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国際通商ルール(TPP・FTA)対応戦略 第1回

~なぜいま国際通商ルールが経営課題とされるのか~

TPPをはじめとする世界的なルール環境の変動により、グローバルに展開する企業はもちろん、国内に事業主軸を置く企業も、自社の競争力に決定的な影響を受けることとなる。一方で、新しい通商ルールを自社の競争力の源泉として戦略的に活用できている企業は、多いとは言えない。本シリーズでは、最新の国際通商ルールの動向とビジネスが認識すべき環境変化について、4回にわたって解説する。

はじめに

TPPをはじめとする世界的なルール環境の変動により、グローバルにサプライチェーンを展開する企業はもちろん、国内に事業の主軸を置く企業もまた、自社の競争力に決定的な影響を受けることとなる。一方で、手続きの煩雑さやノウハウの欠如から、新しい通商ルールを自社の競争力の源泉として戦略的に活用できている企業は、必ずしも多いとは言えない。今なぜ、国際通商ルールが経営課題とされるのか。本シリーズでは、最新の国際通商ルールの動向とビジネスが認識すべき環境変化について、4回にわたって解説する。 

世界経済連携の潮流

世界160カ国で多角的な貿易自由化を目指すWTO交渉が、途上国の影響力の増大によって妥結点を見出せず行き詰まって久しい。このような中、参加国を限定しつつも、さらに踏み込んだ貿易自由化と経済連携の強化を目指す自由貿易協定(FTA: Free Trade Agreement)・経済連携協定(EPA: Economic Partnership Agreement)が多数締結されてきた。特に近年では、環太平洋パートナーシップ(TPP)交渉、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)交渉など、経済規模・人口・参加国数のいずれにおいても巨大な多国間での協議が進展している。

これらの新たな経済連携の潮流のインパクトの大きさは、単に参加国の地理的・経済的規模だけでは測ることはできない。従来のFTA・EPAが主眼を置いてきた物品関税の削減やサービス貿易の自由化に加え、投資ルール、政府調達、知的財産、規制・基準の調和など広義の「非関税障壁」においてもハイレベルの合意が目指されており、貿易ルールのみならず国内の規制にも影響を与えるまでになっている。米欧間で交渉中の環大西洋貿易投資パートナーシップ(TTIP)交渉の狙いも、まさにこのハイレベルなルールの統一にある。 

重層化・複雑化する世界の経済連携網

FTA・EPA網は、1990年代に広がりを見せ、2000年以降、加速度的に拡大してきた。1990年代初頭は、自由貿易地域は、欧州共同体(EC)とその拡大としての欧州連合(EU)、北米自由貿易協定(NAFTA)、ASEAN自由貿易地域(AFTA)程度であったが、現在は多数のFTA・EPAが交錯し、『スパゲッティボール現象』といわれるほど複雑な状況となっている。まるでスパゲッティが絡み合うかのように重層化・複雑化したFTA・EPA網のため、それぞれがどのように関係して、自社のビジネスにはいずれの協定を使うことが最も効果的なのか、容易に判断がつかない。(図1)

このような複雑な貿易ルールを複数国間でまとめ、より広域な枠組みを設けるべくTPPやRCEPなどの交渉が進展している。TPPは、当初、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの貿易自由化に積極的なFTA・EPA先進4ヵ国で開始した枠組みであったが、現在は、交渉参加国が12ヵ国に拡大するとともに、アジア・太平洋地域において自国に有利なビジネス環境の構築を狙う米国による実質的なイニシアチブの下、交渉が継続している。他方、RCEPでは、中国が米国リードのTPP枠組みに安易に乗れないジレンマと、米国リードのTPPによってアジアが席巻される懸念から積極的に交渉を推進するスタンスを取っており、ASEAN+6の16ヵ国で交渉が進展しつつある。

