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骨太な新事業創造に向けて社会課題解決型イノベーション力の強化を急げ(第2回)

社会課題の掛け合わせによるビッグアジェンダ発掘/“越境”を前提とした事業モデル構想の要諦

トーマツグループでは、CSV(Creating Shared Value)に代表される世界的な経営モデルの思想の変化を先取りし、イノベーティブな視点で世界の社会課題解決を通して、新しい「良い社会」「良い地球」創りに貢献しながら⾃ら⾻太な新事業を創出していくための⼿法として、「社会課題解決型イノベーション」を提唱している。本第2回においては、「1. 新しい社会課題を着想し⼤規模市場を発⾒する」と「2. “越境”前提での事業モデルを構想する」のあり⽅に関するトピック・フレームワークを中⼼に紹介する

社会課題解決型イノベーション実現に向けて(第2回)

はじめに

トーマツグループでは、CSV*(Creating Shared Value)に代表される世界的な経営モデルの思想の変化を先取りし、イノベーティブな視点で世界の社会課題解決を通して、新しい「良い社会」「良い地球」創りに貢献しながら自ら骨太な新事業を創出していくための手法として、「社会課題解決型イノベーション」を提唱している。前回は、「5つのイノベーションプロセスの概要と日本企業が克服すべき壁」について紹介した。本第2回においては、「1. 新しい社会課題を着想し大規模市場を発見する」と「2. “越境”前提での事業モデルを構想する」のあり方について、実際にコンサルティングの現場でポイントとなるトピック・フレームワークを中心に紹介する。

* 出所:Michael E. Porter: Creating Shared Value, Harvard Business Review 2011年6月

1st Process: 新しい社会課題を着想し大規模市場を発見する

社会課題の多面的な「掛け合わせ」によりビッグアジェンダを発掘

近年、世界の深刻な社会課題として挙げられる水不足や急速な都市化、貧困、高齢化・人口構造変化等は、既に顕在化し各所で問題点が指摘されているものの、良い秩序/ルールが産み出されておらず、有効な課題解決策が見つかっていない領域であり、先進国・新興国問わず、そこには企業がビジネスとして取り組むに値する巨大市場が存在している。経験上、大手日本企業の多くは、このような社会課題領域にビジネスの“種”があることを認識し、実際に様々な調査/分析(もしくは実際の事業投資)を進めてはいる。しかし往々にして、例えば高齢化社会に向けた新商品・新事業開発やCO2削減に資するデバイス開発など、個々の社会課題を「独立単一与件」と捉えた新事業開発の発想に終始し、結果、斬新さが感じられず、「小粒の新事業」に留まってしまっている例が多いのが実感である。

骨太な新事業へ昇華させるためのポイントは、性質の異なる複数の社会課題の掛け合わせによる新たな社会課題の「発掘」にある。ある社会課題の解決手法を複数技術の“新結合”による機会探索に求めるのではなく、解決すべき社会課題自体の“新結合”により、全く新しい大きな課題設定をしていくことが骨太な新事業創造への第一歩となる。例えば、「新興国における都市への人口集中化によるパンデミックリスクの増大問題」と、「益々グローバル経済への影響力を増している新興国の金融市場の安定化」という課題を掛け合わせると何が生まれるか? 巨大な課題を発掘していくための発想においてはこのような課題の掛け合わせの視点が有効なのである。

この「社会課題の結合」は、新事業の社会課題解決量を高める効果がある。またそれぞれの社会課題解決に対する様々な角度からの支持層・顧客層を得ることを可能にし、ルール形成力(次回以降にて解説)を更に高める効果も期待できる。加えて、各々の課題解決を目指す企業や政府機関、NGO/NPO等の幅広い外部の知との融合(オープンイノベーション)機会を創造することにも繋がるのである。

