最新動向/市場予測

EU流動性ストレステスト結果からみる流動性管理における高度化の方向性

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.52

金融規制の動向(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
シニアマネジャー
対木 さおり


欧州では、2019年2月から6か月にわたり金融機関に対して預金流出などの事態を想定し、支払いや調達に対するストレス事象が発生した場合の対応を確認する流動性ストレステストが実施された。ECB(欧州中央銀行)は複数の金融機関において、固有に発生しうる信用不安などに伴う取引の縮小などの流動性危機における状況を分析。そこから、ショックの①期間、②深さを確認した上で、短期の支払いや資金調達が困難になるような流動性ショックが発生する感応度分析のシナリオを設計。2019年10月にECBから公表されたストレステスト結果の概要をみると、今後の流動性管理の高度化に向けたいくつかの課題が含まれ、示唆に富む内容となっている。

この流動性ストレステストは、欧州では隔年で実施されているマクロ経済や地政学的なシナリオや市場規模のストレスを想定する通常のストレステストとは異なるもので、上記の通り、短期の支払いや資金調達が困難になるような流動性ショックに焦点を当てたものである。また、オプションとして、通貨別や、グループ企業別の流動性、緊急時の代替的な支払い余力としての担保管理などに関する掘り下げ分析を含んでいる点にも特徴がある。2019年2月からの実際のテストには100以上の金融機関が参加し、Extreme shock(最も厳しい)シナリオでは、各機関平均で、総資産の約27%相当の流出が発生する一方で、各機関はバランスシート上に十分な支払い余力を保有していることが判明。ただし、個々の金融機関を特性別でみると、グローバルに展開する傾向の強い銀行では、概してより厳しいショックに見舞われる傾向がみられた。さらに、ストレステストの過程においては、報告された数値について、他の規制上の情報・データや、国際規制上、金融機関に課される規制の一つである30日間の資金流出に備える流動性カバレッジ比率(LCR)との間で、比較可能となるよう品質保証を実施したが、そこでデータの質に関する課題が浮き彫りになった。具体的には、①信用格下げによる影響(資金流出の可能性)を過小評価している可能性や、②外貨建てやグループ内での流動性管理上の課題、③担保管理上の課題、④(30日間の)流動性カバレッジ比率(LCR)規制の適用期間の直後に手元の流動性(支払い能力)が低下するクリフ効果がみられる点が指摘されている。

第一の個々の金融機関の信用格下げによる影響の過小評価に関しては、潜在的な格下げ時の資金流出に対する金融機関の想定は、控えめになる傾向がある。実際に、足元で格下げを経験した金融機関では、比較的大きな資金流出を想定する傾向があることが判明し、格下げを経験していない金融機関での流動性リスクに対する過小評価の可能性が示唆されると指摘されている。

第二の、外貨建てやグループ内での流動性管理上の課題は、国際的な銀行へのオプションとして実施された掘り下げ分析の中で明らかになった。今回の流動性ストレステストでは、生存期間(支払い可能な資金の残高が最初にマイナスになるまでの期間)はユーロ建てよりも米ドルなどのユーロ以外の外貨で一般的に短い傾向がみられた。また、ユーロ域内のグループ会社は、非ユーロ圏のグループ会社と比較してより長い生存期間を示す傾向があった。今後、これらのグループ企業間での偏った流動性(支払い余力)の構造については、特定の部門の資金を分離して管理することで、安全性を確保するリングフェンス上のリスク管理との兼ね合いで検証すべき論点であろう。

第三の担保管理上の課題としては、流動性ストレス時に、特定の担保が支払い余力として活用可能かについての適格性の確認や認識についてのばらつきが大きく、改善が必要な金融機関が存在すると指摘されている。最後に、LRC規制との関連では、当該規制が30日の流動性を対象とするために、多くの金融機関が30日間で流動性の管理を最適化してしまい、30日を過ぎると明確にLRCが低下する傾向(クリフ効果)がみられた。この問題に関しては、今後、監督上のフォローアップの対象として、対応を検討することとされている。

2020年にかけて、世界的に成長鈍化局面に入る可能性が徐々に高まる一方で、中期的に見れば世界各地で地政学リスクも徐々に範囲が拡大しており、特にグローバルに展開する金融機関における流動性リスクの検証・管理は一層の高度化が求められる。今回の流動性ストレステスト上の論点・課題、またシナリオなどは、丁寧な検証が必要であろう。

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執筆者

対木 さおり/Saori Tsuiki 
有限責任監査法人トーマツ リスク管理戦略センター シニアマネジャー

財務省入省後、大臣官房にて経済・政策分析業務、関東信越国税局(国税調査官)、理財局総務課・国債課にて、国有財産・債務管理や国債発行政策策定に従事。米国コロンビア大学にて修士号(MPA)取得(IMFインターン等を経験)、その後大手シンクタンクにて、政策分析・経済予測、関連調査・コンサルティング業務を担当。

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