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ポストコロナの世界を見通す:危機対応の3つの時間軸

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.58

リスクの概観(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
ディレクター
勝藤 史郎
 

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大ペースが、主要な国・地域の一部で減速に入り、ロックダウンや営業停止・移動制限解除が徐々に始まっている。当方のベースラインシナリオでは、今年の後半には世界経済は緩やかながら回復局面に入るとみている。COIVD-19の収束にはいまだ多くのリスク要因があり、引続き危機管理に万全を期する必要があることには変わりない。しかしながら、フォワードルッキングに持続的な成長を考える企業においては、現在のCOVID-19危機への対応から、コロナ収束後のアクションを考える時期に差し掛かっているといえる。COVID-19の対応は、現状の危機管理から将来のビジネスモデル改革に至るまで、多くの局面と時間軸がある。当方では、新型コロナウイルス感染症にかかるシナリオと対応を大きく「短期」「中期」「長期」の3つの時間軸に分けて考察している。企業ではそれぞれの時間軸について、経済・金融のシナリオを策定し、これらに応じた対応をとることが求められる(図表参照)。

(図表)コロナ危機影響の3つの時間軸とアクション 

コロナ危機影響の3つの時間軸とアクション
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まず、「①短期」の時間軸は、現状から感染症収束もしくは経済活動開始の期間(概ね2020年内)である。短期の経済・金融シナリオは、年内の経済・金融、特に経済活動再開時期(経済の底入れ)の想定と、成長率や金融市場への影響を描くものとなる。この間企業は、感染症拡大の渦中管理として、危機対応、従業員や顧客の健康と安全の確保、緊急事態宣言等の方針に従い在宅勤務などを実施しつつ、顧客にとって不可欠な事業の継続を図る。次に「②中期」の時間軸は、経済活動開始から経済の回復過程(主に今年の後半から概ね来年いっぱいの約2年)を指す。中期の時間軸では、経済が底入れから回復に向かう行程のシナリオを描く。その間企業は、このシナリオに基づき、今年度もしくは中期の事業計画を立て直す。最後の「③構造変化」(長期)の時間軸では、COVID-19がもたらす経済や社会の構造の変化に関わるシナリオを策定する。企業はかかる構造変化に応じたビジネスモデルや業務プロセスの抜本的見直しを行う。また、この「②中期」「③構造変化」の時間軸を合わせて「ポストコロナ」の時間軸と呼ぶことができる。

ポストコロナにおいて企業は多くの事後対応を迫られることになろう。経済とその見通しの大幅悪化を反映した経営計画の再策定が必要になる。例えば多くの金融機関は、今後発生しうる与信関係費用の見積もり、経済悪化や支援融資に伴う貸出計画を今後2-3年の視野で見直す必要がある。すでに本邦大手銀行は、2020年3月期決算で与信関係費用を積み増し、また今後1年の2020年度経営計画においても与信関連費用の大幅増加を見込んでいる。2020年度においては中期的な経済シナリオに基づき、よりフォワードルッキングな与信リスクや引当金推計が必要になろう。業務継続計画(BCP)の早期見直しも重要だ。グローバルな経済活動の事実上の停止や移動制限等は、多くの企業のBCPのいわば想定外であった。在宅勤務を可能にする社外からのネットワーク接続やサイバーセキュリティ体制は、パンデミックに対しては必ずしも十分ではなかった。ストレス環境における業務障害からの回復力(オペレーショナル・レジリエンス)の強化は、すでに英国などの金融当局が金融機関に要請している事項である。ポストコロナの主要な作業として、企業はオペレーショナル・レジリエンスを再度確保する必要がある。

さらにポストコロナにおいては、経済構造や社会構造の大きな変化の可能性がある。COIVD-19により中国を中心とした生産体制やサプライチェーンの脆弱性が明らかになった。製造業や流通業においては、現状のサプライチェーンを再度可視化し、これを組みなおす必要がある。企業は生産・供給体制の分散化やシフトにより、チャイナリスク等の軽減を考えることになろう。中国の経済減速に伴い中国生産拠点の国外移動や自国に回帰させるre-shoringの動きはコロナ以前からあったが、ポストコロナではこの動きが加速する可能性がある。また業務プロセスそのものの改革がさらに進みそうだ。「働き方改革」は合理化かワークライフバランスに加え、感染症等の健康安全の観点から現在の自粛で実施されているソーシャルディスタンスの確保なども視野に入れたものになる可能性がある。在宅勤務やテレワークを常に実施できる体制、デジタル化やペーパーレス化により書面の受け渡しを必要としない業務プロセスがさらに進行することになるだろう。報道によれば、米国の大手銀行では、より多くの従業員の在宅勤務を恒常化することが可能な模様だ。在宅勤務の推進は業務プロセスのほか、オフィススペースの縮小合理化などにも広がる。

最後に、社会や安全に対する企業の責任がこれまで以上に期待されることになろう。気候変動対策については欧州を中心に規制化が進んでおり、企業は長期的気候変動の事業への影響の推計と開示、また投資や融資におけるサステナビリティの確保が求められつつある。ポストコロナにおいては、感染症などの脅威に対して企業が充分な戦略と対策を講じて実施することがこれまで以上に求められるだろう。パンデミックの環境下、健康安全や社会インフラとしての機能維持に係る内部統制の水準も、企業価値を図る一つの基準になりうる。

執筆者

勝藤 史郎/Shiro Katsufuji
有限責任監査法人トーマツ ディレクター

リスク管理戦略センターのディレクターとして、ストレス関連情報提供、マクロ経済シナリオ、国際金融規制、リスクアペタイトフレームワーク関連アドバイザリーなどを広く提供する。2011年から約6年半、大手銀行持株会社のリスク統括部署で総合リスク管理、RAF構築、国際金融規制戦略を担当、バーゼルIII規制見直しに関する当局協議や社内管理体制構築やシステム開発を推進。2004年から約6年間は、同銀行ニューヨー...さらに見る

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