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骨太な新事業創造に向けて社会課題解決型イノベーション力の強化を急げ(最終回)

自社に有利なルール形成/外部を巻き込んだリーンスタートアップの要諦

トーマツグループでは、CSV(Creating Shared Value)に代表される世界的な経営モデルの思想の変化を先取りし、イノベーティブな視点で世界の社会課題解決を通して、新しい「良い社会」「良い地球」創りに貢献しながら⾃ら⾻太な新事業を創出していくための⼿法である「社会課題解決型イノベーション」を提唱している。本最終回においては、「(5) 再現性を⾼めるためのメカニズム化を図る」のあり⽅に関するトピック・フレームワークを中⼼に紹介する。

社会課題解決型イノベーション実現に向けて(最終回)

はじめに

トーマツグループでは、CSV(Creating Shared Value)*に代表される世界的な経営モデルの思想の変化を先取りし、イノベーティブな視点で世界の社会課題解決を通して、新しい「良い社会」「良い地球」創りに貢献しながら自ら骨太な新事業を創出していくための手法である「社会課題解決型イノベーション」を提唱している。前回はそのプロセスにおける「(3) 自社に有利な環境/ルール作りを仕掛ける」「(4) 外部を巻き込み事業をリーンに立ち上げる」のあり方について紹介した。本最終回においては、「(5) 再現性を高めるためのメカニズム化を図る」のあり方について、実際にコンサルティングの現場でポイントとなるトピック・フレームワークを中心に紹介する。

* 出所:Michael E. Porter: Creating Shared Value, Harvard Business Review 2011年6月

5th Process : 再現性を高めるためのメカニズム化を図る

昨今、企業の中に“イノベーション難民”が増えている。彼らは、経営者から「次の経営の柱になるような新規事業・イノベーションを考えろ」というミッションを与えられながらも、取り組むための武器(ノウハウやアイデア)が組織内に蓄積されていない環境下で、明日の売上作りに必死の事業部門からの冷たい視線を受けながら、打ち手がない状況に陥っているのである。挙句の果てには、経営者から「イノベーションとは言ったが、私の任期以内に一定規模の売上があがる事業を創れ」というプレッシャーを日々受け、途方にくれた結果、難民化してしまうのだ。

そもそもイノベーションを一過性のものでなく、全社に渡る活動へと昇華させ、再現性を高めていくために、組織内へのメカニズム化が不可欠だ。しかし残念ながら、現在多くの日本企業で、このような全社にわたる組織体制・プロセス・システム・人材マネジメント・組織文化の改革プロジェクトは機能しない場合が多い。特に、暗黙知のポーションが大きい社会課題解決型イノベーションにおいては顕著である。従って、日本企業の組織上の問題点をそれぞれピンポイントに克服し、かつそれをショーケースとして中長期的に組織に伝播させるようなアプローチが不可欠である。本書ではこのピンポイント攻略法として「(1) 投資プロセスの革新;非常識を常識化する意思決定モデルの導入」と「(2) イノベーション推進組織の革新;次の非常識を産み出し続ける組織の立上げ」の2つが有効と考える。

 投資プロセスがイノベーションを阻害している

組織をあげたイノベーションに取り組むモチベーションの最大の阻害要因になっているのが投資意思決定プロセスにある。世の中にない革新事業を作っていくための投資における評価軸と、既存事業の成長投資判断においての評価軸は全く異なるが、それを明示的に分けている企業は少ない。イノベーションアイデアに対して「で、いくら儲かるの?」という経営者の既存事業の運営目線からの質問によって、多くのアイデアがつぶされているのは「イノベーション難民」が主張する通りである。経営者はアイデアを“レビュー”するのではなく、前回以前のコラムで紹介したような社会課題発掘の視点や“越境”の視点、ルール形成の視点等を駆使して、経営者自身がアイデアを“磨き上げる”ような投資プロセス上の仕掛けを作っていくことが必要である。

ある企業では、イノベーション投資における特別な投資評価基準を社内制度として新たに定義し、その中の1基準として「予測困難な不確実要因が敢えて存在する」という条項を設けた例がある。革新的な事業への投資判断会議の場においては、兎角Upside RiskよりDownside Riskの方が意見し易いため、Downside側の議論になりがちであるが、それを排除し投資に対する組織的な学習を促す基準を意図的に導入したのである。

