FTAによる輸出拡大の進化

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FTAによる輸出拡大の進化

※世界経済評論2019年11・12月号に寄稿した内容を一部変更して掲載しています

FTAによる関税コスト削減は、日本企業が執念のように続けた「原価低減」の最後の余地だ。FTAの使い漏れをなくすことで短期的な企業競争力の改善が見込まれることは論をまたない。過去のFTAも輸出拡大に貢献してきた。自由貿易が果たしてきた役割に疑いはないだろう。しかしながら、情勢は大きく変わりつつある。各国での保護主義政策によるリスクが顕在化し、なにより大きな変化が「GDP競争」の終焉だ。今、自由貿易協定はどう進化すべきなのだろうか。輸出拡大は単なる経済規模の追求のためではなくなる。通商ルールは「社会課題の解決につながる輸出」に主眼がシフトするはずだ。それがWTO改革が向かう方向性とも捉えられる。既存の情報技術協定(ITA)や医薬品関税相互撤廃民間協議会(INTERCEPT)、環境物品協定(EGA)のような社会課題解決型の通商ルールをいかにイノベーティブに作れるかに英知を集めたい。例えば「Child Labor Free Zone(児童労働のない地域)産品への関税撤廃」協定という案はあり得まいか。グローバルなモノサシがGDPよりもSDGsに進みつつある中、FTAやWTOルールの進化が問われている。

 

FTAによる輸出拡大の進化(PDF, 756KB)

日本企業のお家芸「原価低減」における「文系の不作為」

バブル経済前後の反省からか、日本企業は筋肉質な経営体質になることを至上の命題とし、特に製造業においては原価低減のための飽くなき努力が続けられてきた。特に加工品を中心とした製品の製造原価の低減活動は、その取り組み自体が現場人材の育成にもつながり、経営者として誇らしいものだった。

この活動には、経営としての大きな意思決定も必要なく、何より大きなリスクもない。品質評価さえしっかり行っていれば、あとは現場からの改善報告を褒めればうまくいく。

だが、そもそも日本企業の製品がグローバル競争においてコスト優位性を持つことなどあり得ないのは自明の理だ。さらに言えば「コスト」を第一義的なテーマに据えた時点で、自らコモディティとなる道を選択したも同然である。さりとて際立った製品の際立った差別化もビジネスモデル変革もできず、打てる手と言えばひたすら「筋肉質」な経営を追求することのみ―――。コストエンジニアリングはもちろん材料シフトにまで及び、自社株買いを通じたバランスシート改善にも余念なく取り組む。

それでも、それでもまだ足りない。まだどこかに削れるコストがあるのではないだろうか。探せ!探せ!
そうした弛みない努力の日々を経て今、ようやく注目されているのが「FTA使い漏れ」解消による関税コスト削減という原価低減だ。
 

なにしろ関税はビジネスに至極大きなインパクトを与えている。

筆者の近著で「関税3%は法人税30%に相当する」という表現を用いたところ、多くの経営者から関心が寄せられた。ごく単純な計算式だ。法人税は、税引前利益に対して課される。一方で関税は、輸入価格(CIF価格)に対して課される。輸入価格を、完成品を作るために必要な部材を海外から調達する際の調達原価に置き換えて考えてみよう。一般的な日本の製造業では、関税が課される輸入価格は、法人税が課される税引前利益の10倍程度だ。この計算によれば、最終利益ベースでは、関税インパクトは法人税の10倍となる。つまり関税が3%下がるのは、日本の実効法人税率が30%下がるのと同等のインパクト、ということになる。

通商ルールへの対応が不充分であるために利益を失っていることを、ある経営者は「文系の不作為」と呼んでいた。生産や開発の現場では“理系”(エンジニア)社員が日々、コストダウンに血道をあげている。それなのに、本社や事業部の“文系”(管理や事務の担当者)が「ルールを充分に理解していなかったため何十%もの利益を逃していました」という事態が起こっている。これは万死に値する、というわけだ。

