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グローバルで拡大を続ける巨大市場“イスラームマーケット”の攻略を急げ 第1回:

“ハラールブーム”では見えない本質的なイスラームマーケットの見方

デロイト トーマツ グループのグロースエンタープライズサービスが手掛ける「成長企業」創出に向けたテーマの1つに、グローバルで拡大を続ける巨大市場“イスラームマーケット”への進出・展開が挙げられる。 ムスリム(イスラーム教徒)の人口・購買力の拡大を背景として、シャリーア(イスラーム教の教義)に基づいて許されるもの・行為を表すハラールに関する市場は、2015年に全世界で100兆円規模に達すると言われている。世界ムスリム人口は2050年には世界人口の3分の1に迫るという推計も一部で見られ、グローバルでのイスラームマーケットの存在感は益々高まっていく。 本シリーズでは、イスラームマーケットのキートピックを解説していく。第1回となる今回は、総論としてのイスラームマーケットの魅力の捉え方について論じる。

1. “ハラールブーム”に踊らされる日本

イスラームマーケットの拡大を背景として、食品、医薬品、化粧品、物流、観光業界などにおいて、昨今、日本国内でもハラールが注目され始めた。マスメディアでハラールという言葉が頻繁に報じられ、各種専門家がハラールに関する書籍やオピニオンを発信するようになったことで、日本国内での認知は急速に向上した。しかしながら、“ブーム”によって情報が蔓延した結果、残念ながら数々の“誤解”が生じていると言わざるを得ない。

“JAKIM万能説”の罠~必ずしも万能ではないマレーシアハラール認証

日本国内で蔓延する誤解の1つが「厳格なマレーシアの認証機関JAKIMのハラール認証を取得すれば、全世界のイスラームマーケットで通用する」とする“JAKIM万能説”だ。マレーシアは世界に先駆けてハラール認証制度を成文化したり、“ハラール・パーク”(ハラール専用工業団地)を建設したりするなど、国策として“ハラール・ハブ”化を進めているため、日本でもクローズアップして報じられることが多い。

しかしながら、“JAKIM万能説”は昨今のトレンドを踏まえると必ずしも正しくない。

例えば、世界最大のムスリム人口を抱えるインドネシアでは、最終製品において現地の認証機関LPPOM-MUI以外のハラールマーク添付は認められていない。すなわち、仮にJAKIM認証を取得したとしても、インドネシアではJAKIMハラールマークが添付できないため、ムスリム消費者に「ハラールである」ことをアピールできないのだ。実際、2014年4月現在、現地の小売店で陳列されている食品は原則、インドネシア国外機関が発行したハラールマークの上からML番号(対インドネシア輸出に必要な登録番号)などのシールが添付され、ハラールマークが隠されているのだ。(但し、中間材料であれば、JAKIM認証であってもインドネシアにおけるハラール性の証明に活用できる。)

このような現状を把握せず、“ハラールブーム”がもたらしたJAKIM万能説に乗って、安易にマレーシアに進出した(しようとしている)日本企業が多いのが現状だ。

2. 転換点を迎えるイスラームマーケット攻略において押さえておくべき2つのメガトレンド

有力ムスリム国家の勢力図変化の兆候~“ハラール・ハブ覇権争い

イスラームマーケットは今まさに転換点を迎えつつある。その1つの兆候が、近年有力ムスリム国家の間で本格化しつつある“ハラール・ハブ覇権争い”だ(図1)。

前述の通りマレーシアが世界に先駆けてハラール・ハブ化を進めてきたが、世界最大のムスリム人口を抱える隣国インドネシアも自国のハラール認証制度を独自に成文化し、マレーシアに追随してハラール・ハブ化を進めている。GCC(湾岸協力会議)諸国の経済の中心たるUAEでは、ESMA(国家標準化計測局)が自国のハラール認証基準の包括的な枠組みの策定を目指している。イスラームマーケットで最大の購買力を誇るトルコも、2013年に政府主導で国際ハラール認証会議(International Halal Accreditation Forum)を主催し、エルドアン首相も登壇するなど、ハラール・ハブ化への意欲を見せている。

さらに、OIC(イスラーム協力機構)においては、世界のハラール基準統一化に向けた議論が進んでいる。世界全体での基準の統一化には未だ時間を要すると想定されるものの、2013年末に聖地マッカを抱え、イスラーム世界に対して影響力の大きいサウジアラビアが批准したことで、議論が加速している。OICにおける最新の動向は日本企業としても目が離せないが、現時点では日本政府レベルでもこの最新動向を押さえられていないのが現状だ。

