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グローバルで拡大を続ける巨大市場“イスラームマーケット”の攻略を急げ 第2回:

世界最大のムスリム人口を擁するインドネシア イスラームマーケット進出の要諦

デロイト トーマツ グループが手掛ける「成長企業」創出に向けたテーマの1つに、グローバルで拡大を続ける巨大市場“イスラームマーケット”への進出・展開が挙げられる。ムスリム(イスラーム教徒)の人口・購買力の拡大を背景として、シャリーア(イスラーム教の教義)に基づいて許されるもの・行為を表すハラールに関する市場は、2015年に全世界で100兆円規模に達すると言われている。世界ムスリム人口は2050年には世界人口の3分の1に迫るという推計も一部で見られ、グローバルでのイスラームマーケットの存在感は益々高まっていく。本シリーズでは、イスラームマーケットのキートピックを解説していく。第2回となる今回は、世界最大のムスリム人口を誇るインドネシア市場の攻略について論じる。

1. 巨大成長市場インドネシア イスラームマーケットの魅力

インドネシアマーケットは、ASEAN最大となる約2億5千万人の人口を抱え、巨大な消費市場として世界の高い関心を惹きつけている。このインドネシア消費市場を特徴付ける重要な因子が「イスラーム」である。インドネシアは、全人口のうち88%となる2億500万人がムスリムとなる世界最大のムスリム国家であり、このムスリムを対象とした製品・サービスを提供する巨大なハラール市場が存在している。

このインドネシアハラール市場が官民双方の取り組みをトリガーとして、今急速に拡大しようとしている。

<政府の姿勢> ハラール・ハブ覇権争いへの本格参戦
マレーシア政府は世界に先駆けてハラール認証制度の成文化、“ハラール・パーク”(ハラール専用工業団地)の建設を行うなど、国策として“ハラール・ハブ”化を推進してきた。これに対して特段のアクションをとっていなかったインドネシアだが2000年代以降、急速にハラール推進へと舵を切り始めている。2005年にはインドネシアで初めてハラール認証を成文化、2014年3月には政府主導でのハラール工業団地建設の検討を開始するなど、マレーシアと同等レベルのハラール・ハブ対応を行うまでに取り組みを推進してきている。更に近年ではシャリーアに基づいた観光事業の促進・取り込みに向け、MUI(インドネシア・イスラーム聖職者会議)との協力の下、文化観光庁がホテル、レストラン、旅行、スパの4事業についてムスリム向けサービスのガイドラインを世界で初めて作成するなど、ムスリム世界を主導する動きも見せ始めており、今後もハラール・ハブ化に向けた取り組みの更なる拡大が期待される。

<認証機関の取り組み> ハラール認証製品の多様化
認証機関によるハラール認証もその対象範囲を拡大している。従来ハラール認証の対象は、食肉や豚成分の含有が問題となりやすい加工食品が中心であった。これに対して2014年2月にデロイトが実施したジャカルタ現地視察調査では、生米や乾燥果物など一見ハラール性が疑われにくい食品のパッケージにもハラール認証マークが貼付されていることが確認された。専門家によれば、例えば生米の場合、精米過程においてハラーム成分を添加していないことを消費者に訴求するために、精米事業者がハラール認証を取得し始めたのだという。更に食品に留まらず、2014年1月には紙パルプ工場へのハラール認証が初めて発行されるなど、ハラール認証製品の多様化が進んでいる。

このように、インドネシアではこれまでハラール認証の取得と縁遠いとされていた製品・業界にまでハラール認証製品は波及しており、今後も有望な事業機会となることが見込まれる。

2. インドネシアへの輸出に向けたハードル

非常に魅力的なマーケットであるインドネシアだが、経常赤字解消を狙う国家の方針に基づいて、他国と比して不透明で厳格な輸入規制を課しており、輸出での新規参入を目指す事業者にとって高いハードルとなっている。

