最新動向/市場予測

景気の一時悪化は避けられず:新型コロナウイルス

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.55

リスクの概観(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
ディレクター
勝藤 史郎
 

新型コロナウイルスによる肺炎(新型肺炎)の拡大がグローバルなリスクの状況を塗り替えようとしている。2月25日現在で、中国における新型肺炎の感染者は7万7600人を超え、死者は2663人に達している。新型肺炎の拡大は、中国経済及び関係海外各国の経済成長に係るベースラインシナリオの変更と、一部リスクシナリオの蓋然性の高まりをもたらさざるを得ない。

新型肺炎のマクロ経済への影響の波及経路は概ね次のようになろう。まず中国においては、主要都市の封鎖や人の移動制限による国内消費が減少しよう。工場休業などに伴う生産や物流の停止は、国内外のサプライチェーンの寸断、中国企業の経営悪化をもたらす。また、新型肺炎に係る不透明感の増大は、金融市場の悪化や人民元安につながりうる。関係海外各国においては、中国への輸出減、中国からの供給制約に伴う生産の停滞、さらに中国からのインバウンド消費の減少という形での経済への影響が考えられる。またグローバルな経済への影響懸念から、金融市場の悪化にもつながりうる。

新型肺炎の最終的な経済への影響について正確な予測は困難であるが、当方では、新型肺炎の拡大が3月半ばには収束するとの想定のもとマクロ経済への影響試算を行った(詳細は今月号のマクロ経済の動向「新型コロナウイルスの影響試算:中国発の需要・供給ショック」をご参照)。結果、中国の1-3月期成長率は前年比で1~2% の低下、日本経済についても中国インバウンド消費の減少と供給制約による生産停滞で1-3月期に相応のマイナス影響がでるとの結果になった。また、アジアの新興国においても中国経済と関連の深い国について経済の減速が考えられる。その後、4-6月期には各国・地域の成長率は一定程度反発すると考えられる。これに基づき当方では、中国、日本、アジアの今年のベースラインシナリオにおける成長率見通しを主に1-3月期について引き下げることとした。

上記の結果からは、新型肺炎が早期に収束した場合、グローバル経済への悪影響は一時的なものにとどまることになる。しかしながら、状況は予断を許さず、感染拡大が更に長期化するシナリオも十分に考えられる。ストレスシナリオとしては感染の収束に概ね半年くらいかかるシナリオを想定しておく必要はあるだろう。その場合、中国他関係国・地域の成長率は1-3月期のみならず4-6月期にも減速が続くことになる。また日本については、インバウンド消費の減少が中国からのものにとどまらず、海外全域からのものに広がるなど経済への影響が上記想定を上回るリスクもある。また、現状では先進国の株式市場が意外にも高値を保っているが、この反落リスクは常に想定しておくべきだろう。

新型肺炎をめぐる状況は日々変化している。現状ではこれがグローバルな景気後退につながることは想定しておらず、あくまで一時的な景気悪化にとどまると当方では見ている。しかしながら、感染拡大の長期化、グローバルな人や物流の遮断拡大、株価の反落などにより、グローバル経済が深刻なストレス状況になりうることには留意が必要である。

執筆者

勝藤 史郎/Shiro Katsufuji
有限責任監査法人トーマツ ディレクター

リスク管理戦略センターのディレクターとして、ストレス関連情報提供、マクロ経済シナリオ、国際金融規制、リスクアペタイトフレームワーク関連アドバイザリーなどを広く提供する。2011年から約6年半、大手銀行持株会社のリスク統括部署で総合リスク管理、RAF構築、国際金融規制戦略を担当、バーゼルIII規制見直しに関する当局協議や社内管理体制構築やシステム開発を推進。2004年から約6年間は、同銀行ニューヨー...さらに見る

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