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国が後押しする都市から地方への移転または地方拠点の拡充に係る税制面での特典~いわゆる「地方拠点強化税制」について~

Japan Tax Newsletter:2017年3月1日号

本ニュースレターでは、優遇措置を受けるための手続を概観し、地方拠点強化税制のなかでも、法人税の計算に特に大きく影響する設備投資減税および雇用促進税制の内容を解説する。(Japan Tax Newsletter:2017年3月1日号)

1 概要

我が国では、地方における人口減少とそれに伴う地域経済の縮小に歯止めをかけることが近年における重要な政策課題の一つとなっている。この課題に対し、税制面においては平成27年度の税制改正において地方拠点強化税制が創設され、本社機能の移転や拡充を行う企業に対して設備投資減税、雇用促進税制、中小企業基盤整備機構による債務保証および地方税の不均一課税等の優遇措置が設けられた。また、平成29年度税制改正では、これらの優遇措置の一部について拡充される見通しである。

本稿においては、まず優遇措置を受けるための手続を概観し、地方拠点強化税制のなかでも、法人税の計算に特に大きく影響する設備投資減税および雇用促進税制の内容を解説する。さらに、拠点の移転を行った場合における買換えの圧縮記帳に係る注意点についても紹介する。

2 優遇措置の適用を受けるための手続

本税制における優遇措置の適用を受けるためには、まず適用対象地域に所在する自治体が「地方活力向上地域」に設定する区域等を記載した「地域再生計画」を策定し、内閣総理大臣の認定を受けていることが前提となる。

その上で事業者は都道府県知事に対して「地方活力向上地域特定業務施設1整備計画」を申請し、認定を受けることが必要となる2。なお、事業者が都道府県知事から認定を受けようとする場合には次の要件を満たす必要がある。

  • 移転・拡充先となる都道府県の認定地域再生計画に適合すること(本社機能の新増設、賃貸借、用途変更をし、整備が行われていること等)
  • 本社機能において従業員数が10人(中小企業者35人)以上増加すること(移転型事業については、過半数が東京からの移転であること4
  • 円滑かつ確実に実施されると見込まれること

ここで地方活力向上地域とは、「産業及び人口の過度の集中を防止する必要がある地域及びその周辺地域であって一定の地域(集中地域)以外の地域」を指す5。つまり、法令等に規定する集中地域以外の地域が対象となる地域となる。集中地域については地域再生法施行令5条に規定されており、平成27年6月現在の一覧は次のとおりである6

≪集中地域≫

【首都圏】
■ 以下に掲げる地方公共団体の全域

東京都

特別区 八王子市 立川市 三鷹市 青梅市 府中市 昭島市 調布市 武蔵野市 町田市 小金井市 小平市 日野市 東村山市 国分寺市 国立市 福生市 狛江市 東大和市 東久留米市 清瀬市 武蔵村山市 多摩市 稲城市 羽村市 あきる野市 西東京市 瑞穂町 日の出町

埼玉県

さいたま市 川越市 川口市 行田市 所沢市 加須市 東松山市 春日部市 狭山市 羽生市 鴻巣市 上尾市 草加市 越谷市 蕨市 戸田市 入間市 朝霞市 志木市 和光市 新座市 桶川市 久喜市 北本市 八潮市 富士見市 三郷市 蓮田市 坂戸市 幸手市 鶴ヶ島市 日高市 吉川市 ふじみ野市 白岡市 伊奈町 三芳町 毛呂山町 越生町 滑川町 嵐山町 川島町 吉見町 鳩山町 宮代町 杉戸町 松伏町

千葉県

千葉市 市川市 船橋市 松戸市 野田市 佐倉市 習志野市 柏市 流山市 八千代市 我孫子市 鎌ヶ谷市 浦安市 四街道市 印西市 白井市 富里市 酒々井町 栄町

神奈川県

横浜市 川崎市 横須賀市 平塚市 鎌倉市 藤沢市 小田原市 茅ヶ崎市 逗子市 三浦市 秦野市 厚木市 大和市 伊勢原市 海老名市 座間市 南足柄市 綾瀬市 葉山町 寒川町 大磯町 二宮町 中井町 大井町 松田町 開成町 愛川町

茨城県

龍ヶ崎市 取手市 牛久市 守谷市 坂東市 つくばみらい市 五霞町 境町 利根町


■ 以下に掲げる地方公共団体の一部区域

埼玉県

熊谷市 飯能市

千葉県

木更津市 成田市 市原市 君津市 富津市 袖ヶ浦市

神奈川県

相模原市

茨城県

常総市


【近畿圏】
■ 以下に掲げる地方公共団体の全域

大阪府

大阪市


■ 以下に掲げる地方公共団体の一部区域

京都府

京都市

大阪府

堺市 守口市 東大阪市

兵庫県

神戸市 尼崎市 西宮市 芦屋市

 