目線を変えれば、企業にとってFTAの“使い漏れ”は“埋蔵金”でもある。原価低減プロジェクトを完遂し、本社も含めた経費節減を徹底して、もうカラカラの雑巾のように絞る部分すら無くなった――そう思っている企業でも、通商や関税領域への対応は未着手かもしれない。

 

FTAによる輸出拡大の実績

企業にこれだけ大きなインパクトを与えるFTAだ。もちろん産業全体の中でもその効果を見ることができる。

政府がFTA交渉の前後に発表するGDP効果には関税削減による貿易増加に加え投資誘引効果など様々な要素が含まれているが、これらの期待値や推測値よりも納得感があるのが、実際にFTAが拡大させた輸出の実績だろう。

古くはインドとタイのFTAだ。両国間の本格的なFTAは始動していないものの、2003年10月に自由化の枠組みに合意し、2004年9月から「アーリーハーベスト」と呼ばれる一部の品目で関税削減を実施した。アーリーハーベストの対象となる82品目については、最初の1年間で50%、続く1年間で75%という大胆な関税削減を行い、2006年9月時点で関税をゼロにしている。みずほ総合研究所のレポート(「インドとASEAN諸国のFTA -インドのFTA締結状況と我が国企業による活用-」菅原純一)が引用しているインド商工会議所連盟(FICCI)によれば、FTA開始前の2003年4月~2004年3月までの両国間の貿易額は1.489億ドルであったのに対し、FTA開始直後の2005年には3.586億ドルとなり、1年間で141%も貿易額が増加した。個別品目についても、タイからインドへ輸出される自動車用の照明(HSコード:8512.20)では、インド側の関税率が25%削減されたことにより、2004年に183万ドルだった輸出額が2005年には283万ドルへと急増した。

2011年7月に発効したEU・韓国のFTAでも貿易拡大が実現している。JETRO(日本貿易振興機構)によると、2018年の両国間の貿易規模は協定発効前の2010年と比べて30%増加した。

最近では、2018年12月末に発効したTPP11(正式名称は環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定:CPTPP)でも既に実績がある。TPP11によって日本が初めてFTAを締結したカナダやニュージーランド産の牛肉の輸入が増えたという報道を目にする機会が増えた。財務省貿易統計によると、特にカナダ産の骨なし牛肉(HSコード:0201.30)の輸入が増加している。TPP11発効前の2018年の月あたりの平均輸入額が約3億円なのに対し、発効後の1月から5月までは平均約5億円。4月、5月の単月だと約7億円と、発効からわずか数か月で輸入額が倍増している。カナダ産の牛肉の関税率は、38.5%から段階的に引き下げられ、執筆時点(2019年8月)では26.6%だ。関税がゼロになったわけではないが、約12%という大幅な引き下げが輸入の劇的な増加をもたらしたと言えるだろう。
 

図1: 経済成長と貿易依存度(アメリカ)
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また、2019年2月に発効した日本・EUのEPAでも効果が出始めている。例えば日本からドイツに輸出するギヤボックス(HSコード:8708.40)は、3~4.5%だった関税が発効と同時にゼロになった。2018年における日本からドイツへの月あたり平均輸出額が約16億円なのに対し、日EU EPA発効後の2019年2月から5月の平均輸出額は約21億円だ。各企業は発効前からFTA活用の準備を整えていたものと推察される。

こういったFTAを中心とした自由貿易による貿易増進効果が経済全体にプラスの効果をもたらすことを示すグラフとして、「貿易量」と「豊かさ」の伸びを長期スパンで可視化したものがよく用いられる。

例えば米国でも、「貿易依存度」と「一人当たりGDP」には長期にわたって強い相関が見られる。自由貿易が進めば、産業競争力の強い企業は製品輸出を通じた事業拡大が可能になる。逆に、輸入が拡大すれば国内の弱い産業の淘汰が進み産業の生産性が向上するため、結果として輸出・輸入双方の拡大がGDP増加に寄与する、という説明が一般的だ。

一方で、これは「相関」であって「因果」ではない、すなわち自由貿易の拡大が国富拡大の主因ではないとする論もあり、まさにこの通商環境においては議論が重ねられるべき論点だ。特に今後、米国トランプ政権が法人税減税やその他の経済政策ツールと組み合わせて発動する保護主義政策を受けて、このグラフがどう推移するかに注目が集まっている。

