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TCFD関連セミナー開催報告レポート

気候変動リスクへの挑戦 ~気候変動リスクに係るシナリオ分析、財務インパクト分析、開示~

有限責任監査法人トーマツは、2019年3月20日に「気候変動リスクへの挑戦 ~気候変動リスクに係るシナリオ分析、財務インパクト分析、開示~」セミナーを開催しました。本ページでは、開催レポートとして講演内容のサマリおよびセミナー概要をご紹介します。

本セミナーの取材記事が、株式会社日本工業新聞社発行『月刊ビジネスアイエネコ(2019年5月号)』に掲載されました。

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講演サマリ

本ページにおいては、有限責任監査法人トーマツおよびデロイト関係者のセッションのみご紹介します。

 

「開会のご挨拶」

有限責任監査法人トーマツ パートナー、デロイト サステナビリティ 日本統括責任者、デロイト トーマツ サステナビリティ株式会社 代表取締役社長
達脇 恵子

TCFDへの注目の高まり

昨今、気候変動に対する関心が高まっており、中でもTCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース、The FSB Task Force on Climate-related Financial Disclosures、以下「TCFD」とする)が大きな話題となっている。気候変動による企業へのインパクトは業種によっても様々であるが、本日は特にインパクトが大きい業種として考えられている運輸セクターやエネルギー、あるいは金融や保険の方を中心に本セミナーにお招きした。

気候変動を企業経営に取り込むために、気候変動シナリオを想定した事業へのインパクト(リスクと機会)についての分析(シナリオ分析)が今後業種を超えて広がっていくことが想定される。  

しかし、2018年に発行されたTCFDのステータスレポートにおいて、シナリオ分析については業種を問わず苦慮していることが発表された。本セミナーが、そのような企業の皆様の一助となれば幸いである。

 

「TCFD開示の強化と事業戦略の適合 ~TCFDに関するフランスでのベストプラクティス」

デロイト フランス パートナー
エリック・ディジュレイ

サステナビリティにおいて最も重要なアジェンダは気候変動

米国運用会社のCEOが、戦略的に重要な項目としてサステナビリティを挙げており、ダボス会議でも話題になっている。「世界経済フォーラム グローバルリスク報告書2019年版」においては、上位5つのリスクのうち、3つが環境リスクであり、特に気候変動リスクへの注目度の高さがうかがえる。

一方で、企業にとって難しいのは、気候変動は将来起こるかどうかといった不確実性が高いことであり、気候変動を経営戦略に取り入れるためには、リスク分析が重要になる。リスク分析を進める際に、TCFDが言及しているリスクは、「物理的リスク」と「移行リスク」の2つである。

  • 物理的リスク:台風、干ばつ、洪水など
  • 移行リスク:企業が新しいプロダクトやサービスへ移行する際のリスク、新しい規制への対応や新しい顧客が提示する新しい要件への対応など


TCFD提言への注目度が上がっている一方、今後の課題はシナリオ分析

TCFD提言への賛同企業は、同提言を公表した2017年6月時点で100社超であったが、2019年3月現在では601社と増加している。

気候関連の情報開示において、フランスではTCFD提言よりも前に自国で開示規則を設けている。フランスは、現時点で唯一気候関連の情報開示を規則化した国であり、そのためTCFDの適用率も高い。EUにおいても非財務情報指令のガイダンスがTCFD提言に合わせる改訂が行われる予定である。同ガイダンスに強制力はないがEUでもTCFDを適用することを意味していると考えることができる。

また、TCFD提言に関する情報開示の領域は、「ガバナンス」・「戦略」・「リスク管理」・「指標と目標」の4つで、開示を推奨している項目は4つの領域の合計で11項目ある。その中でも「戦略」におけるシナリオ分析が、その複雑さから今後の課題として挙げられる。

2018年9月に発行されたTCFDのステータスレポートでも、シナリオ分析は複雑で、実施している企業も限られていることが指摘されている。2019年に公表予定の2回目のステータスレポートでは、シナリオ分析の実施企業は増えていることが示される予定である。


シナリオ分析を実施することの利点

シナリオ分析を実施する上で、IEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)やIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の既存の化学的なシナリオを使うことになるが、企業活動にあてはめることは難しい点もある。したがって、どのシナリオを使用するか、ステークホルダーは誰かといったことを検討し、できる限りモデル化していくことになるだろう。シナリオ分析のアプローチはたくさんある。分析をし、その結果に基づき戦略的な決定を行う。こうしたプロセスを通じて社内の気候変動に対する意識を高めていくことにもなる。

 

「シナリオ分析の実践 ~気候変動シナリオによる事業影響評価(運輸、エネルギーセクター等)、シナリオ分析の実務事例を踏まえた今後の課題と対応」

有限責任監査法人トーマツ マネジャー
中島 史博 

TCFDが提言する情報開示において最も重要なものとは?