トーマツグループでは社会課題から大規模市場を発掘するフレームワークとして、Deloitte FINDERSMを提供している。世界的な大きな“うねり”の源となる社会課題領域は6つに整理大別される。各々の領域から見出される社会課題の掛け合わせから、将来的な大規模市場を産み出しうる「ビッグアジェンダ」を発掘することが有効である。

また、これまで述べたような「水不足」や「都市問題」といった巨大な社会課題から新市場を発掘するアプローチ以外にも、実は身近な社会課題から巨大な市場を発掘する取り組みも、トーマツグループでは実際にコンサルティングの現場で取り組んでいるが、紙面の都合上、この紹介は別の機会に譲る。

2nd Process: “越境”前提での事業モデルを構想する

世界の地図アプリケーションのデファクトになりつつあるGoogleの「Street View」は、実は90年代からコンセプトや技術が存在しており、日本でも同様のサービス実験がGoogleと同時期に始まっていたことは意外に知られていない。日本企業がGoogleに先んじてこの事業を普及させることができなかった原因は、一説にはプライバシー関連の法規制へのリスクや、国ごとの交通事情・交通関連規制の違いなど、各種の規制などを理由に自ら事業範囲を小粒なものに制限してしまったところにあると言われている。

一方、「iPod/iTunes」で世界の音楽ハード・ソフトウェア業界を席捲したAppleは、本事業構想に際して、音楽業界の規制や慣行に自ら踏み込むとともに、U2などの有名アーティストまでを直接巻き込み、全く新しい事業モデルを構想することで、業界・規制の保護よりも、社会全体での“共有価値創出”に重点を置いた。ここから分かるのは、異業種・異人種との共有価値を積極的に探し、オープンに協働することでイノベーティブなビジネスモデルを開発していく、すなわち「社会で課題解決を図る」ことを前提にすることが社会課題解決型イノベーションの本質であるということだ。

世界を席捲するような巨大事業化を目指していくうえでのポイントは、「3つの“越境”を前提に事業範囲を定義すること」にある。3つの“越境”とは、「業界の枠」を越えること、「規制の枠」を越えること、「国境」を越えることの3つを指す。例えば、電子デバイス製造会社が節水型植物工場市場をターゲットとする場合を見てみよう。「業界の枠」を越えるとは、自ら節水型植物工場事業者の“業界リーダー”となり、自社工場モデルとそこで使用されているデバイスの使用を広く提唱することを意味している。「規制の枠」を越えるとは、植物工場の産業化政策提言を自らリードし、自社デバイスが優位となる“政策・基準の形成者”となることである。そして、「国境」を越えるとは、はじめから水・食糧不足である砂漠地帯等の“課題先進地域”で、世界の最先端植物工場事業者との共同R&Dを仕掛けることである。この3つの越境を苦手とする企業が骨太な新事業創造を仕掛けていくことは難しい。自身が業界をかき回すことを避け、規制を所与のものとし、日本市場を中心にモノゴトを考える。これでは骨太な新事業創造などは夢物語に終わる。

なお、実際に新規事業開発を担当する部門の責任者や担当者からは、「“越境”を前提とした骨太な事業構想を描いたとしても、投資意思決定プロセスの段階で経営者の発想が“越境”できずに、より現実感があり短期で一定規模の売上を創れる事業開発を指示されたと」いう話を頻繁に耳にする。イノベーション投資の意思決定プロセスは、イノベーションが持続的に創出されるメカニズムを創っていく上で非常に重要なポイントの1つであり、こちらについては次回に触れたい 。

次回は、「3. 自社に有利な環境/ルール作りを仕掛ける」、「4. 外部を巻き込み事業をリーンに立ち上げる」、「5. 再現性を高めるためのメカニズム化を図る」について紹介していく。

 

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日本企業のイノベーション実態調査結果報告

〔3822KB, PDF〕

コラム情報

著者:
デロイト トーマツ コンサルティング
シニアマネジャー 藤井 剛
マネジャー    福村 直哉

2013.08.24

※上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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