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サウジアラビアの投資環境とリスク

日本企業のサウジアラビアへの関心が高まる昨今、現状から見える投資環境とそのリスクを解説

はじめに

昨今、日本企業のサウジアラビアに対する関心が高まっている。その要因はいくつかあるが、直接の引き金になったのは、2017年3月のサウジアラビアのサルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズ(Salman bin Abdulaziz, Al Saud:以下「現国王」)国王の訪日と日本企業の進出を促す経済特区新設を柱とする「日・サウジ・ビジョン2030」の発表であると言える。

「日・サウジ・ビジョン2030」の骨子*は以下の通りである。

  1. 新しい日サ協力の羅針盤として、脱石油依存と雇用創出のためサウジアラビアが追求する「ビジョン2030」とGDP600兆円の達成に向けて日本が追求する「日本の成長戦略」のシナジーを目指します。
  2. シナジーを最大化させるため、「多様性」、「革新性」、「ソフトバリュー」の3本の柱からなる日本ならではの総合的な協力とします。
  3. 日サの41省庁・機関が参加し、具体的連携の重点分野として9分野にまたがる広範な協力分野を設定します。
  4. 規制の見直し、インセンティブ等のビジネス促進措置(Enabler)の強化でも連携します。
  5. 31件の先行プロジェクトを選定し、実施します。
  6. 横断的課題に取り組むサブグループを新設し、サウジアラビアの経済改革のモデルを示す特区の設立に向けた検討を進めます。また、東京とリヤドに、ビジョンの実施を継続的にフォローする拠点として、「日・サウジ・ビジョンオフィス」を新設します。

*引用 経済産業省のニュースリリース

 

サウジアラビアの現状

サウジアラビアは面積2,149,690平方Kmで、中東最大の面積を有し、世界でも12番目の面積を誇っている。

人口はサウジアラビア統計局の2018年の発表で、2017年現在、約3,255万人であるが、このうち、非サウジアラビア人(外国人)が約1,214万人に達しており、全体の37.31%を占めていることは特筆される。なお、非サウジアラビア人(外国人)の多数が男性であるため、サウジアラビア全体では、男性が57.48%を占めるという歪な男女比となっていることも特徴である。

ちなみに、国連の人口局の2017年の発表では、2017年現在の人口は約3,294万人であるが、年齢の中央値が29.8歳と、比較的若年層が多いことから、2015年から20年にかけての人口増加率は1.904%に達している。(世界平均1.087%)そのため、今後も人口増加傾向が続き、2064年にピーク(約4,627万人)を迎えるとされている。

なお、外務省によれば、2017年10月現在、在留邦人は1,362人で、日本からの進出企業数は115社となっている。

サウジアラビアは言わず知れた石油大国である。2018年のBP統計によれば、2017年末の原油確認埋蔵量は2,662億バーレルと、全世界の確認埋蔵量の15.7%を占めている。(ちなみに、世界最大はベネズエラであり、世界の17.9%を占めている)また、2017年の原油生産量は米国に次ぐ、1,195万バーレル/日となっている。更に、天然ガスの確認埋蔵量も283.8兆立法フィートで世界第5位となっている。

経済状況も近年堅調で、2000年から2017年のGDPの年率平均成長率は7.84%である。経済規模も2017年のGDPが6,838.27億ドルで、世界19位(中東ではトルコに次ぎ2番目)となっている。1人当たりのGDPは2017年、21,120.48ドルとなっており、所得としては高い部類に入るが、2012年の25,208.16ドルをピークに、年々減少している。(IMF "World Economic Outlook Update, Apr., 2018")

一方で、GDPの業種別構成比は石油・天然ガスが約4割となっており、石油・ガス価格の変動により、経済が大きな影響を受ける状況下にあると言える。

 

サウジアラビアの投資リスク

サウジアラビアの投資リスクとしては、下記のようなものが挙げられる。

  1. 政治体制の不安定化
  2. 経済問題・社会問題
  3. 地政学リスク
  4. その他のリスク

 

1. 政治体制の不安定化

現状のサウジアラビアは政治的に非常に安定していると言える。建国以来、イスラム教スンニー(Sunni)派系のワッハーブ(Wahhab)派を国教とする政教一致の政治体制の下、メッカ(Mecca)、メジナ(Medina)という聖都を有し、スンニー派系の盟主としの側面も持っている。例えば、国王の称号には、二聖モスクの守護者(Custodian of the Two Holy Mosques)が付記されており、国王は政治並びに宗教においても、最高権力者となっている。

その一方で、国王であっても、政治的・経済的な重要事項については、ワッハーブ派宗教界から、理解を得ることが求められているとされている。

このような状況の中、2017年6月、ムハンマド・ビン・サルマーン・ビン・アブドゥルアズィーズ(Mohammad bin Salman bin Abdulaziz, Al Saud:以下「MBS」)が皇太子兼副首相兼国防大臣に就任した。MBSは現国王の息子(現在32歳)で、現国王が即位した時(2015年1月23日)から次世代の王子として、注目を浴びていた(MBSが国王に即位した場合、初代アブドゥルアズィーズ国王から見て初めての孫の代の国王となる)。

