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タイにおける「変化への対応の早さ」がもたらすリスク

APリスクアドバイザリー メールマガジン

「ほほえみの国タイランド」と言われて久しいが、現実はほほえみだけではない。大気汚染、高齢・少子化、洪水などタイを取り巻くリスクは「ほほえみ」だけでは解決できないものが多く、深刻化の度合いを増しているように感じる。筆者は、駐在4年が過ぎ、様々な「タイで起こりそうなこと」を経験してきた。その経験を通じて言えることは、「異常なまでの変化の早さ」である。日本を基準としているため「異常」なのであり、タイ、東南アジアではこれが通常かもしれない。

私が経験してきた「異常なまでの変化の早さ」は3つある。

1点目は今や日本でも普及してきたと思われる「二次元コードを利用した支払いスキーム」である。筆者の赴任当時(2016年)には現金での支払いが通常であったが、赴任1年もたたないうちにレストラン等の店舗だけでなく、街の屋台や市場でも二次元コードを利用した支払いができるようになった(日本以上にクレジットカードが使える店が多いことも、変化を促進したのかもしれない)。この普及は日本よりも早い。

2点目は、「買い物用ビニール袋の廃止」である。筆者の感覚では、日本ではこの「買い物用ビニール袋の廃止」を行うために10年程度はかかっている。しかし、タイ国では本当にあっという間に廃止が行われた。赴任3年程度は、近隣のスーパーマーケットに買い物に行くと、異常なほどビニール袋が使われており、牛乳1本にビニール袋を1枚使うようなイメージであった。しかしながら、ある日を境に、まったく配布されなくなった。コンビニエンスストアでも同様である。それ以降、鞄の中にエコバッグを入れることが当たり前となった。

最後の3点目は、最近大きな活動となっている「王室批判」である。今回の活動は高校生や大学生など若者を中心に行われていることも特徴的だが、正面を切った「王室批判」が行われていることが特筆すべき点である。これまでタイでは政府に対するデモ等は数多く行われてきており、クーデターも1932年以降2020年までで10QR以上行われている。ある意味国民はこのような出来事に「慣れて」いる。しかしながら、王室に対する不敬罪が存在するタイにおいて、王室を批判することはこれまではなかった。そのタイ国民が正面を切って、王室を批判している。筆者が赴任して以来最近まで、映画の冒頭に流される国王賛歌に合わせて起立するのがルールであり、全てのタイ人も起立していた。しかしながら、先日「鬼滅の刃」を見に行った際には、日本人以外は起立していないことに気づいた。これほど「王室批判」は浸透してきている。

では、タイに進出している日系企業としては何をリスクと認識し、業務運営を行えばいいのか。今回のコラムでは、「異常なまでの変化の早さ」に着目していただきたい。日本では業界団体の調整や代替手段の検討に多くの時間を要し、なかなか物事が進まない。逆に考えると変化に対応するための時間が稼げる。しかしながら、上述のようにタイや東南アジアではあっという間に物事や価値観が変化していく。ある意味、これが東南アジアの強さであり、面白さとも言える。先日、ある日系企業のマネージメントと2021年に施行されるタイの個人情報保護法について話をする機会を得た。マネージメントはこれまでのタイ人の生活様式から、タイ人が個人情報保護を守ることは想定できず、その法対応も最低限でいいと考えていた。しかしながら、筆者はそうは思わない。タイでも通販サイトの個人情報漏洩が報道されるなど、人々の個人情報に関する考え方が驚くほどのスピードで変わってきている。つまり、2021年の法施行時には、「異常なまでの早さ」で個人情報に関する意識が高まり、対応のできていない企業が淘汰される可能性は高いと考えている。このコラムをお読みの企業には、是非タイの「異常なまでの変化の早さ」を侮らないようお願いしたい。

著者:赤尾聡

 

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