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COVID-19を乗り越え、グリーン復興で持続可能な社会へ

COVID-19からのグリーン復興の取組みと課題(4)(2020.11.20公開)

持続可能な社会に向けて企業に期待される役割も大きくなりつつあることも考慮し、経済影響やニューノーマルを千載一遇の機会として捉えることが重要です。自らの持続可能性の向上のために3Rに基づく復興戦略に沿い、グリーン化やデジタル化、SBT・RE100 等の自主的な取り組みを活用すること、さらに長期的な視点をもって持続可能な脱炭素社会の実現に向けて自ら変革していくことが必要です。

COVID-19は、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に対する脅威である一方で、地球温暖化対策等の推進の機会でもあります。「より良い回復」を目指した「グリーン復興」のために国際機関やEU等から提言がなされていますが、日本も明確な方針の下で官民の関係者が連携して対応することが重要です。企業もNew-Normal下での、デジタル化や脱炭素化の自主的な取組みによる変革が必要となります。

本稿では、以下の4回にわたって、これらの状況を概観し、今後の課題について検討します。

第1回:COVID-19とその影響 (2020.10.13公開)
第2回:世界の開発機関が主導するCOVID-19からのグリーン復興(2020.10.30公開)
第3回:グリーン復興のビジョンが求められる国内対策(2020.11.6公開)
第4回:COVID-19を乗り越え、グリーン復興で持続可能な社会へ(2020.11.20公開)(本ページ)
まとめ:COVID-19からのグリーン復興の取組みと課題/ポイントと要旨(2020.11.20公開)
 

4.1 依然として深刻なCOVID-19の影響

COVID-19の感染者数は約5,400万人、死者は130万人に及び1、欧州では第3波の発生によるロックダウンが実施されているなど人々の健康への危機が続いています。経済的にも各国の対前期比GDPは4~6月期には、例えばEUで12%増となるなど持ち直したものの、国際通貨基金(IMF)の2020年通年の世界の経済成長の最近の予想は、4.4%減、2021年はプラス5.2%2と 、依然として深刻です。また、世界の貿易量も、2020年の物品の貿易量は前年比で9.2%減少し、2021年には増加するものの7.2%にとどまり、COVID-19 以前の水準にはもどらないと予想されています3。 

この結果、「全ての人に健康と福祉を」という持続可能な開発目標(SDGs)のゴール3への影響はもとより、貧困の撲滅、飢餓の解消(ゴール1と2)等の達成に対する重大な脅威となっていて、世界の最貧層と脆弱な人々に最も深刻な影響を及ぼしています。最近の調査では4新たに約8,800~1,1500万人が極度の貧困に陥る結果、従来の貧困人口と合わせて世界全体で7億~7億3,000万人となり、1988年以来初めて、世界で貧困が増加するとしています。貧困割合は、8.2%(2019)から9.1~9.4%に増加し、飢餓人口の増加の恐れがあるほか、中所得国での増加が特徴であり、国内格差も拡大すると想定されます。

環境への影響は、プラスチックや医療系廃棄物の増大も懸念されており、UNEPは緊急時対策計画の策定と医療廃棄物の焼却等、地域の実情に合った対策を呼び掛けています5

一方で、エネルギーの使用量の減少により、CO2排出量は前年比7%削減すると予測されており6、また、特に途上国の都市部の大気汚染の改善をもたらしている等、地球環境の保全には結果として寄与している面がありますが、復興に際し元に戻らないような対策が必要です。

 

4.2 グリーン復興に向けて取組む世界の動き

国連がCOVID-19に対する包括的対応として世界保健機関(WHO)等を中心に取り組んでいるほか、国際エネルギー機関(IEA)や国際通貨基金(IMF)による温暖化対策と結びつけた対策の提示等様々な提言が行われています。EUや各国政府等も経済・社会のグリーン復興に向けて対策を実施しています。

国連では包括的対応として、①まず人々の健康の保護と回復を支援すること、②社会経済的な観点、人道的な観点から特に途上国での生活を守ること、そして③COVID-19後のより良い世界のために気候変動対策や不平等の解消対策を実施して持続可能な社会を作ることを基本としています7。COVID-19を持続可能な社会への移行(transition)のための機会ととらえ、より良い回復(Build Back Better)を目指して、気候変動に関するパリ協定の目標達成にも役立つグリーン復興を行うことが重要となっています。

IMFは現在約80か国に対し保健医療や企業や世帯に対する金融支援等のために640億SDR(Special Drawing Rights, 特別引き出し権 約9.75兆円)の支援を行っていますが、今後COVID-19パンデミックからの復興対策として、より包摂的で強靭な経済の形成、成長・雇用を増やすグリーン政策による地球温暖化対策のため、以下が重要であるとしています8

