最新動向/市場予測
パンデミック対応の取り組みに関わる主要課題
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から顕在化した対策のポイント
目次
- BCP(Business Continuity Plan: 事業継続計画)見直し
- 代替サプライチェーンの対応
- リモートワーク/テレワーク導入
- IT(Information Technology)基盤再検討
- シナリオプランニングと事業戦略
- 企業活動の人材面からの継続対応
- タレントモビリティにおける危機管理
- 顧客との関係維持対応
- 人事労務分野における危機管理
- 緊急時の資金管理の重要性
- COVID-19のためのステークホルダーコミュニケーション
- プロフェッショナル
今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をきっかけに、取り組むべき課題が顕在化した企業が増えています。ここでは顕在化が想定される主要課題についてピックアップし、今後の対策のポイントについて概観します。
なお、デロイト トーマツ グループでは、速やかな事業活動回復からポストCOVID-19としてNew Normalを見据えた幅広いサービスを提供していますのでご参考ください。
<対策のポイント>
新型コロナウイルスに関連するデロイトの知見については以下のサイトでも紹介しています(英語)。
Combating COVID-19 with resilience
BCP(Business Continuity Plan: 事業継続計画)見直し
2019年6月発行のにデロイトの調査レポート「Rising to the challenge - 日本企業のクライシスマネジメント」によれば、パンデミック対応を含む健康危害対策に自信を持っている企業は14%にとどまります。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をはじめ、2002年のSARS、2009年の新型インフルエンザ(H1N1)、2012年のMERS等、過去度々世界的な感染症被害が発生しており、パンデミック(感染症の大流行)となった際に、国内外それぞれの拠点が余裕を持って対応できる体制の構築が急務となっています。
パンデミック対応については過去に策定した感染症BCPを発動するも、刻々と変化する状況や錯綜する情報への対応に追われ、適時適切な対応の判断の難しさを実感している企業が多く見受けられます。一方で、いくつかの企業では近年相次ぐ自然災害及び二次的・三次的被害の経験から、様々な危機に対応可能なオールラウンド型BCPへの見直しを進めつつ、下記のような打ち手を迅速に実行しています。
- 不要不急の業務の特定と業務の一部停止
- 業務停止に係る影響分析(顧客に対する影響や自社収益に係る影響)
- テレワークの推進
- 代替調達先の確保等のサプライチェーン強靭化
- 時差出勤や交代勤務 等
代替サプライチェーンの対応
全世界のサプライチェーン網に影響が出始めている中、サプライチェーンリスクマネジメントに取り組んできた企業は、代替サプライチェーンへの変更の検討を始めています。COVID-19の影響は特にサプライチェーンコストの増大に繋がると考えられ、代替サプライチェーンを以前から検討してきた企業はその実害を最小限にすることを目標としています。
代替サプライチェーンの主な戦略としては、「代替生産/物流網の構築」、「代替供給網の構築」、「必要在庫の早期確保」、「需要シグナルの把握と対応」、「バリューチェーンプレーヤーとの関係構築」等々がありますが、いずれにせよ事前の計画作りが重要です。
先進企業群は、リスク発生時の動的な製品物流の変更を可能としますが、これには全世界のサプライチェーン可視化と共に、機動的なサプライチェーンの組織編成が必要となります。リスクを想定した弾力性のあるサプライチェーンの構築は、継続的な企業運営に欠かせない要素となっていることは、今回のCOVID-19対応により明確になったと言えます。
リモートワーク/テレワークの導入
新型コロナウイルス感染者の拡大に応じて、政府からも時差出勤やリモートワークの積極活用の要請が発信されています。感染者の拡大を防止する一方で、ビジネスを止めないためにも可能な範囲でリモートワークを徹底する必要があると考えられます。リモートワークは「働き方改革」の文脈においてトピックに挙げられてきましたが、十分浸透しているとは言い難い状況です。その一方で、今回のコロナウイルス対応はその大きなきっかけになると思われます。
デロイトが実施した働き方改革実態調査2020においても、働き方改革のマチュリティが高い企業はリモートワークやシェアードオフィス等、オフィス外の勤務の実施率がほぼ100%でしたが、働き方改革のマチュリティの低い企業はオフィス外勤務実施率が38%と低い結果となっており、企業間の取り組みの差が表れています。具体的に実施するにあたり、まずはオンライン会議システムやビジネスチャットシステムの導入が必要となるでしょう。