脚光を浴びつつある「Standstill」条項

自由貿易の効能についてはマクロ/ミクロ双方の観点から実証されつつあるものの、ここ数年の通商動向が従来の通り一遍の論理では説明できないことは確かだ。今日の通商環境が「100年に一度」の激動の状態とされる理由のひとつが、「関税が上がる」リスクによるものである。このリスクが先進国の大経済圏において顕在化している。

第二次世界大戦後にGATTやWTOの体制に入って以来ずっと、「通商リスク」と言えば自由貿易が進まないこと、すなわち関税が期待通りに下がらないことを指してきた。

ビジネスの観点で見れば、関税が下がらないリスクは決して経営の意思決定を大きく左右するものではなかったはずだ。せいぜい、「下がると期待していた関税が下がらなかった」程度のものだからだ。
 

米国トランプ政権による、通商協定法201条(家庭用大型洗濯機や太陽光発電装置に対して)、通商拡大法232条(鉄鋼製品やアルミ製品に対して。今後自動車関連に対しても検討)、そして対中国への通商法301条に基づく高関税措置は、まさにこれまでグローバル経済が経験したことのない先進国における関税アップのリスクだ。同じく欧州におけるBrexit(英国のEU離脱)も、先進国における関税アップが確実視される出来事だ。

この未曾有の状況下で、いま改めて評価されつつあるのがFTAにおける「Standstill」条項だ。FTAにおけるStandstill条項とは、関税であれば「据え置き」すなわち「締約国に対しては関税を上げない」ことを約束するもの。例えば日ASEAN経済連携協定(AJCEP)での物品貿易自由化における譲許表では、「A」約束が関税即時撤廃、「B」が段階的関税撤廃、そして「C」がStandstillの関税据え置きの約束と表記される。AJCEP協定では日本側のオファーとして122品目(HS6桁)がStandstill約束となった。

これまでのFTAではStandstill約束については、実態の経済連携に大きな効果はないものと捉えられることが多く、官民からも注目されてこなかったのが実状だ。だが、保護主義政策が同時多発的に講じられる可能性がある現状のグローバル動向の下では、安全保障例外のケースを除けば「わが国には高関税措置が適用されない」ことの確約は、ビジネスにおける予見可能性の獲得という観点で大きな意義があるだろう。

 

いま、自由貿易協定はどう進化するべきか

さて、ここで一つ問いを立てたい。
トランプ政権が矢継ぎ早に強引な通商施策を実行し、そもそものWTO枠組みに対する改革の必要性が共通認識となりつつある今、自由貿易協定はどのような方向に進むべきなのだろうか。

比較優位な商材の流通障壁を減らし、先進経済圏からの輸出競争力を高め、データ流通の公正化を促し、更なる越境投資を促進する―――これらの議論が引き続き進展することは歓迎だ。だがしかし、だ。我々が世界経済の本質と見た「自由貿易」はそんな“古めかしい”ことのためにあるのだろうか。

否。筆者は考える。自由貿易は今後、世界に遍在する無数の社会課題を解決するために進化することが求められるのではないだろうか。

通商協定は「ビルディング・ブロック」として、前例を踏襲しつつ進化してきた。詰まるところ、自由貿易が資する目標はあくまでも「GDPで表現される国富」に置かれてきた。通商交渉が国家単位で行われる限りにおいて、国民の選挙で選ばれた為政者にはその目的に多くの選択肢はない。国税をもとに仕事を作る行政官からも同様の視点になることは自然なことだ。だが、「ASEAN+1」FTAのシリーズを超え、TPPやRCEPなどのメガFTA交渉が終盤を迎えつつある今、その進化は手詰まり感がある。もちろんデジタル化や個人情報など新たなアジェンダへのルール整備は必要だが、そもそも世界の「GDP競争」はほぼ終焉に向かいつつあるのだ。このトーナメントで決勝に残ったのは米国と中国。日本やEUを含むその他の国や地域は準決勝までで敗退が決まった。そこで、欧州諸国が中心となり、GDP以外の「モノサシ」を作り出す知恵を絞った。そのひとつが「SDGs」だろう。今や国際社会は単純な経済成長や開発の競争だけに目を向けてはいないのだ。
 

