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骨太な新事業創造に向けて社会課題解決型イノベーション力の強化を急げ

イノベーションに向けて突破すべき5つの壁

骨太な新事業創造に向けて、“イノベーションプロセスのイノベーション”が必要な日本企業が克服すべき「5つの壁」を挙げ、その突破に有効なデロイト独自のアプローチである「社会課題解決型イノベーションプロセス」を提唱する

社会課題解決型イノベーション実現に向けて(第1回)

欧米企業が先行する社会課題解決型イノベーションへの取り組み

  今日、地球規模の巨大市場を産み出すようなイノベーションの“種”が、世界的に深刻な社会課題から創出されることに注目するグローバル企業が増えている。この潮流をいち早く察知した企業の1つであるGE(ゼネラルエレクトリック社)は、2005年に“ecomagination”(エコ+イマジネーション)を掲げ、自社事業を通した環境問題への取り組みを開始し、これまでに1兆円に迫る事業創造を実現している。このような欧米を中心とする先進的企業群は、目の前のROIは不透明ながらも10年計画で、新興国などの課題先進地域のNPO/NGOや政府機関との連携を強化している。その目的は、自社に有利な形での新市場創造およびビジネスモデル開発までをも事業開発プロセス(本書ではイノベーションプロセスと呼ぶ)として位置づけ、NPO/NGO等と連携することで、社会課題分野のルール形成を主導することにある。

  そもそも社会課題解決型イノベーションが注目される底流には、欧米企業を中心に進む、経営戦略とCSRの融合、即ち経済価値と社会価値を同時追求する新しい経営モデルへの変革がある。ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が打ち出したCSV(Creating Shared Value)*がこのモデルに対する代表的なコンセプトワードである。欧米企業は、金融危機を経て、資本市場の直接的関心事である財務目標よりも更に大きな“大義”を経営目標に掲げ、市場競争や利益創出には社会貢献・社会課題解決は不可欠なものとして捉え、事業構造と組織構造・文化の変革にチャレンジしているのである。

* 出所:Michael E. Porter: Creating Shared Value, Harvard Business Review 2011年6月

 イノベーションプロセスのイノベーションが必要な日本企業

  これに対し日本企業は、元々近江商人の“三方よし”(売り手よし、買い手よし、世間よし)に代表される文化を有しているにも関わらず、社会課題解決型の経営モデルへの変革も、本コラムの趣旨である社会課題解決型イノベーションへの取り組みもできていない。

  「日本企業は技術に強いが事業に弱い」と揶揄されるように、環境問題などの社会課題解決に繋がる革新的な技術/製品力では世界水準にありながらも、欧米企業のような“大仕掛け”にまで踏み込めず、グローバル市場にインパクトを起こしうる骨太な新事業にまで昇華できない状況が構造的に続いている。このことは日本企業が世界のスマートシティ競争で技術的に優位に立ちながらも市場ポジションで優位に立てていない現状からも想起されるものである。日本企業のイノベーションの成果が革新性という観点で大きく劣位にあることは弊社が昨年実施したイノベーションサーベイでも明らかになっている。「日本でイノベーティブであると称される企業でさえも、折角の技術/製品(シーズ)がありながら、中長期目線で骨太なビジネスモデルを自ら想起し、市場におけるルール形成まで仕掛けて大きくマネタイズしていくようなケイパビリティが不足しているのではないか」というのが筆者がコンサルティングの現場で実感していることである。

 “イノベーションプロセスのイノベーション”には、「5つの壁の突破」が必要

  トーマツグループでは、CSVに代表される経営モデルの変化に対応し、社会課題解決を通して世界規模のイノベーションを起こし骨太な新事業開発を実現していくための「社会課題解決型イノベーションプロセス」を提唱している。アジェンダ発掘から組織への定着までを5つのプロセスで捉え、体系的に企業内のイノベーションプロセスに組み込んでいくことで、イノベーションケイパビリティとマインドセットの抜本的な変革を実現するものである(図1)