実際に運用するためには、対面を前提としなくとも業務を遂行可能な体制やルール整備が重要です。特に、全社一体となった推進には、トップダウンでの意思決定、実際に現場を預かる中間管理職の業務管理やチームマネジメントの高度化が鍵になります。
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働き方改革実態調査2020
IT(Information Technology)基盤の再検討
COVID-19リスクの高まりを受けて、リモートワークの実現ばかりが注目されています。しかしながら、当該リスクへの対応においては、長期戦を覚悟し、今回の対応の難しさを適切に理解し、以下のような課題を如何に克服すべきか、精緻な検討を進める必要があります。
<認識される課題の例>
- リモートワークの対応規模の大きさ/期間の長さ
- サプライチェーンの再編成等の業務改訂範囲の大きさ
- 新入社員、組織再編、人事異動、年次決算等々のIT処理集中/改訂時期重複
- 対応の緊急性/予算確保の難しさ
- 内部外部に限らず要員/従来の生産性確保の難しさ
また、IT基盤の構築においては、用意周到な計画・実行を実施していくかをチャレンジとしなければなりません。
<計画・実行における主要ポイント>
- 緊急度/優先度の高い対応の取り組み
- プロジェクトの延期や停止を含めたITプロジェクト全体計画のリバイス
- リモートワークを最大化する前提の運用を含むIT部門業務の見直し
- 要員(内部/外部)の積極的確保と再配置
- 外部コンピューティング資源の積極的活用
シナリオプランニングと事業戦略
欧米では1980年代からシナリオプランニングの手法を事業戦略に活用することで、不確実性や危機的な事象に備えることが一般化してきました。
シナリオプランニングの本質は、未来を予測することではなく、複数のあり得る未来を想定し、その備えを行うことです。不確実な事業が現実となり、企業が危機的状況に陥ることに備えて、想定しているベースシナリオ以外の世界に備えます。戦略的な備えとしては、事業ポートフォリオの組み換え、新技術への投資、サプライチェーンの見直しなど様々ありますが、まずは不確実性(今回のケースで言えば、新ウィルスによるパンデミックの発生)を認識し、事業戦略における危機管理を事前に検討することが重要です。
注:シナリオプランニングは、著名な戦略家であるピーター・シュワルツが1987年にグローバル・ビジネス・ネットワーク(GBN)を設立し、その有効性を広めてきました。GBNは2001年にモニター・グループに買収され、また、2013年にデロイト トウシュ トーマツはモニター・グループを買収しました。
企業活動の人材面からの継続対応
新型コロナウイルス感染症の今後の状況によっては企業の国内および海外拠点での業務(決算業務等)の一部を継続することが一時的に困難となる可能性があります。このような状況への対応を準備するには業務を期間限定で本社やその他国内拠点にオンショア化する検討の必要があります。この場合のオンショア化は比較的迅速に整備・運用しなければならず、業務経験に長けた専門家を初期段階において複数活用する必要がありますが、通常社内ではそのような人材は調達出来ない場合もあります。
デロイト トーマツ タレントプラットフォーム(DTTP)ではデロイト トーマツ グループ内外の人材で様々な業界経験・専門知識を持つ人間をオンショア化の対応人材としてタイムリーに企業に配置することができます。さらに、DTTPの人材を活用したオンショア化では単に業務を継続するだけでなくオンショア化の期間中に業務をより効率化・自動化することも可能になります。
タレントモビリティにおける危機管理
新型コロナウィルス感染症の流行が拡大するにつれて、企業の人材の国際間移動に関わる情報収集能力が試されています。世界中に展開している従業員の移動のみならず、従業員とその家族を避難させなければならない事態にも直面した企業は次のような情報の収集が求められます。
- 査証発給の状況 (査証発給を受け付けない、郵送のみでしか受けない等)
- 入国審査の状況 (入国拒否等)
- 検疫対応の状況 (一定期間の隔離が義務付けられる等)
.今や、従業員の国籍も様々であり、状況をより一層複雑にしています。一日を争う状況も生じる中にあって企業、人事担当者にこのような情報収集をこなすのは極めて困難な状況です。デロイト トーマツでは、グロ-バルネットワ-クを通じて各国の情報一覧をタイムリーに配信しています。
顧客との関係維持対応
パンデミックにおける顧客対応の重要性が改めて問われています。
