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ワークプレイスとしての都市の活用可能性

「都市というプラットフォームの活用可能性」 第2回

本シリーズでは、企業が都市というユニークなプラットフォームを活用する可能性について解説している。第1回では「都市間競争の激化と都市がもたらす企業への提供価値」について考察したが、第2回は都市がもたらす提供価値を企業がどのように活用することができるのかについて、ワークプレイスという観点で考察する。

ワークプレイスのあり方の変化

企業のワークプレイスとしてはオフィス空間が主になるが、オフィスを始めとした企業が保有・賃借している不動産は企業不動産(CRE)と呼ばれている。日本において、CRE戦略の重要性が叫ばれ始めたのは、2000年代後半頃であり、国土交通省が2008年4月に「CRE戦略を実践するためのガイドライン」を公表するなど、社会全体にCRE戦略の必要性が広く浸透した。

この時代のCRE戦略の必要性の高まりの背景は、IFRS(国際会計基準)導入に伴う固定資産に対する時価会計適用等が中心であり、CRE戦略に対して求められるものも保有不動産の最適化が中心であった。その中では、オフィスに代表されるCREは執務スペースや商品製造スペースとしての位置づけであり、その支出の性質は、「投資」というよりは「コスト」としての性質が強いものであった。

しかし昨今、テレワークの普及や就業人口の減少等によりオフィス需要の減少が予測される一方で、よりクリエイティブな環境でのイノベーティブな働き方への変化が求められるなど、オフィス空間という意味でのワークプレイスのあり方が問われてきており、オフィス支出はこれまでの単なる「経費」としての位置づけではなく、経営戦略としての「投資」の位置づけへと変化している。従来の各部署や個人ごとの執務スペースとしてのあり方ではなく、社内の様々な部署や個人間をネットワーキングしながらイノベーションを起こしていくための重要な経営基盤として捉える必要性が高まっているのだ。

また、従来日本企業が得意としてきた技術基点のイノベーションではなく、顧客・社会基点のイノベーションの重要性が増す中、一企業のオフィス内でイノベーションを創出することは困難になってきており、オフィスを飛び越えた顧客や社会との接点も含めた企業活動を行う場としての新しいワークプレイスのあり方が求められてきている。より広く都市という単位で様々なステークホルダーと共創し、更なるイノベーション力を強化していくためのコミュニティとしてのワークプレイスが求められてくるのだ。

本稿においても、ワークプレイスを単なるオフィス空間としてだけではなく、企業活動を行う場という広い概念で捉えていきたい。

図1:オフィス支出に関する経営層の意識

出所:社団法人日本オフィス家具協会 「経営者アンケート結果」

ワークプレイスのあり方に関する主な環境変化

■ 執務スペースニーズの低下
クラウドシステムやバーチャル空間技術等の発展により、テレワーク等の在宅勤務が普及し、事務作業等の単純労働に対する執務スペースとしてのオフィス需要については、将来的に減少傾向になることが予想される。

■ イノベーティブな労働環境への必要性の高まり
国際的に人材流動性が高まる中、優秀な人材に対するグローバルでの人材獲得競争が激化しており、優秀な人材が知的生産性の高い活動を行えるイノベーティブな環境を整え、従業員の就業満足度向上やロイヤリティ向上などを実現することがイノベーション創出と人材採用戦略の両面で重要なアジェンダになっている。

■ 顧客・社会との接点の重要性の高まり
世界的に技術基点でのイノベーションから顧客・社会基点のイノベーションへ重要性がシフトする中、自社のオフィスを飛び越えた活動により顧客のニーズや社会の課題などを自社に取り込む企業活動が重要になっている。

企業に求められる都市の中での新しい役割

企業と都市の関係性を語る上で、企業目線でのワークプレイスのあり方に関する変化について述べてきたが、少し目線を変えて都市目線での企業との関係性を見ていく。

第1回で述べた都市間競争が激化する中、個々の地域毎に資産価値を高める事を目的としたエリアマネジメント活動が盛んに行われている。大規模なオフィスビルや商業施設などの開発だけではなく、開発した地域に継続的に人を集め活気あるエリアとするための継続的な運営がより重要になってきているのだ。

エリアマネジメント活動の運営は地元行政の支援を受けながら地権者や地域住民などが担うことが一般的であるが、そうした活動に地域の地権者やテナントである企業が資金面や人材面などで重要な役割を担い、地域の一員としての責任を果たしていくことが期待されている。

次世代のワークプレイス その1

ここからは、これまで記載してきたような背景を踏まえ、次世代のワークプレイスの形について、具体的な事例を交えながら解説していく。

一つ目の視点は、ワークプレイスのあり方を変化させることで、企業が抱える様々な経営課題を解決するという考え方である。

具体的には、社員間のコミュニケーション不足を解消するためのワークプレイスや、企業ブランドの対外的なプロモーションのためのワークプレイスなど、内外の経営課題解決に資するワークプレイスの形が一つの潮流となっている。

