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TPP実現の意義とその可能性-TPPをどう活用すべきか

【日経産業新聞 2016年3、4月連載】

環太平洋経済連携協定(TPP)が2016年2月に署名された。難解な協定文書を読み解き、ビジネスへの示唆を出す「通商とビジネスの間の翻訳」はできているだろうか。TPPのビジネスインパクトを解説し、TPPを含む経済連携協定を活用して利益を上げる方策について、解説する。

利益や競争力、実現可能

環太平洋経済連携協定(TPP)が2月に署名された。これまで「TPPの自社への影響は」という問いに、「不明」「軽微」と答える企業が少なくなかった。難解な協定文書を読み解き、ビジネスへの示唆を出す「通商とビジネスの間の翻訳」ができていないからだ。連載を通じてTPPのビジネスインパクトを解説し、TPPを含む経済連携協定を活用して利益を上げる方策を述べる。

TPPは2006年に発効したニュージーランド、シンガポール、ブルネイ、チリの「P4協定」をもとにして交渉が始まった。10年に米国、オーストラリア、ペルー、ベトナムが参加し、最終的にマレーシア、カナダ、メキシコ、そして日本が加わった12カ国で交渉を進めてきた。

妥結の意義をマクロ経済から語るなら、世界の国内総生産(GDP)の約4割を占める、人口8億人の巨大な自由貿易圏の誕生となる。日本の通商政策として語れば、政府が同時並行で取り組んでいる東アジア地域包括的経済連携(RCEP)などTPP以外の広域経済連携交渉における交渉上の「武器」を手に入れた。TPPで高い自由化レベルを実現した日本は、交渉で相手国に大きな市場開放を要求できる。

ビジネスにとっての第一の意義は関税撤廃・削減をはじめとする12カ国間での輸出入条件の改善だ。政府が説明する「日本との自由貿易協定(FTA)を持たなかった米国、カナダなどへの輸出条件の改善」のほか、「日本とのFTAがあったベトナム、マレーシアなどへの輸出条件のさらなる改善」「海外拠点同士の輸出入条件の改善」「日本への輸入条件の改善(食品など)」を含む。

TPPは過去のFTAに比べ、関税削減・撤廃以外の「非関税分野」の取り決めが多くあることも意義として大きい。外国企業による投資自由化や知的財産分野なども含まれている。これらを十分理解すれば、TPPによって利益向上も中長期の競争力強化も実現可能となる。


(2016/03/24 日経産業新聞 )

TPPは5年間に及ぶ交渉の結果、2016年2月に署名に至った

日米議会の承認欠かせず

環太平洋経済連携協定(TPP)の発効は、署名した12カ国すべてが国内法上の手続きの完了を通報した日の60日後と定められている。署名から2年以内に国内手続きがそろわない場合、12カ国の国内総生産(GDP)の85%以上を占める少なくとも6カ国以上が手続きを完了すれば効力が生じる。つまり、TPP12カ国のGDPの大部分を占める日本と米国が手続きを終えない限り、発効しない仕組みとなっている。

日本では3月8日、TPP関連法案が国会に提出された。通常国会の会期終了(6月1日)までの承認は難しいとの意見もあるが、秋の臨時国会も含め2016年中に承認されるとみられている。米国では米国際貿易委員会(ITC)による影響評価が終わる5月に政府が法案を提出し、オバマ大統領の17年1月までの任期中に承認が得られるとの見方が一定の支持を得ている。

米国では「雇用が奪われる」などの理由からTPPに反対する意見が目立つ。ただ、電機、航空、化学、繊維、農業など複数の業界団体はTPPをビジネス拡大の機会ととらえており、議会の早期承認を公式に要望している。仮にオバマ大統領の任期中の承認が実現しなくても、5年半に及んだ12カ国の交渉結果を米国が覆すとは考えにくい。TPPに対して過激な反対意見を表明している一部の候補が新大統領に就任した場合を除き、米国でもTPPは承認されるとの意見が多い。

発効後にTPPへ参加しようと検討している国がある。韓国とフィリピンはそれぞれの大統領が参加の意向を表明。このうち韓国はTPP12カ国のうち、日本とメキシコ以外の国とすでに自由貿易協定(FTA)を締結している。経済・産業としては参加の是非に大きな議論はない。

日本企業が多く進出し、TPP参加の期待が高まるタイでも、ソムキット副首相が「TPPへの参加を積極的に検討する」と表明した。タイ商務省の試算では、タイがTPPに参加するとGDPが約0.8%拡大するといい、同国内でも複数の団体がTPP参加を要望している。

一方、タイと同じく日本企業から参加への期待が高まっているインドネシアは、低迷の続く資源輸出から脱却しようと、国内産業保護の傾向を強めている。ジョコ大統領は15年10月にTPPへの参加意欲を表明したものの、16年2月に入って慎重姿勢に転じている。


(2016/03/25 日経産業新聞 )

批准までのプロセスとTPP参加検討中の国

関税撤廃に3つの顔

環太平洋経済連携協定(TPP)のビジネスに対する影響のうち、物品貿易の自由化(関税撤廃・削減)は企業収益向上に直結するメリットである。これを正しく理解し、TPPを使いこなす準備に入りたい。

TPPでは原則すべての関税撤廃を目指して交渉が重ねられた。米国、マレーシアなど8カ国が関税全廃を約束した。日本は品目数ベース、貿易額ベースとも95%の自由化にとどまったものの、過去に日本が締結したどの自由貿易協定(FTA)よりも高水準の内容となった。

前述した自由化レベルは国全体の数値である。企業は自社製品の関税率がいつから、何%になり、どうすれば活用できるかを理解しなければならない。TPPを含むFTAの関税撤廃・削減は、各国それぞれ約1万品目に分類される関税番号(HSコード)ごとに削減方法(ステージング)が異なると留意してほしい。正しく理解しないと、「FTA使い漏れ」が発生する。

TPP分析を「政府が発表したTPP合意内容だけを精査すること」ととらえていては、TPP使い漏れを招きかねない。TPPの関税撤廃には3つの“顔”がある。

1つ目が「新規FTAとしてのTPP」となる。日本から米国への輸出のように、協定のなかった日米間に締結されたFTAとしてのTPP関税撤廃メリットを指す。ギアボックスなどの自動車部品の即時撤廃が具体例だ。2つ目が「深掘りFTAとしてのTPP」。例えば、日本との間で発効済みのベトナムや東南アジア諸国連合(ASEAN)とのFTAで実現できなかった関税撤廃を、ベトナム政府がTPPで約束した。大型乗用車にかかる64%の関税撤廃などが挙げられる。

最後がいわゆる「Out―OutのためのTPP」、つまり外国間の関税撤廃である。米国のボイラーの輸入関税3.3%は、日本からだと撤廃まで5年かかるのに対し、マレーシアからは即時撤廃となった。

網羅的な分析は企業にとって容易でない。しかし、このステップを経ずしてTPP活用は始まらない。


(2016/03/28 日経産業新聞 )

TPP関税撤廃は3種類。日本からの輸出条件以外も分析が必要

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