以下では、5つのプロセスの概要と日本企業が克服すべき壁について紹介する。なお各プロセスの詳細な解説は次回以降のコラムに譲る。

1st Process:新しい社会課題を着想し大規模市場を発見する

   良い秩序/ルールが産み出されておらず、有効な解決策が見つかっていない社会課題(水不足、貧困、紛争・戦争等)が世界規模で顕在化している。これら社会課題解決を大規模市場化するためには、それぞれの社会課題を単一的に捉えるのではなく、複合的に組み合わせることで新しい社会課題として捉え直すことが重要だ。なぜなら、課題の複合化により新事業の社会課題解決量が高まることや、単一的な取り組みと比較して、社会課題解決を支持する様々な角度からの顧客層を得ることができ、事業の社会課題解決力を増すことができるためである。

   一方、日本企業の多くは社会課題を単一的に捉え、またその解決策を自社の既存事業や技術開発に求めるなど、主にR&D領域のテーマとして認識することが依然として多い。ゆえに「小粒の新事業」にとどまってしまうのである。

2nd Process:“越境”前提での事業モデルを構想する

  イノベーションの本質は“越境”にある。世界の社会課題からイノベーションの種を発見し骨太な新事業モデルを構想するためには、3つの“越境”を前提に事業範囲を考えていくことが必要だ。「業界の枠を超える」こと、「規制の枠を超える」こと、そして「国境を超える」こと、これらを“前提”とすることが事業モデルの構想には不可欠である。

  しかし、日本企業は「自社ができること」の枠の中で事業を捉える傾向にあり、既存の枠を超えた事業範囲に踏む込むことが苦手、もしくは越境を前提としてイノベーションを着想できていない。それ故、自社でできることから小さく始めて、小さく終わるというジレンマに陥ることになる。

3rd Process:新しい社会課題を着想し大規模市場を発見する

  社会課題解決領域は、良い秩序/ルールが産み出されていないケースも多く、ルール形成を仕掛けやすい領域でもある。社会課題に近いプレイヤーであるNPO/NGO等をうまく巻き込みながら、ソフトパワー形成も含め中長期的な視点から、国家を含めた様々なプレイヤーの声を輻輳的に集積し、ルール形成を仕掛けていくことが重要だ。

  一方、日本企業はルール形成が苦手だと言われる。歴史的に日本企業は、欧米企業が先行して出した製品・サービスの品質を高めることに注力することで、競争力を確保し成長してきた。すなわち、ビジネスにおいてルールは従うものであり、創るものではなかったため、その経験が不足しているのだ。(ルール形成の重要性と実行のポイントについては、経済産業研究所 藤井俊彦氏へのインタビューも参照されたい。)

4th Process:新しい社会課題を着想し大規模市場を発見する

  社会課題解決領域では、課題への精通と解決に向けた世界最先端のノウハウ保有という観点で、NGOとの連携も含めたオープンイノベーションが必須となる。単なる「不足技術の外部連携による獲得」にとどまることなく、“大義”を掲げて、社会課題解決の協働者ネットワークを戦略的に囲い込むような取り組みが有効だ。

  日本企業の特徴としてよく言われることに「自前主義」や「系列主義」がある。昨今はグローバル競争の中で、外部との連携を模索することも増えつつあるが、まだまだ外部の異質な「知」を上手に巻き込んだ事業立ち上げ力は不足している。

5th Process:新しい社会課題を着想し大規模市場を発見する

  イノベーションを一過性のものでなく、再現性を高めていくためには、「トップダウンによる投資プロセスの革新;非常識を常識化する意思決定の実現」と「ボトムアップによる推進組織の革新;次の非常識を産み出し続ける組織の実現」の2つのレバーを引かなければならない。

  この点、日本企業において自社のイノベーション創出力に問題意識のある方からよく聞かれる言葉は、「経営陣が不確実なものに投資しないスタンスであり身動きがとれない」、「1~2年で効果が見えない案件だと経営陣を説得できない」、「事業部門や研究開発部門など、社内他部門を説得できない、うまく巻き込めない」などだ。イノベーションメカニズムを組織に根付かせるための自社ならではの“スイートスポット”を押さえることが十分できていない。

  次回以降で、各プロセスの具体的な考え方・フレームワークについて紹介していく。

 

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日本企業のイノベーション実態調査結果報告

〔3422KB, PDF〕

コラム情報

著者:
デロイト トーマツ コンサルティング
シニアマネジャー 藤井 剛
マネジャー    福村 直哉

2013.05.09

※上記の役職・内容等は執筆時点のものとなります。

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