インドネシアにおける透明性を欠く輸入規制を象徴するのが輸入規制に関する「大臣令」である。「大臣令」は国内需給状況や食品価格に合わせ(つまりインドネシアの“都合”に合わせ)国会の議決を経ることなく施行されるため、一部で「朝令暮改」といわれるほど頻繁に施行されており、現地輸入企業も対応に苦慮している状況である。現地インポーターへのヒアリング調査によれば、この大臣令により長年インドネシア国内に流通していた食品の輸入が突如禁止されるなどの例は珍しくないという。

インドネシアの厳格な輸入規制として、「輸入ライセンス制度」が挙げられる。この制度により、海外の輸出事業者はインドネシア政府が定めた対象食品(=“インドネシアにとって流入が嬉しくない”食品)を輸出する場合、年2回各1ヶ月間(6月及び12月)の間に輸入ライセンスを申請しなければならない。ここでポイントなのが、商取引を目的としないサンプル品であっても申請の対象となるということだ。例えばテストマーケティングを目的として6月の展示会に食品を出展する場合、前年12月に申請をしなければならないのだ。現地の有力ディストリビューターとのコネクションが煩雑な申請手続を円滑に行うための肝であるということもあり、ネットワークのない中小企業や新規参入企業にとって大きな足かせとなっている。

このように、インドネシアのイスラームマーケットへの輸出では、ハラール認証への対応以前に、不透明かつ厳格な規制動向に充分準備しておくことが肝要であるといえる。

3. インドネシア国家の思惑を読み解き“win-win”の関係を構築することが攻略の要諦

上述のような市場の特性を鑑みると、インドネシアへの輸出・参入を検討する際は、インドネシア国家の思惑を汲み取った“win-win”の関係を構築出来るような戦略を策定することが、特に重要であるといえる。

例えばハラール牛肉輸出は“win-win”の関係構築に繋がる市場攻略の一つの切り口である。国民の所得向上を背景として近年インドネシアでは牛肉需要が急増、国内の牛飼育頭数の減少(2012年には前年の15%減を経験)もあって、自給率の悪化に懸念が強まっている。牛肉小売価格は2012年1月から2014年3月にかけておよそ25%も上昇しており、高まる国民の不満への対応に政府も頭を悩ませている。この牛肉需給逼迫問題を解消する手段として、今期待が高まっているのが、日本産牛肉なのである。日本産牛肉はインドネシア国内でも高いブランドを認知されている一方で、これを輸入することで現在のオーストラリアへの一極依存を抑制する効果もあり、インドネシアの課題解決につながる“win-win”の参入戦略となるのである。

現在、年内に日本産牛肉の受け容れを開始することを目指し、インドネシア政府により調整が行われており、今春にも政府関係者により日本の食肉処理施設への視察が行われた。日本政府も今年度予算案にイスラーム式屠畜場整備補助総額30億円を盛り込むなど、今後日本産農産品輸出の目玉になることが期待されている。

他にも、インドネシア国家の課題を読み解き、参入に挑戦する例として、食品機器の製造販売を行う企業が、コールドチェーンの未整備によるフードロスや食中毒問題に着目している例が挙げられる。常温保存が可能なレトルト食品の加工技術を武器に、独立行政法人国際協力機構(JICA)との連携の下、ジャカルタ工業省へ自社の食品加工機器を導入しており、将来的には特に冷凍・冷蔵保管整備が遅れる地方や島嶼部における地方経済の活性化を目指している。

インドネシアは上記で触れた課題以外に、飼料作物や肥料の低い自給率や小規模農家による非効率な農業、離島における飢餓など、食に纏わる様々な社会課題を抱えている。消費者ニーズだけでなく、このような課題解決をビジネスに埋め込んで提供することにより、インドネシア国家との“win-win”の関係を実現し、不透明な規制に惑わされることない骨太なアグリビジネスを構築していくのである。

コラム情報

著者:
デロイト トーマツ コンサルティング
マネジャー     安井 啓人
ビジネスアナリスト 牧 那菜子

2014.05.26

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。 

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