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アジアのVB 資金調達増加

日経産業新聞 2017年5月17日掲載

世界中の大手企業が新規事業、イノベーションを求めてベンチャー企業との協業を加速させる中、ここ数年間、アジアにおけるベンチャー企業の存在感が増しています。

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シンガポールにおける新技術実証験の取組

トーマツ ベンチャーサポート株式会社
アジア地域統括 西山直隆

シンガポールは政府主導で積極的に新しいテクノロジーの研究開発、実証実験、社会導入を行っている。私がいまシンガポールに住んでいて毎日目にするワードは、Smart Nation、Fintechだ。シンガポールでは、国をあげて新しい技術で効率化する「Smart Nation」というキーワードを掲げている。東京23区ほどの国土しかないシンガポールならではともいえる。また金融のハブであるシンガポールでは金融管理庁がブロックチェーン技術の推進を目的に、積極的な試験運用主導する等、Fintech技術の研究や実証実験に余念がない。

例えば、現在多くの自動車メーカー、IT企業が挙って自動運転のための開発や関連技術ベンチャー企業の買収合戦が続いている。一方で、世界で初めて公道にタクシーの自動運転車を走らせた国はどこか。自動運転と言えば、アメリカのイメージを持つ人が多いだろうが実はシンガポールが世界初なのだ。

また、ユニークな点はシンガポール政府は自国企業だけでは新しい技術の実証実験するのが困難であることを理解しており、技術を持っている企業と、国や規模を問わず連携している。よって、世界初のタクシー自動運転の実証実験は、MITから分離・独立したアメリカのベンチャー企業とタイアップして実現した。

この様にシンガポール政府が主導して、新しい技術を実験できる環境、いわゆるサンドボックスを用意して、その機会を自国のみならず世界中の企業に提供している。ここで得られたデータやノウハウを国として溜めるという手法だ。現在はタクシーから派生してバスやその他のMobilityでも実験が始まっている。

日本には様々な分野で厳しい規制が多く存在し、新しい技術を試しにくい側面がある。あらゆる産業で既得権益が存在し、業種によっては業界団体からの圧力も受けやすい。よって日本企業の持つ新たな技術を日本ではなく、シンガポールを実験場として活用するという手法が考えられる。あるいはシンガポールで行われる実証実験に日本企業が持つ資産を提供するという関わり方もあるだろう。

シンガポールでの実証実験が、そのまま他国に転用できるかと言えば、国毎に規制やインフラが違うため難しいかもしれない。それでも、何もやらずに技術や知財を眠らせるより、次のビジネスを見据えて小さく現実社会で実走させ、社会からのフィードバックを得て、素早くプロダクト、サービスを改良させマーケットフィットさせるべく努力するのは賢明な選択だろう。

その場合、適切な現地パートナー企業を発掘して連携できるかが重要となる。場合によっては、現地パートナー企業を買収するということも考えられる。

設立して若いベンチャー企業は売上利益が一般的にはそれほど計上されないため、買収をしても大手企業の損益計算書に与える影響は軽微である。よって大手企業にとってベンチャー企業の買収に意味を見出すことが難しい場合がある。一方で日系企業はR&Dのために非常に多額の投資を行っているものの、先般経済産業省が発表した「民間企業のイノベーションを巡る現状」にも記載されているように、研究開発効率は先進国と比較して低く、研究開発投資がイノベーションに繋げられていないとの指摘がある。

ベンチャー企業の買収をR&D投資の位置づけで行い、実証実験を一緒に行い、ノウハウやデータを取得することも戦略としてあり得るのではないか。シンガポールで共に実証実験ができるパートナーと協業・投資を行うことも一手だろう。

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