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Chair of the Future - 取締役会議長インタビュー

株式会社大和証券グループ本社 日比野 隆司氏

デロイトでは、取締役会や経営幹部の皆様が共通して関心を寄せる重要なトピックに取り組むべく、「Deloitte Global Boardroom Program」を実施しております。このプログラムの一環として「取締役会議長」にフォーカスをあて、インタビューを実施しました。

<プロフィール>
株式会社大和証券グループ本社
取締役会長兼執行役(取締役会議長)
日比野 隆司(Hibino Takashi)

1979年に大和証券株式会社入社。2004年に株式会社大和証券グループ本社 取締役兼常務執行役、2009年に取締役兼執行役副社長を歴任し、2011年より取締役兼代表執行役社長 最高経営責任者(CEO)に就任。2017年からは取締役会長兼執行役(現任)。

その他、電波監理審議会 会長、日本証券業協会 副会長、日本経済団体連合会 審議員会副議長、株式会社帝国ホテル 社外取締役を務める。

“取締役会では報告よりもディスカッションに時間を割き、事前説明の充実や報告の簡素化を通じ、会議の効率化を図る“

Q. 取締役会議長就任後の意識・役割の変化や、メンバーの意見を引き出すために意識していること

A. 当社は、2004年から委員会等設置会社(現在の指名委員会等設置会社)を採用しており、取締役会は基本的にモニタリングボードとしての役割を担っています。取締役会議長は歴代の取締役会長が務めており、執行役も兼務しています。非業務執行の会長が議長を務めるケースとは異なりますが、経営の連続性や執行と監督、即ち執行役会と取締役会の円滑な連携の観点からこのような体制としています。

 取締役会議長として、議事の整理や社内外の取締役との円滑なコミュニケーション等を意識しています。当社は取締役の半数が社外取締役で、皆さん多忙を極めている方々ですので、会議中は報告よりもディスカッションに時間を割き、限られた時間の中でメンバーの議論を引き出すよう意識しています。

 そのために、事前説明の充実や報告の簡素化を通じ、会議の効率化を図っています。事前説明の際には、案件の担当部署と取締役会室からの説明に加え、議題によっては、事前に開催されている執行役会の録画も見ていただいております。例えば、中期経営計画策定の過程や進捗状況について議論した執行役会の録画を社外取締役に配信しました。これらの対応により、取締役会では執行役会の報告に付随する内容は割愛し、なるべくディスカッションに時間を割く形にしています。

 経営の根幹に関わるテーマや決算報告の際は、基本的に全員が意見を述べられていますが、コロナ禍ではオンラインもしくはリアルとのハイブリッドによる会議開催が多かったため、会議中に発言のなかった方については、確認の意味も含めて私からご発言が無いか聞くようにしています。

 また、議事運営に直接関係することではありませんが、社内外の取締役の懇親を図ることも議論活性化のベース作りとして重要だと考えており、年に1回は社内外の取締役を集めたオフサイトミーティングを開催しています。テーマは毎回異なりますが、直近はデジタルトランスフォーメーション(DX)に知見のある社外取締役のレクチャーを聞いた上で、ディスカッションを行いました。

Q. コロナ禍前後で中長期の戦略・事業計画についての議論の変化

A. 2020年度は、新中期経営計画を策定する過程で、取締役会においてコロナの影響を含めた議論を複数回にわたって行いました。今回のコロナ禍を契機とした日本社会におけるDXの加速を受けて、DX推進に関する議論が濃密になったと思います。アメリカでも、コロナ対応を契機にDXが更に加速したと言われていますので、世界の動きと日本の変化の両面を踏まえた上でビジネスを考えていかないといけないという意識も強まっています。

 当社グループに関して言えば、例えば、コロナ前から生産性向上や働き方改革のためにリモートワーク体制の整備に取り組んでいたこともあり、コロナによって急に考え方が変わったとは感じていません。また、コロナ禍による事業環境の変化が限定的であったこともあり、取締役会での議論についてコロナ前と比較して大きく変化してはいないと思います。コロナ禍により、取締役会の議論がリスク管理サイドにややバイアスがかかる傾向があったかもしれないという程度です。

 ただ、DXの加速に伴って、サイバーリスクの脅威は高まってきていると感じています。当社は元々リスク管理を組織的に強く意識しており、サイバーリスクはトップリスクの1つとして位置付けられています。取締役会でも重大なリスクとして認識されており、社外取締役にはITに強い方もいらっしゃるため、色々とご指導をいただいています。

Chair of the Future - 取締役会議長インタビュー : 株式会社大和証券グループ本社 日比野 隆司氏 (PDF, 325KB)

