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“任せて任さず”。最適なグループガバナンス構築の要諦

抽象度が高く共通イメージを醸成し難いガバナンス設計には検討フレームが必要となる

不確実性が高く環境変化が大きい昨今、より柔軟かつ迅速な事業展開を指向し持株会社体制やカンパニー制を採用するケースが増えている。しかしながら、組織構造を変更するのみではその目的達成には繋がらず、最適なグループガバナンスを構築することが肝要となる。そして、最適なグループガバナンス体制検討とは、事業特性を踏まえた「ありたき姿を求めた任せて任さず」を定義する旅であり、そのための要諦を紹介する。

成長に資するグループガバナンス

近年、COVID-19の広がりや米中貿易戦争に加え、デジタル革命による提供価値の大きな転換等、事業構造を取り巻く環境は、過去にない急速なスピードで変化している。このような事業環境を踏まえ、、より現場に近い場所で事業主導での迅速かつ柔軟な意思決定を実現すべく、持株会社体制への移行やカンパニー制の導入を検討するるケースが増加している。

一方で、組織構造の再編のみではその目的を達成する事は出来ず、各事業がそれぞれの事業環境に合わせた最適な行動・意思決定を可能にする権限設計や経営管理、会議体設計等を組み合わせた“グループガバナンス体制”を構築することが必須である。つまり、グループガバナンスとはグループ・事業戦略や組織構造と合わせて、成長実現に向けた重要要素のひとつである。

 

グループガバナンス構造の検討は“ありたきを求めた任せて任さず”を定義する旅

しかしながら、グループガバナンス構造の設計は困難を極めるケースが多い。その理由は、ガバナンス構造設計とは極めて抽象度が高く、一言で「権限移譲」といっても、関係者間で何をどこまでどのように委譲するのか共有目線を醸成することができず、設計段階の思想と実際に構築されるガバナンス構造には相応のギャップが生じてしまい、結果として“中庸な”もしくは“従来の延長線上”のガバナンス体制となってしまい、“ありたき姿”とはかけ離れたものとなってしまう。

つまり、グループガバナンス構造の検討は、事業戦略や組織構造を検討する場合と同様に、関係者間で徹底して議論し詳細を詰めていくとともに、それらを実現するための権限やKPIの設計、会議体等を一つずつ合理的に組み合わせていくことが必要であり、いわばそれは“ありたきを求めた任せて任さず”を定義するための旅ともいえる。

 

ガバナンス設計に関する4つのレバー

この“ありたきを求めた任せて任さず”を定義するための旅を着実に乗り超えていくためには、抽象度が高く掴みどころがないガバナンス設計において、“ありたき姿を実現するためのガバナンス構造を具体化させた地図”が重要になる。

モニターデロイトでは、様々な企業に対する改革実現を支援するなかで、“ありたき姿を実現するためのガバナンス構造”を具体化させるためのフレームとして「ガバナンス設計に関する4つのレバー(図1)」定義した。

(図1)

 

【第1のレバー:制度設計の柔軟性】

制度の柔軟性とは、会計・人事などの管理や情報システム、生産・調達・物流・品質にかかる制度・ルールに関してどこまで自由度を与えるのかを示している。柔軟性を高めることで、各事業は各々の事業環境に合わせて、自らの責任で各種制度の設計を行っていくことになる。

【第2のレバー:人事の任免範囲】

人事の任免範囲とは、事業活動の中核を担う人材に対するHDや本社の関与範囲を示している。任免範囲を限定することで、事業を統括するトップ(カンパニー長や事業子会社CEO)を中心としたチームを構築することが可能になる。

【第3のレバー:機能配置の許容性】

機能範囲の許容性とは、直接・間接に関わらず各事業活動に必要となる各種機能(研究開発、調達、製造・生産、SCM、販売、経理、人事、知財、等)をどこまで事業側でコントロールすることを許容するかを示している。許容性を高めることで、各事業は各々の判断で各種機能について内製化や外部活用等を選択することが可能になる。

【第4のレバー:資金・投資の分散度】

 資金・投資の分散度とは、各事業におけるが生み出した資金に対するHDや本社による統制の水準を示している。分散度を高めることで、各事業はHDや本社に対して最低限の配当や分配を実施し、それらを超える範囲は自らの判断で投資を行うとともに日々の資金繰りについても責任を持つことになる。

このフレームを用いてガバナンス設計の検討を進めることで、各事業の成熟度やマネジメントポリシーを踏まえた“ありたき姿を求めた任せて任さず”に関する、効率的な検討を進めることが可能になる。

 

レバー設計のセオリー

また、当該レバーを活用しガバナンス方針を設計していく上では、幾つかのレバー設計のセオリーをベースに検討していくことも一案である。モニターデロイトでは、“どのように事業に対して関与していくか”という観点で大きく4つのセオリー(図2)を定義している。

(図2)
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このうち、事業投資型、事業支援型、事業遂行型は一般的な事業会社(含、純粋持株会社)によるモデルであり、純投資型は所謂投資ファンド等を意識したモデルである。

具体的な検討を進めていくにあたっては、まずは基本的なセオリーを選択したうえでより精緻な検討を進めていくことが一般的である。
 

 

レバー単位の詳細項目

前述したセオリー等をもとに基本的方針を定義したのち、4つのレバーを詳細に分解し検討を進めていくことでより精緻な方針策定が可能になる。詳細項目は各社のビジネスモデル等を考慮しつつ項目を補完する必要があるが、モニターデロイトでは4つのレバーを更に分解した基本的項目(図3)を整理している。

(図3)
レバー単位の詳細項目
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また、各項目別にどのような権限移譲の状態定義を詳細項目単位で実施(図4)している。

(図4)
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最後に・・・

本稿では、事業成長を支える重要な要素であるグループガバナンス構造設計について紹介してきた。ガバナンス設計の4つのレバーは、モニターデロイトがこれまで経験してきた多数のCorporate Transformation(CX)経験から導き出したフレームであり、これらを活用することで、抽象度が高いガバナンス方針策定を迅速かつ具体的に進めることが可能になるとともに、ガバナンス設計の4つのレバー基づき権限規定やKPI設定、会議体運営まで落とし込むことで、事業成長を支える“ありたき姿を求めた任せて任せず”の定義・実現につながると考えている。

次なる成長に向けて、貴社における改革実現にむけた一助になれば幸いである。

以上
 

著者

伊藤 爵宏/Takahiro Ito
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 シニアマネジャー

製造業を中心に、バイサイドディールにおけるビジネスアドバイザリー、セルサイドディールの構想・実行、PMIにおける統合事務局、グループ子会社の再編構想等、M&A・組織再編全般にアドバイザリー経験を有す。

近年では、日本企業のグローバル経営力強化に向け、グローバル本社・地域統括組織におけるミッション・機能の再定義から組織再編の構想・実行に至る機能・組織変革案件に多数従事している。

(2021.07.13)
※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。
 

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