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持株会社組織における知的財産管理の高度化

管理・権利の集中・分散のパターンで捉える

持株会社組織における知的財産管理の重要性と、知的財産をどのように管理し、ロイヤルティ収入を増加させるかを、事業戦略と税務の観点から管理・権利の集中・分散のパターンより解説する。 (旬刊経理情報 2016 1/10/20合併特大号掲載)

1.持株会社組織における知的財産管理の重要性

持株会社組織におけるグループ全体の知的財産管理(以下、知財管理)は、近年、ひとつの経営課題として非常に重要な意味合いを持ちつつある。なぜならば、特に純粋持株会社の場合には、自ら事業を実施しておらず、収益源が限定的となるからである。純粋持株会社の主な収益源としては、次の5点が挙げられる。
(1) 株式の受取配当金
(2) グループ運営収入(経営管理・指導料、業務委託費、技術指導料等)
(3) 無形資産(特許・商標等の知的財産権)のロイヤルティ収入
(4) 有形資産の賃貸・リース料収入
(5) 貸付金の受取利息、債務保証料

収益源ごとの特性を考えると、(1)受取配当金は、傘下の子会社の業績に依存するため、持株会社単体からみれば、不安定な収入見込みとなる。(2)から(5)については、一定程度、定常的な収益となる。特に(3)無形資産のロイヤルティ収入は、子会社の売上高の数%を占めるケースもあり、大きな収益源として期待される。一方で、その管理は事業会社である子会社ごとに任せきりにしてしまっており、持株会社組織のメリットを活かしきれていない企業が多い状況である。また、持株会社自身にとっても、知的財産をどのように管理し、ロイヤルティ収入を増加させるかは重要となる。

特に近年ではM&Aの活性化により、グループ会社のなかでグローバルに知的財産が分散し、その管理方針や管理体制も個別対応になっていることが多い。グループ経営におけるシナジーを最大化するためには、グローバルで知的財産をどのように管理・活用していくかについて真剣に検討すべきである。

本章においては、知的財産に関するグローバル管理およびロイヤルティに着目して議論し、知財管理の高度化による持株会社組織の進化についてみていく。なお、ここでの議論における知財管理は、グループの重要な経営資源の1つとして知的財産をいかに戦略的に管理・活用するかという視点に立っており、グループ運営における知的財産に関する事務的業務のシェアードサービスとしての位置づけとは異なる点に留意されたい。

2.純粋持株会社による知的財産の保有と知的財産担当者

経済産業省の調査報告1によれば、グループ全体と純粋持株会社の知的財産権の保有と知的財産担当者(以下、知財担当者)の状況は次のとおりである。

  • 関係会社を含めたグループ全体の知的財産権の保有件数に対する純粋持株会社の保有割合は19.3%(内訳:商標権28.9%、実用新案権27.5%、意匠権9.7%、特許権7.8%)
  • 全業種の1企業当たりの知財担当者数はグループ全体で4.2人、純粋持株会社で1.1人
  • 製造業の1企業当たりの知財担当者数はグループ全体で13.7人、純粋持株会社で3.2人(他の業種に比べて最も多い)

純粋持株会社が商標権を保有する割合は約3割で、他の知的財産権に対して相対的に高くなっている。これは、コーポレートブランドや製品ブランド等をグループ共通で使用する必要があるためであろう。他方、純粋持株会社が保有する特許権は全体の1割にも満たないため、基本的には子会社が保有していることになる。いずれにしても、純粋持株会社が知的財産を保有している割合は低くなっており、かつ知財担当者のリソースも限られていることがわかる。

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1 経済産業省「平成26年純粋持株会社実態調査確報-平成25年度実績-」
http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/mochikabu/result-2.html (別サイトにリンクします)
 

3.事業戦略と知財管理

(1) 知財管理の4つのパターン

知財管理の手法には、大きく「多元管理」と「一元管理」の2つがある。すなわち、グループ会社の各拠点で生み出された発明をそれぞれの拠点で管理するのか、それとも1ヵ所で集中して管理するのかのいずれかである。また、知的財産の一元管理といった際に、混同されがちであるが、一元管理には「管理形態の集中(一元化)」と「権利帰属の集中(一元化)」の2種類が存在する。したがって、知財管理体制は、管理形態と法的な権利帰属の組み合せによる4つのパターンがあり、その特徴を図表1に示す。

知的財産の管理組織は、主に研究開発および特許に関わる管理者として、情報の集約・整理・提供、ならびに特許の権利化・活用・維持に関わる実務的な各種手続を手掛ける。知的財産の帰属組織は、権利者として知的財産を保有し、主に特許権等の権利化・活用・維持に関わる権利執行の最終意思決定権を有する。 