‐ 医療制度と教育への投資、社会的セーフティネットの強化

‐ カーボンプライシング等を活用した低炭素のデジタルエコノミーへの移行

特に、気候変動対策については、経済モデルを用いた予測を行い、気候変動緩和のための包括的な政策戦略が、復興期の当初15年間に世界のGDPを平均で約0.7%増加させ、そのおよそ半分の期間での雇用増加は全世界で新たに約1,200万人分となる可能性があること、気候変動対策の効果は、気候変動によるGDP損失をほぼ半減させ、2050年以降は、現状の政策が続いた場合をはるかに上回る長期的な実質GDP成長をもたらすことを指摘しています9

一方、IEAは、6月に今後3年間(2021~2023)を対象に持続可能な復興計画(Sustainable Recovery Plan ) を検討し、1兆ドル/年の追加的投資によって世界の経済成長を1.1%ポイント上昇させ、パリ協定の目標に沿った排出削減が可能であることを示しました。さらに、9月には、新たにモデルを用いた将来予測を行い、COVID19による影響を2021年には制御できるようになるという仮定の下で、4つのシナリオを用いて分析を行い、以下のような結果を示しました(図5 参照)10

(1) 世界のエネルギー需要は、シナリオによるが2023年、または2025年まで、COVID-19の影響前のレベルに戻りません。

(2)貧困層が増加し、1億人以上の人々が電力サービス費用を賄えなくなります。

(3)太陽光発電を中心として再生可能エネルギー発電が急速に拡大、普及します。

(4)現在のエネルギーインフラや建設中の火力が稼働し続けると、2050年には100億トンのCO2を排出しており、1.65℃の気温上昇をもたらします。

(5)2050年ネット・ゼロ排出の実現のためには、今後10年で大規模な追加対策が必要であり、発電の低炭素化、電化、高効率化、市民の生活の変化等が技術のイノベーションと同様に重要です。

これらを基に、2050年ネット・ゼロ排出の実現のためには、政府、エネルギー会社、投資家、市民等が参加して過去に例のないほどの貢献をしなければならず、特に企業では投資のコミットメントと測定可能な影響の評価を含む、明確な長期戦略が必要になると指摘しました。また、金融セクターでは、クリーンテクノロジーの劇的な増加を促進し、化石燃料企業とエネルギー多使用型の産業が脱炭素に向けて移行することを支援し、資金を必要とする各国やコミュニティに低コストの資金を提供することが必要だとしています。
 

図5 シナリオ別の2070年までの二酸化炭素排出量と追加削減の可能性
出典:IEA World Energy Outlook 2020, 2020.9

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また、WEFも長期的な視点から、グレート・リセットが必要であり、企業は責任(responsibility)をもって、レジリエンス(resilience)と再生(regeneration)を促進するシステミックな取組み(3R)を実施するべきと指摘しています11。特にCOVID-19以前の世界にはもう戻れないという観点で、これを契機としてより良い、強靭性のある世界に変えていくべきとしています12

OECDは、具体的にCOVID-19対応のための今後の経済刺激策を設計にあたっては、公共政策と気候変動対策とを結びつけた化石燃料補助金の撤去とカーボンプライシングの導入等を含むべきである、メンバー各国の復興予算は、環境改善に役立つ政策分が不十分であり評価、改善が必要であるとしています13。また、10月に閣僚理事会が、「新型コロナウィルスからの強力、強靭、包括的かつ持続可能な回復」をテーマにリモートで開催されました。その閣僚声明では、各国の回復計画によりクリーンで持続可能かつ循環型でカーボンニュートラルな経済を促進しながら成長及び雇用を押し上げること、回復のために信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)等によるデジタル化の促進、科学技術分野における国際協力を強化すること等を指摘しています14

一方、各国は、EUでは、COVID-19からの復興基金を設立し、さらに、COVID-19対策と統合して持続可能な低炭素社会への移行を目指して「グリーンディール」政策を実施しています。中国も、COVID-19の経済影響からいち早く回復しつつあり、2060年カーボンニュートラルを目指すこととしています。先日、中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議(5中全会)では、2021~25年の「第14次5カ年計画」と2035年までの長期目標の基本方針が採択され、2035年に「1人当たり国内総生産(GDP)を中等先進国並みにする」との目標が示されましたが、今後、COVID-19からのグリーン復興がどのように実施されていくのかが問題です15

