最新動向/市場予測

グローバル・リスクオフと新興国通貨の関係

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.49

マクロ経済の動向(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
マネジャー
市川 雄介
 

新興国経済の脆弱性が再び顕在化しつつある。米国の金融緩和期待が強まった6月以降、新興国の通貨には総じて持ち直しの動きが見られ、資本流出の懸念は和らいでいた。インフレ圧力が落ち着いたことも追い風となり、景気下支えのため金融緩和に舵を切る国が相次いだ。しかし、自国のプラス材料ではなく、米国側の要因によって演出された通貨の上昇は脆く、景気減速が鮮明な国を中心に、7月半ばころから通貨高は一服しつつあった。そして8月に入り、米国による対中関税第4弾の発動表明(後に一部延期)や中国の為替操作国への認定といった米中対立のエスカレートを受け、新興国通貨はほぼ全面安の展開となった。

米中摩擦に限らず、新興国通貨は世界経済の様々なニュースやイベントを受けて、似たような動きをする傾向が強い。そうした要因を可視化すべく、2018年初以降の通貨変動に共通する成分を統計的に抽出したものが図表1である。日次データのためボラティリティが大きいが、トルコの通貨急落に端を発した「トルコ・ショック」(2018年8月)や、直近の米中対立の一段の激化、2018年秋の株価急落時などにマイナスの値が大きくなっている一方、今年の6~7月にかけて変動は小さく、プラスの値を示していたことも多かったことが読み取れる。これらのイベントやニュースを踏まえると、図表1の共通成分は、おおまかにグローバルなリスクオフの動き(マイナスの値が大きいほどリスクオフが強まっていること)を表しているといえそうだ。

【図表1】新興国通貨の共通成分

新興国通貨の共通成分
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こうしたグローバル・リスクオフ要因が新興国通貨を押し下げるにしても、その影響度合いは国によって大きな違いがある。リスクオフの動きが高まった際に通貨がどの程度変動するか(感応度)という点だけでなく、そもそもリスクオフが通貨の変動をどの程度説明できるかという点も重要だ。後者については、リスクオフという共通要因によって説明できる割合が小さいほど、各国固有の政治・経済要因が通貨の変動を規定しやすいことになる。

この2つの観点から各国通貨をプロットしてみると(図表2)、まず南アフリカを筆頭に、メキシコや韓国が脆弱であることが注目される。すなわち、グローバルなリスクオフという外部要因に通貨が影響されやすく、かつリスクオフが顕在化した際のインパクト(感応度)も大きい。他方でタイやフィリピンでは相対的にリスクオフの影響は小さい。また、トルコの異質性も特筆される。横軸と縦軸が概ね比例関係にある他国と異なり、トルコ・リラは感応度が高い一方でリスクオフ要因によって説明できる割合が低いという特徴を持つ。平均的に見ればリスクオフに対する感応度は南アフリカと同等だが、リスクオフの動きだけに左右されるわけではなく、例えばエルドアン政権の強権的な政治姿勢や、米国との関係悪化といったトルコ固有の要因のほうが重要ということだ。トルコは最も予測しづらい国ともいえよう。

こうした大まかな傾向を踏まえれば、米中の対立が続く限り、南アフリカやメキシコ、韓国といった国の通貨には引き続き大きな下押し圧力がかかること、またグローバルな動きとは一定程度独立して、トルコ・リラが金融市場のかく乱要因になり得ることを意識しておく必要がある。

【図表2】共通成分による各国通貨への影響

共通成分による各国通貨への影響
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執筆者

市川 雄介/ Yusuke Ichikawa
有限責任監査法人トーマツ リスク管理戦略センター マネジャー

2018年より、リスク管理戦略センターにて各国マクロ経済・政治情勢に関するストレス関連情報の提供を担当。以前は銀行系シンクタンクにて、マクロ経済の分析・予測、不動産セクター等の構造分析に従事。幅広いテーマのレポート執筆、予兆管理支援やリスクシナリオの作成、企業への経済見通し提供などに携わったほか、対外講演やメディア対応も数多く経験。英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスにて修士号取得(経済学)。

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