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タックス コーポレートガバナンス

Japan Tax Newsletter:2015年12月1日号

税務の世界においてコーポレートガバナンスという言葉が用いられる場合、その範囲および意図が不明瞭となっている。本稿では、学問としてのコーポレートガバナンス、コーポレートガバナンス コード、税務に関するコーポレートガバナンスを踏まえた上で、タックス コーポレートガバナンスと命名し、そのありようを考察している。(Japan Tax Newsletter:2015年12月1日号)

1 はじめに

コーポレートガバナンス(Corporate Governance)は、経営のための「仕組み」を指すと解して差支えないだろう。一方で、税務の世界においてコーポレートガバナンスという言葉が用いられる場合、その範囲および意図が不明瞭となっている。そこで本稿では、税務の世界において存在している複数のコーポレートガバナンスの概念について確認および整理し、タックス コーポレートガバナンスとして一元化した上で、そのありようを考察していく。

なお、本文中の意見にかかわる部分は私見であり、デロイト トーマツ税理士法人を含むデロイト トーマツ グループによる公式見解ではないことに留意されたい。

2 税務の世界におけるコーポレートガバナンス

(1) 学問としてのコーポレートガバナンス

コーポレートガバナンスは、法学、経済学、経営学の各分野に跨る学問上の概念であるが、その背景にはいずれも株式会社である企業の存在、すなわち「所有と経営の分離」がある。経営学においては、「企業は誰のものであるか」、「企業の目的は何か」、「企業価値とは何か」、という哲学的とでもいうべき企業観がより問われることとなる。会社は株主のもの(株主用具観)、あるいは会社は経営者のもの(経営者用具観)であり、当該所有者の利益を最大化すべきという一元的な整理の仕方もあれば、企業は公器または株主をはじめとする多様な利害関係者のもの(会社制度観または多元的用具観)であり、企業の目的は中長期的に株主をはじめとする利害関係者にとっての利益を生産していくべきものという多元的な整理の仕方もある。企業価値については、多様な利害関係者により評価が異なることが想定されるために、一元的かつ比較可能な評価を行うことは難しいのではないかと思われる。

(2) コーポレートガバナンス コード

2015年6月1日に東京証券取引所が「コーポレートガバナンス コード ~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」(以下「コーポレートガバナンス コード」)を発表した。コーポレートガバナンス コードは、平成25年6月の閣議決定に基づく「『日本再興戦略』改訂2014」の中で、日本の「稼ぐ力」を取り戻すための施策の一つとして、東京証券取引所が策定し、上場企業に対して当該コードにある原則を実施するか、実施しない場合はその理由の説明を求めることが定められたこととしたものである。(コンプライ オア エクスプレイン)。

コーポレートガバナンス コードにおいては、「企業は誰のものであるか」という問いに対して、前述の会社制度観または多元的用具観を採用している。すなわち、上場企業のステークホルダーとして、株主、従業員をはじめとする社内の関係者、顧客・取引先・債権者等の社外の関係者、地域社会などの企業の存続・活動の基盤を成す主体が含まれ、株主をコーポレートガバナンスの規律における主要な起点としつつも、株主以外のステークホルダーとの適切な協働に努めるべきことが示されている(コーポレートガバナンス コード基本原則1および2)。また、「企業の目的」としては、持続的な成長と中長期的な企業価値の創出を達成することとしている。「企業価値とは何か」という点について明確な評価指標は示していないが、経営学としてのコーポレートガバナンスにおける企業観について、日本国の上場企業を前提としてではあるがその回答を明確にした点は評価される。ただし、税務に関しては明示的には一切言及されていない。

(3) 税務に関するコーポレートガバナンス

2013年8月に国税庁は税務に関するコーポレートガバナンスの体制が優れていると認められる大企業を対象に、1~3年に一度行っている税務調査の頻度を減らす制度を始めた。大企業に対して、「税務に関するコーポレートガバナンス確認票」において、「トップマネジメントの関与・指導」、「経理・監査部門の体制・機能の整備」、「内部統制の働く税務・会計処理手続の整備」、「税務に関する情報の社内への周知」および「不適切な行為に対するペナルティーの適用」の状況の記載を求めた上でヒアリングなどを行い、結果良好法人について税務調査の頻度を減らすという取組みである。

従前、税務の世界におけるコーポレートガバナンスとは、この企業と税務当局との関係を前提とした「税務に関するコーポレートガバナンス」を指すと受け止められていたが、上記(2)のコーポレートガバナンス コード策定も踏まえた上で、税務の世界におけるコーポレートガバナンスについて改めて定義していく必要が生じたと考える。そこで本稿では、タックスコーポレートガバナンスと命名した上で、本概念について考察していく。