[図表1]理形態と権利帰属の状態による知財管理の4つのパターン 参照

他にも、図表1の4パターンを組み合わせたハイブリッド型のパターンや、完全子会社として知財管理専門子会社を設立してグローバルで管理も権利も集中させているパターンで、フォードのフォード・グローバル・テクノロジーズ(以下、FGT)や3Mの3Mイノベーティブ・プロパティーズなどのケースがある。たとえば、FGTは2002年に設立され、フォードグループ全体の知的財産を保有・管理するとともに、対外的なライセンス・ビジネスも手掛けている。なお、フォードのグループ内のロイヤルティは、年間約5億ドル2が計上されている。

知財管理専門子会社を設立するメリットとしては、全社統一した経営戦略、知的財産戦略(以下、知財戦略)の策定・運用が可能となり、企業体としての経営意識の向上と収益構造化が図られ、知財管理部門が単なるコストセンターという位置づけから脱却しやすくなることが挙げられる。
 

(2) 管理集中モデル(パターン1・パターン2)

管理集中モデル(パターン1・パターン2)の場合、管理分散モデル(パターン3・パターン4)に比べ権利化前の知的財産に対する権利化の可否判断基準が統一され、権利化手続が集中することにより管理コストは低減される。また、情報の一元化と共有により、グループ内での知的財産の横展開および技術料/商標料などのロイヤルティの管理が容易になる。

さらに、権利集中モデル(パターン1)の場合、統一された知財戦略・知財管理ポリシーの実行、競合他社への権利行使(訴訟)やライセンス・標準化活動に関する意思決定の迅速化、移転価格税制や税務メリットに対する全社的対応を図ることもできる。他方、権利を集中させるために権利移転が伴う場合、税務上適切な譲渡対価の支払が必要となることや、権利を吸い上げることにより、事業会社や発明者のモチベーションが低下することなどのリスクが挙げられる。また、事業を実施していない純粋持株会社や知財管理専門子会社に権利を集中させてしまうと、権利行使時に逸失利益の主張が難しくなる可能性もある。
 

(3) 管理分散モデル(パターン3・パターン4)

パターン3のように管理分散・権利分散モデルのもとでは、各現地法人が個別に知的財産を管理し、各現地法人において生み出された発明は、各現地法人に権利が帰属する。研究開発と知財管理の物理的な距離が近いため、権利化可能な発明の発掘が容易であり、現地の法制度に即した迅速な権利化対応ができる。また、自ら権利活用することにより収益を生むことが可能であるため、各現地法人における積極的な研究開発およびライセンス活動のインセンティブにもなる。一方で、グループ全体を俯瞰すると、グループ全体での管理コストは増加することなどがデメリットとして考えられる。なお、パターン4については、理論的にはあり得るが、現実的には想定されにくいため割愛する。
 

(4) どの知財管理モデルを適用すべきか

知的財産の管理形態および権利帰属によるグループ内での利用関係について、図表2に示す。

[図表2]知的財産の管理形態および権利帰属によるグループ内の利用関係(例) 参照

一般論で言えば、全社最適を重視するのであれば、管理集中モデル(パターン1・パターン2)が適合しやすく、かつ、パターン1のような権利集中モデルとなれば、権利執行の最終意思決定権を有するため、戦略の実行がよりしやすくなる。一方、事業の個別最適を重視するのであれば、管理分散・権利分散モデル(パターン3)が適用しやすくなる。このため、あるべき知財管理体制を検討する際には、事業戦略、知財戦略(事業保護/収益化)、事業ステージ(新規事業/成長事業/成熟事業/衰退事業)、各事業部・子会社の類似性・共通性(高い/低い)、発明の内容(基礎研究/応用研究/製品開発)などの要因を考慮し、自社の戦略に即した知財管理を実行すべきである。例えば、将来にわたって長期的に保有し続ける成長事業であれば、親会社や知財管理専門子会社で一元管理し、逆にコモディティ化した成熟または衰退事業で短期的に売却対象になる可能性のある事業であれば、個別に多元管理したほうがよいと考えられる。

会社全体としてどのような戦略に基づき、どのように知的財産を管理・活用していきたいかという意思決定が重要である。第Ⅰ章で述べたとおり、「組織は戦略に従う」からである。

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2, Ford Motor Company, Form 10-K (December 31, 2014) 

[図表1]理形態と権利帰属の状態による知財管理の4つのパターン

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

[図表2]知的財産の管理形態および権利帰属によるグループ内の利用関係(例)

出所:デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社作成

4.知的財産と税務の論点支

(1) 研究開発体制と知的財産

権利集中モデル(パターン1・パターン4)において、税務上のメリットを享受したい場合、知的財産の帰属と研究開発体制および移転価格税制の論点について整理・検討する必要がある。

多くの産業において、知的財産を含む重要な価値のある無形資産をいかに活用するかが、事業で大きな収益を上げたり高い利益水準を得るための鍵になる。

移転価格税制の文脈からは、その無形資産が事業収益の重要な源泉になる場合には、事業収益の大部分は無形資産を持っている拠点に帰属させるべきであるとされる。ある拠点が、別の拠点が持っている重要な無形資産の使用許諾を受けて、製品などを生産・販売する場合には、無形資産を持っている拠点に対して、その使用の対価を支払う必要がある。しかも、事業収益の大部分が対価として支払われる場合には、その無形資産を保有する拠点の実効税率は、企業のグローバル・タックス戦略において極めて重要な要素になる。

