最新動向/市場予測

「金融行政方針」に求められるより中長期的な視点~諸外国との比較から

リスクインテリジェンス メールマガジン vol.62

金融規制の動向(トレンド&トピックス)

有限責任監査法人トーマツ
リスク管理戦略センター
シニアマネジャー
対木 さおり

8月末に、金融庁が、2020-2021年の「金融行政方針」を公表した。その副題は、「コロナと戦い、コロナ後の新しい社会を築く」とされており、コロナ後の社会を展望した論点・視点を多数盛り込んでいることが今回の特徴であると考えられる。項目としては、副題でもある「コロナと戦い、コロナ後の新しい社会を築く」、「高い機能を有し魅力のある金融資本市場を築く」「金融庁の改革を進める」とされており、項目ごとに具体的な取り組み方針が記載されている。

例えば、地銀再編等を睨み、①新しい産業構造への転換を支えられる金融のあり方について検討、②デジタル技術により、付加価値を創出できるよう、規制上の制約の解消等に取り組む、③書面・押印・対面を前提とした業界慣行の見直し、④決済インフラの高度化・効率化、⑤コロナ後の社会にふさわしい顧客本位の業務運営の更なる進展、⑥サステナブル・ファイナンスに関する検討、等が列挙されている。

また資本市場の活性化の観点では、①金融行政プロセスの英語化や登録手続きの迅速化、②税制を含めたビジネス環境の改善策の検討、③取引所における市場構造改革の推進や取引所外の資金の流れの多様化などに対する言及がなされている。規制緩和、市場の活性化等の視点が多く盛り込まれていることは、菅新政権の方向性に近いものであると考えられ、前向きな取り組みを想定していることが見て取れる。

一方で、例えば、デジタル化に向けた取り組みに関しては、本行政方針でも多くの論点で言及があるが、欧州やアジア各国等(後述)でも8月中、多くの事例が公表されている。諸外国との比較の観点からは、規制改革も同様であるが、デジタル化という社会構造の変化を背景として、短期的な視点ではなく、むしろ中長期的な視点から取り組むべき課題であると考えられる。

例えば、シンガポールでは、「金融セクター技術&イノベーション(FSTI)」の第2弾として、今後3年間で計2.5億シンガポールドルを投じる計画を発表した。インドネシア金融庁(OJK)も、2020年から2024年のデジタルファイナンスイノベーションに関するロードマップとアクションプランを発表し、監督規制に関する戦略に加え、今後の取り組みについて言及。また、マレーシア中銀もThe Malaysia Digital Economy Corporation(MDEC)によりフィンテックブースタープログラムが開始されたと発表。国内拠点のフィンテック企業に能力開発プログラムを提供する予定となっている。

金融行政方針の一環としての政策目標やKPIといった視点は、明確性・透明性、金融機関や市場関係者、国民とのコミュニケーション向上に向けとして、有効なツールだと考えられる。一歩進んで、規制改革やデジタル化などの中長期的な視点からはどのような工夫が考えられるであろうか?例えば、先般公表されたオーストラリアのASICの2020年から2024年のコーポレートプランが一つの参考になるであろう。ASICは、今後数年間の戦略的優先事項を公表する中で、①パンデミックを受けた目先の戦略的優先事項と、②長期的なフォーカス分野として、意識的に区別している。社会構造が大きく変動している中で、社会の変革を後押しし、金融市場の魅力を高めるためには、短期・中長期の時間軸も意識しつつ、行政側も「選ばれる市場」になるために政策方針を内外に分かりやすくアピールしていく必要があるのかもしれない。

執筆者

対木 さおり/Saori Tsuiki 
有限責任監査法人トーマツ リスク管理戦略センター シニアマネジャー

財務省入省後、大臣官房にて経済・政策分析業務、関東信越国税局(国税調査官)、理財局総務課・国債課にて、国有財産・債務管理や国債発行政策策定に従事。米国コロンビア大学にて修士号(MPA)取得(IMFインターン等を経験)、その後大手シンクタンクにて、政策分析・経済予測、関連調査・コンサルティング業務を担当。

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