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イノベーション戦略におけるサステナビリティ活用のすすめ

~Sustainability Driven Innovation~

本稿では、イノベーション戦略のひとつとして「サステナビリティ・ドリブン・イノベーション(Sustainability Driven Innovation)」を取り上げ、サステナビリティという視点からイノベーションをドライブし、企業にとっての真の持続的な成長につなげるためのヒントを紹介する。

はじめに

企業の持続的な成長にはイノベーションが必要不可欠であることは論を俟たないが、企業がイノベーションを生み出し続けることはそう簡単ではない。イノベーション創出は、多くの企業において重要課題として捉えられ、アイディア創出から事業化へのプロセス見直し、組織・制度の見直し、外部とのコラボレーション促進やイノベーティブな思考法の研修実施など、様々な取り組みが行われている。これらは各社のイノベーション戦略に基づき実施されており、戦略策定においては取り組むべきアジェンダや目標策定を行うステップが必須である。

本稿では、イノベーション戦略のひとつとして「サステナビリティ・ドリブン・イノベーション(Sustainability Driven Innovation)」を取り上げる。これは企業が社会のサステナビリティ(持続可能性)を追求することによりイノベーションを加速させ、結果として企業のサステナビリティ(持続的成長)につなげる方法であり、企業価値と社会価値の両立に向けたCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)のコンセプトを実現するものである。

サステナビリティはイノベーションを誘発する

サステナビリティ・ドリブン・イノベーションとは、サステナビリティ1 に関する活動を梃子にして生み出すイノベーションのことである。日本企業の多くはサステナビリティとコアビジネスを切り離して考えるケースが多く、サステナビリティを価値の源泉として捉えている企業はそう多くはない。例えばCO2削減や水使用量削減、リサイクル等の取り組みは、喫緊に対応すべき課題として認識されてはいるものの、あくまでも社会に与えるマイナスの影響をゼロにする取り組みであり、ゼロからプラスの価値を創造し、自社利益につなげられている企業はごくわずかである。

デロイトの調査2 によると、企業がサステナビリティを追求することによりイノベーションを誘発することが分かっている。調査ではサステナビリティとイノベーションに関する複数のランキング3 より企業を列挙し、サステナビリティに関するランキング掲載企業をサステナビリティ・リーダー、イノベーションに関するランキング掲載企業をイノベーション・リーダーと定義した上で、両者の関係を分析した。結果、まず言えたことは、サステナビリティ・リーダーが、同年のイノベーション・リーダーになりやすい、という相関性である。その可能性は、サステナビリティでランクインしていない企業が選ばれる割合の実に4倍である。ただしこの時点では因果関係は不明である。サステナビリティを活用してイノベーティブなアイディアを導く場合、目に見える形でイノベーションが現れるには時間を要するため、サステナビリティへの取り組みへの評価は、必ずしもすぐにイノベーションの評価につながるわけではなく、遅れて評価されるものと考えられるからである。

そこで、実際に経年で比較してみた場合、サステナビリティ・リーダーとなった企業が翌年にイノベーション・リーダーとなる可能性はより高く、同様の比較で約6倍の差となることが分かった。このことは、両者は単なる相関関係ではなく、そこに因果関係があるということを示している。つまり、イノベーションランキングは、継続的にサステナビリティランキングからの影響を受けており、サステナビリティがイノベーションを誘発した結果であると言うことができる。

 

本稿では特に記載がない場合、サステナビリティは社会の持続可能性を指す。
”Sustainability Driven Innovation 2013” Deloitte Consulting LLP
3 ”World’s Most Admired Companies—Best in Innovation” Fortune, 2006–2011
  “50 Most Innovative Rankings” BusinessWeek, 2006-2010
  “100 Best Corporate Citizens” Corporate Responsibility Magazine, 2006–2011
  “Green Rankings” Newsweek, 2009–2010

サステナビリティを思考のためのレンズとして活用、共通のミッションや制約がイノベーションをドライブする

サステナビリティがイノベーションを誘発するのは、思考のための「レンズ」を、サステナビリティが提供してくれるからである。「レンズ」を通して、企業が従来、コアビジネスで抱えてきた課題とは異なるテーマ(例:水使用量や廃棄物の削減、サステナブルなサプライチェーン構築など)について考える機会を得ることができる。つまり、従来とは異なる視点で重要なポイントを見極め、戦略の方向性を再検討することで、企業の潜在的なイノベーション能力を解き放つのである。「レンズ」の角度によっては、まだ着目されていない社会課題の隙間に、イノベーションの種を見つけることができるかもしれない。

