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リスクオンは一時的とみる

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.52

リスクの概観(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
ディレクター
勝藤 史郎
 

ここ1か月の間に、グローバルなマクロストレスのリスクはやや緩和方向にシフトした。米中通商交渉はいわゆる「第1段階」の合意にむけて交渉が進んでいる模様である。「第1段階」の合意の時期と内容については情報が錯綜しており流動的といえる。しかし、いわゆる第4弾の制裁関税(12月発動予定)の発動は米国経済にも相応の下方リスクをもたらすことから、米国側も発動には慎重にならざるを得ないと考えられる。米中間の交渉が継続している限りは、現状以上の制裁関税の追加は少なくとも当面回避できるとみておきたい。

英国のEU離脱については最大2020年1月末までの離脱期限延長が10月にEUで合意されたほか、英国議会は新離脱協定案の概要を承認するに至った。その後英国議会の解散が決定され12月総選挙実施となったが、合意なき離脱のリスクは大きく後退したと考えられる。

さらに、米国のFRBが今年3回目となる利下げを決定するなど、各国中央銀行は金融緩和方向のスタンスにある。こうした背景から、金融市場ではリスクオンの傾向が強まり、NYダウ平均が史上最高値を更新するなど株価は引き続き上昇している。

しかしながら、来年に向けてのグローバル経済動向にはまだ慎重な見方を崩さないほうがよさそうだ。中国経済は内需の減速や既存制裁関税の影響で減速をつづけており、来年2020年の成長率は前年比6%割れが視野に入ってきている。米中通商交渉においても中国側が既存の制裁関税の撤廃を主張している模様だが、米国側としては知的財産権問題などに大きな進展がない限りこれを受け入れる可能性は低そうだ。これまでの中国の成長に対する下方圧力は来年にかけても当面継続するとみたい。欧州では、成長率の減速と企業景況観の悪化が続いている。米国経済は相対的には堅調ではあるが、企業景況観は引き続き低下傾向にあり、雇用の伸び率も循環的な低減局面に入ってきている。日本では、消費税率引き上げ前の駆け込み需要が9月に大きく伸びたが、今後は反動減が見込まれるほか、自然災害の影響もありその後の立ち上がりには下方リスクがある。新興国では、中国の景気減速の影響を受けるアジアの一部の国において輸出の低迷が目立つ。

先月の本稿でみたように、当方のベースラインシナリオでは来年のグローバルな成長は今年よりも減速を見込んでいる。米中通商交渉の決裂などのリスクの蓋然性はいったん後退したとみているものの、そのリスクがなくなったわけではない。ベースラインでも来年にかけてのグローバル経済は減速方向、さらにリスクは下方との見方は維持しておきたい。
 

執筆者

勝藤 史郎/Shiro Katsufuji
有限責任監査法人トーマツ ディレクター

リスク管理戦略センターのディレクターとして、ストレス関連情報提供、マクロ経済シナリオ、国際金融規制、リスクアペタイトフレームワーク関連アドバイザリーなどを広く提供する。2011年から約6年半、大手銀行持株会社のリスク統括部署で総合リスク管理、RAF構築、国際金融規制戦略を担当、バーゼルIII規制見直しに関する当局協議や社内管理体制構築やシステム開発を推進。2004年から約6年間は、同銀行ニューヨー...さらに見る

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