最新動向/市場予測
新型コロナ発リスクの波及先:金融システムのリスク
リスクインテリジェンス メールマガジン vol.57
リスクの概観(トレンド&トピックス)
有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
ディレクター
勝藤 史郎
新型コロナウイルス感染拡大による経済悪化に鑑み、当方では今月、米国、欧州、日本、中国、新興国のベースラインシナリオをさらに大幅に下方修正し、いまや米・欧・日の2020年の通年成長率は前年比大幅なマイナス成長とみている。また、中国の通年成長率は前年比1%程度に急減速するとみている。前提としては、新型コロナウイルス感染症対応のための各国の移動制限・営業停止等が今後徐々に解除されて経済活動が再開されることを想定している。実際、欧州の一部の国や米国の一部の州では、いわゆるロックダウンの一部解除開始またはその計画が始まっている。この前提下では米国、欧州、日本では主に4-6月期に大幅なマイナス成長が示現し、その後は緩やかな回復を始めることになる。
かかるシナリオに対する更なるストレスシナリオとしては、感染症収束の後ずれのほかに、感染拡大が金融システムに波及するシナリオが想定される。現状金融監督当局は、金融システムの維持と経済への資金供給を最優先課題とし、一部の金融規制及び不良債権認定の一時的緩和や延期等で、銀行発のクレジットクランチ回避を図っている。たとえば、日・米・欧の各中銀は、利下げや国債購入等による金融緩和に加え、CPや社債の購入またはその資金融資など、企業金融を直接・間接的に支援するファシリティにより企業資金繰り支援に万全を期している。バーゼル銀行監督委員会(BCBS)は、バーゼルⅢ改革の実施時期を2022年1月から2023年1年後倒しすること等を決定した。当方のベースラインも、かかる方策により金融システムは維持されることを前提としている。
しかし、欧州のソブリンリスク(各国財政出動を契機とするもの)、レバレッジドローンやCLOを含むリスク資産価格の下落、さらには新型コロナ収束後に顕在化しうる企業宛融資の不良債権化リスクから、金融システム危機のリスクが顕在化するシナリオは想定しておく必要があろう。欧州のソブリンリスクは、主にイタリア、スペイン等の財政赤字国において、新型コロナウイルス感染症による経済の落ち込みに対応した財政政策が発動されることで、同国の国債価格が大幅に下落したことがトリガーとなる。イタリア国債利回りは新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて3月に一時急上昇、その後一旦低下したものの、現在では再び上昇傾向にある。欧州のソブリンリスクは国債を保有する銀行の財務を悪化させ、同国の銀行の信用リスクと金融システム機能の悪化を拡大させる恐れがある。また、欧州以外でも、実体経済の悪化や市場の混乱から金融システムへのリスクがあると言わざるを得ない。実体経済を通じた波及は、企業や個人の信用リスクが拡大して銀行の不良債権が増加するルートがある。また金融市場において、レバレッジドローンなどリスク資産の価格が急落していること、またCDSなどのデリバティブ商品のスプレッド拡大による時価評価の悪化などにより銀行が損失を被るルートもある。さらに中期的には、現在の企業資金繰り支援貸出等が、新型コロナ後に不良債権化するリスクもある。
今回の新型コロナウイルス感染症による危機は、金融機関発ではなく、また各国中銀・監督当局が金融システムの機能維持と企業資金繰り支援の方策をいち早く打ち出した点で、グローバル金融危機とは大きく異なる。しかしながら、実体経済の悪化、特に企業や個人の資金繰りの急悪化は、グローバル金融危機時よりもはるか早く深い。ここに過大評価されたリスク資産の投げ売りが加わった市場環境は、金融システムの機能維持に相応の悪影響を与えうることには常に留意が必要である。
index
- 新型コロナ発リスクの波及先:金融システムのリスク(勝藤)
- V字回復を阻む要因(市川)
- EU TEG:タクソノミーファイナルレポート及び技術的補足資料~EU域内での開示および金融商品開発に影響(矢吹)
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執筆者
勝藤 史郎/Shiro Katsufuji
有限責任監査法人トーマツ ディレクター
リスク管理戦略センターのディレクターとして、ストレス関連情報提供、マクロ経済シナリオ、国際金融規制、リスクアペタイトフレームワーク関連アドバイザリーなどを広く提供する。2011年から約6年半、大手銀行持株会社のリスク統括部署で総合リスク管理、RAF構築、国際金融規制戦略を担当、バーゼルIII規制見直しに関する当局協議や社内管理体制構築やシステム開発を推進。2004年から約6年間は、同銀行ニューヨー...さらに見る