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骨太な新事業創造に向けて社会課題解決型イノベーション力の強化を急げ(第3回)

自社に有利なルール形成/外部を巻き込んだリーンスタートアップの要諦

トーマツグループでは、CSV(Creating Shared Value)に代表される世界的な経営モデルの思想の変化を先取りし、イノベーティブな視点で世界の社会課題解決を通して、新しい「良い社会」「良い地球」創りに貢献しながら⾃ら⾻太な新事業を創出していくための⼿法として、「社会課題解決型イノベーション」を提唱している。本第3回においては、「(3) ⾃社に有利な環境/ルール作りを仕掛ける」、「(4)外部を巻き込み事業をリーンに⽴ち上げる」のあり⽅に関するトピック・フレームワークを中⼼に紹介する。

社会課題解決型イノベーション実現に向けて(第3回)

はじめに

トーマツグループでは、CSV(Creating Shared Value)*に代表される世界的な経営モデルの思想の変化を先取りし、イノベーティブな視点で世界の社会課題解決を通して、新しい「良い社会」「良い地球」創りに貢献しながら自ら骨太な新事業を創出していくための手法として、「社会課題解決型イノベーション」を提唱している。前回は、「(1) 新しい社会課題を着想し大規模市場を発見する」と「(2) “越境”前提での事業モデルを構想する」のあり方について紹介した。本第3回においては、「(3) 自社に有利な環境/ルール作りを仕掛ける」、「(4) 外部を巻き込み事業をリーンに立ち上げる」のあり方について、実際にコンサルティングの現場でポイントとなるトピック・フレームワークを中心に紹介する。

* 出所:Michael E. Porter: Creating Shared Value, Harvard Business Review 2011年6月

3rd Process: 自社に有利な環境/ルール作りを仕掛ける

日本企業は、ルールを守ること、ルールの中で最大限効率を高めることは得意であるが、ルール自体を創ることは不得意・経験不足であると揶揄されてきた。しかし、韓国・中国企業を中心とした新興国企業の技術キャッチアップによる製品・サービスのコモディティ化により、従来のような価格・品質・機能での競争優位獲得が困難な今、グローバル市場で日本企業が勝ち残っていくためには、グローバル先進企業が明確に狙い始めている“新たな競争優位の軸”となる、社会課題解決を実現するという「大義」を掲げながらNPO/NGOや政府機関と協働して新市場の秩序・ルール形成創りを主導していく戦略が不可欠である。

例えば2011年にアパレル業界で起こったDETOXキャンペーンをきっかけとした欧米企業の行動には、戦略的兆候が見える。国際NGOのグリーンピースが世界のアパレル主要企業が発注している中国の2つの繊維加工工場の排水から有害化学物質の流出を指摘したことに始まった同キャンペーンであるが、これに対しAdidas、H&M、PUMA、NIKEなどアパレル大手9社は「ZDHC」連合を形成(当時日本企業の参加はなし)し、2020年までに「有害化学物質のゼロ排出」の実現に向け課題解決することを宣言した。更に欧州政府に対して環境規制を法律によって定めることを積極的に要請し、欧州政府は2012年に有害化学物質を含む織物の輸入禁止を発表している。これはアパレル大手企業が、ZDHCが掲げる世界観に対応できない企業を欧州市場から排除することを促進する枠組みを形成した競合排除の戦略行動と捉えられるのである。

ルールに“疎い”日本企業にとって、ルール形成戦略の実行は事業競争力の持続可能性を左右する重要な論点となるが、トーマツグループでは日本企業がグローバル市場で競争優位を獲得するためのフレームワークとして、「ルール形成戦略フレームワーク」を提供している。今後のビッグアジェンダが社会課題解決領域に潜んでいることは繰り返し述べているが、その社会課題にもっとも近いプレイヤーはNPO/NGOである。NPO/NGOと聞くと、日本においては過激な集団または慈善団体として捉えられている節があったが、現在では多くのNPO/NGOが企業との対立の道ではなく、企業の力が正しい方向に向かって投じられるように連携し、法改正や規制の導入を企業と一緒に推進する主体へと活動方針を変更しはじめている。NPO/NGOとともに社会課題解決の重要性や必要性を市民やジャーナリスト・マスコミに訴え、世論を喚起し、政府を動かし、自社に有利なルール形成へと昇華させることに挑戦することが、グローバル市場で戦う日本企業にとって今こそ不可欠になっているのである。

4th Process : 外部を巻き込み事業をリーンに立ち上げる

オープンイノベーションによる商品開発速度の向上が必須の取り組みになる一方で、円滑な新事業立上げの考え方として小さな失敗を重ねて大きな事業へと育てる「リーンスタートアップ」が広く普及しはじめた。トーマツグループではこのリーンスタートアップの考え方を更に発展させた事業開発力強化アプローチを提唱している。その要諦は、「ビッグアジェンダを梃子にすることで知のネットワークを形成・囲い込むこと」および「知のネットワークを有効活用することで、短期間で新商品/サービスを創出すること」にある。

ビッグアジェンダは文字通り社会課題を解決する大きな取り組みであるため、通常、自社のみで対応することは困難であり、むしろ自社技術にこだわることは課題解決オプションとスピードを限定してしまうことになる。特に昨今では、世界最先端の社会課題解決技術・ノウハウをNPO/NGOが有しているケースが増えており、社会課題解決型のオープンイノベーションを進めていく上では、企業のみならずNPO/NGO、政府機関などの社会課題解決ソリューションとパワーを保有する様々なプレイヤーとのネットワーク構築が不可欠だ。更に、社会課題解決に向けた大義の下にネットワークが構築され、最先端技術・ソリューションの組み合わせによる事業モデルが実現されると、その協働者ネットワークの魅力度は一段と高まり、ネットワークへの参加者が加速度的に増加する結果、商品/サービスの派生オプションの“増殖”が期待できる。例えば、P&GのC&D戦略*は有名であるが、その真髄は、P&Gのブランド力を背景に、このネットワークに参加すれば短期間で商品開発が実現できるというネットワークの魅力そのものにある。この好循環がもたらした結果は、実に「世界の研究者の30%強がP&Gに間接的に囲いこまれるというネットワークの強さ」、および「アイデア数が3倍/商品開発スピードが大幅に短縮(製品によっては約半減)されたことによる上市商品数の増大」にある。

* C&D戦略:新しいイノベーションの50%以上を外部パートナーとのコラボレーションから産み出すことを目指したオープンイノベーションに基づく製品開発戦略

日本企業の中にもオープンイノベーションを掲げ、外部との連携を模索する動きも見られるが、自社技術・ノウハウの流出等への懸念から、実行に至るまでの思い切った踏み込みができていないことや、技術分野の連携に留まり、ビジネスモデルやルールを創り出していく局面での連携が不得手なのが実状である。今日本企業に求められるのは、単なる不足技術を獲得するための外部連携ではなく、社会課題解決という“大義”を掲げ、様々な属性をもつプレイヤー(NPO/NGO、有識者・研究者、大学等)との協働者ネットワークを戦略的に構築し、圧倒的なスピードで試行サイクルを回し、骨太な新事業へとスパイラルアップさせていく、リーンスタートアップを内包したオープンイノベーションにある。

次回は、「社会課題解決型イノベーションプロセス」最後の要諦である「(5) 再現性を高めるためのメカニズム化を図る」について紹介していく。

 

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日本企業のイノベーション実態調査結果報告

〔3611KB, PDF〕

コラム情報

著者:
デロイト トーマツ コンサルティング
シニアマネジャー 藤井 剛
マネジャー    福村 直哉

2013.09.27

上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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