【ワークプレイスを活用した経営課題解決の先進事例】

■ 社員のイノベーション創出を誘発するGoogle

課題:他企業の魅力的な就業環境に後れを取り、クリエイティブ人材への魅力が低下
対応:オフィス内に様々な活動を行える場を用意し、オンとオフを切り替えながらクリエイティブな発想が生まれる環境を形成
・徹底したエンジニア目線で設計し、執務スペースから半径15m以内でのキッチンコーナーの設置や食事からヘアカットまでの生活サポート等を提供
・集中力が切れたときやアイディアに詰まったときなどに気分転換するための遊びの環境(フィットネスから滑り台やロッククライミングまでを設備)や広場、アート空間などを整備

■ 社会へ企業文化を発信するApple

課題:環境への配慮不足をNGO等から批判され、企業ブランド価値を毀損
対応:世界で一番環境に優しい本社を実現し、環境性に関する企業ブランドを構築
・1年の3/4を自然空調で過ごせる自然換気システムや100%再生可能エネルギーで賄える規模の太陽光発電パネルなどを導入
・駐車場を全て地下に設置することで7000本の樹木を植樹し、敷地内面積の約80%を緑地化

■ 社員へハッカー精神を伝承するFacebook

課題:規模の拡大に伴う企業文化の希薄化に対する危機感
対応:配管などがむき出しとなった未完成なイメージの設計とすることで本社を通じて企業文化であるハッカー精神を社員に浸透
・創業の地である学生寮をイメージしたレイアウトや質素で機能性を重視したデザインにより、ハッカー精神を体現
・現状に満足することなく常に新しいものを創造していく文化を体現するため、あえて未完成な状態をコンセプトに設計

次世代のワークプレイス その2

二つ目の視点は、まさに新しいワークプレイスの概念である企業内のオフィス空間から飛び出した企業活動を行う場として、都市を活用したコミュニティとしてのワークプレイスという考え方である。

一企業のオフィス内に閉じこもっていては得られない都市が持つ様々な人的ネットワーク(顧客やユーザー等)での出会いや交流、都市に点在する様々なクリエイティブ資産(パブリックアートや美術館等)などから受ける刺激などを活用することで、顧客インサイトや社会のニーズを把握し、より知的生産性の高い創造活動を行うことが可能になっていく。

また、都市を活用したコミュニティとしてのワークプレイスを構築していく上では、所在する地域のコミュニティ形成や街づくりに貢献しながら、企業にとってもブランディングやテストマーケティングの場として都市というプラットフォームを活用するという“都市と企業とのwin-win”の関係を構築することが重要になってくる。

【都市を活用したワークプレイスの先進事例】

■地域コミュニティの活性化と外部刺激によるクリエイティビティ向上を実現するWieden+Kennedy(NIKEを担当する広告代理店)

都市の活用:地域との交流から得られる従業員へのクリエイティブな外部刺激の獲得
都市への貢献:本社内のギャラリー等の提供による地域コミュニティの活性化
・本社内にギャラリー等を整備し自社作品を展示するなど、自社の仕事を積極的に外部発信
・地域の団体や個人に場所を開放し、都市とオフィスとの境界線を極力排除することで、従業員が外部からの刺激を受ける環境を意図的に構築

■地域の教育への貢献とファンの獲得を実現するLEGO

都市の活用:地域とタッグを組んだ教育事業や観光事業による新たなLEGOファンの獲得
都市への貢献:地域の子供を中心とした教育の強化と観光客数の増加
・地元自治体ビルンと50%ずつ出資した教育事業に関するファンドを設立し、LEGOの製品を活用した、遊びを通じて協調性・問題解決力・創造性を育む教育事業を推進
・博物館や体験型ミュージアム等のエンターテインメント施設を活用した顧客との対話により、自社商品のPRや新商品開発を推進

■地域の産業促進への貢献と企業ブランドの向上を実現するSwatch

都市の活用:本社社屋を通じた地域コミュニティとの深いつながりの体現による企業ブランドの向上
都市への貢献:本社を地域が持つ優れた技術のショーケースとすることによる地場産業のプロモーション
・地元の材木技術を導入した世界最大の木造オフィスビルを構築し、本社を通じて地域が誇る木材加工技術と環境先進企業としてのブランドの双方をPR
・本社機能の傍らに美術館やビジターセンター、大規模な公共スペースなどを整備し、地域コミュニティの活性化と顧客接点の強化を実現

このように、企業にとってのワークプレイスのあり方が変化し、都市というプラットフォームとの境界が今後さらに無くなっていくことが予想され、このプラットフォームを活用した企業活動のあり方が更に重要になってくると考えている。

次回は、都市というプラットフォームを企業の新規事業創造においてどのように活用することができるのかという視点で考察していく。

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著者: デロイト トーマツ コンサルティング 都市イノベーショングループ
シニアマネジャー 徳山 隆俊
シニアコンサルタント 松山 知規
コンサルタント 坂田 一宏

2015.06.10

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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▼Next-. 都市というプラットフォームの活用可能性
第1回 都市間競争の激化と都市がもたらす企業への提供価値
第3回 新規事業創造における都市の活用可能性
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