- 多くの企業で営業時間・納期をはじめ、顧客サービスレベルが通常と異なる状況が発生
- イベント等、多くの顧客が集まるサービス業においては顧客の安全安心を最優先とした判断と、その判断に伴う返金などの手続きも発生
- このような状況について適宜、正確に複数のチャネルでの顧客コミュニケーションが必要
- 多くのコンタクトセンターでは通常以上の問い合わせが発生し、繋がりにくいなどの課題も顕在化
- 営業は取引の延期、停止といった状況に直面し、対応案を検討するうえでも業績へのインパクトの正確な把握が求められる
- 他方、企業のサービスや特性を活かす事で物資の不足等への臨機応変な緊急支援などが行われているケースも発生
こうした様々な課題に対しては、部門横断での一貫した顧客目線での顧客対応能力、そして非常時の顧客対応についての検討、そして日々の顧客に対する企業姿勢や意思決定プロセスが不可欠と言えます。
人事労務分野における危機管理
新型コロナウイルス感染症の拡大を予防・抑制するために、企業の人事部門は大きな法的リスクを内包する決断を迫られています。
多くの企業は、例えば以下の対応について、実施する場合の検討事項やリスクを認識しながらその当否について試行錯誤しています。
- 一斉在宅勤務・時差通勤の実施:テレワーク、時差通勤の際の労務管理問題
- 従業員(およびその家族)の健康情報、渡航歴などの確認:要配慮個人情報、プライバシー情報等の適法な収集手段
- 自粛要請などに伴う企業活動の縮小:従業員への賃金支払い、休業補償等の問題、今後長期化した場合の従業員の一時帰休、従業員の雇用調整等の対応
企業は対応策の実施・不実施に伴うリスクを分析し、その軽減を図りながら、企業活動への悪影響を最小限に留める方法の検討が必要となります。
緊急時の資金管理の重要性
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大に起因する需要喪失等によって資金繰りの見通しが立てにくくなっている企業が増えていると思われます。特にグローバル展開している製造業においては自社の各拠点単位、グループ会社単位、さらには取引先単位など広範囲にわたって状態を把握する必要があり、普段から厳格な資金管理体制の構築ができていない企業にとっては非常に厳しい状態に陥っていると推測します。
今回のような非常事態に際しては、全拠点に対して不要不急の費用支出や投資の実行を抑制する、政府の緊急支援策に合わせて税金や社会保険料等支払い期限が延長できる公的支出を留保する、メインバンクや政府系金融機関と協議のうえ元本返済の猶予や緊急保証融資の申し込み等、資金確保のためのあらゆる打ち手を検討する必要があります。
そのためにはまずグループ全体でのリアルな資金の流れをタイムリーに把握できるような資金管理の強化が必要であり、さらには刻々と変化する状況に合わせた将来の資金繰りシミュレーションと最悪のケースを想定したシナリオプランニングが求められています。
COVID-19のためのステークホルダーコミュニケーション
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大に際し求められる自粛や緊急事態宣言に伴う諸対応は、同時に社会的なコミュニケーションの断絶を促し、企業とステークホルダーとの関係性を希薄にさせます。企業のコミュニケーションの在り方が問われる場面がまさに来ています。
クライシスコミュニケーションの検討としては、人の健康・生命にかかわる事象が発生しているかどうかが、まず判断のポイントの一つとなり、優先順位を上げて臨む必要があります。COVID-19への対応においても、自社の拠点にてクラスターの発生などが疑われる場合は、感染拡大の防止に向け、その対象となる人物への注意喚起が必要となり、それが大規模であれば、プレスリリースを含めた対応となる可能性もあります。また、生活必需品を扱う拠点の停止などが伴う場合は、現状と復旧に向けた今後の見通しを示していかなければなりません。そういった対応に向けた体制が整っているかは、至急確認する必要があります。
また、幸いにしてそのような事象が起こってない場合でも、電子メールやホームページを活用した情報発信は、ステークホルダーとの関係性をつなぎとめるための有効手段であり続けます。自社の取り組みや、優れた対応などを積極的に開示することは、ステークホルダーにとって、その企業が有効的に機能していることを確認する助けとなります。
デロイト トーマツ グループでは、現在、国内における更なる感染拡大防止の瀬戸際にあることに鑑み、社内外への感染被害抑止と当グループ法人各拠点に勤務する社職員並びにステークホルダーの皆様の安全確保の観点から、対応を講じています。詳細は以下のページをご覧ください。
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