysubmission/jp/10839/%231+COVID-19+Position+Paper+Final+%28JP%29.pdf
18. 出典:
https://www.iges.or.jp/jp/publication_documents/pub/presentation/jp/10845/Matsushita.pdf

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