最新動向/市場予測

不確実性の中のシナリオ:来年のグローバルリスク展望

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.51

リスクの概観(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
ディレクター
勝藤 史郎
 

2019年も残すところあと2ヶ月あまりとなったが、グローバル経済においては不確実性要因が未だ山積している(本稿は10月15日現在の情報に基づく)。米中通商交渉については、10月の米中閣僚級協議で10月の追加制裁関税の実施見送りが合意された模様である。しかしながら、既存の制裁関税の撤廃は見送られたうえ、中国における補助金や技術移転強制などの構造問題は解決しておらず、これが今後の通商交渉の長期化要因になることも考えられる。英国のEU離脱は10月末の期限を前に依然予断を許さず、「合意なき離脱」「離脱期限延長」「10月末期限前の修正離脱合意」の3つのシナリオが存在している。当方では、米中通商交渉では既存の制裁関税継続が中国の成長を今後も抑制するも、来年のどこかでグローバル経済に大きな影響を与えない形で合意形成がなされることをベースラインシナリオとしている。英国のEU離脱については、10月末離脱期限延長により合意なき離脱は回避されることをベースラインシナリオとしている。かかる前提を置いてもなお、来年のグローバル経済成長は減速、リスクは引き続き下方とみておきたい。

米国経済は、他の主要国のそれに比して堅調であり、今年は前年比2%半ばから後半の成長が可能であろう。しかし来年には米国の成長率は2%レベルに減速することを当方のベースラインとしておく。現在の好調な成長を支えている個人消費の源泉である雇用と賃金の伸びは依然高水準であるが、いずれも循環的な減速局面にある。既に企業部門では製造業の景況感が大幅に低下、非製造業もこれを後追いするかのように低下基調にある。下方リスク要因としては、米中通商問題が今後拡大し、いわゆる第4弾の完全実施に至り米国経済に更なる下方圧力がかかること、あるいは、現在も相対的に高水準を保っている株価等のリスク資産価格が下落することを発端に、レバレッジド・ローンやCLO(ローン担保証券)などの価格下落による信用不安が顕在化することである。

欧州については、英国の合意なきEU離脱が回避された場合でも、今年と来年の成長率は1%程度にとどまりそうだ。既に、自動車輸出の減速の影響で、製造業に依存するドイツ経済は4-6月期にマイナス成長に転化している。企業景況感も同様に低下しており、製造業・サービス業を合わせた景況感は、景気悪化局面の寸前まで低下している。欧州には更に下方リスク要因が浮上している。米国はEUの航空機補助金に対し報復関税を適用することを決定した。米欧の通商交渉は今後自動車分野へ拡大する恐れがあり、これが顕在化すれば欧州経済には更なる下方圧力となる。

中国経済は、今年のベースラインである6%台前半成長から、来年は前年比6%前後の成長に減速することをベースラインとする。個人消費や工業生産などの内需の減速は政府・中銀の景気対策にもかかわらず減速基調が改善していない。米中通商摩擦の影響で輸出入も減少が続いており、総合的にみて、米中通商摩擦が現状以上に悪化しないとしても来年の成長は更なる減速が免れ得ないであろう。下方リスク要因は、制裁関税の拡大のほか、国内の産業の海外への移転、国内の信用不安、人民元安による資本流出や、これに伴う金融市場の悪化とセンチメント悪化である。

日本では、海外景気減速に伴う輸出や生産の伸びの停滞に加え、家計消費もやや失望感のある状況である。10月の消費税率引き上げ前の駆け込み需要による家計消費の押し上げが緩慢であったほか、消費者態度指数は2011年の東日本大震災以来の水準に低下している。消費税率引き上げ後の反動減が穏当なものにとどまっても、来年2020年の成長率は前年比でゼロ%台にとどまるとみられる。更に海外経済の悪化やリスクオフによる円高が進行すれば、日本経済にとっての下方リスクとなり得る。

経済動向を占う上で、通商交渉や英国EU離脱などの政治的な要因が大きな決定要素となっている現状、今後の経済動向の予測は容易ではない。リスク管理の観点からは、想定し得るリスクシナリオとシナリオごとの対策をあらかじめ準備することで、想定外のリスクを回避することがますます重要になってきているといえる。

執筆者

勝藤 史郎/Shiro Katsufuji
有限責任監査法人トーマツ ディレクター

リスク管理戦略センターのディレクターとして、ストレス関連情報提供、マクロ経済シナリオ、国際金融規制、リスクアペタイトフレームワーク関連アドバイザリーなどを広く提供する。2011年から約6年半、大手銀行持株会社のリスク統括部署で総合リスク管理、RAF構築、国際金融規制戦略を担当、バーゼルIII規制見直しに関する当局協議や社内管理体制構築やシステム開発を推進。2004年から約6年間は、同銀行ニューヨー...さらに見る

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