なお、米国はパリ協定を11月4日付で離脱し、締約国の失望が表明されました16。しかし、大統領選挙の結果、バイデン候補が大統領に当選確実となりました。同候補は、パリ協定への復帰に加え、2035年の電力脱炭素の達成、2050年以前の温室効果ガス排出量ネット・ゼロや、クリーンエネルギー等のインフラ投資に、4年間で2兆ドル投資する計画を発表しており17、今後持続可能な社会に向けてグリーンニューディールの導入等大きな政策変更が想定されます。

 

4.3 復興と温室効果ガス排出ネット・ゼロを目指した国家的な戦略策定に向けて

日本も2020年の実質GDP成長率は-5.3%(年換算)、2021年度は2.3%とIMFは予測しており18、2020年5月には発電電力量が前年同月比-9.2%、鉱工業生産指数(製造業)24.5%減となった等深刻な影響が出ています。

これに対し、政府によってOCVID-19対策を最重要課題として、R2年度の補正予算やR3年度の予算編成等が行われていますが、菅総理は「経済と環境の好循環」を成長戦略の柱として示し、2050年にカーボンニュートラルとする脱炭素社会の実現を目指すことを宣言しました。環境面では新型コロナウィルスからの復興と気候変動、環境対策に関するオンライン・プラットフォームを立ちあげて、国際連携の下で経済・社会の再設計(Redesign)を進めようとしています。

国内対策としては、中央環境審議会・産業構造審議会の合同会合において地球温暖化対策計画の見直しを含めた我が国の気候変動対策について審議が進められており19、エネルギー基本計画の見直しも、総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会20において、来年夏を目途に実施されています。これらにより新たな計画の下で、グリーン復興が進められることが期待されます。この際には、統合イノベーション戦略2020で示された、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進やAIや環境エネルギーといった主要分野でのイノベーションの創出や、また、中央環境審義会が指摘しているように、地域循環共生圏をコンパクト化とネットワーク化の観点から進化させていくことが重要です。さらに、産業界、NGO等とも連携して、国家的な戦略を策定し、その下で全ての関係者が足並みをそろえてグリーン復興として取組むことが重要です。

なお、IGESは2050年の温室効果ガス排出ネット・ゼロ社会の実現に向けての問題提起のため、2050年まで一人当たりGDPが毎年0.6%成長するという安定経済条件の下で、広範な社会変化を伴いながらネット・ゼロ社会を実現していくトランジションシナリオと社会変革がほとんど起きないロックインシナリオを想定して、将来予測を行いました21。その結果、トランジッションシナリオでは、デジタル化や地域循環共生圏の形成等を通じた循環社会の推進等の社会変化の下で、最終エネルギー消費量が2015年比40%削減となり(図6 参照)、①電化、効率化、非化石エネルギーの利用、さらに②二酸化炭素回収・貯留(CCS)や直接空気回収・貯留(Direct Air Capture and Storage)のような技術を限定的に活用すること、また、③途上国支援、国境調整措置や国際貿易レジームが国際的な協調により実施されるによって、CCSによるCO2貯留に関するリスクの低減や化石燃料依存脱却によるエネルギー・セキュリティー向上にも大きく貢献することを示しました。一方、ロックインシナリオでは、導入する技術の確実性、安定性は高いものの、CCSに大きく依存する等これらのリスクを常に抱えることになると指摘しています。


図6 シナリオ別の2050年最終エネルギー消費量の予測
出典:IGES ネット・ゼロという世界 -2050年 日本(試案) 2020.6

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注:CCS:炭素回収・貯留、 DACS:直接空気回収・貯留

 

4.4 環境と経済の好循環に向けて期待される企業の役割

現在の経済的な打撃は深刻であり、さらに停滞はCOVID-19が終息後に来るもので、長く続くという予想もあります22。企業に対する影響も業種や規模によって多様であると考えられます。

一方で、昨年、米国のビジネス・ラウンドテーブルが従来の「株主第一主義」を見なおし、従業員や地域社会などの利益を尊重した事業運営に取り組むという宣言を出し23、また、前述のとおりWEFはCOVID-19への対応として経済的、社会的基盤をより良いものに取り戻すグレート・リセットを提案する等、持続可能な社会に向けて企業に期待される役割が大きくなっています。政府の「環境と成長の好循環」を実現するための横断的施策のなかでも、TCDFの考え方に基づく脱炭素戦略24等の企業による情報開示やESG金融拡大に向けた取り組みの促進等の「グリーン・ファイナンスの推進」や「ビジネス主導の国際展開、国際協力」が柱として掲げられています25