【中部圏】
■ 以下に掲げる地方公共団体の一部区域

愛知県

名古屋市

(※地方公共団体の名称は平成27年4月現在)

1. 特定業務施設とは、本店または主たる事務所その他の地域における就業の機会の創出または経済基盤の強化に資する事務所、研究所および研修所であって、工場を除くものをいう(地域再生法5条4項5号、地域再生法施行規則7条)。

2. 当該認定に係る申請は計画を開始する前(着工前)に行う必要がある。

3. ここでいう中小企業者とは、中小企業の新たな活動の促進に関する法律に定義する中小企業者をいい、同法の定義では、製造業等の場合には資本金1億円以下ならびに常時使用する従業員の数が300人以下であること、サービス業であれば資本金5000万円以下ならびに常時使用する従業員が100人以下であること等が規定されており、業種によって中小企業の要件が変わることに注意されたい。

4. 平成29年度税制改正大綱では、特定集中地域における従業員の減少人数を上限として、特定業務施設における新規雇用者の一部を特定集中地域からの転勤者とみなす旨が明らかにされており、所要の改正が行われる予定である。

5. 地域再生法第5条第4項第5号

6. 平成27年6月20日公表「「地域再生法施行令の一部を改正する政令(案)」に関する意見募集について」の改正の概要から作成した。
 

3 優遇措置の内容

地方拠点強化税制は、設備投資減税と雇用促進税制を備えており、都市から地方へのまち・ひと・しごとの移転を後押しする制度である。それぞれの制度は、移転型事業に該当する場合と、拡充型事業に該当する場合で優遇される措置が異なるが、都市から地方への移転を後押しする意味から、移転型の優遇措置の方が手厚い内容となっている。

以下がその内容の概略である7 8

 

拡充型

移転型

事業の類型 

認定地域再生計画に記載されている地方活力向上地域(拡充型事業の対象地域)において、特定業務施設を整備する事業。

東京23区から特定業務施設を認定地域再生計画に記載されている地方活力向上地域に移転して整備する事業。

設備投資減税


適用要件

特定業務施設に該当する建物およびその附属設備ならびに構築物の取得または建設をし、事業供用したこと。

特定業務施設の取得価額の合計額が2,000万円以上であること。
(中小企業者※の場合は1,000万円以上) 

※ ここにいう中小企業者は資本金の額もしくは出資金の額が1億円以下の法人のうち一定の法人または資本もしくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人をいう。(措置法42の4②⑥四、措令27の4⑤)

措置内容

特別償却または税額控除

同左

(1)特別償却

特別償却額=特定業務施設の取得価額×15%

特別償却額=特定業務施設の取得価額×25%

(2)税額控除

税額控除額=特定業務施設の取得価額×4%

税額控除額=特定業務施設の取得価額×7%

現行制度では、計画認定平成29年4月1日から平成30年3月31日の場合は拡充型2%、移転型4%とされているが、平成29年度税制改正において、従来どおりの税額控除割合(拡充型4%、移転型7%)が維持される改正が行われる見込みである。

※当期の法人税額の20%を控除限度とする

雇用促進税制

適用要件

※地方活力向上地域特定業務施設整備計画認定日の翌日から2年以内の日を含む事業年度(以下「対象年度」)において以下の要件を満たすこと(うち①~③は必須。④を満たした場合には税額控除額が増額される)

①基準雇用者数が5人以上(中小企業者は2人以上)であることについて証明がされたことおよび給与等支給額が比較給与等支給額以上であることについて証明がされたこと

②適用年度およびその前年度中に事業主都合による離職者がいないこと等につき証明がされたこと

③雇用保険法第5条第1項に規定する適用事業(一定の事業を除く)を行っていること

④基準雇用者割合が10%以上であることについて証明がされたこと

措置内容

現行

次の算式により計算した金額を控除する

20万円(④を満たした場合には50万円)×適用年度の地方事業所基準雇用者数

※控除限度額は設備投資減税と合わせて当期の法人税額の30%

平成29年度税制改正後

次のイからハの合計額を控除する

イ 30万円(④を満たした場合には60万円)×地方事業所基準雇用者数のうち、特定新規雇用者数に達するまでの数

ロ 20万円(④を満たした場合には50万円)×(A+B) 

 
(イ)(新規雇用者総数(地方事業所基準雇用者数を上限)-特定新規雇用者数) 

(ロ)新規雇用者総数×40% 

(ハ)(イ)または(ロ)いずれか小さい方 

 
(イ)地方事業所基準雇用者数 

(ロ)新規雇用者総数 

(ハ)(イ)-(ロ) 

