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都市間競争の激化と都市がもたらす企業への提供価値

「都市というプラットフォームの活用可能性」 第1回

本シリーズでは、企業が都市というユニークなプラットフォームを活用する可能性について解説していく。国際的な都市間競争の中、日本でも各都市の競争力向上への取り組みが盛んに行われている。本稿では、日本の都市間競争を語る上での3つのキーワードに沿って整理し、都市というプラットフォームの存在がそこで活動する企業にもたらす4つの価値について解説する。

はじめに

デロイト トーマツ コンサルティングは様々な人・企業が活動する“都市”というプラットフォームをテーマにしたコンサルティングサービスを重点的に展開する「都市イノベーショングループ」を立ち上げている。

都市イノベーショングループは“都市の提供者”たる不動産デベロッパーや地方公共団体を対象にした街づくりや都市開発に関する取り組みを多数行ってきたが、近年は、“都市の提供者”だけではなく“都市の利用者”たる企業も、都市に対して熱い視線を送り始めていることを実感している。

本シリーズでは、企業が都市というユニークなプラットフォームを活用する可能性について解説していく。

都市間競争の激化

「都市間競争」という言葉が世界的に叫ばれて久しいが、その背景にはどのような環境変化があるのだろうか。

1つ目は、インターネットに代表される技術革新がもたらした情報のボーダレス化である。世界中どこにいても同じ情報が入手可能になった時代において、ビジネス活動の場や生活の場としての都市の選択肢は格段に拡がったと言えよう。

次に、中国・インドなどのアジアを中心とした新興国の急速な経済発展が挙げられる。欧米先進国の低成長を横目に、急激な経済成長を果たしている新興国の台頭により、欧米先進国中心の世界から新興国を含めた世界のフラット化が進んできているのだ。

最後に、ビザ緩和やTPP推進などのボーダレス化政策を各国が進める一方で、LCCの拡大などにより国際航空輸送の低コスト化が進み、国際的な都市間の資本・人材の移動に対するハードルが急激に下がってきていることが背景にある。

このような背景を受け、世界が一つの競争市場になり、国家間競争以上に都市間競争が激しい時代に突入してきているのである。

世界的な都市間競争における日本の現在地

では、日本の各都市はどのような位置にいるのだろうか(下記の図1参照)。森記念財団が毎年発表する世界の都市総合力ランキング(2014年)を見ると、大阪が26位、福岡が36位と前年に比べて順位を下げた。東京はロンドン、ニューヨーク、パリに続く4位を維持しているが、5位シンガポールや6位ソウルとの差は縮小傾向にあり、香港、北京、上海なども含めたアジア各国の主要都市間での競争が一層激しくなっていることがわかる。

図1:世界の都市総合力ランキング(2014年)

出所:森記念財団 都市戦略研究所 「Global Power City Index」

日本の都市間競争を語る上での3つのキーワード

国際的な都市間競争の中、日本においても各都市の競争力向上への取り組みが盛んに行われている。ここでは、日本の都市間競争を語る上での3つのキーワードに沿って整理していくこととする。

(1) 2020年東京オリンピック・パラリンピック

2013年9月に開催が決定した2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて東京の各地区で大規模な再開発が計画されている。

オリンピック・パラリンピックの主要会場となる湾岸エリアでは、有明を中心とした競技会場の整備に加え、選手村予定地の晴海エリアの選手村跡地に1万戸を超える住宅が供給予定で、周辺の豊洲や勝どきエリアでも大規模な高層マンションの開発が続いている。東京の主要ビジネス地区である大手町・丸ノ内・有楽町エリアや日本橋・八重洲エリアではそれぞれ三菱地所と三井不動産が中心となり、エリア全体の大規模な再開発プロジェクトが多数進行中だ。

その他にも、山手線新駅やリニア開業が予定されている品川エリアではJR東日本が大規模開発を計画しており、六本木・虎ノ門エリアでは森ビル・森トラストが中心となって国際新都心計画を進めている。渋谷・新宿・池袋といった副都心エリアも同様に、駅前を中心に再開発を計画しており、東京都心部では2020年の東京オリンピック・パラリンピックという大きなマイルストーンに向けて過去に例を見ない規模で大規模再開発が予定されている。