したがって、税務上の最適な研究開発体制とは、研究開発から創出される無形資産が帰属する国または地域が優遇税率などの利用によって低い法人税率を実現できる体制をいう。
 

(2) 移転価格税制と知的財産

買収前や過去に子会社が独自に研究開発し、知的財産を含む無形資産が税務上必ずしも最適ではない国に所在する場合もある。税務上最適な事業モデルを構築するためには、その無形資産の移転が有効かもしれない。

特許権やその応用に関する技術、商標・商号などの無形資産の移転時には、経済的権利の移転方法と対価の算定、税務リスクを考慮する必要がある。税務上は、経済的権利をアームズ・レングス(独立第三者間であれば成立するであろう条件・価格)で取り引きする必要がある3。また、権利移転後の知財管理体制は、知的財産を創出する研究開発・事業部門と知財管理部門が別会社に存在する場合にどのように情報共有を行うか、どのような役割分担で知的財産関連業務のオペレーションを実行するか、ライセンス契約時にどのようにグループ内の複数当事者と調整して意思決定するか、複数当事者に対してライセンス料の利益配分とコスト配分をどのようにしていくかというルールを事前に定めておくことが非常に重要になる。
 

(3) 知的財産の移転による税務効率の向上

たとえば、管理集中・権利集中モデル(パターン1)を採用する場合、欧州に存在する子会社、もしくは新設する子会社をグローバルでの無形資産を保有する知財管理専門子会社や地域統括会社に位置づけ、本社とともに海外子会社を含めて世界中に点在していた知的財産を集約する。そして、特定地域での事業展開のための無形資産を保有して、その維持・管理・活用に責任を負わせる。一般に欧州は、アイルランドなどをはじめ、日本に比べて法定実効税率が低い国が多いうえ、統括会社に対する優遇税制を有している国も多く、税務上のメリットを享受できる可能性がある。一方で、管理集中・権利集中モデル(パターン1)と管理分散・権利分散モデル(パターン3)のハイブリッドのケースとして、1拠点に集約するのではなく、地域の統括機能を有する拠点(地域ハブ)に開発機能と無形資産を集約するハブモデルも有力な税務最適化のアプローチの1つである。

ただし、実際に知財管理専門子会社や地域統括拠点で無形資産を保有するためには、現行の事業形態から大きな変更を要する事項が多い。このため、スキームの設計・実行に際しては、綿密な検討・試算などが必要になる。既存の無形資産については、譲渡とライセンス方式のいずれがよいかをそれぞれメリットとデメリットを分析し、有利な方法を選択することも考えられる。

また、詳述は避けるが、将来の研究開発については、委託開発方式によりたとえば地域統括拠点が委託元となり、将来的に創出される無形資産の経済的所有権を地域統括拠点に集約することで、税務最適化を目指すことができる。また、地域ハブと親会社で研究開発コストを分担し、無形資産の共有を図るコスト・シェアリングを利用することも可能である。 
 

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3 2015年10月に公表されたBEPS行動8-10の最終レポートにおいて、開発の初期段階にあり、将来収益の見通しが難しく、そのため評価が困難な無形資産の譲渡取引の対価について、その評価などの課題に関する検討結果が記載されている。無形資産評価の基礎として事前の将来収益の見積もりと事後の収益結果に大きな違いがある場合、課税当局が事後的な収益結果に基づき無形資産を評価する可能性について述べられている。ただし、納税者から事前の将来収益予測の詳細な前提や信頼できる根拠が提示されている場合などにおいては、後知恵的なアプローチは採用されないこととされている。

5.グループ知財管理の高度化により、日本企業が勝ち残るために

持株会社組織を進化させるための方策のひとつとして、持株会社または知財管理専門子会社が知的財産の管理集中モデル(パターン1・パターン2)をとることで、グループ全体のコストを低減させながら、シナジー効果を増大させることができる。また、地域ハブ(第Ⅱ章における中間持株会社、地域統括会社としての位置づけ)を活用しながら、知的財産を用いたタックス・マネジメントを実施することで、グループ全体としての資金効率を向上し、事業収益力を向上させることも可能となる。繰り返しとなるが、最適な知財管理手法は事業戦略に合わせて検討し、事業の状況に応じて選択すべきである。このため、柔軟にスキームを変更することが望ましいが、その設計・実行に際しては、メリット・デメリットを考慮した綿密な検討・試算などが必要になる。

以上

本文中の意見や見解に関わる部分は私見であることをお断りする。

執筆者

デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社 
知的財産グループ
シニアヴァイスプレジデント 小林 誠

(2016.04.22)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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