このような背景の下で、企業は、COVID-19による経済影響やニューノーマルを千載一遇の機会としてとらえてグリーン復興に向けて積極的に対応することが重要です。具体的には、WEFの提案した3R(responsibility, resilience, regeneration)に基づく復興戦略を検討すること、それに沿って業務実施体制や、施設・設備の導入・管理面での見直し等も含めて、グリーン化やデジタル化を進めること、またSBT・RE100 等の自主的な取り組みを活用すること等が挙げられます。さらに2030年、2050年といった長期的な視点をもって持続可能な脱炭素社会の実現に向けて自ら変革していくことが必要となっています。

ユヴァル・ハラリは、COVID-19のような緊急事態への措置は、歴史のプロセスを早送りし、そして危機が去った後も導入された措置が社会、生活の一部となると述べていますが、企業もそのような観点をもってCOVID-19 に対応することが重要です26

 

1. WHO COVID-19 Dashboard (2020.11.17), https://covid19.who.int/
2. 出典:IMF WEO 2020, 2020.10.13
3. 出典:WTO Trade shows signs of rebound from COVID-19,recovery still uncertain WTO Press Release 2020.10.6
4. 出典:WB Covid-19 to add as many as 150 Million Extreme Poor by 2021  Poverty and Shared Prosperity Report  Press Release 2020.7.20
5. 出典:UNEP/IETC  コロナ禍における廃棄物管理の現状と今後の展望に関する報告書 2020.9
6. 出典:国際エネルギー機関(IEA)  World Energy Outlook 2020, 2020.10
7. 出典 UN United Nations System Comprehensive Response to Covid-19 Saving Lives, Protecting Societies, Recovering Better. 2020.9.16
8. 出典:脚注2に同じ。
9. 出典:IMF 地球の気候を守る適切な政策ミックスを見出す 2020.10.7 (WEO 2020より) 
注:モデルでは気候変動政策として、各国が2050年CO2排出量80%削減を目標として、GDPの最大1%に当たる額の再生可能エネルギー等への補助、6~20$/t-CO2から毎年7%上昇するカーボンプライシングの導入、炭素税を財源とした家計への補助等を仮定している。気候変動対策の長期的効果については、例えば、2100年にはGDPが最大13%上回ると予測している。
10. 出典:IEA World Energy Outlook  2020, 2020.9
注:4つのシナリオは以下のとおり。 ①各国政府が公表済の対策をとった場合を示す公表済政策シナリオ(STEPS)、②2023年まで経済は元に戻らないという回復遅延シナリオ(DRS)、③IEAが6月に公表した持続可能な回復計画(Sustainable  Recovery Plan)に基づくSTEPSのクリーエネルギー政策と投資を強化した持続可能シナリオ(SDS)、④2050年までのネット・ゼロ排出を目指したシナリオ(NZE2050、Net- zero in 2050)
11. 出典:https://jp.weforum.org/agenda/2020/06/gure-to-risetto-no/
12. 出典:クラウス・シュワブ他 グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界、2020.10 日経ナショナルジオグラフィック
13. 出典:OECD  Making-the-green-recovery-work-for-jobs-income-and-growth 2020.9.14
14. 出典:外務省 https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/oecd/page6_000464.html
15. 日本経済新聞 2020.10.29
16. 出典:https://unfccc.int/news/joint-statement-on-the-us-withdrawal-from-the-paris-agreement
17. 出典: The Biden Plan to Build a Modern, Sustainable Infrastructure and an Equitable Clean Energy Future https://joebiden.com/clean-energy/
18. 出典: 脚注2に同じ
19. 中長期の気候変動対策検討小委員会(産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会地球温暖化対策検討WG合同会合)(第1回) https://www.env.go.jp/council/06earth/y0620-01b.html
20. たとえば、第31回会合 参照https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/031/
21. 出典: IGES  ネット・ゼロという世界 -2050年 日本(試案) 2020.6 https://www.iges.or.jp/jp/pub/net-zero-2050/ja
22. IEAによるモデル予測結果(脚注10)等参照
23. 出典:Business Roundtable  Statement on the Purpose of a Corporation  2020.8.19 https://s3.amazonaws.com/brt.org/BRT-StatementonthePurposeofaCorporationOctober2020.pdf
24. TCFDは、全ての企業に対し、①2℃目標等の気候シナリオを用いて、②自社の気候関連リスク・機会を評価し、③経営戦略・リスク管理へ反映、④その財務上の影響を把握、開示することを求めています。出典: https://www.env.go.jp/press/0727koubogaiyou.pdf
25. 出典:環境白書令和2年版
26. 出典:ユヴァル・ハラリ パンデミック 2020.10 河出書房新社

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