 一点突破する組織を形成するために社内“特区”が有効

2つ目の「(2) イノベーション推進組織の革新」の要諦は、イノベーションを推進する組織を「企業内特区化」することにある。ここで重要になるのがCSR(社会的責任)機能に対する考え方の見直しだ。従来イノベーションに求められる機能は、Strategy(戦略)とR&D(研究開発)と考えられており、CSR(社会的責任)は企業の“負の影響の緩和策”として捉えられていた。しかし、今後のビッグアジェンダが社会課題を基点としていることに着目すると、イノベーションを創出する上でCSR機能との連携は必要不可欠となる。すなわち、イノベーション推進組織は、Strategy、R&D、CSRの“中心点”に存在する機能を保有すべきなのだ。具体的には、中長期戦略として新事業の位置づけを明確化し持続的に資源を配分するStrategy機能、社会課題主導による技術・サービス開発への資源配分を行うR&D機能、そして本業に直結する先端社会課題の発見とR&Dプログラムを立案・推進するCSR機能の三位一体化である。これらの機能を保有した組織を「企業内特区」チームとして組成することが有効である。既存の延長にない新事業を創出するためには、本業部門との連携を維持しながらも、既存の枠組み・価値観から一定の距離をおくことが重要だ。企業内特区チームを核に他部門連携を積極的に行うことは、社内に新しいDNAをボトムアップで伝播させていくことにも繋がっていくのである。

トーマツグループでは、これらの組織メカニズム化の要諦を押さえながら、骨太な新事業を産み出す組織へと変革するアプローチをプロジェクト支援する例が増えている。イノベーションへの感度の高い少人数によるプロジェクト体制を構築し、社会課題解決型イノベーション視点での発想と実際の巨大事業創出の実践を通して組織学習を図ることで、社内におけるフォーマルな組織の在り方を見極め、承認プロセスや各種制度(管理会計、業績評価/人事評価等)を整備しながら、イノベーションのDNAを組織に伝播・浸透していくことを中長期視点で取り組むことを狙うのである。最終的には、グローバルに社会課題解決型事業の創造・成長を全社で仕掛ける企業への脱却を図り、自分の日常業務と「地球を良くする」社会的価値創造とをリンクさせられる状況を組織的に作りこむことにより、社員を“熱狂”させ、結果としてグローバルにも競争優位を持ちうる圧倒的な組織力を有する会社への脱皮が実現されるのである。

 おわりに:再び日本企業が世界市場の中心になるために

CSRの側面として捉えられてきた社会課題解決はいまやグローバル市場における競争優位確立に不可欠となった。今日、日本企業には大きな経営目標を掲げて組織を変革し、経済価値と社会価値を同時追求するCSV経営モデルへの変革が求められているが、CSVをCSRの延長で「事業を通して社会貢献をする」という次元で捉えてはならず、CSVを通じてイノベーションを起こしグローバルな競争優位を確立していく次元で取り組むことが不可欠なのである。

本コラムでは、このような経営モデルのメガトレンドを踏まえ、社会課題解決を通して世界規模のイノベーションを起こし、骨太な新事業開発を実現していくための「社会課題解決型イノベーション」の要諦をご紹介してきた。その道のりは簡単ではない。しかしながら、世界的にも認知されている日本の「社会性」の圧倒的な高さをテコに、日本企業が日本発・世界へ向けたイノベーションを創出することができれば、再び世界市場で輝きを取り戻すチャンスでもある。アジェンダ発掘から組織への定着までの5つのプロセスを企業内に埋めこみ、イノベーションケイパビリティとマインドセットの抜本的な変革を実現する新しい取り組みに、まずは挑戦する日本企業が増えることを期待したい。

 

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日本企業のイノベーション実態調査結果報告

〔3871KB, PDF〕

コラム情報

著者:
デロイト トーマツ コンサルティング
シニアマネジャー 藤井 剛
マネジャー    福村 直哉

2013.11.21

上記の役職・内容等は、執筆時点のものとなります。

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