“社外取締役との間で期待する役割や企業文化について確認、執行側のアニマルスピリッツを削がないバランス感覚も重要“

Q. 企業と社会の関係変化、特にサステナビリティ動向・気候変動

A. 世の中全体の動きとして、気候変動をはじめサステナビリティを重視するようになってきており、当社でも関連するテーマについて取締役会で議論を行っています。特に、当社ではかなり早い段階からSDGsを経営の基本方針に取り入れて取り組んできました。その一環として、2018年にはグループのSDGs推進に関する議論を行う場として、CEOを委員長とするSDGs推進委員会を設置し、当該委員会で行われた議論は取締役会に随時報告するようにしています。さらに、2019年にはSDGs担当執行役という役職を持株会社である当社に設置するなど、世間一般と比べても、当社は早い段階からサステナビリティに対する意識が高かったと感じています。また、投資を通じた社会貢献である「インパクト・インベストメント」を取り扱った第一号が当社であったことからも、企業カルチャーとして、当社には伝統的にパイオニアとしての意識が根付いていると思います。我々の業界自体がESGやサステナブルグロースに対する意識が高いということも相俟って、私たちも先行した取組みを行うことが出来ています。

 金融業界においては世界的にも全ての投融資がESGに紐づいていくような時代になったと感じています。ESGのE(Environment)について、日本では特にトランジションファイナンスを中心に、相当なボリュームの資金が必要となることは明らかです。ESG投資が急拡大する中でリーダーシップを発揮していくことが当社の最大のミッションになるだろうと思っています。当社は2021年に新たな中期経営計画を発表しましたが、並行して「2030Vision」という10年タームの大きな目標を設定し、SDGsの達成に貢献する中でグループの中長期的な企業価値向上に向けた重点分野や課題を整理しています。

Q. 東証市場区分見直し、コーポレートガバナンス・コードの改訂などガバナンスに関する資本市場の要請

A. コーポレートガバナンス・コードは、3年ごとに改訂され外形基準のハードルが上がっていますが、現在は、コードの導入・改訂の効果について、しばし立ち止まって実証的な分析を行う時期に来ていると思っています。もちろんコーポレートガバナンスの重要性自体に異議を唱える訳ではありません。しかし、企業の成長という観点では、個人的には経営者のアニマルスピリッツやアントレプレナーシップ等の方が形式的な基準よりも重要だと感じます。

 東証の市場再編については、一部上場企業の多くがプライム市場に行くのではないかというのが一般的な見方です。外形的に劇的な変化は無く、あくまで上場していることの意義を改めて問うということに留まるのではないでしょうか。コーポレートガバナンス・コードの改訂と重なり、プライム市場に適用される基準に多くの会社がコンプライしていくことになると思います。しかし、例えば独立社外取締役を1/3以上選任するといった際に、企業規模によっては、コンプライすること自体が企業の負担になってしまうことも想定されます。自社の状況やリソースに鑑みて、コンプライすることにこだわらず、積極的にエクスプレインされても良いのではないでしょうか。

 今回のコード改訂では、独立社外取締役の割合やダイバーシティ推進等、様々な改訂がありましたが、形式に引っ張られるのではなく、実態として本当に価値があるかどうかという観点が大事だと思います。基準を達成することがゴールではなく、その基準を満たすことで企業価値向上に繋げていく、という観点で経営に取り組んでいただくのが良いのではないでしょうか。

Q. 対面ではなくオンライン形式での議事運営を円滑に進めるにあたって工夫した取り組み

A. 社内外に関わらず、やはり新任の取締役の方にとって、良く知らない方々とのオンライン会議はハードルが高いと思いますので、フォローが必要です。当社では2020年度、2021年度と新任の社外取締役の方が加わったので、都度、新規メンバーと既存メンバーのスモールミーティングを対面で実施し、オンライン会議の場が初対面ということがないようにしました。

 コロナ禍での取締役会は基本的にオンラインないしはリアルとのハイブリッドの形式による開催でした。会議出席のために社外取締役の方に遠方からわざわざ来社していただかなくても良いため、日程調整も含め効率性は向上したように思います。

 オンラインによる議事運営を円滑に進めるにあたって、導入当初に通信環境の整備を行いました。事前説明等については、会議開催形式に関わらず、以前から相当丁寧に行っていることもあり、オンラインでの会議開催になったからといって特段問題は発生していません。また、役員の皆さんが発言しやすい環境作りとして、挙手をされた方はもちろん、挙手がなかった方を含め、会議終了段階で言い忘れたことや疑問に感じたことがなかったかどうかを今一度問いかけるようにしています。

Q. 次世代の取締役会議長に対してアドバイス

A. 当社では、執行役兼務取締役である会長が取締役会議長に就任することが通例であるため、私からのアドバイスも社内役員が取締役会議長に就任される方向けになります。取締役会議長は社外取締役の方々との間で、期待する役割についての認識や企業文化に関する理解に齟齬が出ないことをしっかり確認することが大事ではないでしょうか。

 取締役会については、社外取締役とも連携しモニタリングをしっかり行っていく一方で、社内と社外の取締役の結節点として連携を促していく必要があると思います。また、執行側のアニマルスピリッツを削ぐことがないようなバランス感覚を保つことも重要です。

デロイト トーマツ コーポレートガバナンス ライブラリー

デロイト トーマツ グループでは、コーポレートガバナンスに関するインタビュー記事や、各種の調査・研究結果レポートをリリースしております。デロイト トーマツ コーポレートガバナンス ライブラリーでは、これらの調査・研究の結果を公表しております。

デロイト グローバル コーポレートガバナンス センター

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