(2) 国家戦略特区

これらの大規模再開発を後押ししているのが、安倍内閣が日本再興戦略の中で掲げた「国家戦略特区」である。世界で一番企業が活躍しやすい国を目指し、大胆な事業環境整備を進めるという方針のもと、国際的な立地競争力を強化することを目的として整備された。その中では企業がイノベーションを創出する上で障害となるような規制の緩和などを大胆に実行することが定められており、東京都では、千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、大田区、渋谷区の9区が指定されている。また、国家戦略特区では、従来の都市計画決定をワンストップ処理する特例措置を整備するなど、従来に比べてより迅速な事業推進が可能になっている。

(3) 地方創生

これまでの2点は主に東京を中心としたテーマ(国家戦略特区は全国が対象ではあるが、対象プロジェクトは東京が圧倒的に多い)であったが、最後に地方にも目を向けていきたい。

2014年9月の第二次安倍内閣の発足にあわせて、まち・ひと・しごと創生本部が設置され、地方創生担当大臣に当時自民党幹事長であった石破茂氏が就任した。同年12月に今後目指すべき将来の方向を提示する「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン(長期ビジョン)」及びこれを実現するための今後5か年の目標や施策、基本的な方向を提示する「まち・ひと・しごと創生総合戦略(総合戦略)」が閣議決定された。

各自治体においては、政府の総合戦略を勘案しながら、「地方人口ビジョン」と「地方版総合戦略」を遅くとも2015年度中に策定することとされており、現在各自治体が独自性のある計画を策定している段階である。今後この計画に基づいた新たな開発計画が各地で推進されることが予測される。

都市がもたらす企業への提供価値

ここまで、国際的な都市間競争が激化する中、日本においても東京を中心に各地で競争力を高める再開発が目白押しであることを述べてきたが、こういった、ある種の再開発バブルともいえる現状について関係があるのは地方公共団体や不動産業界、建設業界だけなのであろうか。

ここからは都市というプラットフォームの存在がそこで活動する企業にもたらす4つの価値について解説する(下記の図2を参照)。

(1) ブランド

“都市”にはそれぞれ特色があり、人々が想起するブランドイメージがある。例えば、丸ノ内といえば安定した大企業のイメージがあるだろうし、渋谷であればベンチャーのIT系企業で将来性のあるイメージかもしれない。こういった“都市”が持つブランドイメージは一企業だけで構築できるものではない。

(2) 公共性

“都市”は当然ながら一企業や一個人のものではなく、公共のものである。CSVや社会課題といったキーワードが叫ばれる時代において、“都市” は企業に対して公共性を活かした取り組みの機会をもたらすだろう。

(3) 交流

“都市”には様々なアクターが存在する。そこに拠点を構える企業にとって、地域住民や買い物客などの来街者といった様々なアクターとの接点・交流の場として“都市”が果たす役割は少なくない。

(4) シェア

企業にとっての重要な経営資源であるヒト・モノ・カネをシェアするプラットフォームとしての“都市”の活用という可能性がある。そこに集積する企業や、場合によっては個人が地域単位でファンディングをしてその地域から新産業を創出するといった仕組みなど、一企業だけでは賄えない資源を“都市”というプラットフォームを活用してみんなでシェアをするという考え方が出始めている。

このように、“都市”という巨大なプラットフォームが企業にもたらす価値は大きい一方、その潜在能力をまだまだ活かしきれていないと感じている。

次回以降は、このような都市がもたらす価値をどのように活用していくべきかについて具体的に考察していく。

図2:都市がもたらす企業への4つの提供価値

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Next-. Vol.32

著者: デロイト トーマツ コンサルティング 
都市イノベーショングループ シニアマネジャー 徳山 隆俊
都市イノベーショングループ シニアコンサルタント 松山 知規

2015.05.12

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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