事例紹介

Steward of Capitalとしてのアカウンタビリティ

投資家が経営者・取締役に期待する役割

デロイト トーマツ グループでは、コーポレートガバナンスの観点から、持続的な成長及び中長期の企業価値向上に資する情報提供を目的として、事業会社、機関投資家の考えや取組みをインタビュー形式で紹介いたします。今回は、アセットマネジメントOneのロンドンを拠点とするグループ会社 Asset Management One International のDirectorで責任投資スペシャリストの Karin Ri(李 嘉林)氏に、日本企業や英国企業など多くの国の企業との豊富なエンゲージメント経験を踏まえた、投資家が経営者・取締役に期待する役割について伺いました。

過去のインタービュー記事についてはこちらをご覧ください

スチュワードシップの分野においても、アセットマネジメントOneはグローバルな視野でリーダーシップを発揮していきたい

Asset Management One Internationalは、グループの中でどのような役割を担う会社なのか、その概要を教えてください。

Ri :アセットマネジメントOne株式会社(以下「アセットマネジメントOne」という)は、日本を代表する資産運用会社であり、運用力の強化、グローバルな分散投資を図るため、ロンドン、ニューヨーク、シンガポール、香港を拠点とするグローバルネットワークを展開しています。ロンドンを拠点とするAsset Management One International Ltd(. 以下「当社」という)は、EMEA(欧州、中東およびアフリカ)地域での法人顧客サービスを担っています。

私自身は2005年2月から2015 年5月までの10年間をHermes Investment Managementで過ごし、日本を含めたアジア企業を中心にコーポレートガバナンス等の分析・評価とエンゲージメントを行っていました。その後Mizuho Internationalで2年半の勤務を経て2017年12月に当社に入り、現在は、主に英国や欧米の投資先企業とのエンゲージメントなど責任投資関連のスチュワードシップ活動を担当しています。現在、アセットマネジメントOneでは責任投資部門に10人以上のスペシャリストが置かれて、そのほとんどがファンドマネジャーやアナリスト経験が豊富な人材で構成されています。東京のメンバーとのスチュワードシップ活動に関する意見交換や情報共有も大切な役割です。

ロンドンの拠点に責任投資スペシャリストという新しいポジションを設けた趣旨は2つあります。1つ目は日本以外の投資先企業にも積極的にエンゲージメントを行うなど、スチュワードシップ活動をグローバルで展開していくことです。2つ目は、スチュワードシップやコーポレートガバナンス等に関わるパブリックポリシーやベストプラクティスについて現地の規制当局、他の投資家や各種業界団体とも頻繁に意見交換する機会を設けることです。これらによりアセットマネジメントOneは、日本のリードアセットマネジャーとしてスチュワードシップの分野での活躍と発言力をより高め、グローバルな視野でリーダーシップをとっていきたいと考えています。


多くの海外企業とエンゲージメントしていると見えてくるものがあります。日本の皆さんは、よく英国の企業はESG分野で先進的だとおっしゃいます。

確かに、先に取組みを始めたことで学ぶことも多いですが、実務などでも様々な課題をも抱えています。英国で導入されたシステムをそのまま外形的に移入しても、形式的な取り組みとなりがちです。大事なことは、コーポレートガバナンス原則の趣旨・精神(Spirit)を理解したうえで、日本に必要な改革をプライオリティとして進めていくことだと思います。また、スチュワードシップのクオリティを高めるエンゲージメントを行うために大切なのは、価値創造に向けたインベストメントチェーン全体の最適化を図ることだと考えています。そのためにアセットマネジャーが果たすべき役割は重要です。スチュワードシップに関してもコーポレートガバナンスに関しても、日本だけにフォーカスして議論するのではなく、グローバル視点にたって何が大事なのか何が課題なのか、特にその背景に何があるのか、より広い視野でのアプローチをとることが大事だと考えています。そのために海外でのスチュワードシップ活動に直接かかわることによって得たことを活かすためにも、東京の責任投資部のメンバーとも常にディスカッションして、日本企業とも効果のあるエンゲージメント、意義あるスチュワードシップにつながるような形で貢献したいと思っています。それが日本のマーケットにもポジティブな効果としてつながれば良いと思っています。

 

何のためにエンゲージメントするのかという目的と意図を明確にし、企業個別のビジネスモデルや置かれている事業環境を踏まえた上で、課題解決と付加価値につなげる

エンゲージメントをするうえで、大切だと思っていることを教えてください。

Ri :まずは、本日のお話は全て私の個人的な見解となる点について、ご理解して頂ければと思います。エンゲージメントに関しては、まず、何のためにエンゲージメントするのかという目的とその意図がとても大事です。少し抽象的ですが、目的、意図を明らかにして、それを達成するために十分に準備したうえでエンゲージメントしないといけないと思います。これがエンゲージメントの質にも、そしてその結果にも、さらにアプローチのストラテジーにも影響を与えます。