踏まえ、問いを変えよう。いま真に「拡大させたい輸出」とは何だろうか。

GDPの拡大と人々の幸福が必ずしも相関しないことが明らかになって久しいいま、FTAを始めとする通商ルールが目指すゴールも変わって然るべきだろう。通商ルールは「社会課題の解決につながる輸出」のためにその主眼がシフトするはずだ。それが、WTO改革が向かう方向性のひとつとも言える。

ヒントとなる既存のスキームのひとつが「情報技術協定(ITA:Information Technology Agreement)」だ。国家や地域の開発格差の元凶となる情報格差をなくすことを目指し1997年に発効した複数国間協定であるITAは、いまや対象品目の世界貿易額の96%がカバー(2018年5月時点)されている。「医薬品関税相互撤廃民間協議会(INTERCEPT)」からも学ぶことが多い。WTOウルグアイ・ラウンド交渉(1986~1994年)において、世界の医薬品貿易量の9割を占める国(日本、米国、EC(当時)22ヶ国)の間で同一の医薬品関連品目の関税撤廃に合意したことで、世界中の人々に薬が流通しやすい世の中になっている。他にも、WTO・APECで議論されてきた「環境物品協定(EGA:Environmental Goods Agreement)」での環境対応製品の関税削減もまさにこの先鞭だ。

これら協定には、意思がある。色のない貿易総額や経済規模拡大ではなく、社会課題解決のためのルール形成だ。今後の通商政策は「どの国と協定を結ぶか」ではなく「何を世界で優遇するか」の議論を重ねたい。

いかにイノベーティブな通商協定をつくり、社会課題を解決するか。この思考の指針となるのが「経済合理性のリ・デザイン」という考え方だ。

そもそも、社会課題はなぜ生まれ、増え続けるのか。経済観点では、その理由は2つ。「社会課題を生むことの方が経済的に“得する”から」もしくは「社会課題を解決しても“儲からない”から」だ。「社会課題を生み、且つ、放置した方が経済合理性に適う」という社会の歯車の狂いが、今日の課題の元凶であり、その大きな壁の前で我々は立ち往生してしまうのだ。

SDGsが見据える2030年までに残された時間は少ない。非連続な変革を起こしSDGsを達成するためには、消費者の意識改革や社会全体のリテラシー向上を待っている余裕はない。「企業が利益だけを考えて行動すれば、自然と社会課題が解決されていく」世界に作り変えることが必要だ。通商ルールにはそのゲームチェンジの力があるはずである。

 

社会課題解決型の通商ルールのアイデア

最後に、いま筆者がNPO/NGOとともに検討している新たな通商ルールの提案を紹介したい。「Child Labor Free Zone(児童労働のない地域)産品への関税撤廃」協定というものだ。有識者各位から忌憚ない御意見を頂戴するプロセスを通じて実現に近づけたい。

いま世界には1億5,200万人の児童労働が存在している。SDGsにおいてはあらゆる形態の児童労働を2025年までに撤廃する目標が掲げられているが、この問題も経済合理性との闘いだ。児童労働をすればするほどコストダウンになり利益につながってしまう現実が、特にコモディティ品における児童労働発生につながっている。「児童労働がコストアップもしくは売上ダウンになる世界」を作ることが、「経済合理性のリ・デザイン」だ。もちろん労働者や家族側にも労働力を提供したい背景や経済事情があり、それらへの対処も別途必要だが、企業からの需要を無くすことができれば撤廃に向けた大きな一歩が進むだろう。