ハ 10万円(③を満たした場合には40万円)×C


(イ) (新規雇用者総数(地方事業所基準雇用者数を上限)-特定新規雇用者数)

(ロ) 新規雇用者総数×40%

(ハ) (イ)-(ロ)

※控除限度額は設備投資減税と合わせて当期の法人税額の30%


用語の整理

地方事業所基準
雇用者数

認定地方活力向上地域特定業務施設整備計画に従って地方活力向上地域において整備した特定業務施設のみをその法人の事業所とみなした場合における基準雇用者数として証明がされた数

基準雇用者数

当期末の雇用者の数から適用年度開始の日の前日の雇用者(当期末において高年齢雇用者に該当する者を除く。)の数を引いた数

特定新規雇用者数

その事業者が受けた地域再生法の認定に係る特定業務施設においてその適用年度に新たに雇用された次に掲げる要件を満たす雇用者でその適用年度終了の日においてその特定業務施設に勤務するものの数として証明がされた数
 イ その事業者との間で労働契約法の有期労働契約以外の労働契約を締結していること
 ロ 短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の短時間労働者でないこと。

新規雇用者総数

その事業者が受けた地域再生法の認定に係る特定業務施設においてその適用年度に新たに雇用された雇用者でその適用年度終了の日においてその特定業務施設に勤務するものの総数

7. 本表は平成29年度税制改正法案を基礎として作成したものであり、税制改正法案は例年であれば3月中に国会において可決される見込みである。なお、実際の適用にあたっては成立後の法令を確認する必要がある。
8. 設備投資減税と雇用促進税制を併用することも可能であるが、この場合には、当期の法人税額の30%が税額控除限度額となる。

設備投資減税の場合には、拡充型に比べ、移転型の方が特別償却を選択した場合の償却率、特別控除を選択した場合の控除率が高いことがわかるだろう。

一方で、雇用促進税制の場合には、拡充型であれ、移転型であれ基本的には控除額に差は生じない計算構造になっている9。平成29年度税制改正前は、地方事業所基準雇用者数に50万円または20万円を乗じて税額控除額を計算していたが今般の税制改正によりその計算方法が細分化されている。注目したいのが用語の整理に記した特定新規雇用者数のイおよびロの要件である。つまり、労働契約にかかる期限が定められておらず、かつフルタイムの労働者である場合には控除額が最も大きくなるように設計されている。雇用促進税制の適用を受ける場合には単に雇用者数を増やすだけでなく、無期雇用かつフルタイムの要件を満たす雇用者を増やす方が「お得」になるのだ。

なお、雇用促進税制の適用にあたっては、制度を適用しようとする年度開始前にハローワークに対して雇用促進計画を提出するなどの手続が必要なこと、今般の税制改正により計算構造が複雑になったことなどから、事前に入念な計画が必要であろう。

9. 平成29年度税制改正にかかわらず、移転型に該当する場合にはこれに加え、東京23区からの移転者を含む特定業務施設の当期増加雇用者数1人当たり30万円の税額控除が追加される措置が適用される。
 

4 買換えの圧縮記帳に係る注意点(いわゆる9号買換え*の場合)

法人が長期保有資産を買換えた場合に一定の要件に該当する場合には圧縮記帳の適用を受けることができる。この圧縮記帳の適用を受けた場合の課税の繰延割合は80%と規定されているが、地方拠点強化税制の整備によって地域再生法の集中地域以外の地域の資産を譲渡し、集中地域の資産を取得した場合には、課税の繰延割合が75%~70%に縮減される。地方で事業を立ち上げ、東京23区や集中地域への移転を考えているような場合には注意が必要だろう。

譲渡資産の所在

買換資産の所在

課税の繰延割合

集中地域以外の地域

東京23区に該当する集中地域

70%

集中地域以外の地域

上記以外の集中地域

75%

上記以外の場合

80%


* 9号買換えとは、所有期間10年超の土地等、建物または構築物から国内にある土地等、建物もしくは構築物または鉄道事業用車両運搬具への買換えをいう。

5 おわりに

地方拠点強化税制については、適用要件が複雑なことと、事前の準備が必要な点などから、手続面での煩雑さを感じ適用を行わないと判断しているケースもあるかもしれない。しかしながら、制度の適用を受けることで得られるメリットが大きいことも事実である。通信技術や運送技術の発達により、都市と地方の距離は以前と比べると格段に近くなっている。東京などの都市圏にある必要がない施設が住環境等のよい地方へ移転していく機会も増え、今後ますます本税制の活用の場面が増えてくると予想される。繰り返しになるが、納税者の立場からは制度の適用を見据えた事前準備が本税制の適用に当たって最も重要なポイントになろう。

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