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巨大なグローバルアグリ市場に対峙する日本の農業・食産業のいま  第2回

“最後のフロンティア”アフリカ食品・農業市場の攻略を急げ ~ローカルニーズを踏まえた“エコシステム丸ごと創造”ビジネス立上げの要諦~

デロイト トーマツ グループが手掛ける社会課題解決型イノベーションのテーマの1つに、世界的に巨大市場として顕在化しつつあるアグリ市場での社会課題解決が挙げられる。本シリーズでは、先進国から途上国まで幅広い地域での新産業創造提案や日本企業の新規事業展開支援、政府への政策提言等を幅広く進めるコンサルタントが、グローバルアグリ市場のトレンドと国内農業・食産業の現状についてのキートピックを解説していく。今回は成長市場アフリカにおける企業の競争戦略について論じる。

1. “最後のフロンティア”アフリカ

20世紀からゼロ年代にかけて世界のグローバル企業を熱狂させてきたBRICs、ASEANなどの新興国・地域にも成熟・衰退のトレンドが影を落とし始めている。高度経済成長を支えてきた人口ボーナスも、2010年代半ばには中国がピークを迎え、2020年代にはブラジル、メキシコ、2030年代にはイラン、バングラディッシュにピークが到来し、衰退へと向かう。

このような環境の中、足元で市場の注目を集めているのがアフリカである。人口約10億人、GDP約2兆ドルのアフリカ大陸は、人口ボーナスピークが到来する2070年代に向かって、今後更に大きな経済成長の可能性を秘めているためである。

2. グローバル企業が最後のフロンティアでの覇権を争う

南アフリカ共和国のGDPはアフリカで最大の約4,000億ドル。先進国のグローバル企業の多くが既に南アフリカに進出し事業を展開している。アフリカ市場の今後の高成長を取り込むため、一部の企業は既に内陸部への版図拡大に着手している。

中国経済の失速、欧州経済危機による需要の縮小により、グローバル企業は新たな市場としてアフリカへの投資を加速しており、“フロンティア”争奪戦は更に激化しつつある。中国政府の巨額のODAをブースターとして、中国企業がサブサハラ含むアフリカ全土で急速にプレゼンスを拡大させている。今年中国はアフリカに対する200億ドルもの追加融資枠を設定した。対応が遅れていた欧州企業もこの動きに追随し、歴史的・地理的な近接性を活かして内陸部への進出を加速させている。

3. 「途上国ビジネスは、いつまでも黒転せず慈善事業に陥る」という日本企業のトラウマ。マネタイズの仕組みをいかに構築するかがポイント

味の素など、途上国食品市場において成功をおさめている企業はあるものの、やはり多くの日本企業は途上国ビジネスに苦手意識を持っている。

日本企業各社へのコンサルティングの中で、これまで東南アジア・南アジアの低開発途上国地域における事業の失敗のトラウマから、次なる途上国ビジネスの展開に及び腰になっているとの声が多く聞かれる。

事業失敗の原因は、サステナブルな形でマネタイズモデルを構築できなかったことがあげられる。途上国ではお金の払い手が限られるため、「誰からどのようにマネタイズするか」という問いに対する明確な解答を持ち合わせていない場合は、中途半端な慈善事業として、いつまでも黒字化しないという事態に陥ってしまうのだ。

4. アフリカ攻略のカギは金融・流通・消費者開拓を含めた“エコシステム丸ごと創造”ビジネス

低開発途上国であるケニアでの、農業新市場創造とマネタイズモデルの構築の好例としてDrumNetプロジェクトの例をみていきたい。

低開発途上国であるアフリカの特徴を敢えて一纏めに表現するのであれば、事業展開に必要なあらゆる機能が欠けていることである。まず後払いが成立する信用基盤が十分に確立されていない。肥料・農機などを購入した近代的な農業の展開を考える農民は多く、そうした農民に肥料・農機の販売したい農資機材ディーラーも存在するのだが、前払いする資本力のない農民の債務の不履行を恐れ、なかなか商品を販売することができず、みすみす成長市場を逃す事態に陥っている。更に流通基盤の未整備も甚だしい。最終消費者に渡るまでに何階層もの卸事業者を介するため、小売への卸価格のうち4割近くが中間卸事業者のマージンとして占められてしまっているのである。