MBSは2016 年4 月25 日、サウジアラビアの今後の社会改革をまとめた「ビジョン2030」を発表した。この「ビジョン2030」は石油に依存した国家のあり方を変えるというもので、補助金を削減して国民全体に広く負担を求め、国営石油会社サウジ・アラムコ社(Saudi Aramco)の株式の一部を株式市場に上場して得た資金を基に2 兆ドル規模の投資ファンドを設け、その資金で民間部門を肥育し、経済の門戸開放を進めて石油外収入を3 倍強にして財政収支均衡を図るという計画である。

また、石油だけに依存しない経済財政運営の実現を目指し、女性の雇用拡大、観光業、エンターテイメント産業の振興等、大胆に社会変革にも踏み込んでいる点で、サウジアラビアにとって画期的な計画となっている。

そのため、この計画が発表された際のサウジアラビア全体に与えた衝撃は甚大であった。特に、女性の更なる社会進出(2018年6月、女性の運転が初めて認められた)、娯楽の振興に対しては、宗教界と急速な社会変化を嫌う保守派からの反発が非常に大きかったとされている。

このような状況の中、2017年11月に発生したのが、MBSが主導する反腐敗最高委員会による王族・閣僚等、350人以上の逮捕・拘束事件であった。なお、逮捕された多く王族・閣僚は容疑を認め、現金・不動産等を国庫に納めたとされている。これは、反腐敗を推し進め、一般国民の支持を得ると共に、MBSの王族内での地位を確固たるものにする目的を持っていたとされている。

今年に入り、サウジ・アラムコ社の上場問題が暗礁に乗り上げており、期待していた資金調達も不透明な状況にあることは、MBSを中心とする改革派には、大きな打撃であると言える。逆に、このことで、保守派が影響力を回復する可能性もあり、国王を含む王族を中心とした政教一致の政治体制が今後も安泰か否かは予断を許さないと言える。更に、既述の2017年11月の王族・閣僚等の逮捕・拘束事件等も発生していることから、王族内での権力闘争激化の可能性も高く、この点でも予断を許さない状況である。(王室内での事件としては、1975年3月25日、当時のファイサル(Faisal bin Abdulaziz, Al Saud)国王が王子の一人に暗殺される事件も発生している)

ちなみに、80歳を超える現国王については、健康問題も取りざたされており、万一、崩御した場合、スムーズにMBSが即位するかについても、時期によっては、サウジアラビア王室内、政府内で、混乱が生じる可能性もあるとされる。

2. 経済問題・社会問題

経済問題の最大の要因は、サウジアラビア経済が石油・ガス及び関連事業に大きく依存している産業構造であると言える。特に、GDPの約4割が石油・ガスに依存する産業構造は、石油・ガス価格に左右される面が強く、実際、原油価格が大幅に下落した2009年にはGDPはマイナス成長となっている。(2016~2017年の下落においても、2017年にマイナス成長となっている)

その一方で、個人所得税がないこと等、これまで国民生活は比較的保護されて来たが、2014年以降、財政収支が赤字で推移していることから、2018年には付加価値税(VAT)が導入され、更に外国人従業員の扶養家族への課税も開始されており、政府の財政健全化の姿勢が打ち出されている。(「ビジョン2030」でも補助金の削減が明記されており、国民全体に広く負担を求めている)

経済構造においても、GDPに占める政府最終消費支出と総固定資本形成(投資等)の比率が約半分(49%)を占めており、政府支出に大きく依存している状況である。一方で、民間部門の占める割合は約4割とされており、非常に小さいという特徴がある。

失業率はサウジアラビア統計局の発表では、2018年1Qで自国民が12.9%となっている一方、非サウジアラビア人(外国人)は0.9%と極めて低くなっている。(サウジアラビア全体では6.1%)このことは、国内での労働力の多くを非サウジアラビア人(外国人)に依存していることを物語っている。また、失業率は自国民の若い世代で非常に高く、20~24歳では43.3%、25~29歳では23.4%に達している。

一般的にサウジアラビア人はブルーワーカーの仕事を避ける傾向が強く、このような仕事は外国人がするものとの認識が一般的である。このことが、サウジアラビア人と非サウジアラビア人(外国人)の失業率に表れているとも言える。

今後、国民負担が増大した場合、自国民の不満が非サウジアラビア人(外国人)に向かい、不満が鬱積する可能性がある。また、政府も昨今、外国人労働者のビザ審査を厳しくする傾向にあるが、一方で、外国人労働者が減少した場合、ブルーワーカー的な仕事を避けるサウジアラビア人の意識変革も求められる。

また、サウジアラビアのジニ係数は0.459(米国CIA)となっており、所得格差は大きいと言える。特に、サウジアラビア人と外国人の格差は顕著であり、これらのことにより、社会が不安定化する要素をはらんでおり、今後も注視する必要がある。

さらに、特殊な経済構造にあるサウジアラビアにおいては、政府の財政政策、金融政策、石油資源政策等により、経済状況が大きく変化する可能性があることは特筆される。逆に言えば、これら政策が失敗した場合の影響は甚大であるというリスクを抱えていると言える。

 

続きはサウジアラビアの投資環境とリスク(PDF, 496KB)ご覧ください。

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