ハラールに対するイメージの広がり

上記のような有力ムスリム国の勢力図変化の兆候に加えて、近年、ハラールが適用される産業分野が広がりつつある点も注目に値する(図2)。

ハラールの産業分野への適用は従来は一部の食品が中心であったが、1994年にマレーシアがハラール・ロゴを導入、2000年に世界に先駆けてその成文化を行ったことに端を発し、食品全般に加え、近年では医薬品、化粧品、物流、観光やメディア・ネット分野にまで急速に波及するようになっている。例えば、ギャンブルやアルコールに関連する広告などハラーム(イスラーム教における禁忌)とされている要素を自動的に排除するムスリム向けSNSも登場した。

今や、ハラールのイメージは「豚由来成分やアルコールが含まれていない」などイスラーム法で合法という点に留まらず、「身体によい」「ムスリム社会にとってよい」という点にまで波及しつつある。しかも面白いのは、欧州などで非ムスリムの消費者の間でも、ハラールを「高品質」「清潔」「健康」なイメージとして捉え、ハラール対応製品を好んで購買する層が現れているという点だ。さらに最近では、「地球環境によい」などのいわゆるサステナビリティ性にまでもハラールのイメージが広がっていると示唆する研究も出てきている。ハラールに関する市場がマレーシアにおける制度の成文化前後以降、ここ15-20年で急速に100兆円規模にまで発展していることを踏まえると、中長期的に他の産業分野への波及も含めて更なる展開が期待されるのである。

図1:主要ムスリム国家による“ハラール・ハブ覇権争い”

図2:ハラールに対する解釈・産業の広がりが創り出す将来的なポテンシャルの拡大

3. 今こそイスラームマーケットに橋頭堡を築くべき

そもそも人口面で潜在的に高い成長性を有するイスラームマーケットが迎えつつある前述の2つの転換点は、イスラームマーケット攻略を目指す日本企業にとってこれまでにないビジネス機会をもたらす。

有力ムスリム国家間の“ハラール・ハブ覇権争い”は、外資系企業誘致合戦に名を変えることで日本企業にとって様々な投資メリットを獲得する機会となるとともに、勢力争いを適切に捉えることにより、イスラームマーケット参入で先行する企業を“出し抜く”機会ともなりうる。またハラールに対するイメージのサステナビリティ領域への広がりは、これまでハラールの対象ではなかった住宅、自動車や家電、社会インフラなどの他産業にも何らかの影響を及ぼし始める可能性もある。(例えば、インドネシアでは最近パルプ工場に対してハラール認証が発行された。このように、従来ハラールが適用されてこなかった産業に対して認証が行われるかもしれない)

ここで見逃してはならないのは、日本企業はイスラームマーケット攻略においてアドバンテージを有している点だ。

第一にそもそも日本は、多くの欧米企業等と比較して、宗教的な対立がなく好意的に捉えられており、有力ムスリム国家で親日国も多い。

加えて第二に、日本企業が持つ「高品質」「清潔」「健康」のイメージは、実はハラールとの親和性が非常に高いと考えられており、日本製というだけでハラールの観点で潜在的なブランドプレミアムを有している点も見逃せない。これを上手に活用すれば、イスラームマーケットを攻める上での強力な武器ともなりうるのだ。

最後に、いままさに政府レベルで、日本企業のイスラームマーケット攻略に対する後押し策が強化されつつある点もあえて加えておく。デロイトがハラール輸出モデル構築を支援した農林水産省のほか、経済産業省、観光庁を中心に、イスラームマーケット攻略への注目度は意外に高い。

日本企業は、このような“追い風”を上手に捉え、今後巨大化していくことが確実なイスラームマーケットに早期に適切な橋頭堡を築いておくべきだ。そのためには、昨今の“ハラールブーム”に踊らされ近視眼的な情報のみから投資判断するのではなく、現地の最新状況や中長期的なメガトレンドなどを複合的に捉え、イスラームマーケットに対する事業機会を冷静にかつくまなく抑えることが肝要である。

コラム情報

著者:
デロイト トーマツ コンサルティング
シニアマネジャー    藤井 剛
コンサルタント     染谷 将人

2014.04.24

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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