DrumNetはPride Africa社が実施したケニアの小規模農家を対象とした農業流通事業で、2002年に開始され小規模農家に市場・市場情報へのアクセスを提供することで農村の低所得層の信用力創造・継続的な発展に一定の成果をあげたプロジェクトである。

DrumNetにおいて構築されたのは農家、資機材メーカー、銀行、バイヤーを結ぶ携帯電話SMSを利用した情報共有プラットフォームである。DrumNetでは情報共有プラットフォームを構築するだけでなく、このプラットフォームを活用するプレーヤーである生産者・銀行・資機材メーカー・バイヤーを集約することで、活きた情報共有機会を作り出した。

このプラットフォームを活用する生産者は、まず収穫期にSMSを使って生産量をDrumNetに入力する。複数生産者から入力された生産量情報に基づいて、バイヤーは農作物のピックアップの日時を決定、同じくSMSにて入力し、バイヤーのピックアップの日時に合わせて生産者が村の集荷場に生産物を集めることでバイヤーのピックアップに備える。このステップで、何階層も存在した卸業者を中抜きし、より大きな付加価値を生産者にもたらすことに成功した。

更にこの情報共有プラットフォームは小規模生産者の信用力の創造にも寄与している。バイヤーが収穫物をピックアップした後、DrumNetを介してバイヤーから生産者に対して農作物の代金が振り込まれるが、DrumNetに参加する金融機関において、当該生産者に対する農資機材ディーラーの貸付ローン分を差し引いた残額のみが支払われる。このローン自動引き落としサービスにより小規模生産者の意図的な債務不履行が生じにくくなり、資機材ディーラー側に収穫時後払いを決断させ、農村の小規模生産者市場を創造させるに至った。

DrumNetは当該プラットフォームがもたらした経済効果の一部を手数料として取得するマネタイズモデルを構築したことによって、低開発途上国ケニアでの新事業創造に成功したのである。まだDrumNetのカバレージは小さいが、アフリカで8番目に多い4,000万人の人口を抱えるケニアにおいて、今後の更なる事業拡大が期待されている。

5. “リーンスタートアップ”の枠組みで小さく始めて大きく育てるのが日本企業ならではのアフリカ攻略方法

上記は、ビジネスインフラが整っていないアフリカにおいて、ローカルニーズ・マネタイズ機会を十分に把握し、市場創造・新事業創造に繋げた一つの成功事例である。ただ、日本企業において、このようなビジネスモデルの事業計画をたて、他社に先駆けてアフリカ市場への参入を意思決定することは難しいだろう。多くのマネジメントにとって、あまりにも馴染みのない環境における事業仮説の筋の良し悪しを判断することは難しく、安心材料を探そうと先行事例調査を行い続けた結果、また海外競合の後塵を拝することになるのだ。

このような日本企業に対しては、改めて、“リーンスタートアップ”を活用してアフリカ攻略ビジネスモデルを検討・構築していくことを提案したい。“リーンスタートアップ”とは、シリコンバレーのスタートアップ企業の経営方法を参考に開発された小さな失敗を重ねて大きな事業へと育てる新事業創造の考え方である。どんなに机上で入念に考えたところで、あまりにも土地勘のない分野においては事業仮説の良し悪しを判断できるはずがない(してはならない)。実際に現地に赴き、小規模なビジネスを運営しながら、ビジネスモデル仮説を洗練させることで、大きなアフリカ食品・農業ビジネスを成長させていくのである。

但し、マネジメントは新規事業推進チームを野放しにせず、“リーンスタートアップ”のサイクルがしっかりと運用されていることを管理しつづけなければならない。事前に筋のよいビジネスモデル仮説が複数用意されているか、又現地赴任後は適切なペースで仮説検証・洗練がなされているか、ビジネスモデルが矮小化していっていないか、などの観点で新規事業推進チームの目線を上げ続けることで、失敗した南アジア・東南アジアでの慈善事業のトラウマから抜け出し、最後のフロンティアで確実にパイを獲得していくのである。

コラム情報

著者:
デロイト トーマツ コンサルティング
シニアマネジャー 藤井 剛
マネジャー         安井 啓人

2014.01.22

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

 

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