2つ目は全体的・包括的(Holistic)な視点を持てるだけのナレッジとスキルです。エンゲージメントは企業をマイクロマネジメントすることではなく、株主として投資先企業を後押しすることだと考えています。しかも、経営陣や取締役会メンバーとの建設的なエンゲージメントを通じて、中長期的な企業価値向上に貢献し、Win-Winとなる状況を目指さないといけません。アセットマネジャーにはそれを達成できるだけのナレッジとスキルが必要で、それには企業全体を分析し、理解できる包括的な視点が必要になるのです。具体的には、企業個別のビジネスモデルや置かれている事業環境と課題、競争優位性に基づいた企業戦略、それと整合性のとれた資本政策・財務戦略(Capital Allocation)、株主還元方針等に対する考え方、リスクマネジメント、そして取締役会の実効性などです。特に私が主に担当するEMEAの投資先企業では独立社外取締役である取締役会の議長や主要委員会の委員長と直接に面会する機会も多く、建設的な対話(Dialogue)に繋がるケースも多くあります。まず聞く耳をもって企業の考えを理解することが大事です。そのうえで、懸案事項についてのソリューションにつなぐためには、中長期的な投資リターンとリスクの観点から、重要な課題を捉え整理していくアプローチが必要です。ガバナンスやESGだけに関するエンゲージメントといった狭い範囲でのアプローチではなく、個別企業の事業戦略と財務についても理解した包括的なアプローチが必要だと思います。

3つ目はエンゲージメントによる付加価値です。企業価値向上が目的ならば、一方通行ではなく、より相互理解と信頼関係に繋がる建設的な対話が重要です。結果につながるエンゲージメントを目指すのなら、企業が直面するチャレンジと障壁をも理解しないといけませんし、それに関連する質問も行います。

 

日本企業のガバナンス改革に関するこれまでのポジティブな流れが持続的なものになるには、次のステップとアクションが必要

日本企業の投資先としての魅力やポテンシャルについて教えてください。

Ri:前職も含め、私が日本企業とのエンゲージメントをはじめたのは2005年頃でしたが、4~5年前と比べても、間違いなくポジティブな進歩が3つあります。

1つ目はコーポレートガバナンスに対する経営者の関心の高さです。伊藤レポートのドラフトが公表され、以降スチュワードシップ・コードとコーポレートガバナンス・コードが日本に導入されるといった様々な流れの中で、経営者のコーポレートガバナンスについての関心が高まり、海外投資家の意見を聞きたいという企業も多くなりました。同時に、独立社外取締役の方の数も著しく増えています。次に取締役会の実効性や期待される独立社外取締役の役割等が議論になるとは思いますが、コーポレートガバナンスへの関心が日本企業と経営陣の間で高まってきたことはポジティブに捉えています。

2つ目は株主還元の向上に対する意識も4~5年前と比べて高くなったことです。株主還元の意義を企業は意識するようになったと感じます。

3つ目はROEに対する意識の高まりです。伊藤レポートやコーポレートガバナンス・コードをきっかけに、近年はROEについてのディスカッションが増えており、ROE目標を提示する企業の数も増えてきました。実際、ROE水準も上がってきており、一部の企業のバリュエーションにも株価にも反映されています。

この一連の流れの中、海外の投資家が注目しているのは、日本企業の進捗やROE改善などが持続的なものかどうかということだと思います。言い換えれば、ガバナンスに関する企業のアクションが、コーポレートガバナンス・コードに形式的に対応したものなのか、実質を深く理解したうえで付加価値創造と経営の質の向上に継続的につながっていくのか、そこが海外の投資家が関心をもって注目しているところだと思います。今の状況をみると企業の間で差が出てきていて、おそらくその差は今後さらに拡大していくでしょう。それは、投資家から見ても見極めが容易になると思います。自社の状況や課題をよく考え、ガバナンスの本質を意識して取り組む企業ほどベネフィットを得られるような差が出ることは、悪いことではないと思います。

 

続きはPDF『Steward of Capitalとしてのアカウンタビリティ-投資家が経営者・取締役に期待する役割-』をご覧ください。


※所属・役職はインタビュー当時のものを掲載しております

デロイト トーマツ コーポレートガバナンス ライブラリー

デロイト トーマツ グループでは、コーポレートガバナンスに関するインタビュー記事や、各種の調査・研究結果レポートをリリースしております。デロイト トーマツ コーポレートガバナンス ライブラリーでは、これらの調査・研究の結果を公表しております。

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