3 タックスコーポレートガバナンス

タックスコーポレートガバナンスの両輪は、コンプライアンス(法令順守)と、タックスプランニング(税務戦略)にあると考えられる。両者は別個のものであるかのように語られることもあるが、実際は表裏一体の関係と整理することができる。タックスプランニングを、事業計画立案時に将来において生じる租税負担を予想し、適正な租税負担が維持されるよう計画することとすれば、コンプライアンスが現在から未来にわたって維持されるということも当然の前提条件となるからである。よって本稿では、コンプライアンスとタックスプランニングを別個のものとして取り扱わず、両者ともにタックス コーポレートガバナンスという概念で一括りにすることができるものとして考察を進めていく。

タックスコーポレートガバナンスを考える上で最も重要な点は、企業のステークホルダーが誰であるかを明確にすることである。前述のコーポレートガバナンス コードにおいては、上場企業のステークホルダーとして、株主、従業員をはじめとする社内の関係者、顧客・取引先・債権者等の社外の関係者、地域社会などの企業の存続・活動の基盤を成す主体が含まれるとされている。国などの公共団体から提供される各種の公共サービス無しに企業の事業活動は成り立たないわけであるから、企業の存続・活動の基盤を成す主体には、これらの公共サービスの原資となる租税の納入先である国などの公共団体が含まれると考える方が自然であろう。

次に重要な点は、各ステークホルダー間の利害対立を企業としてどのように捉え、どのように対処していくかを定めることである。納税を企業の使命とすることはたやすい。しかしながら納税に重きを置きすぎた場合、租税の納入先である国などの公共団体以外のステークホルダーの利益保全が十分に図られているかどうかという点が懸念されることとなる。そこで企業は自らにとって納税とは何かを具体的に定義していく必要が生じる。

納税とは何かを抽象的に定義することは比較的容易である。わが国では日本国憲法第84条(租税法律主義)において、租税の賦課・徴収が法律の根拠に基づいて行われることが示されているため、税務法令を順守することで、租税を適切に負担する、という表現に帰着することが一般的と考えられるからである。もっとも、グローバル企業においては、世界各国の税務法令を順守しつつ、国際的二重課税の発生を予防することも租税を適切に負担するといえるし、税務法令の順守と一口にいってもその解釈には困難を伴うことも多く、またBEPS行動計画のコンセプトや動向を踏まえた上での適切な租税負担を具体的に定義することまで踏まえると、実際には容易ではないと考えられる。さらには、企業が適切な組織設計や人員配置を行っていなかったり、具体的な行動規範などのルールを策定していなければ、納税とは何かを具体的に定義したところで、その適切な実行に困難を伴うということも考えられる。

4 タックス ポリシーの重要性

タックス コーポレートガバナンスを強化・改善する上で重要なことはタックス ポリシーを定めることである。勿論、組織や人材も重要であるが、いかに優れた組織構造を有し、適切な人材配置を行っていたとしても、彼らの行動規範・判断基準となるべきものがなければ企業グループが租税に関して一貫した取組みを実施することはできない。そのため、タックス ポリシーには、自社にとっての納税を定義することは勿論、自グループに属する法人および個人が組織としてタックス コーポレートガバナンスを遂行する上で必要となる、行動規範の原則が示されている、言い換えれば、適切な租税負担に関する一種の憲法とでもいうべき役割が求められるのである。

タックス ポリシーをいったん策定した後に改正することは望ましいことではないであろう。特に、グローバル企業の場合、全世界の全グループ会社が同一の指針の下に行動すること自体困難を伴うことが多いわけであるから、頻繁な改正が実務に及ぼす悪影響は決して少なくない。

タックス ポリシーにおいて、何をどこまで記すかは、所在地国の法令などに別途定めがない限りにおいて、企業の自由である。法令などによる要請がない場合、ある企業は詳細な行動規範として規定するかもしれないし、ある企業は抽象的な概念のみを規定し、具体的な指針については別規定にて定めるかもしれない。またある企業は、2.(3)の税務に関するコーポレートガバナンスを念頭に規定するかもしれない。いずれにせよ企業自らが理想と考えるタックス コーポレートガバナンスの遂行にあたり、必要な事項が記載されているべきであろう。

5 結びに代えて

多くの場合、企業努力が明確に業績に貢献しているかどうかを証明することは難しい。しかしながら、業績を上げている企業は必ず企業努力に取り組んでいる。タックス コーポレートガバナンスも同様であり、強化したところで企業価値が向上しているかどうかを評価することが困難な場合の方が多いと思われる。しかしながら、わが国上場企業でも、タックス コーポレートガバナンス強化に本格的に取組み始めている企業は着実に増えてきていることから、タックス ポリシーの制定をはじめとする、タックス コーポレートガバナンスに係る適切な施策、実行および改善が行われている常態が、今後我が国においてスタンダードとなっていくのではないかと思われる。

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