TCFDは4つに分類される11項目の情報開示を提言している。エリックの講演にもあったように、この中で最も重要となるのは戦略の中の「気候変動シナリオ分析」である。

気候変動シナリオ分析におけるプロセスは、TCFDテクニカルサプリメントで示されている通り、「1.ガバナンス整備」、「2.リスク重要度の評価」、「3.シナリオ群の定義」、「4.事業インパクト評価」、「5.対応策の定義」、「6.文書化と情報開示」である。どのような企業も最終的には、シナリオ分析の結果を「どのようなシナリオであっても自社の戦略は盤石だ」とするため、事業インパクト評価(上述の4)でリスクが大きく出た場合は、対応策の定義(上述の5)でリカバリー策が問われることになる。またシナリオ分析を投資家との対話ツールとして機能させるためには、財務影響の試算が必要となる。


移行リスクと物理的リスク に対する事業影響評価の具体的な進め方

  • 移行リスク
    有償のIEA 発行物等が有用だが、いずれも400ページを超える膨大な量を紐解きながら自社の事業と関連するものを抽出する必要がある。無償で活用できる公開情報の一例としては、欧州の金融機関を中心とした2℃投資イニシアティブが発行している「The Transition Risk-O-Meter」がある。これは、エネルギー消費が多い7つのセクターについて、重要パラメータを設定し、既存シナリオを基に紹介している。
  • 物理的リスク
    評価に有用な公開ツールが充実しつつある。世界地図を使った将来の洪水リスク評価ツールを活用すると、例えば不動産業界において洪水に晒された保有不動産の数をシナリオ分析として評価することができる。また直近の新聞等において、海水温の上昇による海苔の収穫量低下が報道されたが、これも気候変動リスクと考えている。グローバルで2050年、2080年の農作物の収穫予測データを提供する公開ツールも存在している。あるいは日本では、2018年に「気候変動適用法」が施行されており、よりローカルな物理的リスクを評価するための参考情報が充実し始めている。
     

「自社の将来は 盤石」!?米国の電力会社の事例

海外のベストプラクティスとして、一つ事例を挙げる(実際の講演においては複数の事例を紹介)。15か国に展開するFortune500の米国の電力会社は、財務、企業リスク・戦略、サステナビリティ、法務、業務部門を巻き込んだ収益分析を実施している。具体的には、1.5℃から6℃の気温上昇を想定した3つの気候変動シナリオを想定し、6種のインプットを与え、2040年断面での3つの事業グループの利益構造を評価している。その結果、2040年にはどのシナリオでもクリーンエネルギー事業からの利益が大半を占め、15か国の地理的分散、炭素価格等のコストが転嫁できるPPA(Power Purchase Agreement)により「自社の将来は盤石だ」と示している。

 

「動態的ERMの先進他社事例(財務インパクト分析の精緻化と定量化の試行) ~気候変動リスクの特徴(物理的リスク、移行リスク)と動態的ERMの必要性」

有限責任監査法人トーマツ ディレクター
後藤 茂之

不確実性への挑戦

TCFDではシナリオ分析を通じて戦略面の考察を行い、将来のオポチュニティとその裏にあるリスクについて考えるべきという要請をしている。一方で、COSOのフレームワークにESGの観点を入れるべきという論議が広がっている。これは不確実性(まだリスクとして捉えられていないもの)が非常に高い気候変動において、難易度が高い目標といえる。しかし、今後の企業経営で挑戦していかなければならないことである。
 

“今”なぜ気候変動リスクへの注目が高まっているのか?

まず、ダボス会議のトップリスクに気候変動リスクが取り上げられているという背景がある。そして気候変動リスクの特徴として、短期・中期・長期、全ての目線が必要であり、大きな不確実性が存在するため、従来の取り組みだけでは対応しきれず、企業価値の考え方やポートフォリオ管理の考え方の変更の必要性が生じている。これらのことから、気候変動リスクへの注目が高まっている。
 

気候変動リスクは従来の考え方では捉えきれない

気候変動リスクの特徴は以下の3点である。

・時間軸が長い
・不確実要素が多い
・過去のデータから将来パターンを予測できない

これにより、従来のストレステストと気候変動シナリオ分析に非常に大きなギャップが存在する。そこでERM(Enterprise Risk Management)強化のために必要になることは、マインドセットの転換、ガバナンス、マネジメントの補強である。

気候変動という不確実性は従来のフォワードルッキング手法のみでは捕捉できない。将来の環境前提の変化を大胆に想像して、そこから現在に逆算して考えるバック・キャスティングという手法が有効となる。2つの手法を比較することで明らかとなる、両者間のギャップ(=戦略的リスク)を意識した経営戦略論議が不可欠となる。
 

今後気候変動リスクをERMの枠組みの中に組み込むことが「挑戦」

気候変動リスクに対する先進的な事例を見てみると、現状の課題として以下が抽出できる。

・整合性の強化:マクロモデルとミクロモデルの双方の活用
・経営管理におけるミクロ分析の充実:キャッシュフローへの影響への連動
・統合的分析の強化:リスクと機会を統合した評価

ERMの進化に向けて以下の視点が必要となる。

・モデルの限界を理解したうえで戦略的意思決定への活用を強化
・自然資本に対するモニタリングの強化、財務資本だけでは不足
・財務要素と非財務要素の連動

セミナー概要

当日のプログラム等、本セミナーの概要はこちらをご覧ください。 

取材記事

株式会社日本工業新聞社発行『月刊ビジネスアイエネコ(2019年5月号)』に取材記事が掲載されました。

(PDF, 485KB)

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