これに関する既存のルール形成の動きとして、認定NPO法人「ACE」とガーナ政府の取り組みが特筆に値する。ガーナではチョコレートの原料となるカカオ豆の生産に多くの子どもが従事しており、その解決に向けたアプローチの一つが、現在ACEとガーナ政府が共に創設を目指す「Child Labor Free Zone(児童労働のない地域、以下CLFZ)認定制度」だ。この制度では例えば教育環境の整備や地域コミュニティにおける子ども保護活動等、CLFZが満たすべき要件を定めることを想定している。2018年11月にガーナの雇用労働省とガーナ農業労働者組合、ACEの現地パートナー団体CRADAを集めたステークホルダー会合において議論が開始され、今後制度の詳細が固められていく予定だ。

この取り組みの進展を官民で支援しつつ、更にこの先に仕掛けるべき通商ルールでの「経済合理性のリ・デザイン」を考えたい。

「CLFZ」の「Z」は「Zone」、即ち、原産地規則を設定し得る単位となる考え方であることに「経済合理性のリ・デザイン」の光明を見る。「CLFZ産品」である原産地証明をもつ輸出入に対し、特恵関税率を付与することができないだろうか。

最終財であるチョコレートの総原価において、原材料であるカカオ豆の生産にかかるコストはごくわずかな割合しか占めていないことに注目する必要がある。すなわち、カカオ農園で児童労働をやめることで生じる生産コストの上昇分は流通過程に存在する総コストに比べれば至極小さいものであり、流通コストの削減によって打ち消すことが可能となる。流通コストの代表的なものは関税だ。特にカカオ豆と比べてカカオペースト・バター、チョコレートには高い関税が課されており、これらを削減すれば大きなコストダウンとなることが確実だ(図2)。「CLFZ産品(CLFZの要件を満たすエリア)で生産された原材料(カカオ豆)及びそれを使用した中間加工品(カカオペースト・バター)、最終製品(チョコレート)」については関税撤廃する条約が、前述ITAやINTERCEPTのように実現できれば「経済合理性のリ・デザイン」が成るだろう。
 

議論の喚起のため、更に詳細なルール設計のアイデアを付してみる。
「Child Labor Free Zone産品への関税撤廃」協定での無税措置の恩恵を不正に享受するための「迂回」を防ぐ対応として、原産地規則の丁寧な設計が必要となる。カカオ豆についてはCLFZにおける「完全生産品」、カカオペースト・バター、チョコレートについては「収穫・発酵・乾燥」と「ロースト・磨砕加工」の2工程以上がCLFZで行われていることを求める「2工程基準」が妥当だろう。

最後に、仮にルールが実現し運用が可能になったとしてカカオ農家にどのようなメリットがもたらされるのか、という、実際にガーナ政府関係者との本提案に関する意見交換において出された疑問にも答えておきたい。政府関係者から上げられた懸念は、既に生産キャパシティ限界までカカオ豆を生産している農家にとっては、カカオ豆の取引数量が増加しても困惑するだけだ。こうした農家にとってはむしろ現在の生産量の範囲で単位あたりにより大きな金銭的なメリットを得られる方が望ましい。そこで例えば、原産地証明にかかるコストの一部を各国機関及び生産国機関を通して農家に還元する施策を併せて検討するべきだろう。具体的には企業が原産地証明を得るために証明発給機関に支払う代金に上乗せする形、または証明発給機関が得る収入の一部を差し引く形が想定される。
 

図2: 児童労働フリー製品の「関税撤廃」の効果
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もっとイノベーティブな通商ルールに

日EU EPA、米国との二国間交渉、そしてRCEPが取り組まれた今、次なる通商政策の指針が地理的な範囲拡大でないことは明らかだ。

次のアジェンダは、それら自由貿易協定・経済連携協定の「使い漏れ」防止と必要な活用ツールの普及、そして自由貿易そのものの「新たな目的」の設定に他ならない。FTAはもっともっとイノベーティブなものになれるはずだ。デジタル等のイノベーション分野への対応、ではなく、FTA自体がイノベーションを起こす必要がある。当座の指針は「社会課題解決」「SDGs実現」で異論ないだろう。必然、議論の主役も変わってくるはずだ。政府交渉官のみが尽力する通商ではなく、企業やNPO/NGOも巻き込んだコレクティブ・インパクトを実現するフィールドとしてFTAが進化することを期待したい。
 

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