また、企業がある社会課題を解決しようとする時には、「共通のミッション」もしくは「制約」が、イノベーション活動を促進する「ドライバー」となり得る。企業と、関連するステークホルダー間にある「共通のミッション」を通じて、長期的な視野に立ったイノベーションへの活力とすることができるだろう。一方、サステナビリティの視点で経営環境に「制約」という「ドライバー」を加えることで、企業のイノベーションを促進させることも可能である。本稿では、後者で挙げた「制約」にフォーカスをあてることにする。

一般的に、制約は創造力を低下させると捉えられがちであるが、サステナビリティの視点で課された「制約」は、むしろイノベーションを促進するものである。つまり、環境問題など、サステナビリティの観点から企業活動が制限されるなかで、既存の事業形態や製造工程などを変える必要性が生じた際に、その「制約」は、まったく新しい方法を生み出すドライバーとしての役割を果たすことがある。例えば、水使用量の制限を新たな「制約」として捉えた場合は、水使用量削減につながるイノベーションを生むきっかけとなるであろう。実際、他の製造業と比較してイノベーションが起きにくいとされるアパレル業界において、H&M社、パタゴニア社等が、デニム製造時に使用する大量の水・エネルギーを削減する目標を掲げ、達成に向けて水・エネルギーの利用量を大幅に削減した新たな製造工程を開発、新製品を発表している。

サステナビリティ視点での目標値開示という制約が、イノベーションを促進する

サステナビリティの視点で「制約」を加えることで、イノベーションを促進する「ドライバー」とする場合、サステナビリティに関する将来の目標値を公開することでステークホルダーへのコミットメントを示し、それによりさらなるイノベーションが加速することもあり得る。例えば、前述のH&M社は、水使用量削減設備の導入目標や、サステナブルコットン利用量の将来目標、化学物質管理手法の開発期限を設定し、サステナビリティレポート4上で公開している。目標値を公開することが「制約」として前向きなインセンティブの役割を果たし、達成に向けての破壊的イノベーションへつながるケースもあるだろう。

著者の分析によると、グローバルアパレル企業100社5のサステナビリティレポートにおいて、将来の目標値を開示している企業群は、開示していない企業群よりもROE (株主資本利益率)が有意に高いことが確認されている。このことから、将来の目標値を開示するという制約が、結果としてステークホルダーの評価を得ることにつながっていると考えられる。

サステナビリティに関する企業活動を通して社会価値を生み出し、同時に企業価値の向上につなげられている企業は、投資家から評価され、結果としてイノベーションに向けた資源獲得に成功する、という好循環が生まれるであろう。そしてサステナビリティ視点での目標値を開示するということは、さらなる「制約」を自らに課すことになるが、それがイノベーション促進の原動力にもなり得るのである。

4 “Conscious Actions Sustainability Report 2014”, H & M Hennes & Mauritz AB
5 アパレル企業の時価総額上位250社よりランダムサンプリングで100社抽出(2015年7月時点)

まとめ

本稿では「サステナビリティ・ドリブン・イノベーション」を取り上げ、サステナビリティの追求が企業のイノベーションを誘発することを明らかにし、さらにサステナビリティが果たす二つの役割について述べた。

一つは、イノベーティブな思考のための「レンズ」としての役割である。従来とは異なる視点で戦略の方向性を検討することで、企業の潜在的なイノベーション能力を解き放つことができるだろう。もう一つは、「共通のミッション」や「制約」という、「ドライバー」としての役割である。サステナビリティの視点で経営環境に加えられる「制約」は、イノベーションを促進する。そしてサステナビリティに関する企業活動における、目標値の開示という前向きなインセンティブとしての「制約」は、さらなるイノベーション促進の原動力となるであろう。

一般的には、サステナビリティへの取り組みはリスク回避、つまりマイナスをゼロにする取組みであると捉えられがちである。しかし、サステナビリティを価値の源泉として捉え、イノベーション創造の「ドライバー」として活用することにより社会の持続可能な発展に貢献できる企業は、真の持続的成長を実現することができるであろう。

*本稿は、Deloitte Consulting LLPによる “Sustainability Driven Innovation 2013”を参考に、著者の個人的見解を述べたものである。

 

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著者: デロイト トーマツ コンサルティング ストラテジー
リサーチ&ナレッジマネジメント 小野 美和

2015.09.16

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