最新動向/市場予測

新型コロナウイルス感染症の影響拡大を受けた各国の金融規制上の対応~中長期的な視点が不可欠~

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.58

金融規制の動向(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
シニアマネジャー
対木 さおり

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大を受けた各国の対応が、矢継ぎ早に公表されている。

グローバルでの動きとしては、3月下旬に、BCBS (バーゼル銀行監督委員会)は、グローバルでCOVID-19の拡大の影響に鑑み、Basel III基準の実施を当初予定の2022年から2023年に、1年延期を決定。また、4月初旬に、BCBSとIOSCO(証券監督者国際機構)は、中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制の最終フェーズの実施を1年延期することに合意。

各国で、多岐にわたる措置が行われているが、金融当局の導入する措置の目的としては、主に以下の3つが挙げられる。第一に、マクロ経済及び金融政策上の措置との相乗効果を発揮して、金融システムを維持し、無秩序なクレジットクランチを回避することを主眼とする措置導入や規制緩和等の取り組みである。例えば、資本規制や流動性規制の一時的な緩和や、不良債権に対する対応の変更・柔軟化などがこれに当たる。特に、後者は、今後想定される信用リスクの変動に備え、グローバルでも対応が行われており、4月初旬にBCBSにおいて、銀行が規制上の自己資本要件を計算する際にこれらの措置によるリスク低減の効果が反映されることを確保するため、予想信用損失枠組みは機械的に適用されるように設計されているものではないことを確認済。各国で会計上もしくは予想信用損失との枠組みと今回導入されている各種救済策との整合性が図られるような配慮や規制上の措置が行われている。

第二の目的は、事業継続や救済策の遂行の観点からのクライアント業務や金融市場の機能維持を最優先とし、緊急措置として重要度の比較的低い規制上の負荷を軽減し、金融機関の危機対応余地を拡大することである。例としては、市中協議や規制イニシアチブの延期、監督サイクルの変更・軽減、規制内容の一時的な変更・調整が挙げられる。すでに、前述の通り、Basel III基準の実施1年延期や、中央清算されないデリバティブ取引に係る証拠金規制の最終フェーズ1年延期が決定済みだ。英・欧州・香港でのストレステストの延期や中止、さらに、英国では、オペレーショナル・レジリエンスの対応強化に係る市中協議が6か月延期になったほか、米国でもBHC法上の支配基準改定の適用開始が、同様に6か月延期とされた。「不要」ではないが、「不急」の規制は後回しという格好になっている。

第三の目的は、BCP(事業継続計画)やオペレーショナル・レジリエンス上の対応力の発揮に向けた支援である。この論点には、金融機関が感染拡大防止や外出制限との兼ね合いという非常にバランスの維持が難しい課題に直面している中で、重要なオンサイト業務の管理や制約下での支店運営の維持等が含まれる。オンサイト業務の継続という観点からは、グローバルでは、4月上旬にFSBが、金融サービスの事業継続に関するステートメントを公表。オンサイトで勤務する必要がある不可欠な業務に言及し、具体的な業務を列挙した 。具体的には、①顧客向け現金アクセスの提供、②電子決済、もしくは他の銀行業務、貸出サービス、③適切な支店やコールセンターの維持、④政府の支援プログラムにおける請求手続き、⑤保険業務、⑥リスク管理、⑦データやセキュリティー業務センター、⑧コアサービスを提供するサードパーティー提供業者のサポート、が列挙されている。各国では、危機下でも重要な金融機関の役割や社会インフラとしての機能を維持するためのガイドライン・ステートメントなどが公表されている。

今後、感染症拡大防止との兼ね合いで、行動制約が長期化する可能性も視野に入れるのであれば、オンサイト100%での業務を前提とした既存の金融規制や行政制度、金融機関における運営・業務の見直しなど、中長期的な視座が必要となる。書面での手続きや、署名・印鑑など、長年の慣行が根強いがゆえに、事業のデジタル化、フィンテックの一層の推進には様々な課題があることも改めて浮き彫りになっているともいえる。

特に、デジタル化、フィンテック、そしてレグテックは喫緊の課題であろう。このような認識もあり、例えば欧州では、4月に入り、リテール決済に関する戦略について市中協議を開始。欧州におけるデジタル化および新技術の活用促進を目指し、本市中協議の結果を受け2020年Q3に戦略を公表予定。また欧州委員会が、新しいデジタル金融戦略に関して市中協議を開始し、コメントを基に2020年Q3にフィンテック・アクションプランを提案する予定で、目線は1年後ではなく、数年先を見据えていることがわかる。

まだまだ先行きは見通せないものの、新型コロナウイルスの感染拡大に端を達する対応は、想定外に長期化する可能性もある。そのようなシナリオを視野に入れて、①業務継続の観点からのオペレーショナル・レジリエンス体制の強化、②フィンテック、レグテック等の一層の活用などの取り組みを継続的に続ける必要があると考えられる。

執筆者

対木 さおり/Saori Tsuiki 
有限責任監査法人トーマツ リスク管理戦略センター シニアマネジャー

財務省入省後、大臣官房にて経済・政策分析業務、関東信越国税局(国税調査官)、理財局総務課・国債課にて、国有財産・債務管理や国債発行政策策定に従事。米国コロンビア大学にて修士号(MPA)取得(IMFインターン等を経験)、その後大手シンクタンクにて、政策分析・経済予測、関連調査・コンサルティング業務を担当。

お役に立ちましたか?