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トルコにおけるM&Aトレンドと概況

2022年におけるM&A件数、取引金額、M&Aマーケットの特徴

トルコのM&Aマーケットは、国内外経済の停滞や周辺地域の地政学的な緊張の中で粘り強く勢いを維持し、パンデミック以前の水準まで回復してきた。デロイトトルコ ファイナンシャルアドバイザリー部門が2023年1月に公開したレポートをもとに、ディール件数・取引金額等を直近数年のデータと比較しながら振り返る。

はじめに

トルコは、2002-2021年における年平均GDP成長率5.4%を記録し、 2003年には世界18番目に位置していたGDP(PPPベース)は2021年には世界11番目に位置するなど、順調に経済成長を遂げている1。また、2021年12月末時点では人口はおよそ8,500万人、トルコ統計機構(TÜİK)によると2040年には1億人2に達する見込みである。

その一方、トルコは2021年の終わりから深刻な物価上昇に直面している。2022年11月と12月の前年同月比のCPI上昇率はそれぞれ84%、64%3を記録した。

また、2023年10月に建国100周年を迎えるほか、2023年半ばまでに大統領選挙と議会選挙が控えており、トルコ国家・内政としても大きな節目を迎えている。

トルコは周辺地域へ容易にアクセスできる圧倒的な地理的優位性を持っている。トルコから4時間以内のフライト圏内で、欧州・中東・北アフリカ・中央アジアのおよそ13億人及び合計GDP26兆ドルにも及ぶ巨大なマーケットへのアクセスが可能である4

その為、トルコに製造・R&D拠点だけでなく、中東・アフリカ地域のビジネス統括機能を置くグローバル企業も増えている。実際にマイクロソフトトルコは中東・北アフリカ地域の79か国のビジネス統括機能を持ち、ユニリーバはトルコを周辺35か国のマネジメントハブとして利用している5

日系企業は2021年時点で259社6が進出しており、現地プレイヤーの買収や現地有力財閥企業とのJV設立を通してトルコでのビジネスを拡大しているケースも多々見受けられる。

詳細はこちらのデロイトトルコ発行のレポート(英語)をご確認ください。 [PDF, 9.2MB]

 

1. "WHY INVEST IN TÜRKİYE?", The Investment Office of the Presidency of the Republic of Türkiye.
2. "Adrese Dayalı Nüfus Kayıt Sistemi Sonuçları, 2021", TÜİK
3. "Tüketici Fiyat Endeksi, Aralık 2022", TÜİK
4. "STRATEGIC LOCATION", T​he Investment Office of the Presidency of the Republic of Türkiye
5. "WHY INVEST IN Türkiye? ICT SECTOR?", T​he Investment Office of the Presidency of the Republic of Türkiye
6. 海外進出日系企業拠点数調査 2021年調査結果, 外務省

2022年におけるM&A件数と取引金額

世界的なパンデミックが過去のものになりつつある一方で、地政学的緊張、ヨーロッパのエネルギー安全保障、インフレの高進や不況リスク等が新たな"不確実性"として浮かび上がってきている。

そのような状況下においてもトルコのM&Aマーケットは直近数年の増加トレンドを維持し、2022年におけるM&A件数は450、取引金額はおよそ115億米ドルを記録した。M&A件数においては前年比で14%増となり、過去最高の数値を記録した。

グローバルのM&A件数・取引金額がともに前年より減少していることを踏まえると、トルコは様々なリスク・不確実性があると謳われるながらも、投資機関やM&Aを検討する企業にとっては勝機のあるマーケットであるといえる。


外国・国内投資家の割合と湾岸諸国投資家の隆盛

2022年においては、国内投資家(トルコ企業)によるM&A件数が全体の76%を占めた一方で、M&A取引金額における外国・国内投資家のシェアは凡そ50%ずつとなった。尚、スペインの金融グループであるBBVAによるGaranti銀行の36%株式の取得(14億米ドル)が、2022年の外国投資家による最高額の取引であった。

さらに、湾岸諸国投資家によるトルコでのM&Aが急増し、未公開案件の取引額推定を含め、2022年は23億米ドルを記録、過去5年間で最も高い数値となった。湾岸諸国の投資家は外国人投資家のM&A件数の15%、取引金額では41%を占める結果となった。

 

 

金融機関系投資家の動向と注目セクター

金融機関系投資家(ファイナンシャルインベスター)によるM&Aは288件に上り、取引金額は51億米ドルに達した(未公開案件の取引額推定を含む)。M&A件数においては前年比で18%増であった。中でもベンチャーキャピタルとエンジェル投資家による投資が263件を記録し、金融機関系投資家によるM&A件数のおよそ91%を占めた。

セクター別に見ると、ベンチャーキャピタルとエンジェル投資家によるM&A件数のおよそ59%がインターネット・モバイルサービス、テクノロジー、金融サービスセクターを占め、また、ゲームセクターは11%を占めた。

近年トルコは、ゲーム関連投資家の注目の的となっており、500以上のゲームスタジオを擁する等世界的に見ても主要なゲーム拠点となっている。2022年のゲームセクターの取引金額は、前年比133%増のおよそ6.4億米ドルに達し、32件以上の取引を記録した。

 

 

日系企業によるトルコでのM&A

2022年に発生した日系企業によるM&A関連取引は3件である(2021年は2件)。

GSユアサがトルコ現地企業との合弁会社への出資比率を50%から60%へ引き上げた。当該合弁会社は2015年より自動車用およびフォークリフト用鉛蓄電池の製造・販売を行っている。

また、ホシザキも業務用冷蔵庫や食器洗浄機等を製造・販売する現地グループ会社への出資比率を10.4%増加させた。ホシザキは2022年5月にトルコ国内4拠点目となる新工場の稼働を開始している。

自動運転ソフト開発のスタートアップのティアフォーはトルコの同業スタートアップへ出資し、更なる自動運転技術の実装を進めている。

お問い合わせ(日本語)

西村 達
Deloitte Türkiye Japan Desk
tnishimura@deloitte.com

お問い合わせ(英語)

Kıvanç Çıdam
Partner
Financial Advisory Leader
kcidam@deloitte.com

 

Özlem Ulaş
Partner
Corporate Finance Advisory
oulas@deloitte.com

     

Duygu Doğançay
Director
Corporate Finance Advisory
ddogancay@deloitte.com

 

Yasin Gönenç
Manager
Corporate Finance Advisory
ygonenc@deloitte.com

※上記の社名・役職・内容等は、掲載日時点のものとなります。

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