しかし、広域な経済連携枠組みを形成したところで、個別のFTA・EPAが併存する状況は変わらない。このため、広域な経済連携枠組みによってFTA・EPAの利用環境が劇的に容易となるわけではない。加えて、これら広域経済連携枠組みは、複雑な二国間貿易ルールをまとめ、複数国間でルールの統一を進める意味合いに加え、各広域枠組み間でのルール形成競争とも捉えるべき事態ともなっている。このことから、むしろルール環境はますます重層化・複雑化していると捉えるべきであり、FTA・EPAのビジネスへの活用に当たっては、依然として、世界のFTA・EPA網を解きほぐし、自社ビジネスにとって最も効果的な協定を利用する企業が競争力を得る時代が続く。 

(図1)世界の主なFTA・EPA

2015年に向けたASEAN経済共同体の状況

これまでの日本のFTA・EPAは、比較的交渉を進めやすい国々との交渉を優先的に進めてきた結果、シンガポールやペルー等の国々との二国間協定締結といったビジネスインパクトが相対的に大きくないものが多かった。ところが、目下、TPP/RCEP/日EUEPA/日中韓FTAといった甚大なビジネスインパクトが想定されるFTA・EPA交渉が同時併行で行われており、しかもいずれも2015年に向けた妥結が目指されている。

加えて、この2015年という年限は、ASEAN経済共同体(AEC)が実現する見通しの年限とも符合する。ASEANは、ASEAN共同体という大きな構想の中、経済共同体(AEC)をはじめ、政治安全保障共同体(APSC)、社会文化共同体(ASCC)の各分野での統合を予定している。特に経済分野では、ASEANは、1992年頃からASEAN自由貿易地域(AFTA)と言われるASEAN内での自由貿易圏構築を進めてきたが、AECはこの完成を意味する。世界での中国・インドの存在感が増大するにつれ、ASEANの世界的なプレゼンスが低くなる危機感から、さらなる域内経済統合を図ることでビジネス競争力を高め、中国・インドなどの巨大新興国と並んで世界の注目を集めたいというのがASEANの思惑である。

AECには、ブループリントという骨幹・骨子を定めた政策ペーパーがある(図2)。「単一市場と生産基地」「競争力ある経済地域」「均等な経済発展」「グローバル経済への統合」の4つの柱が掲げられているが、最も進んでいるのが、「単一市場と生産基地」の中に項目として挙げられている物品の自由な移動(Pillar I-1)である。これはASEAN内の物品関税を下げるという内容で、ASEAN物品貿易協定(ATIGA)によって、ほぼ完成している。次に、優先統合分野である農産品、航空旅行業、自動車、エレクトロニクス、漁業、保険、物流、ゴム製品、繊維アパレル、観光、木材について、さらなる関税の削減や基準や規制の調和が図られている。

一方、サービスの自由な移動(越境サービス提供の自由化)(Pillar I-2)については、ASEANサービス枠組み協定(AFAS)の下、交渉が行われているものの、遅れている状況にある。サービスには、金融や通信はもとより、保守・メンテナンス、リースなどの製造業関連サービスも含まれる。これらサービスの自由な移動は、外資系企業の現地進出にとっての重要性が高く、今後のルール動向において最も注視すべき点の1つである。

TPP/RCEP/AECなど、過去にない広範かつ高インパクトの広域経済連携枠組みがこの数年間に立て続けに実現する見通しであり、これら非連続なルール変化は、ビジネス上のオペレーション改善やマーケティング戦略による努力を吹き飛ばすほどのビジネスインパクトを持つ。2015年以降の経営計画策定に当たっては、世界の通商・産業ルールが激変する可能性があるとの認識の下、戦略を練る必要がある。 

(図2)AECブループリント(ASEAN経済統合のための行動計画)概要

コラム情報

著者: デロイト トーマツ コンサルティング レギュラトリストラテジー
サービスリーダー   羽生田 慶介
シニアコンサルタント 白壁 依里

2014.08.27

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。 

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TPPの特恵関税率・原産地規則情報を通商Webサービス「Trade Compass®」に新たに追加(ニュースリリース:2016年8月31日)

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